第286話『ガッシャーン!』

せやさかい


286『ガッシャーン!』   






 春眠暁を覚えず…………ネボスケの言い訳。



 こないだまでの冬の名残はどこへやら、おとついからは、ほんまに春めいて来て起きるのが遅なってきた。


 薄目を開けると、隣のベッドで留美ちゃんもまだ寝てる。


 お互いさまですなあ、御同輩……


 そう思て、お布団を被りなおす幸せ……。



 ガッシャーン!



 突然の音に、うちも留美ちゃんも飛び起きる!


「本堂の方だわ!」


 留美ちゃんは、すぐにスイッチが切り替わって、半纏を羽織って本堂へダッシュ。


 うちも、ワンテンポ遅れて本堂へ向かう。



 うちらの部屋は、母屋である庫裏と本堂の間の中二階みたいなとこにあるから、本堂の音やら気配はけっこう聞こえる。


 本堂の外陣に出ると、テイ兄ちゃんが東京タワーに押しつぶされたモスラみたいになっとる。


「大丈夫ですか!?」


「朝から、騒々しいなあ」


 留美ちゃんと二人、気遣いの違いあり過ぎの言葉をかける。


「えーと……えーと……」


 気遣いの言葉を掛けたものの、テイ兄ちゃんの上に覆いかぶさってる東京タワー的な残骸は、どこから手ぇつけてええか分からへん。


「すまん、まずは、電源抜いて、ケーブルやらコードをどけてくれるか」


「はい!」


「難儀やなあ」


 とにかく、ケーブルを抜いてまとめる。


 まとめながら、この残骸はなんやったんかいなあと考える。


「ここのところ使ってなかったですもんね」


「うん、やっぱり、多少のリスクはあっても、ヂカにお参りしてほしいう檀家さん多かったさかいなあ……」


 ケーブルを始末していくと、ノソノソ自分で這い出して来るテイ兄ちゃん。


 アホなうちでも、ようやっと思い出す。


 この残骸は、デジタル檀家周りのシステムや。


 無駄にスキルのあるテイ兄ちゃんは、知り合いのあちこちから譲ってもらった機器で本堂の隅に設備を構築した。


 檀家さんの家には、これまた中古のパソコンやらモニターを置いてバーチャル月参りをやってた。


 頼子さんとこからも3Dホログラムのセットとかが届いて、うちらもバーチャルお茶会とかやってた。


「蔓延防止も、今日で解除やしなあ、潮時や思たんや」


「そうだ、そうですよね!」


「さっさと片づけてお茶にしよか!」


「まずは顔洗て朝ごはんやろ」


「もう、騒々しい音させて起こしてくれたんは、どなたさんですか?」


 あらかた片付いたところで詩(ことは)ちゃんがおっぱん(仏さんのごはん)を供えにやってくる。


「もう、朝からなにやってんのぉ?」


 やっぱり、この騒動は庫裏の方には聞こえてなかったみたい。


「ねえ、朝ごはん食べたら、あたしたちも片づけしようか?」


「ああ、それいいかも。わたしもやろうかなあ」


 ということで、朝ごはんの後は、女三人でそれぞれの部屋の片づけをすることになる。



 部屋に戻って見ると、留美ちゃんの机の上には参考書やお勉強道具、読みかけやら、これから読む本が積んである。


 うちの机は、ツケッパのパソコンとポテチの袋……やっぱり、心がけが違う。


 パリポリ


 袋に残ってたポテチの残りを食べて、袋を丸めて、ポイ。


 カサ、カサカサ……コロン


 うまいこと入らんと口を開きながら袋は転がってしまう。


「あ、いま掃除機かけたとこなのにぃ(;'∀')」


 留美ちゃんに怒られる。


 まあええわ。留美ちゃんも、うちには遠慮せんようになったいうことやさかい。


 で、片づけたら、留美ちゃんは堺市指定のゴミ袋にほどよく一杯。


 うちは、ローソンのレジ袋に一杯。


 うう……断捨離の精神は、留美ちゃんの方が上手(うわて)です。



 でもね「中学の制服はしばらく置いとこうや」と提案したうちの気持ちは正解やったと思うんです。


 人生十五年のうちの三年間、今月いっぱいぐらいは偲んでみてもええと思うんです。


 

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