第263話『Oh Princess!』

せやさかい


263『Oh Princess!』頼子       





 比較するんじゃないわよ!


 ……って言えたらいいんだけど。



 ほんとうに言ったら、以下のどれかだと思われてしまう。


(1) 17歳のヒステリー


(2) 自意識過剰


(3) 自覚が足りない


(4) おいたわしい


(5) そっとしてあげよう


(6) そんな顔してお散歩には行かれませんように


(7) なにか美味しいものを作ってさしあげよう


(8) 如来寺に電話して、ご学友に来ていただこう



 ガタン  ドテ!


 Oh Princess!


 ソファーに躓いて、みんなが母国語で叫ぶ。



 ああ、ほんとうに思われてしまった(^_^;)


 

 原因はね、愛子さまよ。


 ネットでもテレビでも、愛子さまが成人されたお祝いのVやら、有名人やらコメンテーターのお喋りでいっぱい。


 清子さんからお借りになったティアラ、新調されたドレス、にこやかで控え目な微笑み、100点満点と言っていいご挨拶。


「天皇皇后両陛下のお力になれるようになればと願っております」


 プリンセススマイルで、奥ゆかしく、それでいて生き生きとお言葉を述べられて、もう完ぺき。


 そして、新成人になられたお言葉は、来年の三月に持ち越し……理由は、例のKくんの弁護士試験の結果が出るのが二月だから。その結果次第で、日本国内の世論や皇室を見る目が大きく揺れるから。


 愛子さまのお考えばかりじゃないでしょ、両陛下や侍従の皆さん、宮内庁とのやりとりで決まったこと。


 でも、それらを呑み込んで、みんなを納得の笑顔にしてしまう。


 彼女が、ヤマセンブルグの王女なら、お祖母ちゃんの皴が100本は減って、血圧も20くらいは下がるでしょうよ。


 みんなの心配は(1)~(6)によく現れてる。


 

 今日はね、午後のお茶を領事以下の職員のみなさんと、サロンで頂きながら愛子さまの一連のVを観ていたのよ。


 そしたらね、(1)~(8)の反応よ。


(7)に期待しつつ、「これから、お散歩に行くから、お客様とかあっても会えないと思うので、よろしく」と言葉を残して裏口へ向かう。さくらたちは自分で会いに行くわよ、ただ、それは今日ではないというだけよ。


(8)も無し!


 領事館に呼ばれたさくらたちと会っても、ギクシャクするだけ、落ち着いたら、こっちから出向いて、あの本堂裏の部室で、ダミアをモフモフして、焼き芋とか食べながら無駄話するのがいいの。



 あれ?



 裏口を出たというのに、ソフィアの姿が無い。


 仏頂面で付いてこられるのもナニなんだけど、いつもいるソフィアがいないと気持ちが悪い。


 付いてこなきゃ、ソフィアのミスになる。


 それは可哀想だから、優しいわたしは裏口まで戻って、裏口インタホンに手を伸ばす(オートロックだから、中から開けてもらわないと入れない)。


 やめるんですか?


 キャーー!


 耳元で声がして飛び上がる。


 振り返ると、30センチの距離にソフィアの顔。


 それもね、いっそう磨きのかかった仏頂面……で、なんだか目が三白眼。


 なんだか怖い。


「いかがでしょう」


「な、なにが?」


「ちょっと、ゴルゴ13風に気合いを入れてみたんですが」


 あ…………(-_-;)


 今日は散歩も止めて、早く寝ることにする。


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