第261話『ソフィアのON・OFF』

せやさかい


261『ソフィアのON・OFF』       





 ON・OFFの区別って大事だと思う。



 中学に入ったころ、お祖母ちゃんの勧め(ほとんど命令)で某国王女がやってるグループビデオチャットをやらされたことがある。


 ま、国際感覚と王族に相応しい『付き合い方』入門ということなのよ。


 王子とか王女というのは裏表がある。


 フォーマルな時は、ディズニー映画のプリンスみたいにお行儀いい王子が、ビデチャになったとたん、変態王子に大変身したりとか。赤十字だったかのフォーラムで立派なスピーチしたのを褒めてやったら『アハハ、ネコよネコ、他にやることないから完ぺきになんのよ』とおへそとノドチンコ丸出しで大笑いする王女とか。


 こいつら、アホか?


 そう感じて、半月で止めてしまった。


 あ、そいつらのON・OFFじゃなくてね。


 いや、世界のプリンス・プリンセスがパープリンなのは、日本も例外じゃないってのは、晴れて男とニューヨーク行っちゃった〇子さんで分かっちゃったけど。


 いや、だからね、そのパープリン王子・王女どもが呆れたのよ。


「うちの学校じゃ、授業の始めと終わりは、こんなんだよ」


 イラスト書いて、起立・礼・着席ってのを見せたのよ。


 すると、パープリン共が「なにこれ!?」「ナチスか!?」「信じらんねえ!」とか馬鹿にした。


 ああ、こいつらダメだ……そう思ったわたしの感性はまともだと思うでしょ?


 

 そのわたしが見ても「もうちょっと気楽にやりなさいよ」と思うのが、うちのインペリアルガード。



 みなさん、すでにお馴染みのソフィア。


 わたしより一個年上だと思うんだけど、日本ではガードのために、わたしと同じクラスで女子高生をやってくれている。


 日本語も一年足らずで、どうかするとわたしより上手い日本語をあやつるようになった。


 近ごろでは、軽く微笑んだりはするようになったんだけどね、まだまだ硬いんです。


 こないだ、お祖母ちゃんとスカイプで遠慮のないトークをしていたら、いつの間にか後ろに居て笑いをこらえていたりしてたんだけど、そういうのはビックリするから止めてほしい。


 もっと、日常生活でフレンドリーにね……と、思うわけです。


 お祖母ちゃんが寄こしてきた映像に『エリザベス女王と並んで座ってるメーガン妃が脚を組んでる』のがあった。


 わたしが見てもマナー違反。


 女王と一緒の時は脚を組んではいけない。すごく無礼なのよ、正座されてる天皇陛下の前で胡座かいてるようなものなのよ。


 これを見た時にソフィー、いっしゅん固まった。


「ソフィーも無礼だとおもうでしょ?」


「はい、相手が殿下でも、あとで張り倒します」


「え、張り倒されるの、わたし!?」


「殿下は、そういう無作法はなさいませんから。で、ございますよね?」


「は、はい(;'∀')」


 いや、目がマジで怖いから……。



 そのソフィアのことで、ジョン・スミスから一言あった。



「今度の休みに、ソフィアはフェニーチェ堺に行きます」


「え、ああ、いいんじゃない」


 ソフィアも、月に一回だけ完全なオフがある。


 ヤマセンブルグにも労働ナンチャラ法というのがあって、最低の休暇はとらなきゃならない。


 それをソフィアは一回もとったことがないので、まあ、めでたいお話。


「ご存知ですよね、フェニーチェ堺?」


「うん、堺市の市民ホールでしょ?」


 大ホールはキャパ2000人もあって、座席も四階席まであって、まるでパリのオペラ座みたいにごっついホール。


「いや、大ホールのイベントではなく、催事場で行われる展示です」


「え、展示?」


「はい……」


 

 ジョン・スミスがタブレットで見せてくれた『それ』を見て息をのんだ。


『ゴルゴ13×堺市「さいとう・たかを劇画の世界」』


「え……」


 ゴルゴ13と言えば、ハードボイルドな国際的殺し屋の話だよ。


 それは、ぜんぜん問題ない。うん、ソフィアが公休日に何を見ようと自由よ。


 でもね、ゴルゴ13って、完全にON・OFFのない殺し屋だよ。


 わたしも、全巻読んだわけじゃないけど、ゴルゴ13がニヤケてくつろいでるとこなんて見たことない。


 でしょでしょ!


 もし、あれに憧れとかお手本とかを感じられたら……いや、感じてるのよ!


 ジョン・スミスが、わざわざ知らせてきたってことは、そういうことなのよ。


「これは、対策が必要ね……」



 ジョン・スミスが静かに、でも、しっかりと頷いた……。


 



 

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