第252話『頼子のあれこれ』

せやさかい・252


『頼子のあれこれ』ヨリコ      






 ほら、紙袋は一つです。



 ソフィーが巻き戻した動画を停めた。


「ほんとだ、入って行くときは二つだったよね……」


「これが意味するものは……」


 のしかかるようにして後ろに立っていたジョン・スミスが謎をかける。



 秋〇宮邸を訪れたKはポニテもばっさり切って、スーツ姿で白い紙袋二個を持って門の内に消えた。


 そして3時間30分後に出てきた時は、紙袋は一個になっていた。



「これは、何を意味していると思いますか?」


 ソフィーは、もう一度Kが出てくるところをスローで再生する。


「たぶん……お土産だろうね」


「一つ残ってるということは……受け取りを拒否された?」


「おそらくは……M子さまはお受け取りになられたけれど、ご両親殿下は拒否されたんでしょうねえ」


「ご明察だと思います」


「………………」


「ソフィーもヨリコ殿下も成長しましたね」


 一言のこすと、ジョン・スミスは三人分のティーカップをトレーに載せた。


「あ、わたしがやります」


「いいよ、ソフィーは殿下のお相手を……」


 近ごろ、ジョン・スミスはソフィーが正面に出るようにしている節がある。


 職制の上では、ジョン・スミスが部長で、ソフィーは領事館に五人いる平の警備係りの一人。


 でも、お祖母ちゃんもジョン・スミスも、将来はソフィーをわたしのブレーンにしようとしている。少しずつだけど、仕事を移譲しているんだと思う。


「昨日は、神奈川県警も捜査に乗り出すという情報がありました。間に合うかどうかはともかく、多くの日本人がM子妃とKを見る目が厳しくなっていることの表れだと思います」


「そうね……これが、イギリスだったら、バッキンガム宮殿にデモをかけているでしょうね」


「イギリスは、王室の方々にも支持率調査をされますからね」


 知ってる。ダイアナ妃が亡くなった時、エリザベス女王は哀悼の意を表さなかったので、支持率は最低に落ち込んで、王室廃止論が多数になったんだ。


「女王は、ただちにユニオンジャックを半旗にして、世界中にダイアナ哀悼のメッセージを出されました」



 う……口にしなくても察しているわよ。ソフィー恐るべし。


 もう、ほとんどヤマセンブルグの国籍をとると決めているんだけど、それは同時にお祖母ちゃんの後を継いで、いずれは女王になるってことで、秋〇宮M子内親王さまの逆の意味で重い選択。


 自信と覚悟を付けるための試練がいっぱいある。


 一つ一つ片づけていかなくっちゃ。


「沖縄には行けそうかしら?」


「コロナ次第なんですが、ハローウィンの頃には結論が出そうです」


「うまくいくといいわね」


「しかし、これで、国の内外に殿下の決意を示すことに……」


「いいのよ、もう、式典で着る制服とかできてるんでしょ?」


「え、あ……いつの間に」


「領事の執務室に行ったら見えちゃった。窓際の鏡に領事のデスクトップが映ってて、仕立て上がった制服が映ってたし」


「え、そうなんですか!?」


「あの鏡、領事の誕生日にソフィーたちが送ったものでしょ? 置き場所決めたのもソフィー……かな?」


「いいえ、たまたまですよ、たまたま。では、下がって学校の宿題にかかります」


「あ、できたら見せてね」


「嫌です、ヨリコ」


「ウ、切り替えたなあ」


「では」



 あらためてパソコンを開いて日程を確認。


 12月1日の『ヤマセンブルグ練習艦遭難100周年慰霊式典』の日程に既決のしるしを入れた。



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