第237話『修学旅行中止のプリントと保険証』

せやさかい・237


『修学旅行中止のプリントと保険証』さくら     







 昨日は虹が出て感動した。




 グズグズ続いた雨が、ようやっと明けて晴れ間がのぞいて、朝顔もいっぱい咲いて。


 なんか、ワンクール続いた高視聴率ドラマの最終回いう感じやった。


 そして、今日も、昼のちょっとの間ぁを除いて晴れ!


 ウキウキしてもええはず……やねんけど暑い(;'∀')。


 

 せやさかい、外に出るのはやんぺ。



 朝顔に水やりにいったら、境内の地べたから、モワ~~っちゅう感じで湿気が湧き上がってくる。


 新聞とりに山門の郵便受けまで行ったら、表の道は、境内以上にモワ~~。


 詩(ことは)ちゃんは、大学の用事で朝から出かけるし、留美ちゃんは、ちょっと体調が悪い。


 せやさかい、朝の散歩も、今朝は無し。


 あ、昨日も行ってへんし、もう、夏休み中の散歩は無しになるかもしれへん。




「病院、付いていこか?」




 留美ちゃんは、朝ごはんも喉に通らへんので、大人たちの強い勧めでお医者さんに行くことになった。


「いいよ、たぶん夏バテだし、お医者さんとかも、よく分かってるから」


 というので、留美ちゃんは一人でお医者さんとこへ。


 まさかコロナ……思てても、言いません。


 シャレにならへんもんね。


「さくらは、保険証とかは、ちゃんと置いてんねんやろな?」


 テイ兄ちゃんがジト目。


 留美ちゃんが、さっさと保険証とか診察券とか用意したんで、うちの顔を見る。


 これは―― さくらはドンクサイからなあ ――という疑念が色濃く出てる。


「大丈夫やよ! あたしを誰や思てんのんよ!」


 ドン!(と、胸を叩く)




 で、心配になって、部屋に戻って健康保険証を探す(^_^;)。




 元々はおばちゃんに預けたったんやけどね、うちにいっしょに住むと決まった時に、留美ちゃんが「自分のものは自分で管理します」と、大人の宣言をした。


「ほんなら、うちも!」


 というわけですわ。


 さくらのこっちゃから、きっと、どこに直したか忘れてしもて大慌て!


 と、思てるでしょ!? 疑ってるでしょ!? バカにしてるでしょ!? 





 ガハハハハハハハハ(ò 口 ó)!




 ちゃんと出てきましたのですよ、きみぃ~!


 で、気が付いた。ブツは出て来たけど、いらんもんが一杯あるのにも気が付いてしもたんや。


 昔やってたカードゲーム、小学校の成績表、ポケティッシュいろいろ、クチャクチャのテスト、ジョーカーの無くなったトランプ、 アメチャンの包み紙、 一回だけ使ったテレホンカード、 文庫の帯、 線香花火、 牛丼の割引券、 ピザ屋のチラシ……等々


 で、ちょっと整理することにする。




 これは?




 学校のプリントが出て来たんで、読み返す。


 プリントは、四月に配られた『修学旅行延期のお知らせ』ちゅうA4のプリントや。


 どこでも、そうやと思うねんけど、うちの学校は五月に予定してた修学旅行を延期した。


 理由は、むろんコロナ。


 プリント配られる前から噂はあったし、よその中学校もせやさかい『ああ、やっぱりなあ』という感じやった。


 おばちゃんに言うたら「そらそやろねえ」という返事で、ろくにプリントも見せてなかったんや。


 いまさら見せても……ねえ、シワクチャになってしもてるし。


 丸めてゴミ箱に……投げたら入れへんかった。


 ノソノソ四つん這いで拾いにいって、改めて捨てる。




 ほんま、うちらの修学旅行はどないなんねんやろ……。


 せや、保険証出てきたん言いにいかなら!




「出てきたでえ、保険証!」




 テイ兄ちゃんの鼻先に付きつける。


「そんなドヤ顔で言うことかあ」


「せやかて、ちゃんと持ってたもん!」


「ああ、えらいえらい」


「ちょ、子どもやないねんさかい、頭なでんといてくれる!」


「ああ、すまんすまん」


「ほな、返して」


「ああ……ちょっと待て」


「なんやのん?」


「さくら、これ、去年の保険証やで……」


「うそ!?」




 ガーーーーン




 もっかい、部屋に戻って、今年の保険証を探すアホのさくらでした(^_^;)。


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