第228話『蝉が鳴いてトンボが飛んで布団を干す』

せやさかい・228


『蝉が鳴いてトンボが飛んで布団を干す』さくら     






 散歩に行く前に朝顔をプランターに移し替える。




 ほんまは、昨日やるはずやったんやけど、暴風雨警報が出てたんで雨天順延になってた。


 小学校の時は鉢植えのままやったから、植え替えは初めて。


 初めてなんは、留美ちゃんも詩(ことは)ちゃんもいっしょ。


 結局は、お祖父ちゃんが横についててくれて、全部指示してくれたんやけどね(^_^;)。


「失敗したら、花が咲く前に枯らしてしまうからなあ」


 ら、来年は自分らでやります(;´∀`)。




 あ、とんぼ。




 留美ちゃんが呟いたのは四日目になった自転車散歩の途中、公園の木ぃが張り出した道路の木陰。


「やっぱ、立秋が過ぎると、ちがうんだねえ」


 詩ちゃんもしみじみ。


 ミンミンミンミーン ミンミンミンミーン


 木の上では蝉も鳴いてる。


「夏と秋が同居してますね……」


 トンボが日陰を飛んで……見上げた木の幹にはセミが鳴いて……そよぐ葉っぱの隙間の向こうに青い空と入道雲……。


 日本の夏休みやなあ……ああ、シミジミ……


「ね、お布団干さない!?」


 詩ちゃんが思いつく。


 なんか、マンガやったら、頭の上に電球が灯ったエフェクトが付きそうな勢いなんで、思わず笑ってしまう。


「こないだ干したのは、わたし的には、初めて蝉の声を聞いた日だし、ちょうど頃合いだと思うよ」


「ですね、晴れ間も今日と明日ぐらいですよ、ほら!」


 留美ちゃんが、スマホを示す。盆過ぎまでは雨が続く傘マークが並んでる。


「ようし、家中のお布団干そう!」


 おお!




 さっそく家に帰って『お布団干し』を宣言!




 うちはお寺なんで、お布団は本堂の縁側に干します。


 本堂の間口は15メートルくらいなんで、間口の半分くらい使ったら家中のお布団が干せる。


「お祖父ちゃんのも干すさかい、テイ兄ちゃんのも!」


「おお、すまん」


 テイ兄ちゃんはラッキーという顔。お祖父ちゃんは「加齢臭すんのにすまんなあ」と恐縮。


 実際は、お祖父ちゃんのは特にニオイも無し。テイ兄ちゃんのは汗臭かった。


「うう、やっぱし、暑いねえ……」


 家中の布団を干すと、さすがに汗が出てくる。


「抹茶と小豆とどっちがええ?」


 テイ兄ちゃんが気ぃきかせてアイスを持ってきてくれる。


 三人で本堂の中に入って、外陣に三つあるうちの南側のエアコンと扇風機を付けて寝っ転がる。


「新聞紙」


 アイスをこぼしたらあかんので新聞を広げて、三人で寝転ぶ。


「あ、昨日は9日だったんだ……」


 留美ちゃんが、新聞の日付を見て呟く。


 一昨日はオリンピックの閉会式、昨日は暴風雨警報とかで、9日やいうのん忘れてた。


「え、9日って?」


「これだよ」


 留美ちゃんが指差した紙面には、高校生が外向きに輪になって両手を空に向かって伸ばしてる写真があった。


 え、長崎?


 あ、そうか。昨日は長崎の原爆の日やったんや。


 6日の広島は、散歩の途中で気いついて手を合わした。


 一日遅れると、なんかねえ……そのまま抹茶アイスを食べて昼前まで寝てしもた(^_^;)



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