第207話『今年の梅雨は気が早い』



『今年の梅雨は気が早い』さくら     






 今年は梅雨が早いなあ……。


 ほんまやねえ……。




 お爺ちゃんと孫の会話。


 お爺ちゃんはうちのお祖父ちゃんで、孫はうち。


 留美ちゃんは委員会の用事で、おっちゃんとテイ兄ちゃんは檀家周り。おばちゃんは町会の打合せ、詩(ことは)ちゃんは大学に行ってるんで、帰宅後のひと時をダミアをモフモフしながらリビングでボンヤリしてる。


 それで、換気の為に開けた窓からそぼ降る雨を二人で見てるという次第。


「梅雨いうたら、六月のもんと決まっとったのになあ、今年の梅雨は気が早い」


 お祖父ちゃんの感想には切迫感がない。


 この四月から、お爺ちゃんは檀家周りを控えてる。なんせ歳やし、コロナのこともあるしね。




「お義父さん、血液型はなんでしたっけ?」


 おばちゃんが聞いたのが先月。


「えと、AB型やけど」


「お義父さん、AB型はコロナの重症化率50%増しだそうですよ」


 おばちゃんは、新聞をパサリと置いて、眉の間にしわを寄せながら宣告する。


「ほんまかいな!?」


「ほら、新聞に!」


「ええ……ほんまや(;'∀')」


 ということで、お祖父ちゃんの檀家周りは、ほとんどゼロになってしもた。


 うちの如来寺は檀家の多いお寺やねんけど、三人で回るほどやない。住職不在の専念寺さんのヘルプも、他のお寺さんが手伝うてくれはるようになって、負担やなくなってきたということもある。


「ほんなら、そうしよか」


 と言うて、お爺ちゃんは実質的にリタイアの状態。




「お祖父ちゃん、ボケるんちゃうやろか」


「ちょっと心配だね」




 詩ちゃんと夕飯の片づけやりながらコボしたことがある。


「口に出したらホンマになるなるで」


 テイ兄ちゃんにおこられる。


「世の中には『言霊(ことだま)』いうのがあってな、口に出したらホンマになるて昔から言うんや」


 うん、これは頷ける。


 お寺やさかい『南無阿弥陀仏(ナマンダブ)』は日に百回くらいは聞く。本堂では、如来寺ができてから数億回の『南無阿弥陀仏』が唱えられてきて、柱や欄間の黒光りは、そのナマンダブが染みついた証。


「せや、テルテル坊主こさえよ!」


 お祖父ちゃんが膝を叩いた。


「テルテル坊主?」


 お祖父ちゃんの横におったもんやさかい、テルテル坊主は、一瞬禿げ頭の坊主を連想してしまう。


「白い布(きれ)やったらいっぱいあるしなあ……綿は古い座布団のん使たらええしな……」


 お祖父ちゃんといっしょに二階の倉庫に行って材料を取ってきて、三十分後にはニつのテルテル坊主ができる。


 留美ちゃんと詩ちゃんが帰ってきて、寄り合いの終わったおばちゃんも加わって、晩御飯までには三十個あまりのテルテル坊主ができた!


 お寺のテルテル坊主なんで、前の方に『南無阿弥陀仏』のハンコが押してある。顔は定番の『へのへのもへじ』です。


 晩ご飯終わってからは、面白がったテイ兄ちゃんとおっちゃんも加わって、全部で46個。期せずして『如来寺46』になりました!


 テイ兄ちゃんのテルテル坊主はラノベのヒロインみたいな顔。だれかに似てるなあと思いながら本堂の軒やら山門の軒にぶら下げる。


『如来寺46(^▽^)/』


 写真を付けて頼子先輩にも送ると『わたしもやる!』と返事が返って来て、うちの周囲は、ちょっとしたテルテル坊主ブームになりました。

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