第185話『後出し年賀と初釜』


せやさかい・185


『後出し年賀と初釜』さくら   






 去年の内に出した年賀状は二十枚。


 元日と三日の日に来た年賀状は二十二枚。


 で、四日の今朝は三枚の年賀状をポストに入れに行く。


 え、数が合えへんて?


 22-20=2やろてか?


 あのね、予想せえへんかった人から三通来たわけですわ。


 それを後出し年賀で出しにいくわけ。


 後出しのうちの二通は小学校のころの友だちと、六年の時の担任の先生。


 うちは、卒業と同時に引っ越ししたから、もう小学校関係の人らとは切れてしもてたと思てた。


 去る者は日日に疎して言うやんか。


 引っ越してへんかったら、中学も一緒やったやろし、街で出会うこともあるやんか。


 コンビニとか行ったら、バッタリ出会って「お久しぶり(^▽^)/」ってなノリでね。


 それが大和側の向こうに行ってしもたら、もう、ほとんど別世界に行ったようなもん。


 せやさかい、この友だちの年賀状は嬉しかった。


 この友だちについて喋りたいねんけど、喋り出したら止まらへんよってに、またね。


 もう一通は、六年の担任の先生。


―― 明けましておめでとう、元気にやっていますか? コロナで大変な一年でしたね、卒業式では『また遊びにおいで』と言いましたが、三密とかがあるからね。でも、春にはワクチンも出来てコロナも下火になるでしょう、そうしたら、また会えるでしょう。その日まで元気にね! ――


 なんや、ウルっときてしまいました(ノェ`*)。


 返事は、なんて書いたかて? それはナイショ。




 もう一通は……誰やと思う?




 越本鸞。


 苗字は分からんでも、名前でピンとくるでしょ。


 ほら、専念寺のゴエンサンの孫娘。


 病院にお見舞いに行った時、めっちゃブチャムクレてた子お。


 ゴエンサンと言い合いしたまんまの顔で、うちのこと睨みつけていきよった。


 ほんでも、ネコには優しいて、交通事故で母ネコを失った子猫を引き取ったりして。


 その鸞ちゃんからの年賀状。


―― 謹賀新年 昨年は祖父のお見舞いに来てくださって、ありがとうございました。祖父の代わりに年賀状を書いている年の瀬なんですが「如来寺の娘さんには鸞の名前で出しなさい」と言います。そうですよね、祖父の名前なのに女子高生丸出しの字では笑っちゃいます。子ネコも順調に育っています。あ、名前は『ポン』とつけました。やっと離乳食を食べてくれるようになりました。 ――


 病院では、メッチャ印象の悪い子ぉやったんで、なんやホッコリしました。


 ポストに投函しての帰り道、田中米穀店の前を通ったら、「やあ、さくらちゃん、おめでとうさん。ちょうど初釜があがったとこや!」とニコニコ顔。


 初釜て、お茶?


 と思たら、新聞紙でくるんだ焼き芋をくれました。


 そうそう、田中米穀店は去年から焼き芋も始めてたんです。


 昨日までの寒さも緩んで、正月らしい青空の下、焼き芋で温もりながら家に帰りました。

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