第163話『模擬法事 手の焼ける話』


せやさかい・163


『模擬法事 手の焼ける話』    






 なるほどなあ……




 スマホを見ながらテイ兄ちゃんが感心してる。


「え、なにが?」


 エロマンガ先生から目を上げてテイ兄ちゃんの手元を覗く。


「ほら、見てみい」


 画面にはコロナの字ぃを組み立てたら『君』という漢字になって、今はコロナでバラバラやけど、今度会う時は『君』だよとうまいこと書いてある。


 だいたい、こういう標語めいたものはお寺の掲示板とかに書いてある。


☆・仏は私の中にいる……一瞬「え?」やけど、なるほど『私』という漢字に隠れて『仏』という漢字が隠れてる。


☆・ボーっと生きていてもいいんだよ……学校の先生も見習ってほしい、二言目には「ボーっとすんな!」やさかい。


☆・隣のレジは早い……「隣の芝生」の言い換えやけど、今日日の家に芝生は無いから、この方がよう分かる。


☆・墓参り合掌した手で蚊を殺す……ウンコしてお尻拭いた手でカレーを作る。面白いけど人には言えません。


「なんや、標語に興味あるんか?」


「ボンさんて、こんなシャレみたいなことばっかし、考えてるのん?」


「うん、檀家周りとかしたら、お経の後に話しせなあかんやろ」


 そう言えば、本堂で法事とかがあったら、締めくくりに、そういう話をしてたなあ……たいてい面白ないけど。


「ネタを仕込んどかんと恥かくよってになあ」


「なるほど、せやからコロナネタなんかええねんね」


「うん、これは、さっそく使わしてもらおう」


「あ、パクリや」


「こういうのは、持ちつ持たれつやねん」


「せや、いっかい文芸部のみんなに聞いてもろたら? みんな言葉の感覚はええさかい、ええモニターになるで!」




 というので、次の部活で、さっそくやってみた。




 で、いちばんウケたのは『ウンコしてお尻拭いた手でカレーを作る』でありました。


 ちょっと説明するね。


 テイ兄ちゃんが思てたほど、みんなの熱は上がらへん。みんな行儀はええから「なるほど」とか「うまいですね」とかは言うんやけど、国語の授業の感想の感じ。で、ちょっと空気を温めようと思って披露したら、みんな腹を抱えたというわけ。


「ほんなら、モグモグタイムにしよか」


 テイ兄ちゃんは、思いついておばちゃんが作ったパンを持ってきた。


 これが、なんとカレーパン。


 いやいや、みんな死ぬほど笑いました。


 収まってカレーパン食べてる間も標語のフレーズが浮かんで、むせたり涙目になったり。面白かった。


 一年坊主の夏目君は十三歳で文学者を気取ってるとこがあって、こんな下卑たギャグで笑えるかっちゅうとこがあるねんけど、キュッと結んだ唇が震えとった。可愛いやっちゃ(^▽^)/


 頼子さんは、もう涙目になって笑ってる。


「こんどお祖母ちゃんに話してやろう!」


 ちなみにお祖母ちゃんはヤマセンブルグの女王様。日本の評判は落とさんとってほしいです。


「もう慣れました」


 留美ちゃんもニコニコ。


 去年の今頃やったら真っ赤な顔して俯いてたと思う(夏目君の反応に似てたと懐かしく思う)。


「お兄さん」


「は、はひ」


 頼子さんに声をかけられて、テイ兄ちゃんは声がひっくり返る。


「わたし、お盆とかの法事って経験がないんです。どんな風にやるか見せてもらえません」


「それは、お安い御用です!」


 みんなで本堂の外陣に周って、模擬法事を体験する。


「え、マスクするんですか?」


「今は、コロナでしょ、本山からの指示でこんな風にやるんですわ」


 なんと、コロナバージョンでやってくれるらしい。


 懐から小さなアルコール消毒のスプレーを出して、シュッシュッとスプレー、そして燭台のロウソクに火を点けようとしてマッチを擦る……。


 ボ!!


「「「キャーーー!」」」


 なんと、マッチを擦ると、テイ兄ちゃんの手ぇが燃え出した!


「しょ、消火器!」


 頼子さんが叫ぶんやけど、咄嗟には誰も動かれへん。


「あ、あ、大丈夫、アルコールが燃えてるだけやから(;^_^A」


「いや、でも!」


 頼子さん本堂の縁側から消火器を持ってくる。


 テイ兄ちゃんは手をハタハタ振って、なんとか消し止める。


 みなさん、アルコール消毒した直後にマッチを擦ったらあかんという教訓でした。


 

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