第151話『学校で流行ってる』
せやさかい・151
『学校で流行ってる』さくら
学校で「きた?」が流行ってる。
たまに「きた!」とか「きたあ!!」と、テンション高く言うこともある。
「きた!」はマスクで、「きたあ!」は十万円。
ほら、アベノマスクと特別給付金の十万円ですわ。
「気持ち分かるんだけど、特別給付金では、あまり言わない方がいいと、先生思います」
ペコちゃん先生がたしなめる。
ペコちゃん先生というのは、わが二年三組の担任、月島さやか先生。
笑顔がペコちゃんみたいなんで、自然と『ペコちゃん先生』が定着しかけてる。
「そういうところからイザコザになることもあるからね」
イザコザ、なんで?
伝わったのか、先生は言いにくそうに付け加えた。
「えと、中にはさ『金が入ったんなら奢ってくれよ』とか『貸してくれよ』なんてタカるやつもいるからね」
「けど、みんなに来るから、ええんちゃうん」
「早いか遅いかだけやし」
この要らんこと言いは、瀬田と田中。二年になっても同じクラス。
ま、ええけど、留美ちゃんも同じクラスやし。
「給付金もらってもさ、みんなが自由に使えるわけじゃないでしょ。保護者の方が管理するお家もあるでしょ。お店だったら、家族全員の給付金が回転資金になるお家もあるだろうし。うん、先生は、もし君らぐらいの子どもがいたとしたらよ『お前の金だ、好きに使え』とは言わないよ。他府県じゃ、たかられたって事件んも起こってるしね。ま、とりあえず、学校の外では、あんまりはしゃがないようにね。じゃ、十五日から平常授業になる件について説明しまーす」
やっと十五日から平常授業。
ソーシャルディスタンスのとり方と、部活は、まだしばらくは休止という話を丁寧に説明してくれはった。
文芸部もしばらくは自粛だね。
三時間目が終わって、校門を出たところで留美ちゃんが切り出す。
「せやね、うちの本堂やから問題は無いねんやろけど、他の部活は休んでるやもんね」
「一つ心配なんだけどね」
「うん?」
「頼子さん卒業してしまって、文芸部って、わたしとさくらちゃんだけでしょ」
「せやねえ」
「部活の成立要件て、三人だったよ……」
「あ…………」
思い出した。
去年の春、文芸部は頼子さん一人っきりで、わたしらが入って、頼子さんはむちゃくちゃ喜んでた。
そうなんや、部員が二人いうのは、ちょっとヤバいんや。
「平常授業になったら、新入部員獲得せならね!」
「うん……」
「どないかした?」
「わたし、今までのがいい。頼子さんとさくらちゃんと三人の文芸部がいい」
「あ……うん、せやね」
留美ちゃんは人間関係が苦手。
留美ちゃんにとって、文芸部の一年間は奇跡的に楽しかった思い出なんや。
それだけ、あたしや頼子さんに心を許して、たぶん自分でも我がままやと思いながらでも言うてるんや。
給付金のこととちごて、学校を出たからこそ言えることやねんわ。
ほんまは、一年の新入部員に入ってもらいたい気持ち満々やねんけど、ここは留美ちゃんに寄り添っておくことにする。
「実はね……」
「うん?」
「アベノマスクは来たんだよ」
そう言うと留美ちゃんはポケットからアベノマスクを掛けて見せてくれる。
「ああ、ほんまや!」
「学校じゃ、着ける勇気出なくって」
「ねえ、写真撮らせてよ! マスクデビューや! 撮って頼子さんに送ったげよ!」
「や、やだよ。ちょっと見せただけなんだからあ!」
「よいではないか、よいではないか、しゃし~ん!」
分かれ道まで、ハシャギまくった文芸部でした……(⋈◍>◡<◍)。✧♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます