第141話『携帯顕微鏡』

せやさかい・141


『携帯顕微鏡』  






 このごろは率先して家の手伝いをしてる。




 武漢ウイルスで休校が続いてるさかい、ゴロゴロしてては堕落する一方やさかい!


 と言い切るのはカッコよすぎるかなあ。


 頼子さんがすごいから、負けてられへん。


 ヤマセンブルグから帰ってきて二週間の隔離を無事に済ませた。実に前向きで、新しい高校の制服を着た映像をスカイプで披露してくれた。領事館の人が撮った映像が付いてて、なんかプロモ映像みたい。


 制服そのものは詩(ことは)ちゃんのと同じ真理愛学院やねんけど、ついこないだまで、うちらと同じ中学の制服やったんで、ギャップが大きい。


 それに、頼子さん自身は言えへんけど、武漢ウイルスに負けてられるかあ! というヤマセンブルグ公国の王女としての気合いがオーラになってる。


 頼子さんの映像はYouTubeでも流れて、ヤマセンブルグの国民の人らも勇気づけてる。


 


 頼子さん、うちかて負けてへんよお!




 というので、本堂の座布団やらお経の本を虫干ししております!


 自粛も五月の六日には終わりそうなんで、檀家のお年寄りが来はるようになったら、ウイルスとかの心配がないように消毒をするんです。


 百枚ほどの座布団を本堂の縁側に干す。午前中は階のある東側に、午後になったら南側。


 パンパン パンパン


 干し終わったら、詩ちゃんといっしょに布団タタキで座布団を叩く。


「うっわーーーーー」


 小さな座布団やけど、けっこうな埃が立つ。


 詩ちゃんと悲鳴を上げるけど、なんや楽しい。


「こんなのに座ってたんやねえ」


「お年寄りには毒だねえ」


「埃って、なにでできてるんやろか?」


「見てみるかあ(^▽^)/」


 虫干しのお経を取り込んでたテイ兄ちゃんがボールペンみたいなんを寄越した。


「なにこれ?」


「携帯顕微鏡や、キャップを外して、こうやると……見える」


「見せて見せて~(^^♪」


 ウフフフ


 なぜか詩ちゃんがウフフと笑うのを尻目に顕微鏡を覗いてみる。


 覗くと、ボーっと明るいことしか分からへん。


「ボールペンの芯を出すように回していくとピントが合うてくるから」


「こう……」


 ちょっとずつ回していくと、なんや、ホコリみたいなんがワヤワヤと漂ってるのが見えてくる。


「なんか見えてきた!」


「うまいことピンと合わせや……」


「こう…………わ!」


 ワヤワヤしてたんは次第に姿がハッキリして来て、やがて、ピッタリ合うと……なんと、ちっちゃな阿弥陀さんがいっぱい蠢いてるのが見えてきた!


「な、なにこれ!?」


 言いながらも目が離されへん、大勢の阿弥陀さんは集まったり離れたり、なんかシンクロナイズドスイミングとかやってるみたい!


「それは、仏教で云う『いたるところに仏性あり』というのが実際に見える顕微鏡や。自分の手の平見てみい」


「……ほんまや、あたしの手ぇにも!」


 アハハハハハハ


 なんでか、詩ちゃんが笑い出す。


「それ、中に仕込んであって、万華鏡になってるのよ」


「ええ?」


「友だちのボンサンが作りよったんや。な、ちょっとウケルやろ」


「もう、しょーもない」


「怒らんと、もう一回見てみい。もうちょっとずつ回していくんやで」


「まだ、なんかあんのん……」


 すると、今度は『南無阿弥陀仏』の文字が浮かび上がってきた。


「なんや、お寺の宣伝用のグッズかいな」


「辛抱足らんやつやなあ、もうちょっと見てみい」


「どうせ、しょーもない……わ!?」


 思わず顕微鏡から目を離した!


 埃やら、なんかの毛ぇやら、ダニの死骸みたいなんやらがジャングルみたいに見えてきた。


「な、それがほんまの顕微鏡モードで見えてるもんや」


「テイ兄ちゃん、言うていい?」


「なんや?」


「阿弥陀さんが見えて、南無阿弥陀仏が見えて、その先にこれが見えるのんは、阿弥陀さんの正体が、めっちゃ不潔に見えるねんけど」


 アハハハハハ


 兄妹そろて爆笑しよる。ちょっと気分悪いんですけどヽ(`Д´)ノプンプン




 笑いが収まってから解説してくれたんやけど、本山でも、檀家さんの間でも不評で、とうとう製品化はされへんかった落ちこぼれグッズやったそうです。


 けど、面白いから、今度、頼子さんと留美ちゃんにも見せてやろう。




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