第133話『ごりょうさん奇談・1』


せやさかい・133


『ごりょうさん奇談・1』  





 堺で6人目の感染者。



 せやけど22日の数字やから、三日もたった今日は分からへん。


 ネットで調べたんやけど、他の街は24日の数字が出てたりしてる。堺市が遅れてるのんか、あたしの検索の仕方が悪いのかは分からへん。


「まあ、うちの町内からは出てへんからなあ」


 気持ちが通じたんか、朝食のあと片付けしてると、お祖父ちゃんが呟く。


 坊主と言うのは情報が早いと感心する。


「志村けんが罹ったらしいなあ」


 スマホをいじりながらテイ兄ちゃん。


 ヤマセンブルグは7人の感染者。他の欧米の国に比べたらメッチャ少ない。


 女王陛下の判断で、コロナ対策は日本式。そして、絶賛鎖国中。


『それでもねえ、小さな国だから、そんなに長いこと鎖国してるわけにもいかないしねえ……』


 スカイプで頼子さんの表情は暗かった。


 留美ちゃんは、ちょっと風邪気味で家から出してもらわれへん。


『熱って言っても6・9度なのよ、花粉症だって言ってるのに、お母さん大げさで……クチュン!』


 留美ちゃんの気持ちもお母さんの気持ちもよう分かる。


「詩(ことは)ちゃん、どうすんのん?」


 食器を拭いている詩ちゃんに振ってみる。


「友だちがDVD貸してくれるから取りに行くの。昼過ぎには帰って来るから、いっしょに観ない?」


「うん、観る観るう!」




 かくして午前中がぽっかり空いてしもた。




 おばちゃんの電動自転車を借りて散歩に出る。


 ウヒョー!


 ビックリするくらい軽い!


 とたんに方針転換。今の今まで家の周りというか、ご近所の散歩にしよと思てたけど、やんぺ!


 ハンドルを180度曲げてごりょうさんを目指す!




 フ……ウフフ……アハハハハ!




 スイスイ坂道を上っていくと笑いがこみ上げてくる。


 この一年、何べんも、この坂道を上がった。


 ごりょうさんが世界遺産に決まった時、中央図書館に本を借りに行ったり返しに行ったり、大仙高校の記念行事に呼ばれた時、頼子さんに送るビデオレターの撮影に行ったのは、ついこないだのこと。


 そのいずれも普通の自転車でエッチラオッチラやった。


 最初から電動自転車にしたかったけど、ある意味居候のうちには遠慮があった。




「あら、散歩?」


「うん、天気ええさかい」


「ごりょうさんとこ、桜咲き始めてるんちゃうかなあ」


「え、あ、うん」


 上り坂の大変なん分かってるから、ちょっと尻込みの生返事。


「電動で行きいよ。今日は使えへんし」


「うん、はい」




 そんで、山門を出て、サドルに跨ったら革命的なペダルの軽さ。


 バッテリーがもつのは20キロちょっと、午前中いっぱいの散歩には十分。


 ランナーズハイというやつやろか、30号線を超えるとアイデアが浮かんだ。




 ごりょうさんを一周してみよ!




 一周三キロか四キロ、まあ、楽勝や!


 けど、アホやった。


 ごりょうさんの南西の角からお堀に沿ってしばらく行くと、道は左に逸れて、ごりょうさんからどんどん離れていく!


 あ、大仙高校。


 こないだ文芸部で行った大仙高校が迫ってくる。ブレーキかけてスマホでチェック。


 そうか、ごりょうさんを完全に一周する道は無いんや。前に立ちふさがってる大仙高校と丸保山古墳が邪魔で迂回せんとあかん。


 並の自転車やったら、これで挫折したやろけど、今日は無敵の電動自転車!


 エイヤ!


 元気よくペダルを踏み込んで、大仙高校を大周りし始めた!


 




 

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