第117話『新型コロナウイルスとお善哉』


せやさかい・117

『新型コロナウイルスとお善哉』 





 全校集会で中国発の新型コロナウィルスの話があった。



 校長先生の話なんて、いっつも右から左やねんけど、今日ばっかりは、みんな真剣に聞いてる。


「うがい手洗いをちゃんとしましょう。特に手洗いは有効です。みんなは手のひらを重点的に洗っていると思いますが、手の甲、指の股のとこなどをしっかり洗います。こんな風ですね……」


 校長先生は右手と左手の指の股を交差させて洗い方の見本を実演。


 マイクが手を合わせるシュッシュッいう音を拾って、ちょっと可笑しいねんけど、笑うもんは居らへんかった。みんな、ネットやテレビで見て大変なことを知ってるから。


 十三年の人生でエライこっちゃと驚いたんは、まず地震。東日本大震災は、まだ二歳やったから記憶にない。


 いちばん怖かった地震は一昨年の北部大阪地震。


 ほら、登校途中の小学生の女の子が、倒れてきたブロック塀の下敷きになった。しばらくは、ブロック塀を見ると、ギョッとしたもんやし。


「あ、そうなの?」


 頼子さんは言う。


 怖いのは地震! というとこまでは一緒やったんやけど、うちと留美ちゃんが北部大阪地震!と声が揃ったのに、頼子さんは「東日本大震災!」と言うたから。


 頼子さんは、当時四歳……そら、憶えてるわなあ。当時は東京に住んでたらしいし。


「あ、そんな年寄りみるような目で見ないでくれる(;^_^A」



 ミヤーーー



 襖の向こうでダミアの声、ネコ語で「早よ開けて~」と言っているので、留美ちゃんが開けに行く。


 ダミアの首輪にメモが挟んである。


 本堂裏の部室で部活をやってると、ときどきダミアはメッセンジャーになる。庫裏の方から怒鳴っても聞こえるんやけど、おばちゃんとかはメモにする。ダミアも、このお使いが好きなようで「ありがとう」とお礼を言うと喜んでる。


―― お善哉が出来たから、食べにおいで(^▽^)/ ――


「おお、これはこれは!」


 あたし、頼子さん、留美ちゃんの順番でお茶の間に向かう。ダミアは頼子さんにモフモフされて、これまた上機嫌。


 お寺のお正月はいっぱいおモチがある。


 仏さんにお供えするのがハンパな量やないさかいにね。


 ご本尊の阿弥陀さんが一番大きいし、聖徳太子に親鸞聖人、うちの開祖や歴代住職、それに酒井家の御仏壇のお供えでも、一般家庭の倍の大きさはあるしね。そういうのんを、焼いたり善哉にしたりして、二月の最初くらいまではあるらしい。


「おお、三つも入ってるし! すみません、いっつも」


「え、五つがよかった?」


「あ、いえ、そんなあ(*ノωノ)」


 むろん、伯母ちゃんは冗談で言うてんねんけど、頼子さんはまんざらでもない顔。頼子さんは時折こういう顔を見せる。ほとんど完璧なプリンセスぶりがこういうところを見せると、うちらの頼子さんいう感じで嬉しい。


 頼子さんは大食漢というわけやないんやけど、お餅は好物なようで三つのお餅をペロリンと食べる。


 留美ちゃんは一個、あたしは二個。



 善哉で幸せになってるとこに詩(ことは)ちゃんが帰ってきて輪に加わる。



 詩ちゃんはマスクをかけて学校に行ってる。


 電車通学やし、途中で難波とか阿倍野とか通るしね。


 マスクの詩ちゃんはとびきりのベッピンさん。


 むろんマスクなしでもベッピンさんやねんけど、マスクしてると目ぇが強調されるでしょ。


 詩ちゃんの魅力の中心は切れ長の目ぇやということを発見。なんかメーテルみたい。


 頼子さんも留美ちゃんも思ってるけど、本人の前では言わへん。言うて恥ずかしがる詩ちゃんを見てみたい気ぃもするけど、詩ちゃんは褒められるのが苦手、特にルックスについて褒められると、信じられへんけど落ち込む。理由は……またいずれ。


「おーーこれこれ、これを楽しみに返ってきましたのよ、わたくし(o^―^o)」


 マスクを外した詩ちゃんは、思いのほか大きな口を開けてお餅にかぶりつく。


「あ~おいしい」


 やっぱりいつもの詩ちゃんでした。


 

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