第97話『カラオケ修業』 

せやさかい・097

『カラオケ修業』 






 テイ兄ちゃんの車で堺東の某スナックに向かってる。



 車には運転のテイ兄ちゃんの他に、あたしと、頼子さんと留美ちゃん。


 なんでスナックかと言うと、留美ちゃんの音楽のテストに対する頼子さんの意見。


「じゃ、カラオケで慣れておこうよ!」


 ほんで、テイ兄ちゃんに言うたら、友だちが堺東でカラオケスナックやってるから、開店前に使わせてもらえるようになった。




スナック……はんしょう?




 反正と書かれた看板を小さく口にしたら、ううん『はんぜい』って読むんだよ。留美ちゃんに訂正された。


「十八代目の天皇で『反正天皇』、駅の東側に御陵があるの」


 中一とは思えん知識、まだ半年ちょっとにしかならへん堺市民のあたしは、御陵というと仁徳天皇陵しか知らない。


「へー、秘密基地みたい」


 看板だけが地上にあって、お店へは人一人がやっと通れるくらいの階段を下りて入っていく。


「こういう雰囲気っていいよね!」


 エディンバラのパブも地下がすごかった。頼子さんは似た雰囲気を感じたのか楽しそう。


 


 真っ黒なドアが開けられる。お店の名前で話してるうちにテイ兄ちゃんが、サッサと行って待ってくれてた。




「いらっしゃーい、六時まで自由に使ってくれていいからね」


 テイ兄ちゃんと同い年ぐらいの女の人が笑顔で迎えてくれる。


「チイママの里佳子さん」


「「「おじゃまします」」」


「じゃあ、あたしは用事済ませに出てるから、テイ君よろしくね」


「ああ、ゆっくり行っといで。ほんなら奥のテーブルに」


 里佳子さんが出ていくのを見送って、カラオケセットのある奥のテーブルへ。テイ兄ちゃんは勝手知ったるお店なんで、カウンターに入ってゴソゴソやり始める。


 スナックなんて言うし、入るまでは秘密基地めいてたけど、店内は以外に明るい。


「カラオケ触っていいですか?」


「ああ、やり方分かるんやったら適当に始めて、ボクは、おつまみとか作ってるから」


 慣れた手つきで操作する頼子さん。なにをやらせてもこなしてしまう。


「最初は思い出の曲からやってみよう♪」


 イントロを聞いて、テイ兄ちゃんが呆れる。


「いきなり『蛍の光』なんかいな」


「うん、この夏の思い出の曲やねん」




 そうなんや、エディンバラ城のミリタリータトゥーで、観光客や地元のイギリスの人らと感動で歌った曲。


 言葉は通じひんかったけど、歌を唄ったら、なんや人類みな兄弟! ちゅう感じになれた。


 歌うことに臆病になってる留美ちゃんのテンションを上げるにはもってこい! 頼子さんは分かってる。


 それから乃木坂の曲とか三曲、留美ちゃん口は開けてるけど声が出てない。


「まあ、これでもつまみながら、ゆっくりやろうや」


 テイ兄ちゃんは、サンドイッチや唐揚げやらを出してくれる。ソフトドリンクも出てきて、なんやパーティーの雰囲気になってくる。


「ほんなら、ボクも参加や」


 ドリンクを持ったまま、片手で器用にタブレットを操作。Jポップをホイホイと入力。わたしらも知ってる曲が多いんで盛り上がる。


「留美ちゃん、歌いたい曲とかない?」


「ううん、みんなに付いて歌ってるから」


 言うわりには、だんだん声が小さなる。


 せやけど、こういう時に―― がんばって ――とか言うのは逆効果。


 できるだけプレッシャーにならんように……というて、こっちのテンション下げてしもてもあかんし、視界の端に留美ちゃんを入れながら次々とモニターに出てくる曲を歌う。


 五曲目になって、グラス片手に俯いてしまう留美ちゃん、これは、もうあかんか?


 そんな留美ちゃんが、七曲目にあたしのマイクを奪った!


「この曲、独唱します!」


 大丈夫かいなと思たけど、留美ちゃんはテイ兄ちゃんが入力した曲を、めっちゃうまく歌った!


 それは中島みゆきの『麦の唄』 バグパイプから始まる曲を、ちょっと力強く歌う。


 たぶん、エディンバラの『蛍の光』の延長でのれるんやろ……と思たら、次々と中島みゆきの歌を、コーラ片手に五曲歌いあげた!


「スゴイよ留美ちゃん!」「ブラボー!」「めっちゃうまいやんか!」


 さんにん、正直に拍手を送る。


「ありがとう、じゃ、次は……」


 そこまで言うと、留美ちゃんは白目をむいてシートに倒れてしもた!


「ちょ、留美ちゃん!」


「あ、留美ちゃん飲んでたん、コークハイや!」


「え、あ、ボクのん飲んでしもたんか!?」


「「留美ちゃーーん!!」」




 このあと、ちょっと大変やったんやけど……それは、またいずれ。 


 

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