第67話『ちょっと日常を踏み外して子ネコと遭遇』

せやさかい・067

『ちょっと日常を踏み外して子ネコと遭遇』 





 ほんのちょっとしたことで歴史は変わる。



 大げさやけど、そういう感じ。


 図書委員の子が足を怪我してなかったら、自分で書架に本を仕舞いに行くことは無かった。


 あそこでXとYの話を聞いてなかったら、本を仕舞っておしまい。


 スマホの映像と音声が、もっとクリアーやったら、本の間に首突っ込んで、しっかり確認しようとはせーへんかった。


 あれでバランスを崩して書架ごと倒れてXのスマホはオシャカになった。オシャカになったから、エアコン騒動はSNSに流れることもなく。みんなの記憶から消えて行こうとしている。


 SNSに流れてたら、新潟の中学校みたいに新聞やらテレビに流れて大騒ぎになってた。


 もし、書架が倒れんと、XとYの悪だくみに気づいたら……わたしは、どないしたやろ?


 止めに入ったやろか? 先生に言いに行ったやろか? それとも知らんふり?



「悶々と悩んでたでしょうね」



 体育祭の学年別の練習の真っ最中。男子の組体操の練習が長引いて、女子は体育座りして待たされてる。先生らも組体操の警戒(なんせ怪我されたら、それこそマスコミの餌食)で、待機してる女子はほったらかし。せやから、あちこちでお喋りしてる。あたしは留美ちゃんと並んで、こないだの図書室事件を話してるわけ。


「悶々と悩むなんて、さくらちゃんらしくないから、あれでよかったんだよ」


「そっかなあ」


「そだよ。わたしも、表ざたになって注目されたりなんてやだったから。運命とかには感謝だよ……」


 喋りながら留美ちゃんは地面に『の』の字を書いてる。なんや、そこはかとなく可愛らしい。


「もし、頼子さんがヤマセンブルグの正式な王位継承者になったら、わたしもさくらちゃんも王女殿下のご学友だよ」


「ご学友って、うちら学年二個下やけど」


「後輩のご学友って、言葉が長いじゃない。きっと、ご学友ってことになる」


「そ、そうなんかなあ(^_^;)」


「インタビューとか受けたり、戴冠式には呼ばれたりしてさ、うん、そういう引き立て役てか、脇役ならなってもいいなあ」


「戴冠式とかやったら、ドレスコード(夏季合宿で覚えた言葉)とかあるでしょ、うわー、どないしょ。あたし、ぜったいフォーマルな服なんか似合わへんわ!」


「その時はさ、二人で、お揃いのにしようよ」


「あ、その方が安なるか!?」


「アハハ、まあね」


 取り留めない話をしてると――女子は着替えて解散――と先生が宣言した。


 男子がドンクサイのと、安全を期すために、男子全員居残り練習ということになる。


「え、教室いかへんのん?」


 着替えは教室やのに、留美ちゃんは校舎裏の方に行こうとしてる。


「うん、ちょっと日常を踏み外して、運命を変えてみよう!」


 留美ちゃんにしては大胆なことを言う。さっき、あんなことを話したからやろなあ。


 ま、踏み外すと言うても、校舎の裏側を通ると言うだけの話。


「そやね、大回りしてる間に飛行機が落ちてきて、クラスで助かるのは、あたしと留美ちゃんだけになるとか」


「そうね、こっそり校舎裏に現れた宇宙人に出会うとか」


 アホなこと言いながら校舎の裏に。


 飛行機が落ちてくることも、宇宙人に出くわすことも無かった。




 けども、どこから入って来よったんか、子猫がおった!

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