第66話『分岐・2』

せやさかい・066

『分岐・2』 





 本の返却はカウンターの図書委員に渡したらおしまい。本は図書委員が書架に戻すのがルール。



 ところが、当番の図書委員の後ろには松葉杖が立てかけたって、カウンターには十数冊の本が溜まってる。


 どうやら、足を怪我してて、マニュアル通りに書架には運ばれへん感じ。


「あ……えと、わたしやっとこか?」


「は?」


「足、怪我してるんでしょ?」


「ありがとう、相棒の子ぉ休みやし、助かるわ」


 図書委員は、日焼けした顔にニッコリと白い歯ぁを見せる。笑うと、程よく目ぇが垂れて、二枚目半くらいのナイスガイになる。


 あ、手伝うたろいう気ぃになったんは、あくまで、お互い様いう奉仕の精神やからねえ(;^_^A




 よいしょっと。




 踏み台に乗って、一番上の棚。最後の一冊を戻そうとして人の気配。


 本の隙間から見ると、書架の向こうで男子が二人……クラスのXとY、なにやらスマホを操作しとおる……怪しい。


「せっかく撮ったんやからなあ」


「なんや、下火になってきたしなあ」


「炎上するくらいやらんと、おもしろ……」


「おもしろするためにやるのんか?」


「ちゃう、うやむやになったらあかんさかいにや。これは社会正義のためや」


 Xの手元のスマホを見ると、なんと……エアコンが壊れた時のクラスの様子が映ってる! どうやら、その動画をSNSで流す算段をしてるとこらしい。


 画面が小さいから、よう分からへんけど、音声から、教頭先生がやってきて移動し始める時のんらしい。このあと、留美ちゃんがひっくり返って、大騒ぎになるんや。


 学校は非難されてええと思うねんけど、留美ちゃんのしんどいとこをSNSで晒すのはやめて欲しい。


「ちょっと、音おおきないか」


「しぼろか」


 あ、聞こえへん。


 もうちょっと確かめてからと思うたわたしは、本の間に首を突っ込んで様子を見る。


 あ、あああああああああ!


 書架に重心をかけ過ぎて、グラリときた!




 うわああああああああ!!! 悲鳴だけは三人揃った!


 グワラグワラガッシャーーーン!!!




 XYの居る方へ書架は倒れていき、何百冊という本がぶち撒かれ、その上にわたしは落ちていく! むろん下敷きの犠牲者はXとY。


 怪我は、三人とも打撲で済んだ。


 しかし、Xのスマホはベキベキに壊れてしもた。


 事故とはいえ、人のスマホを壊したら弁償もんやけど、XもYも文句は言わへんかった。


 


 いろんな分岐の末やねんやろけど、まあ、トゥルーエンドに近い終わり方になった、と思う。


 

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