第56話『ヤマセンブルグ・2』

せやさかい・056

『ヤマセンブルグ・2』 




 ヤマセンブルグの空港には驚いた!


 いや、空港そのものはエディンバラほどもないねんけど、その……お出迎えがね。


 レッドカーペットがタラップの下から敷かれててね、お迎えの人が二十人ほども並んでる。他にも一クラス分くらいの儀仗兵と軍楽隊みたいなの。


 それから、頼子さんのコスプレ。


 わたしの乏しいファッション知識ではワンピースとしか表現でけへんねんけど、堺東とか難波とかで見かけるワンピやない!


 ごく淡いピンクのワンピはノースリーブで、胸元には真珠のネックレス、かわいいティアラには本物やったら数千万円はするんちゃうかという宝石が付いてて、スカートの下にはごっついパニエが入っててフワフワ。そんで、飛行機から降りる寸前に、イザベラさんによって深紅の幅広タスキが掛けられる。宴会とかで『本日の主役』とか、選挙の候補者が肩から掛けてる。あれぐらいの幅があるんやけど、グレードが違う。金の刺繍でデコラティブな文字……うちには読めません。右下の結び目には金色の房がユラユラ。でもって、胸元には赤と金色のバッジ? 勲章? 


 イザベラさんもロッテンマイヤーさんを偲ばせる黒のワンピで、胸元には缶バッジ……いや、なんか小さな勲章めいたもの。ソフィアさんは、同じデザインやけどエンジ系で、ヒルウッドの女性スタッフも同じ衣装。


 ジョン・スミス?


 ビックリした! パリ祭のパレードかいうようなコスで、ピカピカの胸だけのアーマーに、房の付いたヘルメット。手には肘まである純白の皮手袋に、同じ材質のブーツ。で、ゲームで見かけるようなサーベルをぶら下げてる。


「すまん、国のエライサンが大のコスプレファンなんでな」


 ジョン・スミスの申し訳なさそうな目線の先に、わたしと留美ちゃん……ソフィアさんのに似たワンピを着せられてます。


『襟の色がちがいますでしょ?』


「あ、ああ」


 うちらのは襟が水色で、形も微妙に違う。


『お二人のは……』


 そのとき始まった軍楽隊の演奏で後ろ半分は聞こえへんかった。




 タラップを静々と降りると、ミリタリータトゥーの時みたいに儀仗兵の隊長さんが掛け声。ミリタリータトゥーで慣れてなかったら、ぶっとんでタラップから落ちてたよ!


 掛け声とともに儀仗兵さんたちがガシャっと捧げ筒! 軍楽隊の演奏でレッドカーペットの上を頼子さんに続いて歩く。


 出迎えの人らは、頼子さんと握手するねんけど、頭を下げたり小さく跪く姿勢をとったり、タキシードみたいなのに勲章ぶら下げたオッサンは、なんと、頼子さんの手の甲にキスしよった!


「あれ……」


 留美ちゃんが、小さな声で空港ビルを示した。空港ビルの屋上の手すりには大きな横断幕に『安倍政治を許さない!』ではなくて『お帰りなさいプリンセス! ようこそ日本のご学友!』と現地の言葉と日本語で書いたって、地元の小学生やらオッチャンオバチャンやらがヤマセンブルグと日本の国旗を打ち振ってる!


 頼子さん……プリンセス?


 あたしら……ご学友?


 

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