第51話『エディンバラ・7』 

せやさかい・051

『エディンバラ・7』 





 戦争でメチャクチャになったのはドイツや日本とかの負けた国だけじゃないのよ。


 戦勝国のイギリスも爆撃とかでたくさんの人が亡くなって、ずいぶん荒廃したの。それで、少しでも人々を慰め、励ましたい。そういう気持ちで始められた音楽の祭典がミリタリータトゥーなの。


 頼子さんの解説の通り、夕方になると、エディンバラの街から三々五々と人々がキャッスルヒルの会場に集まって来る。


 留美ちゃんと二人で興奮してしもた!


 ネオンとか電飾のないエディンバラの街は、街灯やら家々の灯りだけに照らされて、照らされてる建物がRPGに出てくる冒険の始まりの町みたい。そこを町の人やら観光客の人やらが上って来る。お城もきれいにライトアップされて、めっちゃファンタジー!


 ゲートタワー(大手門)の上にはユニオンジャックを真ん中に五本の旗が翻てって、ゲートの両脇にはボーボーと松明が焚かれてる。ユニオンジャック以外は分からへんけど、どれも中世ヨーロッパの感じで、これから始まるミリタリータトゥーへの期待を膨らませる。


 ゲートタワーの向こうから何十ものバグパイプの響きが地を這って立ち上がる。


 十秒ほどすると、バグパイプとドラムの団体さんが威風堂々! 続々と現れる!


 どんだけ居るんや!? もう、全校集会かいうくらいのバグパイプとドラム!


 バッキンガム宮殿の衛兵みたいなんも居てるし、女子高生みたいなチェック柄のスカートに白のブーツは昔のAKBみたいやけど、同じチェックの布を肩から垂らして、頭にはごっつい黒熊の帽子。それが全校集会、それも大規模の私学かいうくらいパレードしてるんは、ほんまに圧巻!!


 そんで、出てくるのは軍楽隊ばっかりやない。民族衣装の女の人が一学年分くらい出てきて民族舞踊っぽいダンスしながら歌ってくれたり、アメリカの海兵隊やら、いろんな国の軍楽隊やらグループやらが素敵な音楽を聞かせてくれて、パフォーマンスを見せてくれる。


「二年前は日本の自衛隊も出て、和太鼓やら剣劇やらを見せてくれて、とっても好評だったのよ」


 頼子さんは適度に解説を入れてくれる。ソフィアさんは、時々翻訳機で訳しては頷いてる。お互いにええ勉強になるわ。


「ラスト、ちょっと感動的かもよ」


「え、どんなんですか!?」


「ま、お楽しみ」


 頼子さんは、可愛く鼻にしわを寄せる。いったいなにやろ? 留美ちゃんと顔を見かわした。


 アナウンスが入った。言葉は分からへんけど、フィナーレという単語で『終わりの挨拶』やということが分かる。


「「キャ」」


 指揮者の将校さんが、なにか怒鳴ったんで留美ちゃんともども驚く。


 怒鳴ったんとちごて号令やと分かったんは、映画かなんかで聞いたことのある曲が演奏されたから。


「ゴッド セイブズ ザ クィーンや!」


 そう、イギリス国歌! まわりの人にならって起立する。自然に国歌が歌えるのはええもんやと思う。


 せやけど、本物の感動は、この次やった。




 ターータタラ ターターーン タタラタタターーン




 ウグ…………




 反射的に涙が出てきた。


 なんと『蛍の光』が演奏され始めて、さっきの国歌と同じに、会場のみんなが歌い始めた!


 英語の歌詞は分からへんけど、わたしも日本語で歌う。




 ほたーるのひかーり 窓のゆーーき 文読む月日かさーねつーーつ




 ソフィアさんがビックリし、ジョン・スミスがサムズアップ。


 終わったら、そばに居てた人らが次々にハグしてくるのにはまいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る