第50話『エディンバラ・6』 

せやさかい・050

『エディンバラ・6』 




 お城と言うと、石垣の上に白壁の櫓が建ってるというイメージ。


 エディンバラ城は違う。建物が全部黒ずんだ石で出来てる。


 せやさかい、なんや石垣の中に窓があって、建物が埋もれてるみたいで、印象がちがう。


「日本じゃ、西洋のお城って、ディズニーランドのシンデレラ城ってイメージでしょ。ああいう白っぽい城って実は少ないの」


「シロっぽいシロ?」


 留美ちゃんが疑問を呈する。


「あ、ホワイトのお城。ディズニーのお城はドイツのノインシュバインシュタインのお城がモデルなんだけど、あれって、十九世紀に作られた、ちょっと規格外のお城だから。エディンバラ城みたいに石だらけというのがスタンダードなのよ」


「「なるほど」」


「それでね、エディンバラ城の建物は……」


 頼子さんの説明は、中学生とは思えんくらい的確で、かつ詳しい。ソフィアさんは頼子さんの解説を翻訳機で確認しては頷いてる。ソフィアさんもなかなかの勉強家。ジョン・スミスはサングラスをかけて、わたしらとは付かず離れずの距離に居てくれてる。ジェームスボンドみたいでかっこええ。


 その名もグレートホールは、ほんまにグレートな貫録で、位置的にも天守閣。中にはゲームやらアニメの異世界に出てきそうな鉄地剥き出しの武器やらヨロイやらが陳列してあって、こういうのを身に着けたら、冒険物語が始まりそう『ドラゴンなんちゃら』とかってね。屋根を支える石にはスコットランドの紋章のアザミが浮き彫りになってて――勇者よ、ここから旅立つがいい――と背中を押してくれるみたい。旅立つ冒険のあてもないあたしは、城壁から転がり落ちるしかない。オープンワールドのゲームで、鍛冶屋の息子が旅立ったとたんに事故とか山賊に襲われたりとかで死んでしまうのを思い出す。めっちゃグラフィックのきれいなゲームやったけど、アマゾンで安売りになっても買えへんやろなあ……根性なしやから……と、情けないことを思い出す。


 別棟のロイヤルパレス。本丸御殿にあたる建物やそうで、エリザベス女王とかもお泊りになるそう。クラウンルームには、別名「スコットランドの栄誉(The Honours of Scotland)」という、王権を象徴する3つのアイテム(クラウン・ジュエル(Crown Jewel)」が展示されてて、王冠には十個のでっかい宝石がゴージャスに埋め込まれてるんやけど、撮影禁止なんでお目に掛けるわけにはいきません。残念。


 奥まったとこにある国立戦争博物館。軍服やら兵士の手紙やら、武器は鉄砲ぐらいのもんでガルパンやらコトブキ飛行隊に出てくるような大きなもんはありません。しかし、展示品はぜんぶ本物で、アニメとかゲームの制作関係者が見たら飽きひんやろと思う。


 外に出ると、大きな大砲があった。


「モンス・メグ(Mons Meg)」という古い大砲で、ドラム缶くらいの太さ。太さ的には戦艦大和の主砲くらいはありそうやけど、長さは五メートルくらいで、ズドンと撃っても、三キロちょっとしか飛ばへんそうです。


 他にも、こんな凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹の城壁には黒々とした大砲が幾つも並んでて壮観。


「こっちこっち」


 ジョン・スミスがニヤニヤて招き。城壁の角を曲がると現代的な大砲があって人だかり、今風の兵隊さんが四五人取りついてる。ひょっとして……と思ったら。


 ドッカーーーン!


 ウヒョー、ほんまに撃った!


「ワンオクロック・ガンと言いますデス!」


 ソフィアさんが目を輝かせて言う。言葉が日本語らしくなってきた、わたしらと半日いっしょにいたから上手くなったんやったら嬉しい。


 それから、カフェでお昼。お天気にも恵まれたんで、場所を変えてあれこれ喋ってるうちに夕方になって、例のミリタリータトゥー!


 それは次回のお楽しみにね。

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