第38話『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』

せやさかい・038

『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』 



 わたしと同じ安泰中学の制服着た女の子が不機嫌な顔で座ってた。


「あ……えと……」

「佐伯法子」

「え?」

「佐伯法子ですぅ(*^^)v」

 思わず、骨箱と仮位牌を見てしまう。

「えと……佐伯さんのお婆ちゃんと同じ名前?」

 佐伯さんとこの親戚の子ぉか?

「ううん、その骨箱の本人の佐伯法子。桜ちゃんとおんなじ安泰中学。制服いっしょでしょ」

「え? え? 佐伯さんのお婆ちゃん?」

「うん、桜ちゃんは婆さんのわたし知らんでしょ?」

 そういえば、亡くならはるまでご本人は見たことない。

「報恩講とかのお寺の寄り合いには来てたんやけど、桜ちゃんには、ただの婆さんの一人やから印象にも残ってへんねやわ」

 ご近所のお婆さんで覚えてるのは米屋の米田さんだけや。

「そやね、お米屋の民ちゃんは個性的な子ぉやったからね……あ、ごめん、幽霊になったら心を読んでしまうわ」

「え、幽霊さん?」

「うん、婆さんの姿覚えてられたら、こんな中学生の生りでは出てこられへんかったんよ」

 えと……頭がついてこーへんねんけど、とりあえず話聞こか。

「良袋はないと思うんよ。隆のやつ、お母ちゃんはええお袋やったいうんで、かんちゃん……桜ちゃんのお祖父さんに付けさせたんよ。ほんで、良袋(りょうたい)はないと思う!」

「えと……ほんなら、佐伯さん……?」

「のりちゃんて呼んで、かんちゃんも、そない呼んでたし」

「なんで、お祖父ちゃんがかんちゃん?」

 お祖父ちゃんは諦観やから、ていちゃんになると思うねんけど。

「酒井の男はみんな諦がつくやんか、区別つかへんし、かんちゃんは諦は諦めるのていやしとかで、下の観の字で呼んだわけ」

「なるほど……あの……それで?」

 ご近所とはいえ、死んでお骨になったばっかりのお婆さんが、なんで女子中学生の姿で現れるんや?

「それはね、やり残したことが、ちょっとばかりあって、ちょっとだけ桜ちゃんに手伝うてもらわれへんかと思て」

「手伝う?」

「えとね……」

 のりちゃんが話を続けようとすると、動画がバグったみたいにカクカクし始めて、もう一回「えとね……」と言うてフリーズしたかと思たら、電源が切れたみたいに消えてしもた……。

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