第29話『ダージリン』

せやさかい・029『ダージリン』 




 アッ!と思うことはたびたびある。


 山門脇の桜が見事に満開になったとき、紫陽花の花の色がコロッと変わったとき、校長先生の髪がアデランスやと分かったとき、ファイナルファンタジーⅦのリマスター版発売が発表さっれたとき、お父さんの失踪宣告が決まったとき、ほかにも色々……。


 いま、アッと思たんは頼子さんのヘアスタイルが変わってたから!


 頼子なんちゅう昭和チックな名前やけど、イギリス人とのハーフでブロンドの髪にブルーの瞳。フルネームは夕陽丘・スペンサー・頼子。いつもはロングの髪を肩に垂らして不思議の国のアリスみたい。


 それが、なんちゅうか一見ショートヘア。


 よく見ると、後ろの方でまとめてあって、ショートよりもかっこええ!


「アハハ、暑いからね。と言って、ショートにするのもなんだしね。おかしい?」


 留美ちゃんと二人、フルフルと首を振る。


「素敵な人は何をしても素敵ですねえ……」


「そんな感心しないでよ、三つ編みをまとめただけなんだから」


「三つ編みなんですか?」


「うそ」


 留美ちゃんが後ろに回ってシゲシゲと観察。頼子さんはティーカップを持ったままクルリと回って見せる。下手に恥ずかしがらないし、はしゃぐわけでもなく、自然に留美ちゃんの興味に合わせてる。いかにもレディーという感じ!


「ダージリンに似てます!」


 え? 似てますじゃなくて、文芸部の紅茶はダージリンなんですけど?


「あ、ああ、あのダージリンか!」


 頼子さんも納得やけど、わたしには、よう分からへん💦


「これだよ、桜ちゃん」


 部室のパソコンをチャチャっと操作する留美ちゃん、なんとブラインドタッチです。


「ほら!」「ダージリン ガ...」の画像検索結果


 嬉しそうに出したんは、ユーチューブ。ガルパン映画の予告編。  


「あ、ああ……」


 納得した。聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンにソックリや。


「わたしはダージリンほどには格言知らないけどね。ハハ、ローズヒップって言われなくてよかった」


「嫌いですか、ローズヒップ?」


「見てる分には好きよ。友だちに、こういうのが一人いたら面白いとは思うんだけど。あんたたちも十分面白いよ」


「そ、そうですか?」


「留美ちゃん、あなた『うまい班』なんだって?」


「え、あ、まあ」


 そうそう、見かけによらずと言うてはなんやけど、留美ちゃんは水泳の授業では『うまい班』なんだ。


「で、さくらは『金槌班』なんだ」


「そ、そうですけど」


「「アハハハ」」


 二人そろって笑い出す。わたしもいっしょに笑てしまう。たった三人の文芸部やけど、ええクラブやと思う。


「『金槌班』はA班になるらしいわよ」


 これには、留美ちゃんも「え?」やった。


「『苦手班』はB班、『うまい班』はC班なんだって」


「なんですか、それは?」


「名前の付け方が差別的だってクレームが来たらしいよ。来週の授業から変わるって」




 うーーーーーん。




 どうなんだろ?


 田中さんの『制服切り裂き問題』には何の対応もせえへんのに、しょうもない水泳の班の名前のクレームにはアッサリ対応。


 それも『金槌班』が『A班』……当たり前の感覚やったら『C班』やろと思うねんけど。


「それで、田中さんは?」


 あとで思うと、頼子さんの関心は、田中さんのことにあった。


 田中さんのことを真っ先に聞くと変に意識してしまうのんで、いろいろの前振りやったと思うのは、もっと後のこと。


「いや、それが、今では水泳の師匠なんですよーー!」


 田中さんのスパルタ指導を説明すると、コロコロ笑うのでありました。


 


 


 

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