第25話『カマイタチ・2』

せやさかい・025


『カマイタチ・2』  




 五分ほどで春日先生がとんできた。パトカー並みの早さや。


 菅ちゃん(担任)は出張やそうで、遅れてくるか電話があるとか。いつもやけど、まんの悪い先生や。


「まず、制服を拝見します」


 挨拶もそこそこに、すぐに被害物件を見てくれはる。


 リビングには如来寺の男全員が集まってる。みんな衣着てるさかいに葬式の打合せみたい。直ぐに伯母ちゃんと詩(ことは)ちゃんが人数分のお茶を運んできたので、リビングはいっぱいになった。


「これは、たぶんカッターナイフで切ってますなあ……」


 先生は切り口を写真に撮ってからしみじみと言う。


「カッターナイフの持ち込みは認めてるんですか?」


 おっちゃんが真顔で質問。事と次第によっては許さへんいうオーラが出まくり。いつもニコニコしてるお祖父ちゃんも真顔になって、テイ兄ちゃんは唇を噛み、伯母ちゃんと詩ちゃんは立ったままお盆を胸に抱えてる。


「認めてはいませんが、毎日持ち物検査をしてるわけでもないので、正直持ち込まれても分かりません……しかし……」


 語尾を濁しながら、制服のあちこちをチェックする先生。ちょっと恥ずかしい。


「おや……」


 裏側を見た時、先生の手ぇが停まった。


「ネームが田中になってます」



「「「「「「え!?」」」」」」



 わたしも含めて、家のもんは切られたとこばっかり見てて裏のネームまでは見てなかった。


「一組で田中いうと……田中真子。背格好は酒井さんと同じくらいやなあ」


「あ、更衣室では隣同士です」


「断言はできませんが、田中真子さんと間違われた可能性がありますねえ」


 田中さんは運動もできて成績もええ子やけど、あんまり喋らへん地味目の子。なんかあったんやろか?


「あくまで可能性なんで、ちょっと田中さんに電話してみます」


 先生はスマホを持って廊下へ。電話は直ぐに繋がったようで―― 見てくれる……そうか……やっぱり……ほんなら…… ――という言葉が切れ切れにして、お母さんが出てきたのか声のトーンが変わって、ちょっとしてからリビングに戻ってきた。


「やっぱり、田中さんが酒井さんの上着着てました。今から田中さんの家に上着の交換に行ってきます。折り返し戻って来るつもりですが、田中さんとの話によっては遅れるかもしれませんので、一時間以上遅れるようならお電話を入れます」


 そう言うと、先生は田中さんの上着を持って立ち上がった。


「待ってください、さくらちゃん、スカートも調べたほうがええよ」


 伯母ちゃんの指摘に――あ、そうや――ということになって、スカートを取りに行く。


 調べるとスカートは自分ので、上着だけが入れ替わってることが分かったので、先生は上着だけ持って田中さんの家に向かった。


「いやあ、さくらちゃんやなくて良かったなあ」


 テイ兄ちゃんは安心しよったけど、賛同する家族はおらへん。問題は、まだまだこれからやいう感じが如来寺のみんなにしてたから。


 九時を回ってから春日先生が上着を届けに来てくれる。「田中さんは?」と聞くと「あとは先生らに任しとき」と返事。


 春日先生が帰ってから菅ちゃんの電話「いやあ、あんたがターゲットやなくて良かったなあ」とテイ兄ちゃんレベルの返事。


 悪気はないんやろけど、やっぱりムカつく。

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