第21話『修学旅行のお土産』  

せやさかい・021

『修学旅行のお土産』  



 部活にお茶は欠かせません。



 いつもダージリンとかなんちゃらの紅茶。


 味覚が子どもなんで、スティック一本の砂糖をいれます。それが、今日はいれませ~ん。


 なんちゅうても、目の前に因島の八朔ゼリーともみじ饅頭があるから。


「キーホルダーとかもあったんだけど、カバンとかにつけられないしね」


 校則で、カバンにチャラチャラ付けるのは禁止されてる。むろん厳しい禁止ではなくて、常識的に一つ二つ付けてるのは言われへんねんけど。


「美味しいもの食べて、お喋りしてるほうがいいもんね」


 というわけで、頼子さんの修学旅行のお土産を広げてお茶してるというわけ。


「文芸部でよかったですぅ」


 留美ちゃんが小さく喜ぶ。小さくいうのは感激が薄いわけやない。留美ちゃんは、こういう感情表現をする子なんです。


「せやね、教室でやったら、お茶まで出してはでけへんもんね」


「八朔ゼリー、おいしいです」


「ほんとは、夏蜜柑丸漬 (なつみかんまるづけ)を買いたかったんだけど、萩でしか売ってないんで、それは、また今度ね」


 修学旅行のコースに萩は入ってない。行ったことないけど、文芸部の三人で行けたらええなあと思う。


「デバガメ捕まえたってほんとうですか?」


「頼子さん、カメ捕まえたんですか?」


「あ、うん、お風呂場で」


 わたしは、風呂場に迷い込んできた亀を思い浮かべてる。


「その、亀じゃないよ」


「え?」


「覗きだよ。お風呂場覗いてた男子捕まえたって……」


「湯船に浸かってると、窓がカタカタいうのよ。直観でうちの男子。いっしょに入ってる子たちには先に出てもらってね、思いっきりよく窓を開けてやったの」


「あ、開けたんですか!?」


「こういうのは、明るく景気よくやらなきゃ後味悪いからね」


「開けて、どうなったんですか!?」


「いっしゅん目が合ってね。手にスマホ持ってたから、思わず手を掴まえた」


「『キャーーー』とか『痴漢っ!』とか?」


「叫んだよ」


 そうだろ、こういう時、女子は叫ぶ!


「相手がね。で、ものはずみで、そいつは湯船の中に落ちて来てね、もう大騒ぎ。私は、騒ぎにするつもりはなかったんだ。でも、そいつが叫んで、バッシャバシャ音立てるし。すぐに先生が飛んできて……」


「犯人は、だれだったんですか!?」


 女の敵許すまじ!


「アハハ、気が動転してて忘れちゃった」


 これは、嘘だ。バッチリ見たはずなのに庇ってるんだ。


「スマホは湯船の中に落ちてオシャカになったしね。いやいや、咄嗟のことって、やっぱ、抜けちゃうんだね」


 いやはや、女豪傑や。


 


 そして、下校時間いっぱいまで喋って、校門を出る。


 ここのところ聞き慣れた、元気のいい廃品回収の車が一つ向こうの通りをいく。


「ああ、来週は市長選挙だねえ」「ですね」


 頼子さんが呟き、留美ちゃんが合わせる。


 選挙とかに関心のないわたしは、それが選挙カーやいうのに気ぃついてなかった(^_^;)。


 ポーカーフェイスしといたけど、頼子さんが、あたしのほう見てクスリと笑う。


 ほんま、頼子さんはかないません。


 

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