第15話『中央図書館に行ってきた』

せやさかい・015


『中央図書館に行ってきた』 




 電動自転車ある?



 部活の終わりで頼子さんが聞く。


「え、電動ですか……はい、あります」


 そう答える留美ちゃんの返事で本堂の脇にある自転車を思い浮かべた。


 引っ越しに際して持ってきたのは普通のママチャリ。お寺の自転車が三台あったと思うねんけど、電動があったかどうかは定かではない。


「えと、電動自転車をどうするんですか?」


「うん、明日から家庭訪問期間で半日授業になるでしょ。放課後半日空いてるから中央図書館に行こうかと思ってるんだ」


「中央図書館?」


「うん、ラッキーなことに、一番近いのが中央図書館なのよ。ほら、ここ」


 壁に掛かったポスターを示す頼子さん。なるほど、仁徳天皇陵の南西角のところに中央図書館が記されている。


「堺には十三の図書館があるんだけど、うちの学校は中央が一番近いの。中央っていうくらいだから、堺じゃ一番蔵書が多いのよ。ま、文芸部の校外学習ってことで行ってみようかと思うの」


 地図を見るのは苦手やけど、目印が仁徳天皇陵。家からはほんの一キロちょっと。自転車で行ったらあっと言う間。


「なんで電動自転車なんですか?」


「うん、三十号線超えると、ずっと坂道だからさ」


「え、ああ」


 家から東の景色を思い浮かべる。仁徳天皇陵のすぐ脇……楽勝! 運動神経はイマイチやけど、体力には自信がある。


「だいじょうぶ、変速機付きの自転車やし、余裕で行けます!」




 力こぶのガッツポーズで応えると「そっか、じゃ、明日の放課後、いったん帰宅したあと集合ね!」と話しが決まる。




 家に帰って本堂脇の自転車をチェック。伯母さんのと思しき自転車が電動だったけど、ま、自分の自転車で十分と判断する。


「さくら、うちに居なくてええのん?」


 家庭訪問のために午後からの半休を取るお母さんが言う。


「なんで?」


「だって、家庭訪問でしょ?」


「親だけでええみたい。それに、菅井先生(さすがに親には菅ちゃんとは言わへん)一回来てはるし」


「あ、そやったね」


 納得しながら吹きだすお母さん。菅ちゃんは入学早々わたしに不適切な対応(わたし本人は気にしてないねんけど)したことで学年主任の春日先生と家庭訪問に来てる。


 お母さんも、どこか抜けたトコのある人やけども、会社じゃキャリアのバリバリなそうな。バリバリでもパリパリでもええねんけど、仕事の鬼いうようなとこがあって、めったに仕事は休まへん。そやけど、わたしの学校に関わることはできるだけ休み取ってでも対応してくれる。ま、本人も半分以上は息抜きや思てるから、ええんです。




 三十号線に面したコンビニの前で待ち合わせ。




 途中で米屋のお婆ちゃんに出会う。


「さくらちゃん、お出かけかあ?」


「うん、図書館行くんで先輩らとコンビニ前で待ち合わせ」


「ああ、十三号線のとこのやなあ」


「あ、三十号線」


「せや、十三号線やなあ」


 ボケてはるんやろか。訂正しまくっても年寄り傷つけるだけやから、ええかげんな微笑み浮かべて「ほんならあ」と、別れる。


 


 ほとんど同時にコンビニ前に姿を現した留美ちゃんと頼子さん。なんでか、背中に空と思われるでっかいリュック。


 コンビニで水分補給用のペットボトルを買って出発。


 十分ちょっとで図書館に着いた。


 着いたんやけど、坂道をナメテたあああ。


 三十号線を超えたとたんに坂道。見た目にはほんのちょっとの勾配やねんけど。これが、けっこうきつい。特に、もうちょっとで図書館やいうとこで勾配がハンパやなくなってきて、着いた時には、わたし一人がヘゲヘゲで図書館前の自販機で、もう一本ペットボトルを買うハメになってしもた。


「だいじょうぶ?」


「アハハ、だいじょぶだいじょぶ……」


 館内に入ったら冷房……効いてないんで(なんせ、まだ五月になって間がない)涼んでから館内を探検。


 頼子さんの勢いが伝染して三冊も本を借りる。ちなみに頼子さんも留美ちゃんも六冊ずつ。リュックを背たろうてきた意味が分かった。




 家に帰って、暇してるお祖父ちゃんに捕まる。一日のあれこれを釣鐘饅頭食べながら話す。ま、居候の身、祖父さん孝行です。


 で、話してると、待ち合わせしたコンビニの前の道で、また混乱。わたしが三十号線や言うのにお祖父ちゃんは十三号線。この界隈はボケ老人菌が蔓延してるんかいな!?


 なんでか、地元では三十号線のことを十三号線と呼ぶそうな。


 お祖父ちゃんは、分かりやすうに説明してくれたけど、半分寝てたんで、よう覚えてません。


 


 

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