第7話『感謝の気持ち』

せやさかい・007『感謝の気持ち』




 朝から天気がええので、お布団を干す。



 決心はしたものの、どこに干したらええのんか分からへん。


 わたしのオッチョコチョイなとこは、布団抱えてウロウロしてるとこ。


 どこに干したらええのんか、ちゃんと聞いてからお布団持ったらええのに……コトハちゃんは、朝練でもう居らへん。


 お布団抱えてノシノシ階段を下りる。


「なんや、オネショでもしたんか?」


 お布団の向こうから起き抜けの声。体を捻ると、スウェットを腰パンに履いて歯ブラシ加えたテイ兄ちゃん。坊主のナリしてる時はいっちょまえやけど、それ以外は、昔ながらのだらしなさや。初日に付けた点数は20ポイントは減った。


「だれが、オネショや!?」


「そやかて、このまえも、オネショして布団抱えてたし」


「何年前の話や! 天気がええから、お布団干そ思ただけや!」


「ハハ、すまんすまん」


「どこに干したらええねやろか?」


「お母さん、さくらがお布団干したいて! オネショとちごて!」




 エプロンで手ぇ拭きながらおばちゃんがやってきて、それはええこっちゃいうことになった。


「諦一も手伝いなさい」


 伯母さんの一言で、嫌がるテイ兄ちゃんも加えて、三人でみんなのお布団も干すことになった。




 お布団干すのは本堂の縁側。




 家中のお布団を広げたままで干せるのは、お寺ならではや。普通は窓枠やらベランダの手すりやら、ウンコラショと物干しに掛けたりする。日光に当たってるのは半分だけやから、裏がえす手間がいるけど、お布団の全面に日光が当たるから、そのまんまでええ。


 お布団干し終えると、お祖父ちゃん・おっちゃん・テイ兄ちゃんの三人が本堂でお経をあげる。おばちゃんは、忙し気に段ボール箱を車に積んで山門を出て行った。布団干しなんて、余計なこと言うたかなあ……。


 あたしは酒井の家の子になったけど、酒井の家の子としての間尺と言うか立ち位置が掴み切れへん。


 自分では気ぃ効かしたつもりで、あれこれやってみるねんけど、かえっておっちゃんやらばちゃんやらの手ぇやら気ぃやらつかわせてる感じがする。お母さんは仕事ばっかりで、相談してる間ぁもない。越してきてからでも、泊りで二晩帰ってこーへんかった。あんたの仕事はコレコレやと言うてもろたほうがやり易いねんけどなあ……。


「気ぃつかわんでええで」


 気ぃついたら布団の上で寝てしもて、テイ兄ちゃんの呟きで目が覚めた。


「詩(ことは)も家の事はほとんどせーへんし、ゆっくり構えとったらええ」


「うん」


「まあ、悩んだら仏さんに手ぇ合わせ」


「仏さん?」


「ちょっとおいで」


「え?」


 テイ兄ちゃんは、わたしを本堂の阿弥陀さんの前に連れて行った。


「手ぇ合わせて『ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ』、三回くらい言うてみい」


「うん、ナマンダブナマンダブナマンダブ」


「ナマンダブが団子になっとる、微妙に間ぁ開け」


「ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ」


「でや、気ぃ落ち着いてきたやろ?」


「うん、まあ……」


「迷いが起こったら、こうやって手ぇ合わせたらええ」


「うん」


 さっきとは違て、やっぱりお坊さんいう感じや。


「落ち着いたら、阿弥陀さんに感謝や。感謝はできる範囲の行いで示したらええ。そこの掃除機もっといで」


 というわけで、本堂の掃除をすることになった。


 外陣が36畳、内陣が24畳の畳に12畳分の板の間。けっこうな広さや。




「あれ、さくらが掃除してんのか?」


 いつの間にかお祖父ちゃんが入ってきてて、開口一番に言う。


「え、あ、うん、感謝の気持ち」


 ニッコリし言うと、お祖父ちゃんは渋い顔になった。あれ、なんかマズかった?


「わしは、諦一に言いつけたんやけどなあ」


 そう言えばテイ兄ちゃんの姿が無い。



 あ、やられてしもた……。

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