黒龍野会戦 十八 マグス大佐

 中央での戦いは、ケルベロスが暴れまわる右翼とは違った展開となった。


 敵陣からやってくるのは、どう見ても戦斧を担いだドワーフだった。

 本人は全力で走っているつもりなのだろうが、帝国側からは短い足で小走りに駆けてくる滑稽な道化のように見えてしまう。


 ケルベロスと違って、中央の魔導士たちには十分に魔法を放つ余裕があった。

 ドタドタとやってくるドワーフが、やっと街道を乗り越えようとした時、その小柄な体にファイアボールとマジックアローが同時に襲いかかった。


 しかし火球も光の矢も、スプリガンの身体に触れる直前、霧のように消え失せてしまう。

 少しタイミングをずらして数発魔法攻撃が続いたが、いずれも同じ結果に終わった。


 魔導士たちの横列からはだいぶ下がった所で、マグス大佐は幕僚たちとともにその様子を望遠鏡で観察している。

「やはりレジストするか……」

 予想されていたことだが、国家召喚士の扱う幻獣ともなれば、魔法耐性の能力が桁違いだ。


 前線の魔導士たちは攻撃魔法が無力と覚ると、当初の打ち合わせどおり物理障壁で取り囲み、行動を封じようとした。

 スプリガンは戦斧を打ち込み、障壁を破ろうとするが、防御に特化した魔法の威力を打ち消すまでには至らない。


 小柄なドワーフの姿で暴れまわる幻獣を押しとどめている魔導士たちは必死である。

 化け物じみた怪力と疲れを知らぬ体力から受ける圧力を実際に感じていたからだった。


 魔力と集中力のありたけを注ぎ込んでいなければ、たちまち障壁を打ち砕かれ、戦斧によって自分の首が空高く弾き飛ばされる。

 それは冗談ではなく、崖っぷちまで追い込まれた現実そのものだ。


 しかし遠く離れて見物している兵士たちには、魔導士の苦労など伝わらない。

 彼らの目には、じたばたと暴れているドワーフを魔導士たちが取り囲んでなだめているように見える。


 血気にはやる若者はどこにでもいる。

 兵たちの中から二十人ほどの騎馬の一隊が抜け出し、マグス大佐らが陣取る指揮所に駆け寄ってきた。


 陣幕の外から、何やら揉めているような声が聞こえてくる。

「何の騒ぎだ?」

 報告にやってきた将校を見やりもせず、望遠鏡を目に当てたままマグス大佐が尋ねる。


「はっ、志願隊だという者どもが、スプリガンに対する騎兵突撃の許可を求めております」

「……その馬鹿者どもは正気なのか?」

「はい……恐らくは。

 たかがドワーフ一人、騎馬突撃で槍の餌食にすると息巻いております」


 マグス大佐はうんざりとした顔で、初めて連絡将校の方を向いた。

「追い返せ。

 ぐだぐだ言うようなら尻を蹴り飛ばしてやれ!

 いや、……ちょっと待て。

 その馬鹿者どもの中に、貴族の子弟とかはいるか?」


 予期せぬ質問に連絡将校はとまどった。

「は? えっ、いや――別におりません。

 みな、一般兵上がりの者ばかりです」


 ミア・マグス大佐はにやりと笑った。連絡将校の全身が総毛立つくらいの凄絶な笑みだった。


「よかろう、こういうのは実際に見ないと、なかなか身につかんものだ。

 兵の教育のためなら仕方あるまい。

 おい、通信兵。前線の魔導士に、これから騎馬突撃を行うから正面の障壁を一時解除するよう念話を送れ」


 大佐は呆然としている連絡将校にも命じる。

「何をしている。

 志願兵どもに許可すると伝えろ。

 ただし合図をするまで待つように、とな。

 それから後方の兵どもに、これから有志が騎馬突撃を敢行するからよく見ておくよう、伝令を回せ」


 連絡将校があたふたと出ていくのと同時に、通信魔導兵が声を張り上げる。

「大佐、前線の魔導士から返信!

 『正気ですか?』――以上!」

 彼は訴えるような目で大佐の顔を見上げる。


 念話で前線の魔導士の怒りが痛いほど伝わってきたからだ。

 しかし、大佐の答えはそっけない。

「大真面目だと伝えろ。

 ――さて諸君、スプリガンのお手並み拝見といこうじゃないか」


      *       *


 騎馬隊の若者たちは、はじめこそ混乱した。

 まさか自分たちの直訴が受け入れられるとは、正直思っていなかったからだ。

 しかし、なぜだか知らないが、あの厳しいことで知られるマグス大佐の許可がおりたのだ。

 武人として奮い立たぬわけがなかった。


 戦っている魔導兵たちの後方五十メートルまで接近して待機、合図がありしだい障壁魔法を解除するので突撃せよ。

 なお貴君らの行動は、中央部隊の全軍に通知済みであるから奮励努力せよ。

 それが彼らに下された命令だった。


 後方で距離を取り、待機している仲間たちの間に、興奮と共に地鳴りのような歓声が広がっていく。

 マグス大佐は嘘をつかなかった。

 全軍注視の中での突撃――これに勝る栄誉があるだろうか?


 どれくらい待ったのだろう、案外大して時間は経っていなかったのかもしれない。

 突然、前方で三重の防御陣を張ってスプリガンの侵攻を支えていた魔導士たちが左右に分かれた。

 同時に後方の指揮所で赤い旗が振られる。

 合図だ!


 二十騎の騎士たちは一斉に拍車を馬の腹に打ちつけ、尻に鞭をくれる。

 馬たちはその扱いに抗議するかのようないななきをあげ、地響きと土埃をあげて疾走を開始した。


 騎士たちは馬の負担を減らすため、革鎧を装着しているが、胸、胴、外腿など、重要な部分には金属プレートを追加している。

 それらと金属製の兜が陽の光を反射してキラキラと輝き、埃が舞い上がっても後方で応援する兵たちが見失うことがない。


 行く手を遮るものは何もない。ただ、ドワーフがたった一人、戦斧を構えて立ちはだかっているに過ぎない。

 相手は馬の腹にやっと届くかという短躯、しかも一人だ。


 騎士たちはきれいな二列縦隊をつくり、ドワーフを挟み込むように突進していく。

 敵の左右を駆け抜けざまに、槍で次々に串刺しにする。

 とても闘いとは呼べない、これは私刑リンチに等しい一方的な虐殺だった。


 ――そうだ、そのはずだった。

 しかし、轟音を立てて襲いかかった騎士たちは、彼らがドワーフだと思っていた敵の脇をすり抜けた次の瞬間、地面に叩きつけられていた。

 それはドワーフではなかった。幻獣スプリガンだったのだ。


 地面に激突した衝撃で目がくらむなか、どうにか身を起こした騎士たちは、すぐ目の前でもがいている愛馬の姿を見ることとなった。

 馬たちには脚がなかった。

 倒れた馬たちの脚は、みな膝の上あたりできれいに切断され、バタバタと動きながら鮮血を振りまいている。


 スプリガンはすれ違いざま、戦斧を振り回して突き出された槍をやすやすと弾き飛ばし、ついでに馬の脚を伐り飛ばしたのである。

 恐るべき膂力とスピードであった。


 脚を失った二十頭の馬は、スプリガンの周囲に扇状に広がって倒れ、うまい具合に落馬した騎士たちを受け止める肉の壁になっていた。


 スプリガンは、のんびりと鼻歌を謳いながら、手近で倒れている騎士を拾い上げた。

 そう、まるで落ちている布でも拾うように、片手で軽々と騎士を持ち上げたのだ。


 ぐいと、自分の顔のあたりまで騎士を引き上げると、スプリガンは「ふん」と鼻を鳴らし、手を放した。

 次の瞬間、戦斧が目にもとまらぬ速さで空気を切り裂き、兜をつけた騎士の首がポーンと五メートルほども跳ね上がった。


「ひとーつ!」

 スプリガンの胴間声が愉快そうに数を数える。


「ふたーつ!」

 別の騎士の首が再び宙に舞う。


「みーっつ!」

 空中で金属兜が陽光を反射してキラリと光る。


 落馬して気絶したままの者は別にして、どうにか動けるものは槍や剣を支えに慌てて立ち上がる。

 逃げようにも、周囲には巨大な軍馬の壁ができている。


 何人かは覚悟を決め、長剣を抜いてスプリガンに挑みかかった。

 しかし、結果はあまり変わらない。

 腕が剣を握ったまま、景気よく打ち上げられる。


「ろーく、しーち!」

 今度は二つの首が仲良く空を飛び、倒れた馬にぶつかってゴロゴロ転がっていく。


 結局、スプリガンが「二十」を数えるまで、十数分しかかからなかった。

 彼は満足そうに敵陣を見やる。

 いまいましい魔導士が開けた〝穴〟の先には、軍馬の蹄の跡、そしてはるか遠くに声もなく静まり返っている軍勢が見えた。


 スプリガンは「ふむ」と少し考えてから、腰に下げた革袋に片手を突っ込んだ。

 ジャラリと音がして、抜き取った手を開くと十個前後の石が掌の上にのっている。


 彼はその中から、赤い石を二、三粒選ぶと、残りは革袋に戻した。

 そして、何かぶつぶつと口を動かしながら、握った赤い石を遠くの軍勢目がけて投げつけた。


 スプリガンは石を軽く放り投げたように見えたが、尋常ではない膂力によって五十メートル先、マグス大佐たちの近くまで飛んでいった。


 赤い石が地面にぽとりと落ちると、突然そこに火柱が四、五メートルの高さに噴き出した。

 そしてそのまま連続して火柱が噴き上がり、炎の壁となって、まっすぐ距離を取っている軍勢へと向かっていく。


 誰も、何もできない速さで炎の壁は延びる。

 そして瞬く間に密集する兵士の塊りに到達し、そこで力尽きたように消滅した。


 帝国の兵士、数名が火傷を負い、驚いて棒立ちになった馬から落馬した兵士が一名骨折した。

 それだけの被害で済んだのは、天佑と言うしかない。


 慌てたのは前線の魔導士たちである。

 彼らは即座に穴をふさぎ、再びスプリガンを抑え込みにかかった。

 一方、マグス大佐のいる本陣も騒然となった。


 指揮官のすぐ近くで敵の攻撃が発現したのだ。護衛の将兵たちは真っ青になって、マグス大佐に後退の進言を行った。

 しかし、大佐は彼らの慌てぶりを一切無視して、どかりと椅子に座った。


「キリング大佐はおられるか?」

 奥の方で作戦図を前に若い将校と打ち合わせをしていた男が顔を上げた。

 キリング大佐は魔導士以外の一般兵を指揮する立場にあった。

 彼は将校に早口で何かの指示を与えると、小走りにマグス大佐の前で気を付けの姿勢をとる。


 階級は同じ大佐でも、魔導大佐と一般の大佐とでは大きな差がある。

 ましてやマグス大佐は全軍の指揮官だ。


 しかし、マグス大佐の言葉遣いには、年齢も軍歴も上の苦労人であるキリング大佐に一定の配慮を見せている。

「取り込み中申し訳ない。

 さっきの馬鹿者――いや、さっきの若者のことだが、帰ったら全将兵に徹底してほしい。

 国家召喚士レベルの幻獣に、人間が敵うことなどありえないと。


 ――奴らに唯一対抗できる者がいるとしたら、それは魔導士だ。

 一般兵には彼らにしかできない役割がある。

 幻獣相手に騎兵突撃だと?

 魔導兵が命懸けで守った命を何だと思っているのだ!

 カビの生えたおとぎ話のようなことを夢見たいのなら、今すぐ軍を辞めて吟遊詩人にでもなるがいい!」


 話しているうちに思わず激高してしまったことを、マグス大佐は素直に詫びた。

「いや、すまん。

 貴官の部下を承知の上で殺したことは謝罪する。

 だが、あの圧倒的な力の差、人の力ではどうにもならない現実を兵たちに理解させるためには、必要な犠牲だったと私は信じている。

 どうか、そのことを兵たちによくよく叩き込んでほしい。

 彼らが一人でも多く、無事に帰還するためなのだ」


 キリング大佐は節度を心得た礼を返す。

「承知いたしました。こちらこそ、部下の軽挙妄動をお詫びいたします。

 本来ならば重営倉行きのところです。

 多くの兵の戒めになったのですから、彼らも本望でしょう」


 マグス大佐は席に戻ると、手すきの将校にコーヒーを所望した。

「あの炎の壁、君はどう思うかね?」

 すぐに届けられたカップから熱いコーヒーをすすり、大佐は傍らに立つ副官に訊ねる。

「魔法とは違うように思います」


「――だな。

 スプリガンは直前に何かを投げたようだった。

 ……恐らくは〝魔石〟だろうな。

 やっかいだな。あんなもんばら撒かれたら、奴一人に兵が全滅させられるぞ。

 障壁魔法は有効なようだが、魔導士どもの消耗が激し過ぎる。

 こちらもそろそろ動かねばならんな……」


 マグス大佐は飲みかけのカップをテーブルに置くと立ち上がった。

「王国の奴らに爆裂魔法を馳走してやる!

 準備を急げ!」


      *       *


 マグス大佐の爆裂魔法は、とてつもない破壊力をもった魔法だが、欠点がないわけではない。


 一定の距離をとらないと、味方にも被害が及ぶため使用できないこと。

 一度発動させると、魔力の回復まで一日近くの間隔を要すること。

 呪文の詠唱が長く複雑なため、発動までに十数分かかること。

 ――などである。


 爆裂魔法は例外的な長射程をもっているため、両軍の布陣を見る限り大佐は自由に攻撃地点を選ぶことができる。

 常識的には指揮官である黒蛇帝を狙うべきなのだろうが、彼を守護するウエマクがそれを許すとは思えない。


 そして、前線の戦況を見ると、どうにか膠着状態に持ち込んでいる中央、左翼に比べ、右翼が押されて旗色が悪い。


 うまい具合に右翼に対している敵は、あのオーク女とオオカミ魔導士がいる部隊だ。

 立派な理由が揃い過ぎているではないか。

 マグス大佐はほくそ笑んだ。


 すでに前線の魔導士たちが一時的に開いた穴は再び閉じられ、魔導士たちが張り巡らす三重の障壁でスプリガンの前進をはばんでいる。

 やるなら今だ。

 大佐は両足を肩幅に開いて立ち、両掌を突き出して目を瞑る。


 ぶつぶつと低い呪文の声が響き、大佐の掌の前に早くも魔法陣が燐光を放ちながらぼおっと浮き出てくる。


 彼女の周囲には副官や高位の弟子たちが待機し、どこから攻撃が来ても即応できるよう準備を怠らない。

 魔導士にとって、呪文の詠唱中こそが最も無防備な瞬間であり、それは〝爆炎の魔女〟であっても変わりない。


 大佐のつぶやく呪文はどんどん高速になっていく。

 周囲にいる彼女の弟子たちには、呪文を構成する神聖語の内容が全く理解できない。それほど複雑な呪文なのだ。


 大佐はトランス状態に陥っていた。

 意識は呪文の詠唱と魔力の凝縮にのみ集中している。


 身体が熱くなり、肉体は性的興奮すら感じていたが、彼女はそれを全く知覚できない。

 術を放った後、内腿がぬるぬるし、下着が汚れていることでそれを知るのがいつものことだった。


 覚えていないのは〝もったいない〟気がしないでもない。

 そのせいか、爆裂魔法を放った日の夜は妙に身体が火照り、大佐の寝所に若い兵士が呼ばれるのが常であった。


 事情を知らない若者は〝役得〟だと喜ぶのだが、実際には縛られて身体の自由を奪われた上、嗜虐しぎゃく趣味の大佐が満足するまで暴力的に犯され続けることになる。


 一度呼ばれた者は口止めされ、その役目が二度と回ってくることがない。

 かくして新兵にお呼びがかかるたび、先輩たちはニヤニヤしながら哀れな犠牲者を見送ることになる。


 大佐の前には、すでに四重目の魔法陣が出現していた。

 呪文の詠唱は、もう七、八分も続いている。

 あと三つの魔法陣が出現すれば、爆裂魔法の準備が整う。


 距離を取ったと安心している王国兵およそ三千が、ばらばらの破片になって吹き飛ぶのは時間の問題となっていた。


      *       *


「ミノタウロスが押しているようだな。さすがはアリストア様の幻獣だ」

 望遠鏡をはずしたアスカが感嘆の声を上げる。


「そいつはちょっと、まずいですね~」

 やはり望遠鏡で敵陣を覗いているマリウスが呑気な声を上げる。

「何がまずいのだ?」

 アスカが不審そうに訊く。


「いや、そろそろデカいのが来そうだってことです。

 ミノタウロスが突破したら、それどころじゃなくなりますから、今頃マグス大佐は爆裂魔法の準備に……ああ、やってるやってる!」


 嬉しそうな声を上げるマリウスに、アスカはちょっとむっとする。

「そなた、敵の本陣が見えるのか?

 私には豆粒ほどで、何をしているかなんて見当もつかないが――」


「いや、間違いないっすよ。

 ちらっとですけど、虹色の光が見えました。

 七色の魔法陣が完成すれば、次はドカーン! って来ますからね。

 今は四色目くらいかな?

 そろそろこっちも準備に入らないと……」


 口調がどうだろうと、アスカはそれが真実かつ緊急であることを直感的に理解する。そうでなければ指揮官など務まらない。

 振り返って控えている伝令兵たちに大声で命じる。


「全軍に伝達!

 騎馬隊は馬を降り、くつわを押さえろ!

 外周の歩兵たちは決してオオカミたちの外に出るな!

 姿勢を低く、耳を塞ぎ、目を閉じていろ!」


「ユニ、リリ殿! 手筈どおり頼む」

 二人がうなずくと、ユニの傍らにいたライガが飛び出していく。

 密集した兵の隙間を器用に縫って、軍の先頭へと駆けていく。


 あちこちで驚いた馬がいなないたり、棒立ちになったりするのを、下馬していた騎士たちが必死に手綱を取って抑えていた。


「マリウス、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 聞いてどうなるものでもないが、ユニは不安で尋ねずにはいられない。

 しかし、当のマリウスはすでに呪文の詠唱に入っていて、ユニの言葉が耳に入っていないようだった。


      *       *


 帝国軍の本陣では緊張が高まっていた。

 マグス大佐の前に、七重目の魔法陣が現れたからだ。


 すでに呪文の詠唱から十数分が経過している。

 大佐の顔は紅潮し、長い赤毛が静電気を帯びたようにぶわっと広がっていた。

 最後の魔法陣が紫色の燐光を放ちながら、次第に明瞭になっていく。


 そしてその時が来た。

 大佐は目を開き、小さくつぶやいた。

「――バモス」


      *       *


 最初に異変を感じたのは、やはり馬たちだった。

 目隠しをされ、手綱を短く抑えらているにも関わらず、彼らは前脚を上げて立ち上がろうとしたり、興奮したいななきを上げた。

 騒ぎは長くは続かなかった。


 突然、足元がぐらりと揺れたかと思うと、轟音と共に地中から大量の土砂と岩石を巻き上げ、巨大な火柱が立ちのぼった。


 まさに〝爆炎〟としか表現のしようのない、巨大な炎と黒煙の塊りが、際限なく出現し、ぼこぼこと膨張しては弾け飛ぶ。


 炎と煙そして土砂と埃は、第四軍の増援部隊、三千人の騎馬と歩兵を丸ごと包み込み、敵味方両軍の視界を奪い去った。

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