第51話 問題山積み!?

 ホワイトアウト、ブラックアウト、どっちでも構いはしないが止まった思考よ動けと唱え、すぐにフィーネアとゆかりに事情を聞く。


「一体どういうことだよ!? なんであの5人が異端者扱いされるんだよ!」


 フィーネアとゆかりは息を整えて互いに顔を見合わせ頷くと、重たい口をそっと開いた。


「実は……」


 二人はカフェを飛び出した後、5人が行きそうな店を片っ端から回ったという。

 その時、妙な噂を聞いたのだ。


 5人組の女の子が街の中央で張り付けの刑に処されていたダークエルフの女の子を見て『可哀想……』と声を上げ、そのダークエルフを縛っていた縄を解き逃がしたのだとか。


 そのことを一部始終見ていた街の者が教会に密告して、5人はショッピングをしている最中に教会の者に連行されていったのだという。


「話しはわかったが……それがあの5人だって決まったわけじゃないだろ?」

「それが……」


 俺の問いかけにゆかりは唇を噛み締めて俯いてしまった。

 その様子を見てフィーネアが代わりに話し始めた。


「その5人が捕まった辺りにこれが落ちていたんです」


 フィーネアは可愛らしい花の髪飾りを俺に差し出した。

 それを見た瞬間、俺は表情を曇らせてしまう。


 その髪飾りには俺も見覚えがあった。

 5人の内の1人が身に付けていた物で間違いない。


「…………っ」


 クソッ! なんでこう次から次に問題が発生するんだよ!

 俺がイライラして頭を掻き毟っていると、


「ところで……明智の姿が見当たらないようですが、一緒ではなかったのですか、ユーリ?」

「あっ。すっかりゴキ男の存在を忘れていたわ」


 フィーネアは辺を見渡して明智が居ないことに気が付くと、ゆかりはあまり関心がなさそうに『ああ~』と頷いた。


 俺は先ほど目の前で起きた出来事を丁寧に2人に話した。


「嘘でしょ……」

「困りましたね……」

「ああ。前代未聞なくらい困り果ててるよ」


 黙って聞いていたゆかりは呆れ果てたように口にして、フィーネアは眉をハの字にして『う~ん』と唸ってしまった。

 俺も二人と同様だ。


 あの状況で明智が自分は無実だと言ったところで誰が信じると言うのだろう?

 防犯カメラでもない限り明智の無実を証明することは困難だと思われる。


 それに……5人が異端者として捕らえられたという教会ってのがどんな組織なのかいまいちわからん。

 俺の知っている元居た世界の教会といえば、ただ懺悔したり祈りを捧げたりするくらいだ。


 だが、昼間見たあの異常な光景。

 1人の女性に寄って集って石を投げつけるあれは……狂っている。


 彼女が一体何をしたのかわからないから一概に同情するのもどうかと思うが、それでもあれは見ていて気持ちのいいものだとは言えない。


 殺人鬼の汚名を着せられた明智と、異端者となって教会に捕まった5人を救出しなければいけないのだが……。

 かなりハードルが高いんじゃないのか……。


 俺はこれまでに自分で言うのもなんだが、難関を乗り越えてきたと思っている。


 ダンジョンでの蜘蛛おっさん退治に豚の王様討伐、さらに前回の女郎街の壊滅――しかしこれらは飽くまで個人対個人だったと思う。


 だが、明智が捕まったのは憲兵で、5人が捕まったのは得体の知れない教会だ。


 仮に明智を脱獄させるとしたら……俺たちは完全にお尋ね者になってしまう。

 百歩譲って俺や明智がお尋ね者になるのはいいとする。


 だけど、ゆかりやフィーネアまでもそうなったら……。

 それに教会から5人を救い出すのも同様だ。


 それは早い話が教会やこの国と敵対する謂わばテロリストになると言うことなのだから。

 一歩間違えたら俺たちはこの世界の人間全てを敵に回してしまうことになる。


 あまりにも危険すぎる。

 元の世界に還る方法を探すとかそんな呑気なことを言っていられなくなってしまう。


 でも……このまま明智や5人を見捨てる訳にもいかない。

 明智はアホだったというだけで、5人は優しかったというだけで、酷い目に遭ってしまうかもしれないんだ。


 考えろ、明智と5人を助けるためにはどうすればいい?

 俺に何ができる?

 持っているカードを全て出すんだ!


 俺は瞼を閉じて考える。

 瞼の裏側に浮かぶのは果てなく続く闇のような宇宙、そこに希望の星なんて輝いちゃいない。

 ましてやすべてを照らす太陽なんてものもない。


 それでも諦めて立ち止まるわけにはいかないんだ。

 絶望の闇を泳いででも可能性を探さなければいけない。

 そう、俺が考えることを止めてしまう訳にはいかないんだよ。


 暗闇の中、立ち止まりそうになる俺の右手をギュッと誰かが握り締める。

 続けて左手にも同じ感触が伝わってくる。


 俺は目を開けて左右を見る。

 右にはフィーネア、左にはゆかりが力強く俺の手を握り締めている。

 力強く頷く2人に俺も頷き返して、もう一度闇へと思考を潜らせた。


 すると、聞こえてくる陽気な声音。


『何かあったらいつでも連絡してこいや。お前は俺の命の恩人やからな』


 瓜生!?

 そうだよ、あいつは紛いなりにも勇者なんだ。


 瓜生なら俺の時のように勇者パワーってやつで明智を無罪放免にできるんじゃないのか?

 それに、ひょっとしたら教会ともコネがあったりするのかもしれんな。


「2人共! 一度ダンジョンに戻るぞ!」

「ゆう君……?」

「ユーリ!」


 カッと目を見開いた俺にゆかりは不安げに首を傾げて、フィーネアは俺が何か思いついたのだと少し口の端を吊り上げた。


 出来るだけすぐに瓜生と連絡を取りたかった俺は駆け出して、走りながら2人に考えを伝える。


「じゃあ瓜生先輩が勇者の1人で……ゆう君に協力してくれるの?」


 瓜生禅は俺たちの一つ上の学年だが、やはりあの男は有名なのかゆかりも知っているようだ。


 俺はこれまでに瓜生を助けたことや、共に元の世界に還る方法を探している同志だということをゆかりに伝えると、曇っていたその表情が一瞬でパッと明るくなった。


「勇者の先輩が見方に付いてるなんてゆう君すごいわ! これならあの子たち5人も……ついでにゴキ男もなんとかなりそうね」

「ああ。今回は楽勝だな!」


 つっても、瓜生たちは紛い者の勇者なんだけどな。

 ま、そんなことをわざわざ教える必要はねぇーな。


「良かったですねユーリ」

「うん!」


 フィーネアも一安心といった感じで声を弾ませている。



 俺はダンジョンに戻り、急いで瓜生から貰っていたマジックアイテム通信コンパクトミラーで瓜生と連絡を取った。

 そして直ぐに状況を瓜生に説明したのだが……。


『そりゃーかなり参ったな』

「参ったってなんだよ」


 コンパクトミラーに映った瓜生はポリポリと頭を掻いている。

 その表情はどこか険しい。


「おい! 黙ってねぇーでなんとか言ってくれよ」

『あんなぁ、月影。いくらなんでもお前の時とは状況が違いすぎるわ』

「何が違うんだよ。あの時みたいに勇者パワーでなんとかしてくれよ」

『ええか月影。あの時のお前は敵を倒したにも関わらず、意味不明に捕まったんや。けどな、明智の話しを聞いたら……無実の罪かもしれんけど、確かな証拠がないんや。いくら俺でも何の罪のない娼婦を殺害した容疑をかけられてる明智を救うのは不可能やで」

「はぁ?」


 確かに瓜生の言っていることは正しいかもしれねぇーけどよ……明智は無実なんだぞ。

 せめて王様に口添えするとかしてくれてもいいじゃねぇーかよ。


『それと……教会の方も……どうしようもできひんわ』

「できひんわってどう言うことだよっ! お前ちっとも助けてくれねぇーじゃねぇーかっ!!」


 俺はあまりに役たたずな瓜生に……コンパクトミラー越しに怒鳴り声を響かせた。


『ちょっと落ち着けや月影。お前教会についてどこまで知ってんねん?』

「どこまでもクソも知らねぇーよ!」


 瓜生は嘆息して、教会のことと現在の自分たちの状況について話し始めた。


『実はな、この世界には大まかに七つの大国が存在して、わかりやすく言えば……そやな、ホールケーキを7等分にしたのを頭に思い浮かべてくれや。それが七つの大国やねんけど――その真ん中にパイナップルのように穴が空いてて、それが教会や」


 瓜生曰く、七つの大国はそれぞれほぼ同時に勇者召喚の義を行い召喚に成功した。

 だが、世界の中心であり七大国の頂点に君臨するのが教会であり、その教会がこの国に疑念を唱えた。


 それが勇者3人の同時召喚だ。

 教会の旧約聖書には一つの大国に一人の勇者と明確に記載されており、この国が3人の勇者を召喚したことに異議を唱えた。


 国王もあのいけ好かない大臣も必死に抗議してるらしいのだが、もしも瓜生たち3人の勇者が偽りの勇者であると教会側が判断したら、この国は本格的にまずい状況になる。


 と言うのも瓜生の話しだと、教会側はこの世界において絶対的な権力を有しているという。

 それこそ貿易のことや商会のことなど様々。


 この国の国王や大臣は教会側の教えを破り、自国が優位に立つために、また力を有するためにあらぬ方法で3人の偽りの勇者を召喚したことになる。


 それが教会側にバレてしまえばこの国はおそらく破滅へと向かうだろう。

 そしてそれは自らを勇者と名乗った瓜生たち3人の勇者も同罪となりかねないらしい。


 瓜生はなんとしても自分が勇者であることを証明しなければならない。

 その為に魔王の行方を追っている。

 しかし、同時に王様は俺のことを逆恨みしているという。


「ちょっと待て! 俺を恨んでいるってのはどう言うことだ!?」

『お前がソフィアとか言う街で騒ぎ起こしたやろ? あれな……教会側にも筒抜けらしいねん。そんでな……めっちゃ言いにくいねんけど……』


 瓜生は今まで以上に渋い顔をして言った。


『お前が異端者やないかって教会側に国王が問われたらしくてな、異端者である者を無罪にして逃がしたことも教会側から責められてるらしいねん。要は……教会側は勇者の件は一旦保留にして、まずはお前の身柄の引渡しを要求してるらしいわ』

「はぁ……!?」

『あっ! それと気をつけろよ月影。なんか知らんけど国王がお前を捕らえるために刺客を送ったらしいで』


 なんだよそれ……。

 明智や5人の心配をしているどころじゃないじゃないか!


『とにかく……俺も俺でなんとか踏ん張ってみるから、お前もお前で気張れや月影! じゃ、何かあったらまた連絡するわ』

「おいまっ……」


 切りやがった……。

 どうすんだよこれから!?



 明智のことと5人のこと……さらに俺自身のこと……問題が増えてんじゃねぇーかよ!?

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