第34話 貧乏神
グルメの口から飛び出したヴァッサーゴと言う名前に、俺は動揺して顔を引きつらせてしまった。
咄嗟にフィーネアへと顔を向けると、俺同様目を見開いてグルメを見据えている。
グルメはそんな俺とフィーネアの些細な仕草を見落とすことはなく。
「知っておるのじゃな?」
「……ああ」
強い口調で問うてきたグルメに、俺は観念したようにこうべを垂れた。
すると、グルメは深く嘆息して眼前の巨峰に似た果実を手で取り、口に投げ込んだ。
「遊理じゃったな? お主ヴァッサーゴとどこで会ったのじゃ?」
「…………」
まさか固有スキルでいつでも会えますなんて言えないよな……それにヴァッサーゴの奴は水晶玉でこれを観てるんじゃないか?
答えられずに俯いていると、グルメが言う。
「これは儂からの忠告じゃ遊理。悪いことは言わんからヴァッサーゴとは縁を切ることじゃな」
縁を切れと言われても……ミスフォーチュンを発動させたらいるんだからどうしようもない。
「一つ教えておくとじゃな、あやつは貧乏神と呼ばれる存在じゃ」
「びっ、びびび、貧乏神っ!!」
「まず間違いなく、お主は貧乏神に取り憑かれておる。結果、お主は貧乏神の呪いを受け、災いという名の不幸が降り注がれているという訳じゃな。だからステータスオールFと言う不幸に見舞われたんじゃ」
「…………」
開いた口が塞がらないとはこのことか。
他人の不幸を集めて便利道具を購入していたはずが、一番不幸にされていたのは他ならぬ俺自身だったという訳だ。
笑えねぇー……。
しかしだっ!
ヴァッサーゴが貧乏神ならどうやって追い払えばいいんだ?
仮にも相手は神様なんだろ?
人間に……オールFの俺に退治なんてできるのか?
俺がゆっくりと縋るような眼差しでグルメを見つめると、グルメは一人納得したように頷いている。
「貧乏神に取り憑かれているのならすべて納得じゃな」
「ええ、ええ。その通りです、姫殿下」
バーバラは相槌を打ちグルメの言葉に同意しているが、何が納得なんだよ!
「ちょっとっ! 俺にもわかるように言ってくれないか?」
「早い話が、お主をダンジョンマスターにしたのは貧乏神という訳じゃ」
「なんであいつがそんなことするんだよ!」
「あやつは他人を不幸にするのが大好きなんじゃ。お主がダンジョンマスターになればお主が困るじゃろ? 人間がダンジョンマスターだと言うことが人間に知られればお主はどうなる? それにバレずともこうして審査会に呼ばれ危うく処刑されかけたんじゃ」
処刑……。
やっぱりあれはとんでもなく不味い展開だったのか。
今になって一気に嫌な汗が吹き出してきやがった。
「バーバラがその娘のことに気付かんかったら、今頃お主はどうなっていたかじゃ」
ババアに感謝だな。
「それと……非常に言い難いことなんじゃがな」
「なんだよまだ何かあんのかよっ!」
「数ヶ月前に人間たちが勇者召喚の義を執り行ったと情報があるのじゃが、その際、お主を含めた関係のない者が多く召喚されたじゃろ?」
「ああ」
「あれもお主が貧乏神に取り憑かれていたせいじゃな」
「「…………ええええええええええええええええええええええええっ!?」」
俺は思わずテーブルに掌を叩きつけて立ち上がったのだが、それは俺だけじゃない。
ずっと黙って股間を押さえていた明智も同様に叫び、立ち上がっては俺を睨んでいる。
明智と目が合うと、俺は乾いた笑いを響かせた。
「ユーリ殿っ!! 責任を取るでござる! それがしがこんな訳のわからない世界に来たのはユーリ殿のせいではござらんかっ! いや、それがしだけではござらんっ! 今日までに死んでいった者はすべてユーリ殿の巻き添えをくっただけではござらんかっ!!」
「ちょっ、ちょっと待て! 大事なことを忘れるな明智っ! 俺も貧乏神による被害者なんだよ! 誰も好き好んで貧乏神に取り憑かれた訳じゃない。つまり……そうっ! 悪いのはすべて貧乏神の奴だ! けしからん奴だなまったく。今度会ったら鉄拳制裁しといてやる。ははは……」
ダメだ。明智の奴は唸るブルドックのように眼球をひん剥いて汚い顔を近付けてきやがる。
《MFポイント 1000獲得》
ははは……こんな時にまたMFポイントか……。
それにしても一回で獲得したポイントが1000とは、大幅に最高獲得ポイント更新だな。ははは、は。
おそらく明智を絶望させたのが大きかったのだろう。
でも待てよ。
俺をこの世界に召喚したのがヴァッサーゴのクソ野郎だったのなら……あいつは元の世界に還る方法を知っているんじゃないのか?
「落ち着け明智! ちゃんと責任とって俺がお前を元の世界に返してやるから、このことは絶対に誰にも言うなよ。いいな!」
「なにが誰にも言うなでござるかっ! この人でなし!!」
なっ、俺だって被害者なのに、明智の野郎は俺だけのせいだと言い張っていやがる。
頭にきた俺は明智の胸ぐらを掴んでやった。
「この野郎っ! 俺だって好きで来たんじゃないって言ってんだろ! 貧乏神に取り憑かれたなんてわかる訳ないだろ!!」
「逆ギレでござるか!? 本当に最低でござるな!」
明智も俺の胸ぐらを掴み取り、飽くまで俺のせいだと言っていやがる。
「ユーリから手を話しなさい! 灰にしますよ!」
「フィッ、フィーネア殿っ!」
俺の胸元を掴み取った明智を見て、フィーネアが立ち上がり一睨している。
明智はそんな激情するフィーネアを見やり手を離し、ドスンッと椅子に座りそっぽを向いた。
俺もフィーネアに大丈夫だと手を上げて椅子に座り、考えた。
ま、明智が怒るのも無理のないことなんだけど、だからと言って俺に止められたのかと言えば、そんなの無理だ。
せめてもの償いは明智たち生き残った連中を無事に元の世界に連れ還ることくらいだろう。
「ところで、お主らの世界には人間は大勢いるのか?」
ん? グルメの奴が妙なことを聞いてきているが、なんだこの変な質問は。
俺は小首を傾げるグルメの碧眼を真っ直ぐに見つめて頷いた。
「ああ、多分70億以上はいるんじゃないか?」
「70億!?」
びっ、びっくりした。
グルメは前のめりになって驚嘆している。
「70億も居れば魂を集め放題じゃの。よし、儂もお主が元の世界に還る為に手を貸してやろう」
この野郎はとんでもなく物騒なことを考えてるんじゃないだろうな。
元の世界で人殺しなんて死んでもゴメンだぞ。
それに元の世界に還る手立てならもう見つかった。
ヴァッサーゴのクソ野郎をとっちめれば済む話なんだからな。
ま、ここは適当に流しておくか。
「それは非常に助かるよ。良かったな明智。魔王が俺たちに協力してくれるって言ってんだ、嬉しいだろ?」
「……ふんっ」
明智はすっかり俺を犯罪者のような目で見やがる。
ま、元の世界に還ったら機嫌も治るだろう。
それより還る方法がわかってホッとしたら腹が減ってきたな。
これだけ沢山豪華な食事があるんだから、俺も一つ頂こうとしようかな。
テーブル一面に並べられた食事に手を伸ばした瞬間――スパッと俺の手元にフォークが飛んできて大理石のテーブルにそれが突き刺さった。
「えっ……!?」
「儂の食事に手を出そうとするとは、卑しい奴じゃの」
なんだよっ! これ全部一人で食うきかよ!
どんだけ意地汚い奴なんだ。
と、思ったが、相手は暴食だった。
「とは言え、色々とお主とは話すこともありそうじゃ。今日は神殿内の客間に泊まっていくとよい。そこに食事も用意させよう」
「そりゃどうも」
それから俺は不機嫌な明智を横目に、グルメと色々話し合った。
そして話しが終わるとバーバラに客室へと案内してもらい、ふかふかのベッドに腰掛けてフィーネアの顔を見やる。
フィーネアも俺の考えがわかるのか、いつになく真剣な表情で頷いた。
「それじゃ行くとするか。他人の不幸は蜜の味、発動!」
灰色の世界で俺とフィーネアはスポッと幽体離脱して、あの忌まわしい扉を睨みつけた。
「ヴァッサーゴのクソ野郎をとっちめてやる!」
「ユーリを困らせる者はフィーネアが許しません!」
俺とフィーネアはヴァッサーゴこと貧乏神と直接対決すべく、今ミスフォーチュンへと殴り込みをかける。
あのクソ野郎を一発と言わず何万発と殴り倒してやるぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。