第28話 旅立ち
オークの王様を討伐してから一週間が経過した。
俺は現在ダンジョン自室のマスタールームでフィーネアの淹れてくれたお茶を啜っている。
「ユーリ、美味しいですか?」
「ああ、すごく美味しいよ。やっぱりフィーネアの淹れてくれるお茶が一番だな」
茶を飲みながらホッと一息つき、俺はこの一週間を振り返る。
瓜生の仲間で未来予知者の光明院円香が見たと言う最悪な未来を防ぐことに成功した俺は、無事に勇者パワーとやらで無罪放免となったのだが。
俺の悪評は王都で轟いている。
なんでもオークとの戦闘で亡くなった者は1200人ほどになるらしいのだが、その内300人は巨大な落とし穴に嵌って転落死したのだとか……。
もちのろんで真っ先に俺が疑われた。
疑われたというか……やったのは俺なのだが……。
あれは『不幸』という名の事故だった。
ま、とにかく脱獄時の穴と今回の落とし穴はどう考えても俺の仕業だろうということらしい。
そのせいで俺には多額の賠償金などが国から請求された。
死んだ者たちの遺族に支払う賠償金は小額だったのだが、脱獄時に開けてしまった穴を埋めるのには相当金がかかるらしい。
その額、実に金貨一万枚。
はっきり言って払えるわけがないし。
払うつもりもない。
というかこれはどう考えても俺を陥れたい王様たちの嫌がらせだ。
……と、言うのも。
この世界ではステータスは絶対らしく、俺のようなオールFの最弱が勇者を救い街を守ったと言うことが世間に知れ渡っては、世界の秩序が乱れてしまうとかなんとか。
そんなことで借金まみれになってたまるかっ!
なので踏み倒してやるつもりだ!
どうせ元の世界に還ったら関係ないことだしな。
瓜生のボケはオークの王様……確か正式名はオークロードって言ったっけな?
ま、要はあの豚の王様をぶっ倒した功績が認められ、勇者の中で一番の実力者だともてはやされている。
……とても理不尽な話だ。
だけど、そのことを妬まれたのか神代と千金楽が瓜生にジェラシー全開らしく、勇者同士の仲は一層険悪になっとか……。
なんでも瓜生の待遇は二人の勇者よりいいらしく、本来勇者は側室を10人までしか持てないらしいのだが、今回の功績を認められた勇者瓜生には側室を15人に増やす権利を与えられた。
正直羨ましい。
だが瓜生の話だと側室には指一本触れていないとのこと……怪しい。
……が、そこはあいつを信じるしかない。
そんな瓜生に俺も頼み事をした。
真夜ちゃんのことだ。
真夜ちゃんはこの世界で兵士としては生きていけないだろう。
フィーネアや明智の話だとオーク討伐時もあまり役に立つことはなかったという。
そんな真夜ちゃんがこの世界で安全に生きていくためには、俺の近くに居るよりも勇者瓜生の側に居た方が安全なのだ。
なので、少し寂しいが俺は真夜ちゃんのことを瓜生に任せることにした。
当初、瓜生は真夜ちゃんを側室にすることをかなり躊躇っていた。
理由は神代にあるらしく。
神代の野郎は真夜ちゃんに物凄く執着しているという。
所謂ストーカーってやつだな。危なすぎる。
しかし、俺に恩を返したいらしく、真夜ちゃんの面倒を見てくれると約束してくれた。
もちろん。指一本触れるなと念を押しておいた。
あっ! そうそう、豚の王様に殺されそうになったとき、プリンちゃんに大量の進化玉を食べさせて妖精王に進化させてしまったのだが。
プリンちゃんはあれ以来昏睡状態だ。
いきなりあんなに食べさせたのが不味かったのだろうか?
少し心配だが、目覚めるのを待つしかない。
オーガ三人衆も無事だったし、ダンジョンに開けた穴も修復が完了した。
ちなみにダンジョンレベルは28にまで上がっている。
大量のオークとその王様を倒したのがデカかったみたいだな。
ダンジョンランキングとか言う訳のわからないランキングも689位とビックリするくらい跳ね上がっていた。
これで俺が一年後に意味不明に死ぬこともなくなっただろう。
「茶ばかりもなんだし、なんか甘いお菓子が食べたいな~」
ソファに腰掛けながらフィーネアにお菓子をねだると、ニコニコと微笑みながら、
「はい、直ぐにご用意いたしますね。固有スキルメイドの極意発動」
どこからともなく大きなテーブルクロスをサッと取り出しテーブルに敷くと、あら不思議。
食べたいものが瞬時に目の前に現れる。
そう、これこそがフィーネアの固有スキル【メイドの極意】なのだ。
なんでも一瞬で食事を用意してしまう優れ物だ。
フィーネアさえいてくれれば俺が飢えて死ぬことはないだろう。
俺が目の前のショートケーキを頬張りながら、これからのことを考えていると。
「ユーリ殿っ! 瓜生殿から聞いたでござるよ!」
明智の奴が許可なく転移の指輪でマスタールームに押しかけてきやがった。
明智は来るや否やブサイクな面を俺に押し付けるように近付けてくる。
「なっ、なんだよ!? つーかちけぇーよ」
「ユーリ殿は元の世界に還る手段を見つけるべく旅立つと言うではござらんかっ! なんと水臭いっ! それがしも連れて行って欲しいでござるよ!!」
鼻息荒く唾を辺り構わず撒き散らす明智の胸を両手で押し返し、言う。
「連れて行って欲しいってお前は王国兵だろ? 仕事があるんだろ?」
「あんなところでこれ以上働きたくないでござるよ。あそこに居れば何れそれがし殺されるでござるよ! 給料は安い癖に化物と戦わせるは、挙句の果てに上司に変態マッチョゲイが居るでござるっ!! 昨夜も……あああああああ、思い出しただけで死にたくなるでござるよっ!!!」
こいつ……あれからずっとあの特殊部隊のスキンヘッドオヤジと関係が続いていたのか……悍ましい。
明智は泣きそうな顔で神にも縋るように訴えかけてきている。
「そんなこと言ったって……辞めれないんだろ? 王国兵?」
「脱走兵になるでござるよっ! それがしの決意は変わらんでござるっ!!」
余程……ケツの穴が大変なんだろうな……。
「ま、好きにすれば……。ただし、俺に迷惑はかけるなよ」
「もちろんでござる。それよりいい物を食べてるでござるな。それがしもいいでござるか?」
まっ、そんなこんなで俺はこの世界を愉快な仲間たちと旅することになったのだ。
この先にどんな過酷な運命が待ち受けていたとしても、きっと大丈夫。
俺にはフィーネアや心強いダンジョンの仲間が沢山いるんだ。
何れはフィーネアと出来なかった夏のアバンチュールもしてやるつもりだ。
あっ、ちなみにちなみに。フィーネアと俺の絆。
リヤンポイントは55%にまでなっていた。
フィーネアが如何に俺を信頼しているかわかるだろ?
俺の童貞卒業も近そうだ。
◆
明かりが消えたミスフォーチュン――ヴァッサーゴが水晶玉をじっと見つめている。
「これからも沢山不幸を集めてくださいよ……お客様」
暗闇の中、不敵に笑うヴァッサーゴ。
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