第26話 頼れる仲間

「全然見つかんねぇー。あのボケどこにいんだよ? まさかもう死んでるとかじゃないよな?」


 俺は相変わらず穴の中を移動し続けた。

 もう既に軽く1時間くらいは穴の中を彷徨っている。


「いい加減発見できても良さそうなもんなのに」


 俺は穴を掘り移動して探知する。

 すると、うじゃうじゃと化物の大軍勢が円形状に集まっている場所を探知した。


「なんだ? なんでオーク達がこんなに一箇所に集まっているんだ?」


 俺は集中的にその辺を探知すると、見つけた。

 化物たちが取り囲むリングのような場所で瓜生と小さなオークが戦っている。


 しかし、瓜生を探知すると同時に俺は青ざめた。

 化物たちが取り囲む中央付近で、瓜生は苦しそうに片膝を突いているのだ。


 青白く染まった顔は屍人のようで、夥しいほどの血が流れている。

 しかも、瓜生の左腕が肘の辺から失くなっているのだ。


 対するオークの王様らしきチビも体中から血が噴出しているものの、明らかに瓜生の方が重傷なのは一目瞭然。

 オークの王様は余裕の笑みで瓜生の左手をフライドチキンのようにむしゃむしゃと頬張っている。


 不味いっ!

 瓜生のボケが死にかけてるじゃないかよっ!!


 俺は探知スキルを使用したまま瓜生のもとまで走り込んでその勢いのまま飛び跳ね天井にハイタッチ!


「間に合ってくれよ」


 5秒後――穴が開通すると間一髪のところで血まみれの瓜生が降ってきた。

 俺ははれものを扱うように優しく瓜生を受け止める。


 ずっしりと感じる命の重み。

 瓜生はかなりの深手を負っているようだが生きている。

 俺は腕の中の瓜生に力強く声をかけた。


「遅れてすまんっ! 探すのに手間取った!」


 瓜生はまるでお化けでも見たような顔で俺を見て目を丸くさせているが、説明している時間はない。

 俺は素早くポケットから小さな小瓶を取り出して瓜生の口に突っ込んだ。


「う゛ぅ゛っ!?」

「助けてやるからちゃんと飲めっ」


 俺が瓜生の口に突っ込んだモノは再生薬。

 ヴァッサーゴの話だとこれを飲めば失った体が再生されると言っていた。


 ただし、再生には10分ほど時間がかかってしまう。

 オークの王様を倒すには瓜生を回復させる必要があるのだが、その為には10分間時間を稼がなくてはいけない。


 ここからは俺の正念場だ。


 再生薬を飲み干した瓜生の左腕が燐光に包まれると、痛みが和らいだのか瓜生がマヌケ面で目をパチクリとさせている。


「これ……なんや……? てか、お前逃げたんとちゃうんか?」


 瓜生が意味不明なことをブツブツと呟いているが、応えている余裕はない。

 俺は透かさず瓜生が降ってきた穴を見上げる。

 そこには興味津々と言った顔で穴を覗き込む化物の姿がある。


 俺は瓜生を抱きかかえたまま速やかに来た道を引き返し叫んだ。


「ダンジョンマスター発動っ!!」


 進行方向にダンジョンの入口が出現すると、俺は振り返ることなく迷わずダンジョンへと駆け込む。

 しかし、振り返らなくたってわかる。


 無数の化物が次々と穴に飛び込み着地するけたたましい音が響いてくるんだ。

 だけど臆することはない。


 あらゆる状況を想定し、三ヶ月間訓練を積んできたんだ。

 俺がダンジョンに駆け込むと直ぐにオーガ三人衆が出迎えてくれる。


「ボスッ!」

「雑魚処理はわっちらに任せて行きなんす」

「ガハハハッ、血沸く血沸く。鬼の血が騒ぎよるわっ!」


 まるで歴戦の勇者のように真っ直ぐと敵を見据える三人。

 冬鬼は静かに刀と小太刀を抜き取り、俺のすぐ後方まで迫っていたハイオークを瞬間で切り伏せた。


 見なくたってわかる。

 その圧倒的剣技でハイオークの肉体は細切れに刻まれて肉塊と化しただろう。

 同時にダンジョン内にひんやりとした冷気が漂い、パリッパリッと岩壁が凍りついていく。


 冬鬼が本気になったらハイオークやトロール如きじゃ敵うはずがない。


 魅鬼は扇を口元に当てながら俺へ目配せをして、剛鬼は力強く頷きマッスルポーズを取っている。


 こいつらを一番最初に召喚したのは正解だった。

 オーガ三人衆はこのダンジョンの永久幹部に任命だ!


 ただ、オーガ三人衆でもあの化物には敵わないだろう。

 俺は魅鬼と剛鬼の間を通り抜けながら振り返ることなく指示を出す。


「オーガ三人衆! ヤバイと思ったら速やかに転移の指輪を使用し避難しろ! 死ぬことだけは絶対に許さんっ!!」


 駆け抜ける俺の後方から、微かに三人の嬉しそうな笑い声が聞こえたような気がした。

 俺は三人がオーク共を足止めしている隙に8階層を目指す。


 本来なら転移の指輪で一飛びなのだが、今は瓜生を担いでいるから使用できない。

 しかし、それも想定内。


 俺はある程度奥に進むとバツ印を記した場所で立ち止まり、素早く地面に穴を開ける。

 そのまま穴を落ちていき2階層までショートカット。


 1階層から2階層までは50メートルほどあり、普通に落ちたら即死コースだが、問題ない。

 暗闇に包まれた穴の中を重力に逆らうことなく落下すると、ふかふかのクッションが俺たちを受け止める。


 こいつはバルーンと言われる風船モンスターだ。

 俺は予め1階層から8階層全ての場所にバツ印を書き込み、その全てにバルーンモンスターを配置していたのさ。


 こうすることで俺はあっと言う間に瓜生を抱えたまま8階層にたどり着く。

 そこからケンタウロスの待つボス部屋まではゴブリンことプリンちゃんのトロッコで移動する。


 ヘタレ込んでる瓜生をトロッコに放り投げて俺も素早く乗り込むと、


「マスター、発進しますよ!」

「頼むぞプリンちゃん!」

「任せてくださいです! 僕のトロッコ操縦は世界一ですよ!」


 プリンちゃんが自信満々で答えてくれると、俺たちが降りてきた穴からチビオークが降ってきやがった。

 やはりオーガ三人衆ではこいつの足止めは無理だったか。

 だがっ問題ねぇーよっ!!


「ぶっ飛ばせプリンちゃんっ!!」

「了解ですっ!」


 プリンちゃんはそこらのゴブリンとは一味違う、所謂ユニーク個体ってやつだ!


 だからプリンちゃんが操縦するトロッコは猛スピードで走り出す。

 まるでトロッコにジェットエンジンでも搭載してるんじゃないかと疑いたくなるほどの速度だ。


 そう、これこそがプリンちゃんの固有スキル【トロッコ操縦士】

 その時速は約500キロ。

 迷宮のように入り組んだダンジョンを世界三大レースモナコグランプリさながらに駆け抜ける。


「お前……逃げたんとちゃうんか?」


 爆走中のトロッコ内で瓜生が俺を腰抜けみたいに言いやがる。

 ちょっとムカついた俺は瓜生の頭を一発叩き、言ってやった。


「馬鹿言えっ、誰が逃げるかっ! こちとら人生がかかってんだ!」

「せやかてお前……返事せんかったやんけ」

「ボケッ! お前は俺がオールFで足が遅いことを忘れてんじゃないのか?」

「あっ……」


 瓜生は思い出したように苦笑いを浮かべて目を逸らしやがった。

 ま、そんなことは今はどうでもいい。


「いいか瓜生よく聞け――」


 俺が瓜生に大切な作戦を伝えていると、


「マスター、不味いですよっ! 追いつかれます!」

「えっ!? 嘘だろ!!」


 プリンちゃんの声で俺がトロッコから顔を出して後方を確認すると、オークが追いかけて来やがる。


 クソッ、相手は腐ってもオークの王様だ。

 勇者の瓜生をここまで追い詰めた正真正銘の化物。

 簡単にトロッコに追いつきますよってか。


 だけど追いつけるもんなら追いついてみやがれってんだ。

 俺は即座にポッケから飴玉を取り出してそれを口に放り投げると、肺に空気を溜め込み一気に吐き出す。


「フゥゥゥゥーっ!!」


 俺の吐き出した息は渦巻く突風へと変わり、吹き荒れるトルネードでオークの速度を減速させながら、さらにトロッコを加速させる。


 俺が食べた飴玉は【風神飴】

 その名の通り風神さまのような風を生み出す飴玉だ。


 そのまま一気にボス部屋に駆け込むと、トロッコは横滑りで轟音を響かせながら火花を撒き散らして止まった。


 そこに待ち構えるはダンジョンの守護神、ケンタウロスこと太郎さんだ。


 長く伸びた鮮やかなパープル色の髪を靡かせた、黒馬の下半身を持つ最強のモンスター。

 手にした巨大なランスは敵の体躯を貫く為のものなのだが、何故か半裸にフルフェイスの黒兜と言った変態チックな出で立ちではあるものの、正真正銘ダンジョン最強の男だ!


 そこにチビオークは悠然と一匹で乗り込んできやがった。 

 俺とプリンちゃんは速やかにトロッコから下りて部屋の隅に移動すると、ボス部屋を睥睨したチビオークが俺に目を留めた。


「さっきの人間はどこだ?」


 オークの王様だけあって人の言葉を話しますってか?

 そんなもんうちのモンスターはみんな喋れるわっ!

 偉そうに言いやがって。


「誰が教えるかっ! のこのことマヌケ面下げて付いて来やがってっ、後悔させてやるよっ!」

「余に対する暴言。貴様は万死に値する」

「黙れっこの豚がっ! 養豚所の王様になったくらいで人間様に偉そうにすんじゃねぇーよ! テメェーなんか瓜生にやられてボロボロじゃねぇーか!」

「確かに、あの人間はそこそこやりおったわ。しかし、貴様らは見るからに雑魚だな」


 なっ、なんだとコノヤロウー。

 俺とプリンちゃんはともかく、太郎さんのことまで雑魚扱いして鼻で笑いやがった。

 どんだけ態度がでかいんだよ!


「マスターへの侮辱は許さんぞ」


 おお! 太郎さんっ!

 蹄をかき鳴らしてやる気満々じゃないか。


「太郎さん! とっととそこの勘違い豚野郎をぶち殺しちまえ! そんで後でみんなで豚しゃぶパーティーと洒落こもうぜ!」

「了解です。マスター」

「よかろう。少し遊んでくれるわ」


 いつまで調子こいてんだこの豚野郎っ!


「ウオォォオオオオオオオオオオオオッ!!」


 チビオークを睨み付ける太郎さんが気合の雄叫びと共に駆け出した。

 その速さはまるで草原を吹き抜ける風のようで、太郎さんが走り出しただけで風が吹き荒れるのだ。


 あの速度から突き出されるランスを受け止めることのできる奴なんているはずない。

 例え勇者の瓜生であってもまともにくらえば大ダメージ間違いなしだ。


「ぶち殺しちまえ太郎さんっ!!」

「やってやるですよっ!」


 拳を突き上げて飛び跳ねる俺とプリンちゃん。

 だが次の瞬間――俺たちの前に思いがけない光景が飛び込んで来た。


 勇敢にチビオークに突撃を掛けた太郎さんが凄まじい勢いで吹き飛び、岩壁に激突したのだ。


「「えっ……!? えぇええええええええええええええっ!?」」


 あの太郎さんを一撃だと!?

 嘘だろ……!?

 瓜生の奴はこんな化物と互角に戦ってたって言うのか?



 勇者ってのはどんだけ強いんだよ……つーかこんなのチートだろっ!!

 反則だっ!!

 それに……太郎さん弱すぎじゃんっ!!!

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