第13話 いざ、ダンジョンへ

 宿からほど近い武具屋にやってきた俺は、ゲームの世界さながらの武具に、少しばかし感動していた。


 しかし、店内に置かれている武具を見渡して、あることに気が付く。

 それは値段だ。


 流し目で価格を確認したところ、どれもこれも銀貨数枚と記載されている。

 高価な物だと金貨数枚ときた。


 高い! 高過ぎるっ!!

 これでは破産してしまう。

 仕方ないのでとりあえず防具……というか衣服を購入することにした。


 さすがにいつまでも制服を着ている訳にもいかないからな。

 というか、一ヶ月着続けたせいで酷くみすぼらしいのだ。


 購入したのはブーツにシンプルなベージュのパンツと、モスグリーン色のノースリーブ。タートルネックと少しダサいが、全部で銅貨五枚の中古品なので、仕方ない。


 武具屋のオヤジが俺のみすぼらしい格好を見て、同情したのか革のグローブをサービスしてくれたのは有り難かった。


「ユーリ、凄く似合ってますよ」

「そ、そうかな?」


 フィーネアにそう言われると、安物でも凄くいい買い物をした気分になってしまう。

 俺は余ったお金で、店内で一番安かった刃渡り30センチほどの短剣も購入した。


「スキルを確認してみたらいかがです?」

「ああ、そうか」


 フィーネアのアドバイスを受けて、すぐさまステータスを確認してみると。


―――――――――

名前:月影遊理


性別:男

装備:探知ダガー(F)

レベル:1


力  F

耐久 F

敏捷 F

魔力 F


スキル:探知


固有スキル:他人の不幸は蜜の味

【リヤンポイント】


(フィーネア)

――――――――――


 なるほど。

 銀貨一枚の安物とは言え、ちゃんとスキルは備わっているらしいな。

 でも、探知スキルか……どう見てもハズレのスキルっぽい。

 が、一応確認しておくか。


 俺はスキル探知の詳細を開いた。


―――――――――


スキル:探知


自身の半径100メートル以内の生物を探知可能。


―――――――――


 えっ……それだけ?

 マジかよ。本当にクソスキルじゃないかよ……。


 それと、武器の横に付いってあった(F)ってのはなんだ?

 俺は店のオヤジに(F)とはなんのことか聞いてみた。


「ああ、そりゃー重量みたいなもんだ」

「重量?」

「力のステータスがFクラスの奴でも持てるってことだ」

「!? つまりなにかっ! この(F)ってのが(A)だったら力ステータスBの奴は、装備すらできないってことか?」

「そりゃー重たくて持てないだろう? 仮に持てたとしてもとてもじゃないが振り回せないだろうが」

「……」


 なんだよそのクソ設定っ!?

 じゃあ俺は優秀な武器を手に入れても、一生弱いままかよっ!

 いくらなんでもそれは酷すぎないかっ!?


 俺が愕然としていると。


「大丈夫ですよ、ユーリ。ユーリのことはフィーネアが守りますから」

「フィーネア……」


 嬉しい……嬉しいけど……情けな過ぎやしないか……。

 ま、嘆いたところで現実は変わらないんだから、受け入れるしかないな。




 ◆




 俺とフィーネアはダンジョンに向かうため、明智の居る宿まで戻ると。


「ひっ、酷いでござるっ! ユーリ殿っ!」


 扉を開けると、第一声。

 あらわな姿の明智がベッドの上でシーツを手繰り寄せて、声を荒げている。


 俺はそんな明智の元まで歩み寄り、静かにベッドに腰掛けて、言った。


「すまん。俺もなんとかあのスキンヘッドを倒そうと試みたんだが、明智も知っての通り、俺は全Fの最弱だ。……どうしようもなかったんだ」

「それがしはっ、それがしは童貞を捨てるよりも先に、処女を奪われてしまったでござるよっ! それがしは穢されたでござるよ」


 どの面下げて言ってんだ。

 お前はとっくに汚れているだろうが。

 清純派アイドルみたいなことを吐かしてんじゃねぇーよ。


「明智っ! お前はひょっとしたら一生童貞だったかも知れないんだ。それが、初体験を済ますことができたんだよ。大人の階段を上ったお前はとても艶っぽいよ、明智」

「……」


 なんちゅう目で人のことを見やがるんだ。

 やっちまったもんは仕方ないだろう。


「要は考えようつーことだな。そんなことより真夜ちゃんの救出に向かうぞ明智」

「そんなことってっ! じゃあユーリ殿もマッスルオヤジに抱かれてみればいいでござるよっ。こんなにぶっといのがお尻にねじ込まれる恐怖を味わってみるといいでござる」


 いつまでもごちゃごちゃと喧しい明智に、真夜ちゃんが心配な俺はイライラして、つい腰に提げたダガーを首元に突きつけてしまった。


「いいから早くしろっ! お前のケツよりも真夜ちゃんの命の方が心配なんだよ!」

「それがしのケツはどうでもいいと言うでござるか……ユーリ殿っ! ユーリ殿はそれがしのステータスを知っているでござろう? その気になればそれがしは、ユーリ殿をコテンパンに返り討ちにできるでござるよ」


 この野郎っ!

 ちょっとステータスが優秀だからって図に乗りやがってっ!

 俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、フィーネアへと微笑んだ。


「フィーネア。このバカにお仕置きしてあげなさい」

「はい。かしこましました」

「なっ、なな、なにをする気でござるか。ユーリ殿っ!」


 フィーネアは明智に向かって両手を突き出して「炎の書――鳳凰編第一章、羽炎はえん」と、唱えると。


 フィーネアの両掌から『豪』と燃え盛る炎が弧を描き、瞬く間に魔法陣を創り上げると、そこから明智に向かって炎の羽が放たれた。


「ギヤャアアアアアアアアアアアアッ!!」

「おおっ! こりゃー凄いっ!」

「感心していないで止めてくだされ、ユーリ殿っ!」

「なら、すぐに真夜ちゃんの元に案内するな?」

「するでござるっ! するでござるよっ!!」


 俺はすぐにフィーネアに止めるよう伝え。

 改めてフィーネアの、ドールの凄さに感動していた。


 まさか、ここまで凄いとはな。

 フィーネアが居ればダンジョンなんて楽勝じゃないのか?


 しかし、明智の奴もさすがにステータスが高いだけあって、丈夫だな。

 俺なら今ので死んでたんじゃないのか?

 この世界は俺が生きるには、あまりにも不利過ぎる。


 さっさと元の世界に戻る方法を見つけないと、手遅れになってしまう。




 ◆




 それから俺たちは街を出て、明智の案内でダンジョンなる場所までやって来ていた。

 というか、ダンジョンは街からめちゃくちゃ近い場所にあったのだ。


「てっきりもっと遠くにあるのかと思っていたけれど……めちゃくちゃ近いじゃないか」

「なんでもつい最近、突然出現したダンジョンらしいでござるよ」

「ダンジョンてのは突然出来るものなのか?」


 俺の些細な疑問に、隣のフィーネアが透かさず答えてくれる。


「ダンジョンは基本的にダンジョンマスターと呼ばれるものが築き上げて、運営しているので。人が集まる場所の近くに築かれやすいんですよ」

「なんで、人が集まる場所の近くである必要があるんだ?」

「ダンジョン経営をするためには、より多くの人間の魂が必要です。ダンジョンにとって人間の魂は謂わば栄養なんです。その為にダンジョンマスターは財宝などで人間をおびき寄せるています」

「なるほど」


 つまり、ゴキブリホイホイみたいなもんだな。


「じゃ、それがしはこの辺で……」

「は?」


 ケツを押さながら内股気味の明智が、自分は街に帰る的なことを言っているが、帰すわけないだろ。


「何バカなこと言ってんだ。さっさと行くぞ」

「えっ!? それがしも行くでござるか?」

「当然だろっ! 仲間は多い方がいいに決まってんだ。早いところ真夜ちゃんを助けに行くぞ」


 嫌がる明智を半ば強引に引っ張り、俺たちはダンジョンという名の洞窟へと足を踏み入れた。


 ダンジョンの中は薄暗かったのだが、中に入って行くと、両壁に打ち付けられていた松明がひとりでに火の手を上げる。

 それが手前から奥へと順に辺を照らし出した。


 その光景は、まるで俺たちを誘い込んでいるようだ。

 さすがはゴキブリホイホイと言ったところだな。


「不気味でござるな」

「これはどこまで続いているんだよ?」

「ダンジョンは基本的に地下へ続いているものです。おそらく、ユーリのお友達は奥へと進み。下へ降りて行ったのではないでしょうか?」

「奥か……ちなみに地下何階くらいまであるものなんだ?」

「一概にこうだとは言えません。ダンジョンによって構造は様々ですので、何とも言えませんが。出来たばかりのダンジョンなら、そう深くはないと思うのですが」


 フィーネアはそう言うけど……。

 明智の話だと王国兵が帰って来なかったと言うくらいだから、ヤバいモンスターとかいるんだろうな……。


 出来るだけ慎重に進まないとな。


 俺たちは細心の注意を払いながら奥へと進み。

 階段を下りて真夜ちゃんを探すが、一向に見つからない。


 しかし、運がいいのか、ここまでモンスターに襲われることもなかった。


「本当にここで合ってるのか? 真夜ちゃん達どころか、モンスターさえ一匹も居ないじゃないか」

「ひょっとして、真夜殿たちはダンジョンマスターとか言うのを倒して、もう街に還ているのではござらんか?」


 そんな訳ないだろ……。

 仮に明智の言う通りだったら、どこかですれ違っていても良さそうだけどな?

 と、その時――


「ユーリ! スキルを使用して周囲を確認してみてください!」


 突然、フィーネアが先ほど購入したばかりの探知ダガーを使用しろと促してくるので、俺は言われるがままダガーを素早く腰から抜き取り、スキル探知を発動させた。


 すると、頭の中にゲームマップのようなものが浮かび上がり、俺たちの周囲を取り囲むモンスターに気が付いた。


「げっ!?」

「どうしたでござるか、ユーリ殿?」

「落ち着いて下さい、ユーリ。おそらく、フィーネア達は初めからダンジョンマスターに誘導されていたのです」


 確かに、フィーネアの言う通りだ。

 ここまでモンスターに襲われなかったのは運が良かったからじゃなくて、この状況を作り出すためだったのか!?


「明智っ! お前もその腰に提げてる武器を取れ!」

「えっ!?」

「化物に囲まれてんだよっ!?」

「えっ!? そそそ、それがし、戦ったことないでござるよ!」

「俺だって似たようなもんだ! でも、今そんなこと言ってる場合かよっ! 早くしろっ!」


 俺たちは互いに背中を預け合う形で武器を構えた。

 メイドのフィーネアは武器を持っていないが、超絶スキルを有している。

 というか、この状況で頼れるのはフィーネアだけだ。


「フィーネア!」

「はい」

「さっき明智に使ったスキルは使えるんだよな?」

「……あと四回くらいなら可能です」

「えっ……!?」


 嘘だろっ!?

 回数制限あったのかよっ!


 俺の感知スキルで調べたところ、軽く30匹は居るぞ!

 無理じゃねーかよっ!



 真夜ちゃんを助けるどころか、俺たちの方が絶対絶命のピンチじゃないかよっ!

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