僕には後悔がある

自由人

第1話 出会い

ここは魔法が飛び交う世界

その世界で僕はとある女性の家で居候をしている

いや、居候というよりかは…


「はい、これ洗っといて」


「はいはい」


僕に洋服を投げつけてきたこの女性こそ

この家の主 西麗さいれい 早苗さなえさん

自称僕の飼い主

いや僕はペットではないのだが


僕は受け取った洋服を洗濯板で擦っていく

洗濯ってもっと楽だった気がするんだが…

まぁ僕は記憶喪失の身なのだ

そんなことを考えても仕方あるまい

あと当然だが彼女の下着も洗っているのだが下着を触られても世の女性は嫌がったりしないのだろうか?

そんなことを考えながら洗濯物を干し終えるが僕に休憩はない

もう少しでお昼だ

昼食の準備を済ませなければ…


「ねぇ、お昼まだー?」


「あーはいはい。もう少し待ってください」


全く急かすなっちゅうに

料理も僕の仕事になっている

家主である彼女は椅子に座りゆっくりしている

なんとか作り終え皿に盛り付ける


「はい、どうぞ」


「いただきます」


「いただきます」


僕も席につき食事をする

僕にとって数少ない休憩時間だ


「そういや最近仕事来てないですけど大丈夫なんですか?」


「うるさいわね。依頼屋である以上はお金が入ってくるときとそうでない時には差があるのよ」


西麗さんはこの家兼仕事場で依頼屋をしている

主な業務は害悪な魔物退治だそうだ

何故そんな依頼が届くのかと言えば彼女が扱える魔力は高いらしくこの世界では人間のトップに君臨するからだそうだ

僕は直接見たことはないがなんとくは分かる

この人から出る気は尋常ではない

ただ接すると分かるが普段の彼女は人間らしく…

いや僕の知る限りでは…


「ごちそうさま、あとよろしく」


そう言って彼女はソファーにダイブした

そして気持ち良さそうに昼寝をしだした

このように僕の知る限りではただのダメ人間だ

僕も食事を食べ終えて皿洗いをする

彼女のお皿はきれいに食べた跡がある

これは何気に嬉しいことだ

こんな風に居候というより雑用として僕はこの家にいる

こんな対応にもちろん不満がない訳ではない

ただ何処の馬の骨かも本人ですら分からない僕を置いてくれていることには感謝している


日が落ち辺りもすっかり暗くなった

個人的には夜が一番しんどいと思っている

何故なら西麗さんは大の酒好き

そしてだらけていただけのはずなのに酒を飲むと絡みが酷くなる


「あら、あんたの杯空じゃない。ほら、私が入れてやっから出しなさい」


「いや僕は…」


「ほら、飲んだ飲んだ」


こうして強引に飲ましてくる

はっきり言って僕は酒に強くない

少しの量でも酔うのに…

それにお酒も出費がかさんでいるのに…

西麗さんは僕のことなど気にせずガバガバ飲んでいる


「そういやあんたを拾って1ヶ月くらいかしら?」


「そうですかね?」


「そうよ。あんたが家の真ん前でぶっ倒れてたのよ。何であんたを拾おうと思ったのかはいまの私でも分からないわ」


「そうだったんですか?てっきりこき使うために助けたのかと」


「は?あんたたまに口が悪いわね」


少し睨まれたが僕は気にせず返答する


「お褒めに頂き光栄です」


「誉めてないわ、バカ」


ゲシと西麗さんが僕を殴る

地味に痛いな


「にしてもあんたもよくこんな所に長く居れるわね」


「それ自分で言います?こき使うのはもう別にいいですけど」


「そっちじゃないわよ。私といるということよ」


「はぁ?」


ついに酔っ払いの戯言が始まったか?

そんな気がしてすこし身構える


「ここって少し人里から離れた位置にあるでしょ」


「確かにそうですね」


今は僕たちがいるのは山の中にある一軒家だ

立地はよいと言えずこの家に続く道は道らしい道とは言えない

当然人里とは離れていて恐らく1kmちょっとの距離はあると思う

しかも1kmといっても迷路のような道を抜ける必要がある


「普通こんなわけわからない場所に建てたりしないわよ」


「じゃあ何で建てたんですか?」


「単純よ。居心地が悪かったのよ」


「居心地?」


西麗さんは酒を飲み干して語り始めた


「そうね。私は自分で言うのは気が引けるけど才能がある方だったわ。そもそも魔法は才能が必須の世界よ。どれだけやっても魔法では才能には勝てない。剣の道は努力で大きく変化するらしいけど魔法は違う。でも人は分かっていても妬むものよ。それと同時に私は大きな力があった。人を傷つけるだけの力を」


「………」


僕は無言だった

確かに僕は簡易魔法の1つもろくに使えない

それは自分に才能がないからだろう

だがこれが西麗さんではなく第3者だったら僕は…


「この力故に居心地が悪かったのよ。だから私とよくいれると言ったのよ」


「なるほど…」


「ねぇ、あんたもいつかは人里で暮らしたいかしら?」


考えたことなかった

もし人里で暮らせば利便性は上がりこの飼い慣らし生活には終止符を打つことになる

ならば僕の選択は…


「……いえ、僕はここにいますよ」


「へぇー」


「確かに人里は便利でしょうね。でも僕は西麗さんとの関係が終わるのは望みません」


「…本気で言ってるのかしら?」


「冗談でこんなことを言えばあなたは殴るでしょ?僕は殴られたい願望などありませんよ」


「…ありがとう」


「へ?」


なんの躊躇もなく西麗さんは僕に抱きついてきた


「なんの真似ですか」


「いいのよ、私は嬉しかったわ。あなたの言葉」


「だからといって抱きつかないでください」


「私は少し寂しかったのよ。居心地悪く人里から抜け出したけどいざ暮らすと孤独感に刈られるのよ。いや人里の頃から私は1人だった。私は捨て子だから親の顔も知らない。だからあなたが初めてよ。私とここまで優しく接してくれたのは」


なんとなくそんなこと言われるとむず痒くなる


「ねぇお願いがあるのだけど」


「なんですか?」


「私とここにいて?私もあなたといたいわ」


……それはそういうことで?


「安心してください。この心臓が止まるまではいますよ」


「…ありがとう」


それだけ言うと気がつけば規則正しい息をして寝ていた

全くこの人らしくないと思った

でもあの時の西麗さんは嘘ではないとそんな気がしてならなかった

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