第609話 討伐勝負

 勇者たちが戦争介入した頃、ケビンはケビンで魔大陸の冒険に身を乗り出した。そして、イグドラとの国境において、行動指針を決めるための話し合いを行っている。


「前に来た時は南に進んで行ったから、今度は北に進んでみるか」


「北向きかぁ……寒くなりそうだね」


「そういえば、魔大陸の気候ってどうなってるんだ?」


「それがわかれば苦労しないよ。少なくともサキュバスたちは南に住んでいたから、やっぱり寒いんじゃないかな?」


 そのようにしてケビンと会話をするのはクリスである。今回の冒険メンバーは、ケビンを始めとするサラにティナ、それとニーナやクリスといった少数精鋭で臨んでいる。他の戦力は別行動をしている勇者たちに割り振った次第だ。


 ケビンが何故そのような少数精鋭にしたかというと、勇者ごっこをするために勇者のパーティーメンバー数を参考にして、大所帯で冒険をするのを避けたからである。勇者ごっこをするにしても、形から入るケビンがそのようにしたのだ。


「とりあえず、イグドラに向かう戦力を減らすために、近場の魔王から退治していくか」


 そう言ったケビンは【マップ】で近場に魔王がいないか検索すると、出るわ出るわの大盤振る舞いであった。


「うわぁー……戦乱時代かよ……」


「魔王が見つかったの?」


「至る所で魔王たちが争っているのがわかった」


「へぇーソフィさんが言ってたのは本当だったんだね」


「暗躍している奴らはいったい何がしたいんだ? こんだけいたら土地が荒れるだろ」


「より強い魔王を作るために、ふるいにかけてるとか?」


「あぁーありえそうだな。とにかく、1番近いところから乱入するか」


 それからケビンたちは魔王対魔王のバトルに乱入するべく、バイコーンのセロたちを召喚してその背に乗り現地へ向かうと、やがて辿りついた近場の戦場では、ゴブリンとゴブリンが戦いを繰り広げていた。


「ここにもゴブリンの魔王がいるのか……本当に手当り次第だな」


「この際だから種族ごとの魔王を倒して種族制覇しようよ」

「オークエンペラーは倒した」


 後衛組となるティナとニーナが、2人乗りしているバイコーンをケビンの近くに寄せてそう言うと、ケビンもその案に賛成する。


「ただ倒していくのもつまらないし、そうしよう」


「ケビン、もう戦いに乱入してもいいのかしら?」


「ああ、いいよ。大した魔物もいないし、この戦場は自由行動にしようか」


「やったー! それじゃあ私は向かうね。ティナ、討伐数勝負だよー」


 サラからの問いかけにケビンが了承すると、クリスは嬉々として戦場に向かい、いきなり勝負を挑まれたティナは出遅れてしまうのだった。


「ちょ……クリス! ズルいわよ!」


「ボーッとしてるのが悪いんだよー」


 バイコーンを走らせ馬上から槍で無双するクリスの乱入に、戦っていたゴブリンたちが慌てふためく。そして、出遅れたティナも同じように慌てふためいていた。


「ニーナ! やるわよ!」


「いや、挑まれたのはティナでしょ」


「私たちは同じバイコーンに乗ってるんだから2人で1人なの!」


「無理ありすぎ」


「いいのよ! クリスみたいにバイコーンを操りながら攻撃なんてできるわけないでしょ! 私の主武器は弓なのよ!」


「はぁぁ……仕方ない」


 ティナの暴論に付き合わされるニーナは魔法を唱えると、混乱しているゴブリンたちへ撃ち放つ。そして、ティナはニーナの助けが入ったので、後衛らしく距離を置いたまま、バイコーンで戦場を駆けていく。


「あらあら、ティナさんたちは元気ねぇ……お母さんも混ざろうかしら」


「それなら騎乗したまま戦うことになるね」


「騎乗戦闘なんて初めてだわ。上手くやれるかしら」


「いつもみたいなスピードファイトはできないから、いい勝負になるんじゃない?」


「それもそうね。それじゃあ行ってくるわね、ケビン」


「行ってらっしゃい」


 クリスやティナに引き続き、サラも戦場にバイコーンで駆けていくと、拙いながらも騎乗戦闘を始めていく。それを見ているケビンは問題ないことを確認したら、自身はゲームの邪魔にならないように離れたところの敵を倒していくのだった。


 それから5名による乱入戦が始まると、敵対していたゴブリンたちは各所属の長の指示によって、人間から先に始末をつけようと群がっていく。その行動は本来なら冒険者にとって窮地となるが、討伐数を競っている3組にとってはボーナスタイムとなるのだった。


「移動しなくてもどんどん来るー!」


「ニーナ、あそこに集団ができたわよ! でっかいのをドカンと1発浴びせて!」

「わかった」


「うふふ……これで遅れた分の差が縮まればいいけど」


 近接戦をするクリスやサラに群がるゴブリンたちは次々と斬り倒されていき、バイコーンで駆け巡るティナを追いかけようと移動するゴブリンたちは、安全圏から撃ち放たれるニーナの魔法で迎撃されていく。


「これなら力不足の嫁たちも連れてこれるかな」


 ケビンは戦場での状況を眺めながら、今回はお留守番させているやや力不足な嫁たちでも、無茶をしなければ対処が可能なのではないかと思考を巡らせる。


 そして、ケビンは居残りさせてきた嫁たちに連絡を取ると、本人の意思確認をしてから、希望者のみをこの場に転移させた。


「っ! 戦いの真っ最中じゃない!」


「そうとも言う」


 ケビンによって転移してきた人物は、日頃は騎士として家族の安全を守っているカトレアだった。


「ターニャは来なかったな」


「ターニャさんは騎士団長としての立場があるから。ケビン君のいない間の帝城を守るんだって張り切ってたよ。フィアンマさんは息子のフレデリックの育児に勤しむんだって」


「そうか。ターニャには足を向けて寝られないな。ところで、ケンジーはどうしたんだ?」


「ケンジーのことはお母さんに頼んできた。戦場に連れてくるわけにもいかないし、エリーゼと一緒なら寂しくないだろうから」


「エラが見ていてくれるのなら安心だな」


 ケビンは、ケンジーが半年ほどしか離れていないエラの娘となるエリーゼと共にいることで、カトレアが傍にいなくてもそこまで寂しがることはないだろうと思い至る。


 現に、カトレアが騎士の仕事の時には、母親であるエラにちょくちょくと預けたりもしていたのだ。エラもエラで経験者として子育てには慣れているのか、全く苦にもせず楽しんでいる節がある。


 そういった経緯があったこともあり、カトレアは安心してケンジーを母親のエラに頼んだのだろう。


「とりあえず、肩慣らしにゴブリンでも倒してこい」


「そうだね!」


 そう言うカトレアはケビンと久しぶりの冒険ということもあってか、嬉々としてゴブリンを倒しに戦場へと走っていく。それを見つめるケビンは、相変わらずゲームの邪魔にならない程度に周りにいるゴブリンたちを倒していくのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「結果はっぴょぉぉぉぉ!」


 その後、程なくしてゴブリン種の成り立て魔王(弱かったのでケビン推測)を倒したケビンたちは、ゲームの結果発表を行っていた。


「まずは努力賞! この努力賞に選ばれたのは……ドゥルルルルルルルル――」


 自らの口でドラムロールを再現するケビンは、満を持して発表する。


「――ジャジャン! 途中参加のカトレアだ」


「やったー!」


「途中参加にもかかわらず、頑張って討伐数を稼いだことに対しての表彰となる」


「頑張って倒したかいがあったよ!」


「続きまして、栄えある優勝を手にしたのは……ドゥルルルルルルルル――」


 待ちに待った?優勝者の発表とあってか、3組の集中力が増していく。


「――ジャジャン! ティナ、ニーナペア!」


「勝ったわよ、ニーナ!」

「当然」


「ただバイコーンを操っていただけのティナとは違い、ニーナの魔法が冴え渡った結果での優勝だ。手数の多い魔法だけでなく、固まった団体には広範囲魔法を繰り出す臨機応変さ。そこが勝敗の行方を決定づけるものとなった」


「ちょ……私も頑張ったんだよ!」


 ケビンからストレートに何もしていないことを指摘されたティナが抗議するが、ティナの周りに味方は誰一人としていない。


「ティナってバイコーンに乗ってただけだしねー」

「ティナさんの優勝と言うよりも、ニーナさんの優勝かしら?」

「さすがに庇えないよ、ティナさん……」

「自業自得」


「ニーナまで?!」


 ティナとしては、一緒に戦っていたと思っていたニーナから裏切られたことにより、ティナの負けん気魂に火がつく。


「次よ、次! 次は個人戦なんだから! ケビン君、次の魔王の所に案内して!」


「今のも個人戦だったのに、ティナが勝手にペアを組んだだけだよー」


「近接のできるクリスがいきなり勝負を挑むからよ! 次は正々堂々で抜け駆けナシよ!」


「ティナだって近接できるじゃん」


「副武器でしょ! クリスは主武器が近接じゃない! 年季が違うんだからズルいわよ!」


 ギャーギャーと騒ぐティナをよそに、ケビンが次なる獲物の場所に向かうことを告げると、途中参加のカトレアはクリスの後ろに跨り、一同は種族制覇を目指すべく魔王討伐に繰り出すのだった。


 その後もケビンたちは順調に新参魔王を倒し続けていき、イグドラ国境近辺にいた野良魔王たちは、遊んでいるケビンたちによって掃除されてしまう。


 中でも酷かったのは種族がかぶった時のケビンの対応である。


「《コズミックレイ》」


 たった一言それを告げただけで縦横無尽に降り注ぐ光線により、魔物たちはおろか魔王ですら為す術なく倒されてしまい、その地は理不尽の権化により凄惨な地へと化してしまった。


「何だか種族のかぶる頻度が増えてきたねー」


 クリスがそう言うと、他の者たちも同じことを考えていたのか同意を示す。


「北向きに進んだのが悪かったのか?」


「南に方向転換してみる?」


「陰ながら援助」


「そうねぇ……あっちはクララさんがいるし余程のことは起こらないと思うけど、次から次に魔王が来たら厄介よねぇ……」


「ケビン君、どうするの?」


「うーん……ゴブリンの魔王が奪った辺境伯領を、更に奪う漁夫の利を狙った魔王が現れるかもしれないし……ある程度の掃除はしておくか」


「それじゃあ、次は南向きだねー」

「行ったり来たりになっちゃったわね」

「セロたち休ませる?」

「セロちゃんたちを休ませるために、お昼休憩にしましょう」

「賛成です」


 ニーナの提案にサラが同意してカトレアが賛同すると、お昼休憩を挟むことになり、ケビンはお昼ご飯の準備に取りかかる。


「カトレア、このポーチの中にある肉をセロたちにやってくれ。討伐数勝負で死蔵の肉が増えすぎた。皿類とかも中に入れてある」


「はーい」


 カトレアはケビンからポーチを受け取ると、セロたちの所へ歩いていき大量の肉を山積みにしていくと、足りないものに気づいてニーナに声をかける。


「あっ、そうだ! ニーナさん、水魔法でセロたちの飲み水を出してください」


「任せて」


 カトレアの用意した頭数分のバケツの中に、ニーナが《ウォータ》で飲み水をたっぷりと注いでいき、それをセロたちの前に2人で並べていく。


「ゆっくり休んでね」

「食べる子は育つ」


 カトレアとニーナがセロたちの様子を眺めていると、お昼ご飯の準備が終わった声を耳にする。


「食べるぞー」


 ケビンからの呼び掛けによりカトレアとニーナはその場所に向かうと、見たことのない物に対して同時に首を傾げてしまった。


「ケビン君、これなに?」

「焼く?」


「フッフッフ……これはバーベキューセットだ! この串に刺した肉や野菜をこうして置いて、焼き上がれば食べられるお手軽料理だ」


「これならティナでも料理ができるねー置いて焼きあがるのを待つだけだし」


「ちょ、クリス!」


「ふふっ……ティナさんは相変わらずなのね」


「お、お義母さん、違います! 私だって頑張れば……ねっ、そうよね、ニーナ!」


「……全力で黙秘する」


 ティナの助けを求める声に対して、同レベルのニーナは飛び火するのが目に見えているので、あからさまに視線を逸らして火中の栗を拾うことはなかった。


「まぁ、からかうのはそこら辺にして、今はバーベキューを楽しむぞ」


「おおー!」


 からかってた張本人であるクリスは素早い方向転換でケビンの声に賛同したが、からかわれた側のティナは恨みがましくクリスを見つめていた。


「味は塩コショウと焼肉のタレを用意したから、お好みで好きな方を選んでくれ」


「ほらティナ、振りかけるだけの塩コショウが出てきたよー」


「クリス!」


「ふふっ。賑やかで楽しいわねぇ」


「……」


「ニーナさん、さっきから静かですけど、どうかしたんですか?」


「……バーベキューに集中しているだけ」


「初めて見る料理ですから、集中して見ていないと焦げるかもしれませんし、その気持ちはわかります。野営とかもこんな感じなら楽しいでしょうね」


 ニーナの手料理が壊滅的とまでは言わないが下手であることを知らないカトレアが、初めてのバーベキューということで楽しそうに話しかけてくるが、真相を心の内に秘めて明かさないニーナは、それはそれで別のダメージを受けるのであった。


「カトレアの純真さがツラい……」

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