第607話 おふざけ会議
ケビン主体による4ヶ国で対魔王防衛軍を築き上げたあと、ケビンはいつもの如く面倒なことは他の国に丸投げしてしまい、各国が慌ただしく動く中で1人悠々自適な生活を送っていた。
そのようなケビンは、ボチボチ魔大陸の冒険を本格的に行おうかと考え込んでいる。
「勇者たちに勇者らしいことをさせてみるかな……」
玉座にてあれやこれやの計画を練っていくケビンは、ひとまず冒険するにあたって同行者をどう選別するか考えていた。それは、ケビンの嫁たちの中で、戦える者が割かし多いことに起因する。
「んー……」
悩みに悩むケビン。だが、結局その日は何も決まらず、1日を過ごしてしまうのだった。
翌朝、ケビンは自分のパーティーメンバーはさておき、勇者たちの意思確認をしようと会議室に集合させた。
「本日の議題は“魔大陸について”となります。書記の
「はい、ぎ……議長……」
いきなり集められたかと思いきや、
そして、ケビンはと言うと普段は絶対にかけない眼鏡をかけており、議長であることを猛然とアピールしている。その姿を傍から見れば、何故か知的に見えてしまうから困りものである。
やっていることは、ただのおふざけだと言うのに。
「眼鏡姿の旦那様とは……そそるな!」
「カッコイイね」
「はぁぁ……健兄って、いつも形から入るよね」
「そして、すぐに飽きる」
「パターン化されてる」
「眼鏡姿のレアケビンさんにゃ」
「ちょっとイイかも……」
「知的さが滲み出ていますね」
「眼鏡姿の健さん……カッコイイ……」
所々で眼鏡姿のケビンに対しての感想がこぼれ出していると、ケビンは話を進めるために「静粛に、静粛に」と、いつもは使わないような言葉でもって静かにさせる。そして、更には片手に持つ小型の木槌で台座をコンコンと叩くのだ。気分は既にどこぞの裁判長のようだ。
「前回、オークエンペラーという魔王が攻めてきたのは、皆の記憶にも新しいことだと存じます。現在は対魔王防衛軍の警戒によって、攻めてこようとする魔王軍の牽制をしている状況です」
この話は勇者たちも既に知っており、頷き返す者たちがチラホラと見える。
「そこで私は考えました。『この調子なら冒険に行けるんじゃね?』と」
その言葉を聞く一部の勇者たちは頭を抱えてしまう。再び魔王との戦争が起こるかもしれないから防衛軍が警戒にあたっているというのに、それを気にせず冒険に行こうとする、如何にもなケビンらしさを見せつけられてしまったからだ。
そのような中で、手を挙げて発言しようとする者がいた。
「勇者大臣、能登高光君」
「「「「「???!」」」」」
ケビンが議会らしく役職と君付けで呼ぶと、勇者たちは『いつの間に大臣に!? そもそも、そんな役職あるの!?』と目を見開いてしまう。そして、驚く能登もその1人ではあるが、混乱する中でなんとか頑張ると当然の疑問を口にする。
「ぎ、議長、仮に魔王軍が再び攻めてきた場合は、どのような対処をするのでしょうか?」
「忖度してもらいます」
「「「「「???!」」」」」
眼鏡をクイッと上げるケビンがそのように言いうと、またもやケビンの発言により勇者たちは驚愕する。
そのような中で能登はケビンの言う忖度の意味がわからずに、その意図を知ろうとしたのか聞き返してしまう。
「そ……忖度とは……?」
「他人の心を推し量ることです」
当たり前のようにしてケビンが忖度の言葉の意味を教えるが、能登が聞きたかったのは真意であり、言葉そのものの意味ではない。
「……意味がわかりません」
「意味がわからないとは誠に遺憾であります」
「い……遺憾……?」
ノリノリなケビンについていけない能登が困り果てていると、能登に代わり挙手をする者が1名。
「勇者副大臣、剣持雪菜君」
「ふ、副大臣?! ……あ、あの……議長が言いたいのは、防衛軍に忖度してもらうってことでしょうか?」
「その通りです」
「もし、防衛軍に何かが起きた場合はどうするのですか?」
「第三者委員会を設立し精査してもらい、事にあたる所存であります」
「それだと間に合わないのでは?」
「第三者委員会に精査してもらい、事にあたる所存であります」
ケビンがのらりくらりと剣持の言葉を躱していると、対する剣持も気分が乗ってきたのかテレビでよく見る追及のようにして言葉を綴っていく。
「精査、精査と時間をかけていたら、梯子を外されたと言われるのでは?」
「そのような事実はありません」
「ですが、精査を重ねるつもりなんですよね?」
「精査を重ねるかどうかは第三者委員会の仕事であり、私が口を挟むようなことはありません」
「その第三者委員会のメンバーに選ばれそうな方たちとの癒着が疑われていますが、そこはどうなのでしょうか?」
「そのような事実はありません」
「そもそも、忖度を持ちかけたのはケビンさんだと言われていますが?」
「荒唐無稽であります」
剣持の対応に周りの勇者たちも面白いと感じてしまい、悪ノリしてテレビで見るようなヤジを飛ばしてしまう。
「嘘を言うなー!」
「さっき忖度させるって言っただろー!」
「責任を取って辞任しろー!」
そのようなヤジが飛び交うとケビンは木槌で台座を叩き、「静粛に、静粛に!」と声を上げ、この場を静かにさせようとする。そして、静かになったところで、議題を進めようとした。
「議長、まだ忖度についてのちゃんとした回答が終わってませんよ」
「そのような事実はないとともに仮にあったとするのならば、それは相手側が忖度したのであって私が強要したのではありません」
「金貨数十枚相当の接待をしたという話が上がっていますが、そこのところはどうなのでしょう? そのような席であれば、暗に忖度を期待していると匂わせるには充分なのではないでしょうか?」
「そのような事実はありません」
「世論がそれで納得するとお思いですか?」
「私は事実を言っているまでです」
「出張と言いつつ温泉に行ったことは、どうご説明されるおつもりですか? それを出張費用として計上したという話もあります」
「そのような事実はないとともに、誠に遺憾であります」
ケビンと剣持の議会ごっこが白熱していく中で、
そのような中で、このままでは埒があかないと思った
「教育大臣、加藤
「きょ……教育大臣?!」
「安直に先生だからじゃない?」
「ありえる」
ケビンの言葉にそれぞれの反応を示す三姉妹だったが、ケビンから教育大臣と告げられた
「――ということで、逆侵攻作戦だ」
「逆侵攻作戦?」
「普通、勇者ときたら魔王を倒すべく旅をするだろ? だから魔大陸を旅してみたい者は自己申告してくれ。おあつらえ向きに魔王がわんさかといるみたいだしな、物語のような体験ツアーができるって寸法だ」
「体験ツアーって……」
「おにぃにとっては遊び」
「お決まりのパターン」
ケビンの掲げる案によって、呆れている三姉妹は揃って溜息をつく。だが、そのような対応をされようとも、ケビンのお遊びは止まらない。
しかしながら、ケビンからいきなり逆侵攻作戦と言われたところで、勇者たちは参加不参加を決める以前の問題であり戸惑いを見せている。
そのような中で会議室に数人の女性が現れた。
「急にごめんなさいね」
「ん? 遊びに来たのか?」
ケビンの問いかけに苦笑いを浮かべるのは、帝城にいるはずのないリンドリー伯爵家のレメインだった。その後ろにはリゼラやスタシアまでいる。それを見る勇者たちは、あまり見たことのない顔ぶれに戸惑いが隠せない。
「ケビンくんが、危なくなったら避難してもいいって言ったでしょう?」
「おい……まさか……」
ケビンがまさかの展開に思い至ってしまうと、レメインはここに来るまでの経緯を語る。
「辺境伯領が落ちたの。今は魔王軍が更に版図を広げるために、周囲の領地へ侵攻中よ」
「セレスティア皇国軍はどうしたんだ? 本軍を現地に向かわせたんだろ?」
「ケビンくんが総団長や団長を引き抜いたんでしょう? 更には他の団長も何処かに飛ばしちゃったし、大幅な戦力ダウンよ」
「え……あいつらまだ帰りついていないのか? もう半年以上経つのに」
「帰りついている団長もいるわ。だけど、
「……ちょっと待て」
そう言うケビンは【マップ】を使い、自分の行ったことのある範囲からベルトランを検索する。
すると、意外な所と言うよりも、むしろ、ベルトランの人となりを知っていれば、想定の範疇である場所において過ごしているのを見つけてしまう。
「見つけたぞ」
「何処にいるの?」
「王都ミナーヴァの図書館にいる。多分、読書中だ」
「…………ベルトラン」
溜息をつき呆れ返ってそう呟くのはレメインではなく、ベルトランのことをよく知っている元総団長のガブリエルだ。ガブリエルはベルトランが無類の読書好きと知っており、暇さえあれば己の知識欲を満たすためだけに、本を読み漁る悪癖持ちだということを知っていたのだ。
「とりあえず、こいつは皇都に飛ばすか」
「現地へは飛ばさないの?」
戦争真っ只中の前線に送り出さないのかと、不思議に思うレメインが疑問を呈したら、ケビンが当たり前のように言葉を返す。
「行ったことがないから無理」
そう答えたケビンは、ちょちょいと転移を使ってベルトランを皇都へ飛ばしたのだった。
「これで、うんちく君は戦線へ送り出されるだろ」
レメインによるその後の話でわかったことは、辺境伯領の土地は全て魔王軍のものとなり、そこから繋がる周りの領地も侵攻されており、各色騎士団団長が守りについているという情報だった。
だが、本来は勇者を筆頭に魔王軍と戦うのが過去から続く定石ではあるが、その頼みの綱である勇者たちが帝国に亡命したり、次に喚び出した勇者は枢機卿を殺した上で行方をくらませたので、現段階では防衛で手一杯な状態である。
「徐々に戦線が後退していっているみたい」
「ジリ貧だな」
「そう思ったから早めに避難をしたの」
「とりあえず、レメインたちは好きに過ごしてくれ」
「そうするわね」
ケビンへの報告が終わったレメインは、リゼラやスタシアを引き連れて会議室を後にした。
そして、レメインたちが立ち去ったあとの何とも言えない空気の中で、能登が発言をする。
「ケビンさん、お願いがあります」
「却下と言ったらどうする?」
ケビンは能登が何を言い出すのか予想がついているようで、試すような口振りでそう問い返した。
「馬を乗り換えてでも現地へ向かいます」
「お前を洗脳したやつらだぞ?」
「洗脳したのは教団の権力者であり、無辜の民たちではありません」
「1人で勝てるとでも?」
そう言うケビンに反応したのは、能登ではなく剣持だった。
「私がサポートします!」
「剣持さん……」
「俺も付き合うぜ、高光。お前の背中は俺が守る」
「孝高まで……」
「雪菜が行くなら私も行かなくちゃね」
「
剣持が同行を主張すると辺志切や
「1人が4人になったところで、結果は変わらない。数の暴力に屈するだけだ」
「それでも――!」
「まぁ、待て。今回お前たちを集めた理由は、勇者に勇者らしいことをさせるというのが目的だ。場所は違えど民たちを救うため魔王に立ち向かい剣を振るうというのなら、それは勇者らしいと言える」
「それじゃあ――」
「さすがにお前たちだけだと死にに行くようなもんだ。よって、他にも人を付ける」
ケビンの言葉に能登は頭を傾げる。能登が予想しているのは、この場にいる他の勇者たちも同行させるというものだ。
そして、それは正解であったようだ。
「この前の戦争に参加した前線組で行ってもらう。俺は行かないから後方支援組はお留守番だ」
その言葉に反応を示したのは、三姉妹の長女である
「健兄は行かないの?」
「俺は俺で勇者ごっこを魔大陸でする。とはいえ、勇者たちだけだと不安も残るから、念の為に戦える嫁さんたちをサポートに付ける」
「ありがとうございます、ケビンさん!」
能登はセレスティア皇国の民を助けに行くための意見が通ったことを確信すると、ケビンに対して感謝を述べた。
そして、その後も話し合いは続き、現地でどう動くのかを煮詰めていきながら、この日の会議を終えるのであった。
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