第590話 劇団猫屋敷

 マーベラスな絶景を眺めながらケビンが余韻に浸っていると、次のお相手を決める前に声をかけてくる者がいた。


「カシャ、カシャ。撮っちゃったにゃ。女子生徒に乱暴する体育教師にゃん」


「ね、猫屋敷!?」


 とりあえずケビンは、猫屋敷がスマホを持っているかのようなポーズを取っているので、たとえアドリブが急遽入ってきたにしても、見事それに対応して見せて驚いた表情を浮かべる。


「これをネットでばらまかれたくにゃかったら……わかるにゃ?」


「くっ……いくらだ? いくら欲しい?」


「とりあえず金貨10枚にゃ」


「な、なんだと!? そんな大金――!」


「払えにゃいなら仕方がないにゃ。先生のスキャンダルがネットで拡散されるだけにゃん」


「…………わかった。払おう」


「先生がお利口さんで助かったにゃ。お金を持ってきた時に画像データを消してあげるにゃん」


 それからヒラヒラと手を振ってベッドから立ち去る猫屋敷は、自ら「数日後……」とナレーションを入れる徹底ぶりで、再びベッドの上に戻ってくる。対してケビンは、それっぽくするためにわざわざ服を着直して立っていた。


「お金は持ってきたにゃん?」


「これだ」


 ケビンはとりあえず現実感を出しておこうかと思ったのか、本当に金貨10枚を手のひらに出して猫屋敷に見せると、それを猫屋敷が受け取るのだった。


 それからケビンの目の前でエアスマホを操作して、画像データを消したことをケビンに見せたあと、また最初と同じように手をヒラヒラとさせながら立ち去ろうとする。


「あっ、思い出したにゃん。パソコンにバックアップを取ってたから、次もよろしくにゃん」


「なんだとっ!? 話が違うじゃないか!」


「違わないにゃん。スマホの画像データは確かに消したにゃん。まぁ、私もそこまで酷い猫ではにゃいから、次は金貨5枚でいいにゃ」


 そう言い放った猫屋敷が勝ち誇った顔をしてベッドから下りると、「数日後……」というナレーションがまた猫屋敷の口から出てきて、ベッドに舞い戻ってきた。


「お金は持ってきたにゃん?」


「…………ない」


 ケビンは俯きながら長い沈黙の後にそう答えた。


「ん? よく聞こえなかったにゃん。もう1度言うにゃ」


「お金はない。この前金貨10枚を支払ったばかりなのに、すぐに金貨5枚を用意できるわけないだろ!」


「……残念にゃ。先生とはいい関係が築けそうだったのに。せいぜい婦女暴行罪でニュースになるといいにゃ」


 嫌らしい笑みを浮かべる猫屋敷を見たケビンは、『寧子ねねって女優になれるんじゃ……』とふと思ってしまうほど、堂に入った演技を見せている。


 だが、ケビンとて猫屋敷にイメプレで負けていては、称号持ちの名が廃るというもの。


 それ故にケビンは寸劇のおかげで余韻から回復していた月見里に対して、密かに念話で指示を出していた。


「さようならにゃん、先生。もう会うことはないにゃ」


 猫屋敷がそう言い残して立ち去ろうとした時、猫屋敷の背後から忍び寄った月見里が猫屋敷を羽交い締めにする。


「な、何するにゃ!?」


 驚く猫屋敷に月見里は何も答えない。だが、ケビンが月見里の代わりに答えた。


「クックック……俺が何も用意せずにお前を待ち構えていたとでも? 残念だったな、お前が写真を撮って立ち去ったあと、俺も同じようにして月見里の写真を撮ったのさ」


「きょ、脅迫したのかにゃ!?」


強請ゆすりをしたお前に言われたくはないが、それをネタに月見里の体を堪能したのさ。言うなれば調教だな」


「……調教?」


「わからないか? 月見里、教えてやれ」


 ケビンが月見里にそう言うと、アドリブのきかない月見里が不安そうにケビンを見つめていたら、念話にてケビンからセリフが送られてきた。


「わ、私はもう先生の……ち……ち……」


 その念話のセリフ内容を喋ろうとする月見里が一気に顔を赤く染め上げると、ケビンは場をシラケさせないために、月見里へ催促の念話を送る。


「……調教なしじゃ生きていけないのぉぉぉぉ!」


 やけっぱち気味に絶叫した月見里によって、猫屋敷は『耳元でうるさいにゃ……』と顔を顰めてしまうが、そこは猫屋敷。何とか耐えて言葉を返した。


「ま、待つにゃ! 今ならまだ先生を追い込めて、画像データを消せるにゃ!」


「ダメ……ダメなのよ……私、もう先生を愛してしまったの……ライクじゃなくてラブなの」


「……は?」


 猫屋敷としては自分を追い詰める悪役っぽいセリフが返ってくると思っていたのだが、なんと月見里から返ってきたのは、「それ何てラブロマ?」と言わんばかりのシリアスさを出していて、下手したら勘違いを起こしてしまいそうなよくわからないセリフだった。


 こればかりは猫屋敷も意味がわからずケビンに視線を向けるが、ケビンは額に手を当てて天井を仰ぎ見ていた。


(ケビンさんも想定外にゃ? すると、さっきのはうさぎちゃんのアドリブ? ズレてるにゃ、ズレまくって大根役者にゃ……)


 さて、この勘違い出演者をどうしようかと猫屋敷は考えつつも、どう軌道を修正しようか思考をめぐらせていたら、何か策を思いついたのかケビンが先に口を開く。


「どうだ? これが俺の力だ。催眠術をかけたことによって、月見里は既に俺を愛する人だと思っているんだ。そして、俺に尽くすように暗示をかけている」


(ナイスにゃ! うさぎちゃんの訳のわからないセリフを催眠術のせいにするなんて、ケビンさんは機転が利くにゃ! これは乗っとかないと修正が厳しいにゃ)


「さ、催眠術!? まさか私にもその催眠術をかけるつもりにゃ!?」


 ケビンの軌道修正に猫屋敷が乗ってきたことによって、ケビンは心の中で安堵するとともに、表面上では悪役らしく悪い笑みを浮かべていた。


「まだ催眠術をかけるつもりはない。嫌がるお前を抱く方がきっと楽しいと思ってな」


「や、止めるにゃ! は、離すにゃ、月見里さん!」


 猫屋敷はピンチを演出するかのようにして、月見里からの羽交い締めを抜け出そうと藻掻くが、実際は派手に動いているというだけで、ほとんど体に力を入れていない脱出である。


「月見里、そのまま押さえておけ」


 ケビンがそう言いながら猫屋敷に近づくと、ブレザーの上着のボタンを外してブラウスを触れるようにした。


 そして、猫屋敷がちゃんと意識できるようにゆっくりと時間をかけて、ブラウスのボタンを外していく。


「や、止めるにゃ! が、画像データはバックアップも含めて消すにゃ! だから止めるにゃ!」


 だが、ケビンから返ってくるのは関係のない言葉だった。


「ほう……不良のくせに下着は可愛いのをつけてるじゃないか」


「み、見るにゃ!」


 ケビンの視界に入ったのは、今日【パロナプ】で買った上下セットのブラの方で、青と白のボーダーのやつだ。


「それにしても、小さめだな。月見里の方が大きいか」


「お、お前には関係ないにゃ!」

(胸のことは気にしてるから、たとえ演技でもちょっと傷つくにゃ……)


 ほんの僅かだけ猫屋敷の表情が悲しげになったので、ケビンは慌ててフォローのセリフを急遽入れた。


「気にするな。これからは俺が揉んで大きくしてやる」


「くっ……触るにゃ変態教師!」


「いつまでその威勢が持つかな?」


 そしてひと通りケビンが堪能すると、猫屋敷はケビンを睨みつけて声を上げる。


「絶対に許さないにゃ……警察にレイプされたって言うにゃ!」


「まだ反抗的なようだ。それでこそ調教のしがいがある」


「カシャ、カシャ。これで記念撮影もできたし、お前が従順になる時が楽しみだ」


「この外道!」


「お前に言われたくはないな」


 それからケビンが服を再度着直して「数日後……」と語り始めたら、猫屋敷の真似をしてナレーションを演じていき、月見里や猫屋敷は体操服を着せられてしまう。


 そして念話によってケビンの指示が月見里たちに伝えられると、月見里たちは観客となっている残り4人のうちから龍宮の傍まで近づいたら、話しかけるのだった。


「龍宮さん、ちょっと相談があるぴょん」

「体育が終わったあとだし、ちょうどいいにゃん」


 対する龍宮も今までの流れから、何かしらの寸劇が始まるのだろうと予測して、柔軟に対応して見せる。


「相談ですかわん? 次はお昼休みですから、着替える時間にも余裕がありますし問題ないですわん」


「よかったぴょん。誰にも聞かれたくないから体育倉庫に行こうぴょん」

「人に聞かれると恥ずかしいにゃん」


「そういうことでしたら体育倉庫に行きましょう」


 それから3人が体育倉庫という名のベッドに移動すると、そこで座り込んで話し合いを始める。


「実は相談っていうのは嘘で、龍宮さんをここに連れてくるのが目的だったぴょん」


「はい?」


 戸惑う龍宮を他所に猫屋敷は龍宮が逃げられないようにするため、後ろから羽交い締めにして拘束する。


「ね、猫屋敷さん!?」


「先生、準備が整ったにゃん」


「えっ!?」


 龍宮は更に加速する困惑の中で、ベッドの端で待機していたケビンが近づいてくるのを見た。


「せ、先生!? 倉庫の中に隠れていたんですかわん!?」


「ようこそ、体育倉庫へ」


 ニヤニヤとした表情のケビンが3人のところに到着する。


「マットの座り心地はどうだ? この日のために2人が綺麗に体育倉庫を掃除したんだぞ。俺も“脅威の嚥下力”が売りである、吸い込む力が強いパイソンの掃除機を持参して掃除したんだ」


 その言葉を聞いた龍宮は視線を巡らせると、確かに今まで見てきた体育倉庫が埃っぽくないことを感じ取る。だが、今は悠長にそのようなことをしている場合ではない。


 そのことに気づいた龍宮は、後ろにいる猫屋敷に対して声を上げる。


「猫屋敷さん、離してください!」


「無理にゃ。先生の言うことは聞かないと悪い生徒になるにゃん」


 不良という設定をつけていた猫屋敷がぬけぬけとそう言った。それを聞いた龍宮は猫屋敷に頼るのをやめて、月見里に矛先を向ける。


「月見里さん、あなたは真面目な生徒だったはずだわん。どうしてこのようなことに加担するのですかわん!?」


「先生を愛してしまったから……」


 今回に限っては場の流れにより月見里のアドリブも活きたのか、特に違和感なく享受されていた。


 そのようなやり取りをしている中でケビンが龍宮に近づこうとすると、龍宮は抵抗のために、まだ自由である脚をばたつかせてケビンの接近を妨害しようとする。


「面倒だな。確かロープがあったはず」


 そう言うケビンが龍宮に背を向けてから、物探しのパントマイムを披露しつつ【無限収納】の中からロープを取り出すと、さもありましたと言わんばかりの演技をした。


「おっ……これだ、これ」


 そのロープを見た龍宮が戦慄する中で、ケビンは月見里に龍宮の脚を押さえつけさせたら、猫屋敷によって上手く動かせない龍宮の両手を、後ろ手にはせず体の前で縛り上げる。


「よし、これで手の自由は奪った」


 そして、ケビンは【無限収納】の中に着衣をしまうと、いきり立つ愚息を龍宮に見せつけた。それを見させられている龍宮は、顔を青ざめさて後ずさりをしようとしたのだが、龍宮の後ろに控える猫屋敷によってそれは阻まれる。


「これから撮るお前のいやらしい画像を、ネットで拡散されたくなかったら無駄な抵抗はやめるんだな。さぁ、ご奉仕しろ」


「なっ!? 何を言っているんですかわん!」


 あからさまに嫌悪感を抱く龍宮に対して、ケビンは駆け引きとも言える、とある提案をした。


「もし上手くできたらそれ以上の行為をやらないで、お前の身を解放することも考えないでもないぞ」


「ほ、本当ですかわん?」


「それはお前の頑張り次第だ」


 疑いと怯えの目を向ける龍宮はケビンから言われたことを真に受けて、覚悟を決めた龍宮が恐る恐るご奉仕を始めるのだった。


 だが、龍宮の設定上はそういう知識や経験がない生徒ということにしており、拙いものになってしまう。


 その後はいつも通りにケビンが龍宮を抱いて余韻に浸っていたのだが、ここで思わぬ乱入者が現れる。


「バタンッ! そこまでだぴょん!」

「先生の悪事はここまでにゃん!」

「龍宮さん、今助けるわん!」


 体育倉庫という名のベッドに上がってきたのは、今まで観客に徹していたジェシカたちだった。


 そのジェシカたちは劇に合わせるためか、着ていた衣装を脱いで体操服に着替えている。


「龍宮さんが連れていかれるのをたまたま見たから探していたら、こういうことだったのかぴょん!」

「もう既に手遅れだけど、これ以上は酷い目に合わせないにゃん!」

「今すぐ助けを呼んでくるわん!」


 そう言った3人のうち、ウルリカが助けを呼ぶために動き出そうとした瞬間、ケビンが先に行動に移した。


「そうはさせるか! くらえ、催眠術!」


「「「なっ!?」」」


 なんちゃって催眠術を発動したケビンに合わせてジェシカたちが驚愕すると、そのまま体が動かせない演技をし始める。


「俺の催眠術にかかった気分はどうだ? 体が自由にならないのはさぞ不安だろう」


 悪い笑みを浮かべながらにじり寄ってくるケビンに、ジェシカたちは戦々恐々としてしまう。


「くくくっ……お前たちも抱いてみたいと思っていたんだ。まさかお前たちから来るとはな。飛んで火に入るなんとやらだ」


 そのままケビンはジェシカたちを押し倒していき、本能の赴くままにジェシカたちの体を蹂躙していく。


 それからもケビンは月見里たちに加え、ジェシカたちも心ゆくまで抱いていき、いつもの朝までコースを激しく燃え上がらせ、6人が6人とも足腰立たなくされてしまうのであった。

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