第540話 語られる真実

 ケビンが無敵たちを招き入れてテーブルでの作戦会議を始めていくが、未だ無敵に身バレしていないラクシャスこと九鬼は、無敵たちとは離れた場所を陣取っており、何がなんでも中二ごっこをしている今の状況をひた隠しにしようとしていた。


 そして、作戦会議だと言うのに生徒会長はミートソーススパゲティをおかわりするほど夢中になっており、新たに来た百鬼なきり、千喜良、千手の3人組は、目の前のケーキに夢中となる。


 更に【オクタ】たちはメイド喫茶と執事喫茶の再現をケビンに頼みこみ、ケビンは面倒になったのかメイド隊を帝城から転移させたら男子たちの相手をさせ、女子たちにはそれぞれの好みの執事を再現して分身体に相手をさせた。


「よし……うるさいのはこれで静かになった。これからのことで作戦会議を始める。まずは台本通りに進んでない部分をどうするかだが……」


「それは健兄のアドリブが原因じゃない? 私たちを仲間にした時点で台本からかけ離れたでしょ?」


「それは途中までだ。そこから勇者が俺に挑みに来るという部分で修正がなされた」


「それも健兄のうっかりで身バレして流れたよね?」


「うっ……」


「そもそもうっかりの連続だよね?」

「おにぃのうっかりは昔から」

「にぃはうっかり屋」


 ケビンのうっかりでどんどんと身バレしていったことにより、そのことを指摘されるとケビンは反論できずにいたが、このままでは話が先に進まないと思い、軽く流しては団長たちと残りの勇者をどうするか意見を募るのだった。


「ケビンさん、団長のことなんですけどヒューゴは死んだのですか?」


 戦場から姿を唯一消しているヒューゴのことをガブリエルが尋ねると、ケビンはなんてことのないようにそれについて述べていく。


「あいつなら祖国に飛ばしておいた。今頃は自分の部屋で寝ているんじゃないか?」


「え……闇に飲まれて死んだのではなかったのですか?!」


「そもそも、今回のゲームはゲームだから死人を出すつもりはない。あれは恐怖と無力感を与えるための演出で、あの闇は飲み込んだ者の意識を奪い、あとは指定した場所に転移させるただのイタズラだ」


「イタズラ……」


「ね、私の言った通りだったでしょう? これは最初からゲームなの」


 ケビンの回答にガブリエルが唖然としていたら、サラが戦った時のやり取りを伝えていたのだが、ガブリエルは放心したままでサラの声は届いていないようだ。


「ケビン、お前が飛ばした竜也はどうなってる?」


 ケビンとガブリエルの話からの流れで無敵がホームランされた月出里すだちのことを聞き出すと、ケビンはそれに対して殺していないことを伝えたら、本人は勇者サイドのどこかに落ちてるだろうと述べて月出里すだちの話はさっさと終わらせるのである。


「結局のところ、無敵たちがここにいるからあっちは今何人だ?」


幻夢桜ゆめざくら君があそこにいるから、向こうにいるのは飛ばされた月出里すだち君を含めると15人ね」


 そう言う結愛ゆあは、ケビンの配慮で幻夢桜ゆめざくらを閉じ込めている結界が真っ黒に塗りつぶされているためか、中で何が起きているのかもわからないので比較的落ち着いていられた。


 奇しくもそれは他の生徒たちも同様であり、見た目的には真っ黒な箱が置いてあるくらいにしか見えていないので、気分を害するようなことにはならないで平静を保てている。


「団長5人に生徒が15人か……それでこっちは結愛ゆあと生徒で24人」


 ケビンがこの場にいる生徒の数を数えた時に、ケーキをパクパクと食べていた百鬼なきりと千喜良が条件反射でそれに反論してしまう。


「うちは仲間になったつもりはないし!」

「私もぉぉぉぉ!」


「それじゃあお前ら2人は飲み物代とケーキ代を払え。飲み食いした分の合計金額は1人大金貨50枚、端数はまけといてやる。あと残りのケーキは没収だ」


 ケビンがそう告げると百鬼なきりと千喜良の前にあったケーキが消えてしまい、それは飲み物やキープしていた物のみならず、食べかけの分まで対象になっていたようで、2人の前は何もない状態となりフォークを持ったまま固まってしまう。


「バカね……」


 そのような2人の行動に千手は呆れ果ててしまうが、自分だけは反論していないので目の前のケーキを美味しくいただいているのだった。


「大金貨50枚っていくらだし……?」

「えぇーと……金貨が10枚で大金貨1枚だから……金貨が500枚……」


「つまりいくらだし?」

「ちょっと待って……今計算しているから……」


 元々頭の回らない百鬼なきりが千喜良に金額を尋ねて答えを聞き出そうとすると、それを見かねた十前ここのつが答えを教える。


「5千万だ」


「「ふえっ!?」」


「ギルドカードで残高がいくらあるか桁数を数えるんだ」


 十前ここのつから指示を受けた2人が慌ててギルドカードを取り出すと、残高を表示させて声に出しながら桁数を数え始めた。


「一、十、百、千、万、十万、百万……あれ? 一、十、百、千、万、十万、百万…………ない……100万ちょっとしかない……」

夜行やえちゃん……私もない……」


 2人が自分の口座の残高では足りていないことに愕然としていると、ケビンは更に追い討ちをかけていく。


「この国ではお金が支払えない場合は借金奴隷となる。借金奴隷は当然借金を返すまでは奴隷から解放されない」


 それに対する百鬼なきりや千喜良の反応は、飲み食いした後だというのに逆ギレという名の反論である。


「ちょ、ぼったくりだし! ケーキと飲み物が5千万なんて聞いたことないし! コンビニなら数百円で買えるっしょ!」

「そうだ、そうだぁぁぁぁ! 減額を求める!」


「元の世界の物価や通貨と異世界においての物価や通貨とでは、価値が根本的に違う。お前たちが食べたケーキのレシピをこの世界で売るとしたら、希少性が高くそのくらいの価値になる。将来的な売り上げを考えると下手したらそれ以上の価値だな。何故ならこの世界の人間はまず製法を知らない。材料が何なのかも知らない。それが何処にあるのかも知らなければ、どう作るのかも知らない」


「た、卵は普通に売ってるし!」

「ミルクだってあるぞぉぉぉぉ!」


「それじゃあお前たちは卵とミルクだけでケーキを作るんだな。俺はそんなもの食べないが。飲むなら別に構わないけど」


「……さ、砂糖だってある……し……」

「……夜行やえちゃん……それ高級品……」


 百鬼なきりの言葉が尻すぼみしていくと、同じく言葉に覇気のなくなった千喜良が百鬼なきりに弱々しくツッコミを入れるが、そのような2人のことなど気にもしないケビンは、サクッと2人の首に首輪を転移させるのだった。


「おめでとう! これで君たちは今から俺の借金奴隷だ。頑張って卵とミルクと高級砂糖でケーキを作ったら、それを売って借金を返済してくれ。飲み物のままだったら俺が試飲しても構わないぞ。ミルクセーキとして飲めるからな」


 ケビンが楽しそうにそう語らっている中、百鬼なきりと千喜良は無敵たちに助けを求めて何とかならないか抵抗を試みる。


「俺の残高は200万ちょっとくらいだな」

「俺もだ」

「私もよ」


「足りないし……」

「うぅぅ……」


「そうだ! 月出里すだちは? あいつはいくらくらい持ってる感じ?」


「竜也はカジノでボロ負けして貯金がほぼない」

「のめり込むなと言ったんだがな」


「え……ギャンブルにハマるとか馬鹿っしょ」

「極貧猿ぅぅぅぅ!」


「そもそも、ギルドの報酬は全員で割ってんだ。億万長者には程遠いだろ」

「あと、竜也ほどでないにしろ無駄遣いしすぎだ」

「高級なお菓子ばかり食べるからよ」


「だって美味しいし……」

「九鬼君用に探している時にハマったんだもん……」


 百鬼なきりと千喜良がしょぼんとしている中、無敵がそれを見かねたのかケビンに交渉を持ちかける。


「仮に百鬼なきりと千喜良が仲間になったらどうなる?」


「そうだなぁ……借金を半額にすると考えなくも――」


「なる! うち、ケビンの仲間になる!」

「私もなるぅぅぅぅ!」


「バカ……話は最後まで聞きなさいよ……」


 ケビンの回答に間髪入れず百鬼なきりと千喜良が反応したら、それを聞いていた千手が頭を抱えてしまうと、意味のわかっていない2人は首を傾げて千手に問いかけた。


「どういうことだし」

「借金半額だよ?」


「ケビンさんは『考えなくもない』って言おうとしたんだと思う。つまり貴女たちが仲間になっても、借金が半額になるんじゃなくて“考える”という行動をとるだけよ」


「「え……」」


「せっかく無敵がいい条件を引き出そうと交渉を始めたのに、すぐさま仲間になるって言ったら、その時点でもう終わりじゃない」


「そ、そんなの詐欺だし!」

「詐欺だぁぁぁぁ!」


「『考えなくもない』と言って、それを履行するために考えるんだから詐欺にはならないわよ……」


「さっきのなし! 仲間はなし!」

「私もぉぉぉぉ!」


「鬼っ娘、チェケっ娘……“覆水盆に返らず”という言葉を知っているか?」


「鬼っ娘じゃないし……わかんないし……」

「略された……私は知ってる……」


 それからケビンは言葉で説明するよりも百鬼なきりのために実践させることにすると、コップの中に水を入れてそれをテーブルの上にこぼした。


「鬼っ娘、こぼれた水を全てコップの中に戻すんだ」


「え……無理っしょ。馬鹿じゃね?」


 百鬼なきりに馬鹿呼ばわりされたケビンはこめかみがピクピクしてしまうが、ここはグッと堪えようと意志をしっかりと保ち、続きの話を再開させる。


「……つまり、こぼれた水は元に戻らない。1度起きてしまったことは元に戻せないということだ。鬼っ娘たちの場合で言えば、1度口にした言葉は取り消せないということだな」


 実践と説明によって百鬼なきりが言葉の意味を理解したら千喜良と2人で気落ちしてしまうが、ケビンの話は更に続いていく。


「だが、俺は鬼っ娘の様にそこまで鬼ではない」


「だからうちは鬼っ娘じゃないし……名前で呼べよぉ……」


「はぁぁ……仕方がない。話を最後まで聞けよ、夜行やえ? 俺の店でアルバイトをするのなら、借金を帳消しにし――」


「する! うち、アルバイトする!」


「……夜行やえちゃん……」

「……夜行やえ……」


 千喜良が今度は引っかからずにケビンの話を聞いていたのだが、百鬼なきりはまたしても『帳消し』の部分に反応して見事に釣られてしまうと、千喜良と千手は素直すぎる百鬼なきりに溜息が尽きない。


「はぁぁ……無敵、ちょっとどころじゃなくて夜行やえは危険だぞ? そのうち、変な壺でも買わされるんじゃないか?」


「いつもは千手が面倒を見ているから、そこら辺は問題ない」


 結局のところ横道に逸れた話は百鬼なきりの成長が見られないため後回しにして、ケビンは元々の議題であった団長たちと勇者たちの処遇を決めるための話し合いを再開させる。


 そして話し合いの結果は、まずバングルの効果を消して教団から解放するということになると、ケビンは無敵たちに今まで受けた教団関係者からの指示は暗示による洗脳で履行する必要はないと、最終的な暗示からの解放を行ってからバングルの不利効果を打ち消して、元々の機能は据え置きにしたのだった。


 それからケビンたちが勇者サイドの所まで足を運ぶと、既に勇者たちは傷を癒し終えていてこれからどう動くかの話し合いをしていたようだが、ケビンが現れたことにより再び団長たちや勇者たちに緊張が走る。


 そのような中でケビンは団長たちと勇者たちを別々で結界内に閉じ込めると、団長たちの声が勇者たちに届かないように施したら、フィリア教団の技術が如何程のものなのか試すことにした。


「女神フィリア様の名のもとに耳を傾けたまえ。勇者たちよ、総団長の戦闘中にベッファの述べたことは虚言である。騙されてはならない。あれは勇者たちを利用しようとする悪である。女神フィリア様の加護のもとに」


「「「「「導きをもって子羊を救わん」」」」」


 タイラー以外の団長が騒ぎ立てている中で、教団関係者でもないのにすんなりと魔導具の効果を使うことができたケビンは、そのザルさ加減に呆れ果ててしまう。


「ザルだな」


「ザルぅぅぅぅ!」


「千代、いつまでそれを言ってんだ!」


 ケビンの言葉をオウム返しした千喜良に反応したのは、聞き間違いをした月出里すだちであった。


「三下が回復してやがる」


「三下ぁぁぁぁ!」


「千代、テメェどっちの味方なんだ! そいつは魔王だぞ!」


「え、もちろん魔王様の味方だし」


 借金奴隷という身上のためか、千喜良はあっさりと寝返ったことを口にすると、それを聞いた月出里すだちが更に騒ぎ始めたので、ケビンが月出里すだち個人を囲む結界を張って消音を付与する。そうすると、叫んでいるように見えるだけの月出里すだちが完成したのだが、そのような中で勅使河原てしがわらは、先程の千喜良の発言から読み取れたことを口にしていくのだった。


「千喜良さんの言葉とそちらにいる所を鑑みると、無敵君たちは寝返ったんですの?」


「寝返るも何も、最初から俺は俺の目的のために動いている」


「その方は倒すべき相手なのですよ」


「生徒会長にやられているようじゃ、どの道お前たちでは魔王を倒せない。それに、手段を選ばない頼みの綱である“帝王たる”幻夢桜ゆめざくらはあのザマだ」


 そう答える無敵が遥か後方で放っておかれている黒い箱に対して、見向きもせずにサムズアップの形でクイッと指し示すと、勅使河原てしがわらはその指し示した先にある黒い箱に視線を向ける。


「あの中に幻夢桜ゆめざくら君がいますの?」


「ああ、閉じ込められている」


 無敵からそう伝えられた勅使河原てしがわらは、信じられないようなものでも見るかのように黒い箱に対して注視した。いくら正々堂々たる戦いをしようとしない結果重視の幻夢桜ゆめざくらであっても、自分よりかは遥かに強くなっていることを、生徒会長との戦いを見てから気づいてしまっていたからだ。


 それを黒い箱に閉じ込めるということを成し遂げている魔王に対して、勅使河原てしがわらや話を聞いていた他の生徒たちは戦慄を覚えずにはいられない。


「ぶっちゃけると、魔王はこの戦いを遊びでやっていると言っていた。つまり、最初から俺たちは手加減されていたんだ。もし仮に本気を出されていたら、戦う前に蹂躙されていたかもしれない」


「それ程までに……」


「まぁ、教団の言う魔王の強さは嘘っぱちだったってことだろ。向こうからしてみれば倒せれば儲けもの、倒せなければまた新たに召喚すればいいだけの話だ。アイツらにとって俺たちは単なる戦争の駒なんだよ。ということで、ここからは魔王からの提案だ。お前たちが素直に従うなら教団からの保護。従わないのなら教団の駒として一生を終えろとお達しだ」


「ですが! 教団の後ろ盾を失っては元の世界に帰る方法が――」


 無敵伝いに聞く魔王からの提案に対して勅使河原てしがわらは、教団が女神なしに勇者召喚を行えるのなら、返還の方法もその教団の保持する資料に何らかのヒントがあるのではと考えているようで、世界を股に掛けているフィリア教団という後ろ盾を失うことを恐れていたが、無敵は更なる事実を突きつけていく。あくまでも魔王からの情報として、恩のあるタイラーの名前は口に出さずに。


「……俺たち勇者の装備している教団から支給されたバングル……魔王が言うところによると、俺たちのバングルには装備者を洗脳する効果が付与されているらしい」


「そんなわけが――!」


「それなら何でさっきの魔王の言葉をすんなり受け入れた? 敵対する悪の親玉だぞ? 教団から派遣された俺たち勇者が、魔王の言葉に耳を傾け了承するなんておかしいと思わないのか? このバングルで記憶は操作できないみたいだから、その時のことが頭に残っているはずだ」


 無敵の言葉を聞いた勅使河原てしがわらは、記憶に新しい先程のことを思い出しては顔を青ざめてしまう。


「『女神フィリア様の名のもとに』という言葉と、『耳を傾けたまえ』という言葉を連続して言えば発動するらしい。『女神フィリア様の加護のもとに』が暗示かけ終了の言葉となる。今までの記憶の中でそのワードを言われていた指示というのは、全て洗脳済みの指示だということだ」


「……そんな……いったい私たちは何のためにここまで頑張ってきたと……」


 とうとう勅使河原てしがわらは今まで信じてきていたものが崩れ去ってしまい、その場でへたり込むと茫然自失となってしまうのだった。


「これで俺たちが魔王側にいることが理解できただろ? 洗脳なんかしてくる教団より、戦いを遊びだと言っている魔王の方がよっぽど信用できる」


 無敵がそう言い終えると勇者サイドの生徒たちは呆然としてしまう者や、洗脳という団長たちの裏切り行為に非難の言葉を浴びせる者もいた。そのような中でケビンは憤る生徒たちに声を上げる。


「静まれ! 今から1時間やる。我に寝返るものは我に従え。それが嫌な者は何処へなりと好きな所に消えるがよい。その場合は我に刃を向けた罰として国外追放だ。帝国への入国は今後一切禁ずる」


 こうしてケビンがカッコよく魔王らしさを見せつけて、ザワザワと騒ぎ立てる生徒たちを静かにさせたのだが、きっと仮面の下ではドヤ顔をしているに違いない。そして一喝された勇者サイドの生徒たちは、これからのことを話し合っていくのであった。

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