第541話 ゲームの後片付け
ケビンに一喝された生徒たちが話し合っている中で、怖がる風でもなくケビンに近寄ってきた生徒から質問の声が上がる。
「ねぇ、魔王様」
「何だ、お前は?」
「
「ふむ。
「魔王様の言う通りにしたらケーキをくれる?」
「ケーキ?」
「うん。ずっと食べたかったけど、麗羅ちゃんが魔王様の所に行っちゃダメだって言うから」
「ケーキが好きなのか?」
「好きー! ケーキって甘くて美味しいんだよ。こっちの世界に来て探し続けたけど1個も売ってないから、ケーキを食べてる先生たちが羨ましかったの」
よもやこのようなところで生徒会長2号となりそうな生徒が出てくるとは思わずに、ケビンは
そのような後顧の憂いがある以上ケビンはすぐさま回答を出さず、
「
「うーん……生徒会長にこう言うのはいけないことだけど、節度を持った行動をしないと生徒会長とは言えないかなって……」
「合格!
ケビンの質問に対して良識的な回答をした
「やったー! 麗羅ちゃん、ケーキを食べに魔王様のところに行こ!」
「
ミートソーススパゲティの旅をしてしまう生徒会長ほどではないが、ケーキ欲しさに魔王のところへ行くことを決めてしまった
だが、この時のケビンは
それからケビンは生徒たちの判断待ちをしている間に、蚊帳の外だった団長たちの処遇を決めることにすると、団長たちの所へ足を運ぶ。
「さてお前らの処遇だが……タダで帰すのも癪だから世界旅行に行ってもらうことにしよう」
「世界旅行……?」
誰とはなしにそう呟く声が聞こえてくると、ケビンは世界旅行の内容を告げていく。それは、全員をバラバラに転移させていき、世界各地に散らばってもらうという内容であった。
「ちなみにお前らの所持金は没収だ。身一つで旅をしてもらう。お金を持っていたら楽に帰ってしまうゆえ、路銀は地道に稼ぐがよい。《ヒプノシス》」
そう言うケビンが催眠魔法をかけると、教会を頼ることや道行く人を頼るのを禁止し、自ら稼いだお金のみで旅をするように暗示をかけると、催眠状態を解除する。
「では、我からの贈り物である旅行を楽しむとよい」
最後にそう告げたケビンは1人1人別々の場所へと転移させていき、この場に残ったのはタイラーのみである。
「あんちゃん、俺は何処に飛ばされるんだ? ってゆーか、俺には催眠をかけてないよな?」
「お主はこのままだ」
「……は?」
「【団長】シリーズのシークレットを手に入れるのだろう? 大いに励むがよい。バングルの件、無敵から話は聞いておる。これは最後まで悪事に手を染めなかったお主へ対する、我からの褒美である」
「マジか……俺を飲んだくれにするつもりかよ……」
「フハハハハ! これからもどんどん帝都に金を落とすのだ!」
ケビンとタイラーがそのような話をしている中で、勇者サイドの一部の生徒たちは、団長の1人であるタイラーがお咎めなしということに抗議を上げていた。
だが、そのことについてケビンから説明を受けたら、それなら自分たちにも教えて欲しかったという、相手の立場も考えない生徒たちの主張に対してケビンが一喝すると、生徒たちは納得がいかないまま納得を強要される。
そのような時に、ケビンに対して恐る恐る声をかけてくる生徒たちがいた。
「あ、あの……」
「何だ?」
「実は――」
その生徒たちは何を隠そう、居残り組だった小鳥遊、
「責任を取るのか? このまま知らんぷりするという手もあるであろう?」
「そんなことはしない! 俺は皇都に帰ったらプロポーズするって決めてたんだ!」
「まさかまさかの死亡フラグ重ねがけですと!?」
「そういえば死んでないでごわす!」
「1回目のフラグはへし折られたみたいですぞ!」
「そもそも拙者たちが相手をしていたので死ぬわけがないでござる」
「「「なるほど!」」」
小鳥遊の主張に対して
「ふむ、そなたらは死亡フラグを建築したのか……ならば我が殺そう。なに、痛みは一瞬だ。天井のシミでも数えているうちに終わるであろう」
「魔王様直々にフラグ回収をしてしまう件」
「痛みは一瞬なのに天井のシミを数えさせようとする件」
「そもそも外なので天井はない件」
「夜まで待って星を数えるというのはどうでござろうか?」
「「「それだ!」」」
「『それだ!』じゃねーよ! 何で俺たちが死ぬこと前提なんだよ?!」
「死亡フラグを立てたせいだと小生は思いますが、何か?」
「フラグは折るか回収するか二者択一でごわす」
「いやいや、すっかり忘れてしまいスルーというのもありますぞ」
「フラグを乱立すると把握しきれないでござるからな」
小鳥遊たちと
それを聞いたケビンが【マップ】で皇都内から小鳥遊たちの暫定嫁や子供を検索すると、宿屋ではなく神殿にいることがわかったので名前を伝えて本人かどうかを確かめていき、最終的な結論を伝えるのだった。
「そなたらの嫁たちは教団に捕まって人質になっておる」
「「「「なっ!?」」」」
「恐らく失敗して戻ってきた時に再出発させるための保険であろうな。あとはそなたらを手駒にすることくらいか……都合の悪いことはバングルを使えば、都合のいいことへ変換可能であるゆえ」
「教団相手に戦うぞ!」
「やるしかねぇ!」
「何としてでも助け出す!」
「ぜってぇ許さねぇ!」
「ふむ……嫁や子供を大事に思っているのは真実のようだ。その心意気に免じて我が力を貸そう」
ケビンが小鳥遊たちにそう告げると、小鳥遊の暫定嫁たちをこの場にサクッと転移させた。
「「「「えっ……??」」」」
先程まで教団相手に戦おうという意気込みを見せていた小鳥遊たちは、目の前に座り込んでいる自分たちの暫定嫁と子供が現れたことにより、開いた口が塞がらないまま呆然としてしまう。
「シュウトさん……?」
「キョウキさん……?」
「リクさん……?」
「ソウタさん……?」
それは奇しくも赤子を抱えている暫定嫁たちも同様であり、今まで神殿に囚われていたのに視界が変わったかと思いきや、目の前に愛する人が現れて混乱が後を絶たない。
「これでそなたらの後顧の憂いは取り除かれた。今後はこの魔王の手足となりて汗水流しながら働くがよい」
一件落着と言わんばかりにケビンが決めゼリフを言ったことにより、その声に反応した小鳥遊たちの暫定嫁たちは、ケビンの姿を見てしまうとその場で悲鳴とともに気を失ってしまうのだった。
「解せぬ……」
「健兄……普通の人がその姿を見たら、そりゃ驚くよ……」
「魔王らしさを見せつけたね……」
「恐怖の魔王……」
「旦那様、いつまでその格好でいるのだ? 私としてはいつものケビン殿の姿の方が好きなのだが」
「
「あら、ケビンさんはやはりダークネスシュナイダーさんに改名されるのですか?」
「ガブっ、お前もかぁぁぁぁ!」
「麗羅ちゃん、ケビンって生徒会長と無敵君が追っかけしてた人だよね?」
「そうですわね……これで色々と納得がいきましたわ。つまり九鬼君は恐らく……あそこの仮面の方ですわね。髪色は違うようですけど背丈は同じようですし……しかも仮面がどことなく般若の面になっていますから、あれを知るのは日本にいた九鬼君しかいませんわ」
「あれが九鬼君なの? 九鬼君、久しぶりー!」
生徒会長の発言によりケビンが声を上げ、更なる天然をかましたガブリエルによって、
「私はラクシャスです。そのような名の者は知りません」
「あれー? 麗羅ちゃん違うってよ?」
「彼には彼の事情があるのですわ。中二病なんて思われたら精神ダメージが計り知れませんもの。そっとしておきましょう」
「……
「ぐはっ!」
そこへ空いているもう片方の肩へ
「
「がはっ!」
1番知られたくなかった無敵と
「ケビンさんが身バレなんかするから、関係のない僕まで巻き添いを食ったじゃないですか!!」
「ふざけんな! 今回のは俺じゃなくて、どう見ても
「そもそもその2人に身バレしたのはケビンさんでしょうが!」
「身バレしたのは
「うぅぅ……ケビンさんごめんなさい……」
「あらあら……ケビン、ガブちゃんを怒っちゃダメよ? 結構そのことを気にしているんだから」
「母さんまでっ!」
「ふふっ、もうゲームは終わったんだし、お母さんも早く“ケビン”って呼びたいの……ダメ?」
「はぁぁ……」
上目遣いにサラから言われてしまってはもう何も言い返せないケビンが、サクッと衣装チェンジするといつもの村人A服装に戻るのだった。
「おお、旦那様! もう遊びは終わりなのか?」
「誰のせいだよ……誰の……」
1ミリたりとて自分のせいだとは思っていない生徒会長がケビンにそう問うと、ケビンは疲れ果てた声で力なく生徒会長に主張するが、それが生徒会長に通じるかどうかはまた別問題である。
それから生徒たちは1人を残して魔王サイドに寝返ることを決めたのだが、1人最後まで抵抗を見せていた
「ぜってぇテメェにはケツを振らねぇからな!」
「黙れ馬鹿下。ヤローにケツなんか振られたくもねぇ。それを言うなら“ケツ”じゃなくて“尻尾”だ」
「馬鹿下ぁぁぁぁ!」
「千代、てめぇ!」
「既に三下ですらない馬鹿下に怒鳴れる筋合いはありませーん」
「クソが!」
「ぷーくすくす……語彙力なさすぎー馬鹿下だから馬鹿の下? つまり馬鹿未満? 馬鹿にすらなれないなんて……ぷっ……」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「あれあれー? 神官の
「くっ……」
口でも能力でも勝てないことを突きつけられた
「そこまでにしておけ、チェケっ娘」
「う……チェケじゃないし……」
「ぎゃはははは! チェケっ娘、チェケっ娘かよ! 既にチェケラッチョですらねえ! ざまぁ!」
「馬鹿下ぁぁぁぁ、お前がそれを言うなぁぁぁぁ!! それを言ってもいいのはケビンさんだけだぁぁぁぁ!」
「うるせぇ、テメェだっていつも人のこと馬鹿にしてんだろ! チェケラッチョが!」
「ふえっ?!」
「ぷぎゃ!」
「落ち着け千代。馬鹿下と言い争ったらお前まで馬鹿になって馬鹿代になるぞ」
「はわ、はわわ?! な、名前で呼ばれちゃった??」
「落ち着いたか?」
「む、むむ、無理無理無理! 私が抱きつくことはあっても抱きつかれたのは初めてなの!!」
「おかしいな……俺に抱きつかれると落ち着くらしいんだが……てっきりこれで怒りも治まると思ってたのにとんだ誤算だ。意味がないから離れるか」
「だ、だめ……」
「ん? 意味がないから離れた方がいいだろ?」
「も、もう少しで落ち着きそうなの……」
「やっぱり効果あったのか? 人によって時間差とかがあるのか……? いまいち自分じゃ試せないからわからないな……」
ケビンが千喜良を抱きしめて落ち着かせようとしていたが、千喜良は絶賛ドキドキ中で落ち着くどころの話ではなかった。だが、ケビンが離れようとすると、何故だか離れたくないという気持ちが押し寄せてきて、落ち着きもしないのに落ち着き始めていると嘘を言ってしまったのだ。
「千代、顔真っ赤になってるじゃん。ケビンに惚れでもした?」
「な、なに言ってるの?!
「マジっ?!」
ケビンとしては呼ばれ方にこだわっていない(不名誉は除く)ので、特に
そして、そのような2人のやり取りを見ていた
「
ふと
「ちょっと聞いてよ
「え……それをみなさんもお支払いしたんですの?」
「いや、うちと千代だけだし。仲間になるの断ったら請求された感じ? この世界だとレシピ代でそのくらいの価値になるとかって、意味わかんないっしょ。それでお金が払えないからって借金奴隷にされたし」
「借金奴隷……もしかして、そのお揃いのチョーカーはアクセサリーじゃなくて、奴隷の首輪なんですの?」
「ああ、これ? 意外とカワイイっしょ? アクセとしては最高じゃない? それよりもお金だよ、お金。
「いえ……確かにケーキのレシピを売るのであれば、将来的な売り上げを鑑みるとそれでもまだ低いですわ。この世界に独禁法なんて存在するとは思えませんし、ケーキの独占販売ができるのならその価値は億を軽く超えるかも知れませんわね。顧客を王侯貴族にした場合、軽々と利益を積み上げることができましてよ」
「ドッキリ法って何だし……驚かせるわけ? ケーキで? サプライズケーキって感じ?」
「
「
相変わらず難しいことはまともに覚えられない
だが、その後の懇切丁寧な
「ありえないし……うち……就職する前に借金まみれ……」
「
「私も協力するよ」
「千代……
「ひゃっ??」
何気にスルーされていた千喜良の状況において
「旦那様の体はいいものだぞ。私も幾度となく抱きつくが一向に飽きることがない」
「マジ?」
「ミートソーススパゲティに誓おう!」
生徒会長からそう言われてしまった
「うわ……これヤバいっしょ……癒し系アイテムだし……ちょ、
そう言って1度ケビンから離れた
「ケビンさん、ごめんなさい」
「気にするな、減るもんじゃないし。それに野郎に抱きつかれるわけでもなく、可愛い子に抱きつかれるなら大歓迎だ」
「か、カワイイだなんて……」
そして始まったケビンに抱きつくという催し物は、
「魔王様がハーレムな件……」
「立っているだけで女子を引き寄せているでごわす」
「存在が既にハーレムですぞ」
「拙者は翡翠ちゃんだけでいいでござる」
「宗くん♡」
「よく後ろから刺されないわね」
「主人公補正ってやつじゃない?」
「凄いよね」
それからケビンは勇者たちの装備するバングルの効果を打ち消すため催眠魔法をかけると、教団から指示された内容は全て洗脳によるもので履行する必要はないと伝え、最終的な解放の暗示をかけてから不利効果を打ち消した。
更に今まで放置してきたポーチの追跡魔法はもう外しても問題ないとして解除してしまうと、見かけだけの魔王城セットを回収してゲームの後片付けを終える。
「あの、魔王様? それとも陛下とお呼びした方がよろしいのかしら」
「好きに呼べ。変なものじゃなければ特に気にはしない」
「……では、ケビンさん。
「あいつはまだ反省していないからあのままだ。こっちに来た時は15、6だったんだろ? それまでの価値観が体に染み込んでいて、未だ『帝王たるこの俺』と呟いてやがる。ある意味あの根性には敬意を持つくらいだ。いや、この場合は根性と言うよりも執念か?」
「そう……ですのね……」
「あいつは昔からああなのか?」
「ええ、同じ財閥という大きなものの家庭に生まれ、子供の頃より交流はありましたけど、歳を重ねる毎に跡取りという責任感からか、不遜とも言える性格が濃くなっていきましたの」
「くだらんな。不遜なトップでは下もついてこないだろ」
「それを補って余りあるカリスマ性があったのですわ」
「カリスマねぇ……」
そのようなことを呟くケビンは黒箱を誰の邪魔も入らないマスタールームに転移させると、そこで2号に引き続き作業に従事してもらうことにしたのだった。
そしてボロボロになった大地をサクッと元通りにしたケビンは、驚愕している生徒たちへ声高々に宣言する。
「よし、魔王対勇者のイベントはこれで終わりだ。お前たちはもう教団の駒じゃないから帝都に入ることを許可する。これより帝都へと向かうぞ!」
それからケビン率いる一行はトコトコと歩いて帝都へと向かい、やがてケビンが魔王対勇者の戦いを終えて帝都に凱旋すると、民たちからいつもの如く『新しい嫁を攫ってきた』と言われてしまい、ケビンは『男もちゃんといるだろ!』と猛反論するという日常のひとコマを繰り広げる。
だが、無敵たちや九鬼とは違い、帝都に初めて入った生徒たちは盛んな街の雰囲気に圧倒されたり、ケビンの創り出したタッチパネル式の案内板に驚いていた。
「これは近代化でしてよ……」
「麗羅ちゃん、ケーキ屋さんが……ない……」
「皇都なんか目じゃないぞ!」
「国力が違いすぎる……」
そのように驚いている生徒たちを促して引率するケビンはとりあえず帝城に向かって歩き、生徒たちを城に招き入れるのであった。
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