第522話 カルチャーショック(九鬼サイド)

 桜咲く4月になると、エミリー【サーシャ】、フェリシア、フェリシティ【スカーレット】、二ーアム【ニーナ】がエレフセリア学園の5年生となり、アレックス【アリス】、シーヴァ【シーラ】、シルヴィオ【ティナ】、オルネラ【クリス】、スヴァルトレード【アビゲイル】、アルマ【アイリス】、キャサリン【ケイト】、パトリシア【プリシラ】、ニコラ【ニコル】、レイチェル【ライラ】、ラーク【ララ】、ルーク【ルル】、クラウス【クララ】、クズノ【クズミ】が4年生となる。


 次いで、ケビンの子息女で1番入学数の多い年のケネス【ケイラ】、マカリア【マヒナ】、フランク【フォティア】、ノーラ【ネロ】、ショーン【シーロ】、アドリーヌ【アウルム】、ラシャド【ラウスト】、ナット【ナナリー】、アーロン【アンリ】、バーナード【ビアンカ】、カール【シンディ】、ダン【ドナ】、エドウィン【エレノア】、ヴァレンティア、ヴァレンティナ【ヴァリス】、セレーナ【セシリー】、ミア【ミレーヌ】、アリアナ【アイナ】、ジェンナ【ジェシカ】、マレイラ【ミケイラ】、ウルヴァ【ウルリカ】、ヌリア【ナディア】、コール【キキ】、オスカー【オリアナ】、ギャリー【グレース】、アシュトン【アリエル】、リチャード【リリアナ】、オフェリア【オリビア】、イギー【イルゼ】、ハロルド【ヒラリー】、リンカー【リーチェ】、ヘザー【ヒルダ】、ジェマ【ギアナ】が3年生となった。


 そして今月新たに、ヴァンス【ヴァレリア】、テレサ【ターニャ】、ミリー【ミンディ】、ニキータ【ニッキー】、ルーシー【ルイーズ】、ジュエル【ジュリア】がエレフセリア学園に入学することとなる。


 その他で言えば、パメラとロナが生産職科の服飾コースを卒業し、アズ、ベル、カーラ、ダニエラが生産職科の調理コースを卒業して、エフィが内政科を卒業すると、ナターシャ、プリモが商人科を卒業した。


 それに伴い、ケビンはパメラ、アズ、ベル、カーラ、ダニエラ、エフィ、ナターシャ、プリモ、ロナから「卒業祝いをちょうだい、パパ」とせがまれて、ソフィーリアの入れ知恵に違いないと勘づいたケビンだったが、「くれなきゃ、パパを嫌いになる」と脅されてしまい、全員を妊娠させるに至ってしまった。


 それとは別でケビンは親バカと言われても仕方がないくらいに、パメラのための服飾専門店を帝都の1等地に用意してしまう。そのパメラは学園で習ったことと、ケビンから受け継いでいるおっぱいマイスターの技術を活かし、女性専門の下着職人の道へと進んでいく。


 そして、パメラを支持するロナはパメラと一緒に働くために、女性専門服の仕立てをすることになると、その2人が活躍するお店の従業員として、2人のために商人科を卒業したナターシャとプリモが、経営のサポートをすることになった。


 ちなみにお店の名前は、その4人が話し合ってそれぞれの名前の頭を使った女性専門服飾店【パロナプ】である。それを聞いたケビンがあまりにも安直すぎないかと再考案を提案したら、「それなら【パパラブ】にするよ?」とパメラに言われてしまい、ケビンは嬉しさはあるものの引き下がるしかなかった。


「ケビン君って親バカだね」

「わかってたこと」

「あのパメラちゃんが立派に育ったねー」


 そのような感想をこぼしているティナとニーナやクリスによって、その場にいるパメラは恥ずかしくて顔を赤らめると俯いてしまうのだった。


 そして、その翌月の5月にはカトレアの母親であるエラがケビンとの間に授かった第1子で次女のエリーゼ、リンドリー伯爵家のレメインがケビンとの間に授かった第1子で長女のレイン、同じくリゼラが第1子で長女のリズベット、更にはスタシアが第1子で長女のスーシアを出産する。


 その慶事によりカトレアは妹ができたことを喜び、リンドリー伯爵家のレメインたち3人も今となってはエラやカトレアと和解しており、お披露目をしている憩いの広場にて5人で集まり、仲睦まじく子供を抱っこして喜びを分かち合っていた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 時は遡り、舞台は九鬼がダンジョン都市を出発した後となる。


 3月にダンジョン都市を出発した僕たちは、帝国領に入って驚くべきものを目にしてしまう。


「何だ……この真っ白な石畳は……」

「ここ……まだ街中じゃねぇよな?」

「馬車がガタガタしない……」

「お尻が痛くならない……」

「こんな街道、初めて見ました……」


 そう、それは街道に敷き詰められた真っ白なタイルだった。


(ケビンさん……異世界にタイルって……転生者って隠す気あるのかな……)


 僕はケビンさんが出し惜しみなく文明開化させている街道を見てしまい、異世界人が見ればバレるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまうけど、きっとケビンさんのことだから、適当な理由を付けては躱してしまいそうだとも思ってしまう。


 それからも僕たちが帝都に向けて旅路を続けていると、街道はあんなだったのに対して、途中で寄る街とかは至って普通だった。街道だけ整備したのだろうか。確かに馬車を利用する人たちにとってはありがたいことだし、商人たちも街道が安定しているから、予定よりも行程を短縮できているみたいだった。


(流通目的のためかな?)


 結局のところケビンさんがどのような理由で街道整備をしたのかわからなかったけど、話を聞く限りでは街道整備をしたのはその土地を管理する領主たちだと言うことが判明した。ケビンさんではなかったみたいだ。


 確かにケビンさんの人となりをある程度把握している僕からしてみれば、ケビンさんが真面目に国の街道整備をするはずもなかったのだ。面倒くさいのが嫌いって豪語していることだし、国の街道整備なんて1人でやっていたら面倒くさいことこの上ないし、多分タイルだけ作って渡したに違いない。


 そのような街道整備の裏側を予想しながらも、僕たちは4月に入るとようやく目的地の帝都へと到着することになる。


「何だこりゃあ……」

「王都より凄いぞ……」

「何これ……」

「人で溢れかえってる……」

「お城が大きいです……」


(ケビンさん……区画整理の仕方がハンパないです……)


 門を通過して馬車から降りた僕たちが目にしたのは、奥にそびえ立つ帝城とそこまで伸びていく真っ直ぐな道だ。脇道を見ても真っ直ぐな道で、あたかもそれは碁盤の目を再現しているかのような、綺麗すぎる区画整理の賜物だった。


 兎にも角にも僕たちは宿屋を探そうと歩みを進めるけど、この広い帝都の中から宿屋を見つけるってかなり骨が折れそうな作業だと感じていたら、何やら案内板らしき物をすぐに見つけてしまう。


(あれってタッチパネルじゃ……ケビンさん、やり過ぎ……)


 その案内板を目にしたオリバーさんたちは物珍しそうに眺めていたけど、僕はそれを目にした時点で異世界ファンタジーが近代化していることに、もはや言葉が出ない。


 その僕が呆然と立ち尽くす中で、オリバーさんたちは現地の方に使い方をレクチャーされているようであり、興奮しながらタッチパネル式案内板を触りまくっている。確かにこの世界の人には馴染みのない物だから興奮するよね。


「スゲーぞ、これ!」

「何だこれ! 触ったら絵がどんどん変わっていくぞ!」


 そして、いつもはストッパー役のミミルさんやマルシアさんまでもが、オリバーさんたちに混じって彼方此方触りながらはしゃいでいた。


「何これ! 凄すぎるわ!」

「貴金属店はないの?! どこを触れば出てくるのよ!」


 残るベネットさんも触りたそうにしているけど、4人がはしゃぎまくっているせいで1歩引いたところからそれを眺めているだけだ。こう言っては何だけどもういい歳した大人なんだから、うずうずしているベネットさんにも触らせてあげようよ。


 それからはしゃいでいる4人を何とか宥めた僕は、当初の予定通りに宿屋を探すことを提案すると、その役目を触りたそうにしていたベネットさんにしてもらうことにした。


 いきなり役目を振られたベネットさんはオロオロしていたけど、その目がキラリと光ったのを僕は見逃さない。おずおずと案内板を触り始めるベネットさんだったけど、やはり触りたかったようで既に口元がニヤけていることに気づいているのだろうか。


「わぁぁ……凄いです……」


 そしてベネットさんが選んだ宿屋に僕たちは歩みを進めて、その宿屋で部屋をそれぞれ取るとようやく落ち着くことができた。そしてこの日は情報収集という名の、オリバーさんたちがただ単に帝都を歩き回ってみたいという探索をするための日となる。


 それから数日後、何やら皇帝の即位記念式典があるとかで、僕たちも見学することにした。どうやらケビンさんが皇帝に即位してから11年となるらしいけど、ケビンさんの年齢から逆算した僕は驚くべき事実を知る。なんと17歳の時に皇帝となっていたのだ。


 そして、17歳といえば今の僕の年齢時には既に皇帝となっていたことになる。季節が流れるのは早いもので、異世界転移した時には15歳だったのに、僕は今年で18歳になろうとしていた。まぁ、早生まれだから厳密に言うと来年の3月に18歳になる。つまり先月に17歳となったばかりなのだ。


 早生まれって1歳上の人たちと一緒になるから損した気分だ。年度をわかりやすく1月から始めて12月までで区切ればいいのに、4月から始めて3月までで区切るから、僕はその年が始まって3ヶ月目に生まれたのに、1番最後の月に回されてしまう。


 そのせいでよくあるのが「〇年生で今年で〇歳です」って体に染み付いた年度感覚で言うと、「へぇー何月生まれ?」って聞かれて「3月です」って答えたら、「ん? 早生まれなら今年で〇歳じゃなくて来年で〇歳だよね?」って聞き返されることだ。


 そうなってくると「〇年生で今年度で〇歳です」と、言わなきゃいけなくなると思う。未だかつて年齢を答える人で『今年度で〇歳です』と言う人に会ったことがない。僕の偏見だけど大抵は『今年で〇歳です』と言うはずだと思っている。


 全くもって年と年度の関係性はややこしい。信号機の色で『緑』とは言わずに『青』って言うくらいにややこしい。『赤』と『黄』はそのままの色の名で言うのに。


 横道に逸れた話を戻せば、異世界転移した時に季節が同じだったから、本来なら僕はいま高校3年生になったばかりのはずだけど、元の世界の暦がこちらと同じように進んでいるかはわからないので、向こうではまだ高校1年生のままってこともありえる。年を重ねて17歳になっているのに。


 僕がそのような感慨に耽っていると、皇帝であるケビンさんの挨拶が始まった。


「あぁぁ……とうとう毎年恒例となる俺の、俺による、俺のためじゃない演説の日が来てしまった……毎年あると喋ることなんて近況報告しかないんだよなー」


 ケビンさんは帝城の所にいるみたいで豆粒程にしか見えないけど、不思議なことに声は普通に聞こえてくる。これはケビンさんが魔法を使っているらしく、帝都中に聞こえるようにしてると都民の人が教えてくれた。


「先月、帝都外にダンジョンが出現したわけだけど、冒険者たちが連日利用してくれるから俺の懐はウハウハだ。国営ダンジョンにしたおかげで俺は大儲かりだな」


「タダで使わせてくださーい!」


「タダにしてもいいが、その代わりお守りバングルはナシだぞ。死んでも俺は責任を取らんからな?」


「やっぱり国営でいいですー!」


 今の会話を聞いた僕はビックリしてしまった。皇帝陛下の話の最中に冒険者らしき人が横槍を入れたのだ。しかも不敬罪で打首になるどころか、ケビンさんは普通に返答している。その会話の内容も僕たちに聞こえるようになっているし、帝都外にダンジョンがあることも驚きだった。


 実はここのところオリバーさんたちは帝都を渡り歩くことに夢中で、冒険者らしく冒険者ギルドとかに行ってないから、ダンジョンがあるなんて情報は知らなかったのだ。


「あとは、そうだなぁ……来月、子供が4人生まれる予定だ」


「子供作りすぎだー!」

「嫁さん多すぎだー!」


「待て待て。子供を欲しがる女性を嫁さんにしたんだから、子供を産ませてあげないと旦那としてはダメだろ。よって子供が多くても俺は悪くない。全くもって悪くない。俺は嫁さんの夢を叶えているだけだ」


「私も陛下の子供が産みたーい!」

「早く夜這いにきて孕ませてー!」


「ちょ、夜這いなんかしたら俺が怒られるだろ! ケイトは怒ると怖いんだぞ! あっ……ジトられた……」


 彼方此方から上がる都民たちの声に僕は驚きが隠せない。しかも、笑い声までしているのだ。なんかもうこれは演説と言うよりも、ケビンさんと都民たちの大々的な会話に思える。


「とにかくだ、今年もみんなで幸せになるぞ。もし不幸な人を見かけたら手を差し伸べて、それを掴まれたら救ってやるんだ。自分には荷が重かったら目安箱に陳情書を入れてくれ。それと差し伸べた手を払いのけられたら無視しろ。そんな奴は放っておいていい、俺が許す。あっ、それと陳情書で思い出したけど、目安箱に花の育て方を教えてとか入れるなよ? そんなものは花屋さんに聞け」


「あっ、それ、花屋の私が書きましたー!」


「うぉいっ! 何で専門家が素人の俺に聞いてるんだよ! 花屋ならプロだろ!」


「陛下なら上手い育て方を知ってるかなーって。綺麗な花が帝都に溢れたら幸せかもー私も幸せ、みんなも幸せ!」


「……仕方ない……あとで返事を書いておく」


「陛下大好きー! 今度育てた花をお城に持っていきますねー」


「ということだ、アルフレッド。近々お花屋さんが花を持ってくるみたいだから、受け取っておいてくれ」


「はっ!」


「陛下、それなら私には美味しいパンの作り方を教えておくれよ。お礼は娘を嫁に攫った時に文句を言わないからさ」

「母ちゃんなに言ってんだ! 大事な娘を陛下に差し出す気か!?」

「お、お母さん?!」


「お姉さんはパン屋でプロだろ! 素人の俺に聞くなよ!」


「あらヤダ、私をお姉さんなんて言ってくれるのは陛下くらいだよ。嬉しいもんだねぇ」

「母ちゃん?!」

「お母さん?!」


「じゃー私んところは美味しい野菜の育て方をよろしく頼むよ。お礼はパン屋と同じだよ」

「おいっ! まだ娘は嫁にやらんぞ!」

「うぅぅ……帝都中に聞かれちゃってるよぉ……」


「そっちの姉さんは農業のプロだろ!」


「なんだい? 陛下はこんなオバサンでも狙ってくれるのかい? 姉さんなんて言われたら困っちゃうじゃないか。私には旦那がいるってのに」

「陛下! 頼むからうちのカミさんには手を出さないでくれ! パン屋だけにしてくれ!」

「恥ずかしい……」


「おいっ! うちだってダメに決まってるだろ! 陛下、手を出すなら八百屋のところだけにしてくれ!」


「いや、パン屋だ!」


「ダメだ、八百屋だ!」


 次々にケビンさんと都民たちのやり取りが広まっていき、ちっとも演説らしくない演説が続いていると、それにケビンさんが終止符を打つ。


「ケイトがジト目で睨むからもう終わりだ。とりあえず何かあるなら目安箱に突っ込んどけ。じゃー、今年1年元気で過ごせよ。これで俺の演説は終わりだ」


 そう言ったケビンさんの演説?が終わると、都民たちは散り散りになっていく。そして僕はケビンさんの言っていたダンジョンが気になるので、オリバーさんたちに出かけることを伝えたら、冒険者ギルドに行って情報を集めることにした。


 そしてギルドで手に入れた情報によって、僕とベネットさんのペアでも制覇が可能な初心者用と中級者用のダンジョンがあることを知ると、そのことをベネットさんに伝えて、明日からさっそく潜ってみることにした。それと、オリバーさんたちには上級者用ダンジョンがあることを伝えると、オリバーさんたちも明日から上級者用ダンジョンに潜ることにするそうだ。


 そして翌日となり、みんなでダンジョンに向かったら、現地でそれぞれ攻略するダンジョンに別れていく。


「初心者用から行ってみましょう」


「そうですね」


 まずは初心者用ダンジョンを攻略してから、中級者用ダンジョンに挑戦しようと2人で話し合うと、僕たちは初心者用ダンジョンの受付へと向かう。


「ここに名前とランク、それとソロなのかパーティーなのかをご記入ください」


「わかりました」


 僕とベネットさんがそれぞれ記入を終えたら、受付をしている騎士からお守りは必要かどうか聞かれたので、そのお守りの効果がわからないので聞いてみると、緊急処置用のお守りであることや盗難防止措置が施されていることがわかった。


 さすがにEランク以下レベルのダンジョンと聞いているので、僕は問題ないけどDランクのベネットさんにはもしものことがあるといけないので、念のために借りておくことを提案してみることにする。


「僕は必要ないけどベネットさんは念の為に借りておきますか?」


「はい、そうしておきます」


 そしてお守りのレンタル料を支払ったベネットさんがバングルを嵌めたところで、僕たちは初心者用ダンジョンの中へと足を踏み入れた。


 さすが初心者用ダンジョンだけあってか、1階層目で出くわした魔物は頑張れば子供でも倒せると言われているスライムだった。


「これは……本当に初心者用みたいですね」


「はい。久しぶりに戦うような気がします」


 スライムと出会ってしまった僕たちは特に苦労することもなく倒してしまうと、そのまま買っておいた地図を見ながらサクサクと進むことにする。


「地図によるとしばらくはスライムの階層が続くみたいです。それからホーンラビットとかゴブリンとかに、敵の難易度が上がっていく感じですね」


「ダンジョンなのに親切設計なんですね」


「ここはダンジョン都市のダンジョンと違って、1階層ごとにボス部屋があるみたいです。最初のボスはスライムみたいですが、階層を重ねるごとにスライムの数が増えていくみたいです」


「本当に初心者用なんですね」


「これなら午前中のうちに結構深くまで潜れそうですね」


「他には違う点とかあるんですか?」


「あとは安全地帯がないのと、1階層ごとに転移魔法陣があるくらいです。トラップや宝箱の配置はダンジョン都市と一緒なので、ランダムみたいです」


 そのような会話を続けながらも、僕たちは片手間でスライムを倒しながらサクサクと進んでいく。そして、さすがにこれは張り合いがないということで、トラップだけに注意しながらどんどんと下へ下りていくことにした。


 その時の話し合いで、宝箱はさしていい物が入っていないだろうという予想により、たまたま見つけたら開けるようにして、他はあえて探し回ることはしなくてもいいだろうという結論に至る。


 そして僕たちは地図を見ながら最短距離を進んだおかげで、午前中のうちに20階層の攻略まで終わらせることに成功すると、安全地帯がないので一旦外に出てからお昼休憩を取ることにした。


 そして、受付でダンジョンから出てきた手続きを済ませると、ベネットさんがバングルを返却しそうだったのでそれを慌てて止める。


「この付近で軽食を摂れば窃盗容疑にはならないから、そのまま嵌めておいた方がいいですよ。多分僕の予想だとそれを返却したら、休憩後に潜る時にまたレンタル料を払わなきゃいけなくなりますから」


「あ、そう言われてみればそうですね」


 多分ケビンさんのことだから再レンタル料を狙っていると思っていたので、ベネットさんを止めてから返さないように促したけど、チラッと耳に聞こえてきたのは受付騎士さんの舌打ちだった。


「え……」


「あら、どうかされましたか?」


「いま……舌う「入り口に留まられては混雑してしまいますので、ご休憩をされる場合は邪魔にならない所でお願いしますね」……はい……」


 どうやら僕の読みは当たっていたようで、耳にした舌打ちも空耳ではなかったようだ。受付騎士さんが怖いので僕はベネットさんを連れて、入り口を利用する冒険者の邪魔にならないように、なおかつ盗難防止の装置が働かないように受付から離れすぎにならない所で休憩を取ることにした。


「何事もなければ、今日中には初心者用ダンジョンを制覇できそうですね」


「そうですね。残り10階層ですけど、油断せずに行きましょう」


「もし時間に余裕があったら、中級者用ダンジョンを覗いてみるのもありかも知れません」


「中級者用ダンジョンは全部で70階層だから、すぐには制覇できそうにありませんね」


「僕達だと上級者用ダンジョンは無理なので、気長に攻略していきましょう」


「はい」


 その後、お昼休憩を取り終えた僕たちは21階層目から攻略を再開させて、予想通り午後からの時間を全部使うことなく初心者用ダンジョンを制覇できたので、残りの時間は中級者用ダンジョンの行ける所まで行こうという話し合いのもと、攻略してみることになるのだった。


 それから中級者用ダンジョンの10階層目まで攻略できた僕たちは、キリもいいのでここで攻略をやめることとして外に出たら、受付で忘れないようにお守りバングルを返却すると、明日も来るかどうかの話し合いが始まる。


「順調に攻略できて良かったです」


「明日もダンジョン攻略に来ますか?」


「ベネットさんが良ければ、明日もまた攻略に来ましょう」


「私は構いません」


「それでは明日もまたよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 そして、明日もまたダンジョン攻略の予定が立ったところで、僕たちは上級者用ダンジョンの受付に向かい利用者リストを見せてもらうと、オリバーさんたちはまだ攻略しているようなので待つかどうか話し合ったけど、まだ閉店までの時間が結構あるので先に帰ることにしたのだった。


 それにしても開店時間と閉店時間を決めてるなんて、ケビンさんはお店感覚でダンジョンを運営しているようだ。転生者だからか転移者みたいに帰る方法を見つける必要がないし、結構異世界を満喫しているようで羨ましいと思ってしまう。


 僕も転生者とかだったら満喫できたんだろうけど、お父さんのことが気がかりだからあまり羽目を外して楽しむわけにもいかない。きっと心配してるよね。もしかしたら、もう1年以上は行方不明者扱いになっている可能性もあるし、1番丸く収まるのは元の世界に戻ったら召喚された日のままってのが理想的な気がする。


 かと言って帰る方法を見つける手立てもないし、ラノベ通りだとケビンさんを倒せばイベントが進みそうだけど、100%無理。絶対に無理。1人で国を滅ぼせるような人と戦ったって勝てる気がしない。


 しかも、奇跡的に倒せそうな状態まで追い込んだとしても、転移でどこへなりとも逃げられちゃうし、逃げられたら捜し出すのに苦労しそうだ。きっとその間に全回復していると思うし、完全にエンドレスゾーンに入る典型的なパターンだ。まぁ、もしもの話で奇跡的に追い込んだという流れだから、2度目は絶対になくてエンドレスになることはありえないんだけど。


 いざとなったらケビンさんを頼って、元の世界に帰る方法の手がかりか何かを見つけ出せればそれでいいかな。そっちの方がケビンさんを倒すよりも確実に簡単だし、何より帰る方法が見つかる可能性がある。それにケビンさんなら転移とかでこっそり神殿に侵入して、召喚の間に刻まれていた魔法陣とかを見たら何かわかるかもしれない。


 兎にも角にも今はできることからコツコツとやっていくしかないので、まずは明日からもダンジョン攻略を頑張ろう。とりあえずのところは、目指せ中級者用ダンジョン制覇を目標にして、ベネットさんと2人で頑張るしかない。


 こうして僕は新たな目標を掲げて、ダンジョン攻略の日々を送ることになるのであった。

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