第521話 ダンジョン攻略開始(九鬼サイド)

 時は遡り1月が終わろうとしていた頃、僕が商人護衛依頼を放棄して単独行動に出たあと、同行者1名と共にダンジョン都市へと無事に到着する。


「へぇーここがダンジョン都市……」


「はい。私も来たのは初めてです」


「ベネットさんも初めてなんだ」


 ベネットさんは盗賊たちに襲われた夜、残るパーティーメンバーである男性たちからの視線に身の危険を感じたらしく、僕に無理やりついてきたのだが旅の道中でだいぶ打ち解けることができた。


 そのベネットさんは茶髪のショートヘアにブラウンアイが特徴の魔術師で、年齢は僕の1歳年上となり冒険者ランクはDランクとなっている。ベネットさんは年上なので僕が「敬語は必要ないです」と言っても、僕の方が冒険者ランクも強さも上だからと言い返してきて、僕も粘った方なんだけど結局のところ敬語をやめてくれなかった。


 そのベネットさんが先の依頼を受けた理由は、Cランクへの昇格を目指すために背伸びをして、1ランク上のクエストを受けたという顛末だった。盗賊に襲われたあとに僕と同じく依頼を途中放棄してしまったので、ギルドからの評価が下がりそうだけど良かったのだろうか。


 何はともあれ、僕たちは身の丈にあった宿屋を借りたあと、話し合った結果により明日からダンジョン攻略を開始することにした。到着したこの日は明日からのために、ダンジョンへ潜る際の必要な道具類を買い揃える日にしたのだ。


 そして翌日、ダンジョンに向かった僕たちは、1階層目からの攻略を開始することになる。


「僕のお世話になった人たちはAランク冒険者なんだけど、61階層目までしか攻略できなかったって言ってたんですよ」


「Aランク冒険者なのに61階層目までしか行けなかったんですか?」


「あの時はトラップから逃げるのに必死で走って、攻略どころじゃないって言ってましたね」


「トラップから逃げる? トラップにハマったとかではなくてですか?」


「聞いた話だと鉄球が追いかけてくるらしいです。それで魔術師の先輩は日々筋肉痛に悩まされたとか」


「うぅぅ……私、体力に自信がないです……」


「大丈夫ですよ。そのトラップは51階層目から初めて目撃したそうなんで。40階層目までは見たことも聞いたこともなかったらしいです」


「41階層目からは?」


「わかりません。その先輩たちは訓練のために師匠から51階層目に放り込まれたので、41階層目から50階層目までは未攻略なんですよ」


「そんなことができるんですか?」


「転移魔法陣で連れて行ったんじゃないですかね? 師匠はこのダンジョンの制覇者なので、100階層まで自由に出入りできるみたいです」


 僕はケビンさんの転移魔法を口外するわけにはいかないので、在り来りな理由をでっち上げたけど、ベネットさんはそれよりもダンジョン制覇者という話に食いついてきた。


「ダンジョン制覇者がクキくんのお師匠さんなんですか!?」


「ええ、1ヶ月ほどご指導いただきまして、先輩たちとは別で僕も特訓していたんです」


「だからCランクなのに、あんなにお強いんですね」


「僕はまだ全然強くないですよ。先輩たちにも勝てませんし」


「それでも凄いです! お師匠さんはやっぱりSランク冒険者なんですか?」


 その言葉を聞いた僕は、ケビンさんのサブランクを伝えることにした。さすがにXランクなんて言えないし、ケビンさんも常日頃からサブカードを使ってるみたいだから、周りに知られたくはないのだと思う。


 そして、そのような会話を続けながらも、僕たちは地道にダンジョン攻略を進めていく。その僕たちは売店で売っていた地図を頼りに足を進めていくけど、地図を買った時の注意事項としてトラップの場所は記入されていないことを教えてもらった。


 この地図は階層ごとに何のトラップがあるのかは記されているけど、トラップの場所までは記されていない。その理由として、このダンジョンはとても珍しいダンジョンらしくて、毎回トラップの配置が変わっていくそうだ。それゆえにトラップの場所が地図に記載されていないのだ。


 だけど、そのトラップの配置がわからなくても、先人たちの残した地図があるので僕たちの攻略も順調に進んでいき、ダンジョン内で迷子になるという心配もなくトラップだけに注意しながら下層へと下りていく。


 途中に何度もゴブリンやホーンラビットたちとの戦闘になるけど、外で戦うよりも動ける範囲がお互いに少ないので、僕は見敵必殺とばかりに気配探知を使いながらサクサクと倒している。


「私の出番がないです……」


 僕がサクサクと倒してしまうために、ベネットさんは杖を胸元で握りしめたままそのようなことを口にしていたので、僕は1人で手に負えなくなる時にベネットさんを頼ることにすると伝えて、それまでは僕が1人で倒すことにした。


 ぶっちゃけてしまうと、ベネットさんが仮に詠唱を始めたとしても、その間に僕が動いて倒してしまう方が早いからだ。こればかりは仕方がないこととして、ベネットさんにも納得してもらうしかない。


 そして、いよいよ僕の手に負えない数の敵が出てきて、ベネットさんもやっと役に立てると思ったのか目をキラキラとさせていたけど、うっかり僕が魔法を併用しながら倒してしまった。


「……クキくんは私のことが嫌いなんですか……?」


 僕のうっかりミスでベネットさんが瞳をうるうるさせながらこちらを見てくるので、ぶっちゃけ『面倒くさっ』とちょっと思ってしまったけど、同行を許したのは僕なので、仕方がなく次はベネットさんにも参加してもらうと伝えて、僕は敵を探す羽目に陥ってしまう。


 それから適当に敵を見つけ出したら、僕は手抜きをしつつベネットさんが魔法を当てれるように援護をしていき、何だかもの凄く回りくどい戦闘をしていたのだった。同行者って言っても、オリバーさんたちの時みたいにはいかないようだ。


 何だかんだでベネットさんにも見せ場をあげつつ、僕たちは5階層目のボス部屋に到着した。このボス部屋は情報によると10階層目にあるボス部屋の前哨戦らしく、ここで敵の動き方を把握しながら10階層目のボス部屋に挑む形となるみたいだ。何とも親切設計である。


 そして、そのボス部屋に入ると見たこともないゴブリンがいた。


「……ナ、ナイト……」


「ナイト?」


 ガクガクと震えて尻もちをついてしまったベネットさんに聞き返してみたけど、心ここに在らずといった感じで僕の声が聞こえてないみたいだった。だから僕は質問は後回しにして、目の前のゴブリンたちを倒すことに専念する。


 ベネットさんはもう使い物にならないみたいだから、とりあえず光魔法の結界を張っておいて放っておくことにした。その間に倒してしまえば問題ないだろう。


 そう思った僕はとりあえず【蒼瀧】を抜き放ち、邪魔なゴブリンからサクサクと倒していく。そして、特に苦労もせずボスを倒してしまうと、僕は放置していたベネットさんの所へ向かった。


「終わりましたけど、立てますか?」


「……クキくん……私ってお荷物ですか? 1人でボス部屋を攻略するなんて……」


「お荷物ではないですね。じっと動かずにいてくれたので。これで下手に動かれて戦闘の邪魔になったらお荷物ですけど」


「帰らなくてもいいのですか?」


「帰りたいなら帰っていいですよ。ここをクリアしたから外に出る転移魔法陣がありますし、そのあとは僕が1人で進むだけなので」


「クキくんから見れば私は役に立たないかもしれませんけど、一緒にいさせてください。少しくらいはお役に立ちたいです」


 特に邪魔さえされなければ僕としては問題なかったので、そのまま2人で攻略を再開することに決まったら、ボスを倒したあとに出てきた宝箱の中身を回収して下層へと下りていく。


 その後は適度にベネットさんのレベルアップのため、敵を残すようにして魔法の的にしてもらいながら攻略を進めていき、10階層目のボスを倒したあと11階層にある安全地帯でお昼休憩を取ることにした。


「クキくんって強いと思っていましたけど、予想を遥かに上回る強さですね。ジェネラルをあんな簡単に倒してしまうなんて……ランク詐欺です……」


「ランク詐欺って……詐欺してる覚えはないんですけど?」


「何でCランクなんですか? 本当はもっと上のランクでもおかしくない強さですよ?」


「Cランクなのは、地道にコツコツとクエストを消化していってるからです。とりあえず見かけたことのないクエストを見ると、それをやってみたくなる性分なんですよ。何事も経験と言いますか……まぁ、この前まで商人護衛は1度も受けたことがなかったですけど、初の護衛依頼を放棄した上に盗賊は関わりたくなかったのに関わってしまったし最悪でしたね」


「そうなんですか……」


「話は逸れましたけど、とにかくあまりランクを上げずにクエストを消化してるんです。今のランクだとB~Dランクまでのクエストが受けられますし、Dランクの掘り出し物クエストを探すのが結構面白いんですよ」


 そのような会話をしながらお昼休憩を終わらせた僕たちは、準備が整うと再びダンジョン攻略を再開させた。さすがに11階層目からはベネットさんが手こずる魔物ばかりなので、慎重に攻略していきながら進んでいく。


 そして、時間をかけたこともあってダンジョン攻略は大して進むこともなく、15階層目のボス部屋を攻略したあとはキリがいいこともあり、僕たちはこの日のダンジョン攻略を終えることにしたのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 冬が終わりに近づいてきた2月に、オリバーさんたちがダンジョン都市にやって来た。さすがに僕を放置し過ぎていたので申しわけなさそうにしていたけど、放置されていたことに関してよりも4人とも温泉を満喫していたかと思うと、そっちの方が僕としてはやるせない気持ちになる。


「ところで、後ろの嬢ちゃんは誰だ? クキが誰かとパーティーを組むなんて珍しいな」


 オリバーさんがそう尋ねてきたので、僕は商人護衛依頼の最中に盗賊に襲われたことと、その時からベネットさんが同行者になったことを説明していく。


「マジか……クキ、人を殺しちまったのか……すまねぇ、俺たちが商人護衛の依頼なんか薦めたばかりに……」


 そう言うオリバーさんが頭を下げると、他のサイモンさんたちもみんな謝ってきたので、僕は慌てて問題ないことをオリバーさんたちへ伝えたら、オリバーさんたちが頭を上げていく中で、マルシアさんが僕のことで口を開いた。


「クキ君、見る限り落ち着いているようだけど、気持ちの整理はついてるの? なんなら相談とか乗るわよ。魔物と違って人の場合は、ずっと心に残って慣れやしないんだから」


「あぁぁ、そこは師匠から強制的に落ち着かされましたので、今のところ何ともありません。何と言うか……師匠って凄いですね」


「師匠ってケビン君のこと? 一緒に行動してたの?」


 僕があまり名前を出さないように気をつけていたのに、マルシアさんはあっさりとケビンさんの名前を口にしてしまう。あまり目立ちたくないって言ってたから名前を伏せていたのに、マルシアさんは配慮しないつもりみたいだ。


「いえいえ、盗賊のアジトに女の子たちが捕まっていたので、その時に師匠を頼ったんです」


「その女の子たちは? ちゃんと近くの街へ連れて行った?」


「師匠がお持ち帰りしました。俺も関わりたくなかったのでありがたかったですけど」


「嫁だな」

「嫁よね」

「嫁になるのか?」

「保護したとかじゃなくて?」


 僕の伝えた内容にサイモンさんとマルシアさんは断定して、オリバーさんとミミルさんは疑問的な回答となっていた。


「で、クキはどこまで攻略が進んだんだ? 40階層くらい行ったか?」


「いえ、20階層目が限界ですね」


「は?」


 僕の強さを知っているオリバーさんたちは、一様に意味がわからないといった表情となる。


「今回はベネットさんを連れていましたので、そこまでしか攻略をしていません。20階層のボスを倒したあとは21階層目に下りてみたんですけど、ベネットさんには荷が重いようなので20階層付近をずっと周回していました」


 僕がそう答えるとオリバーさんたちの視線はベネットさんに向いて、身なりから魔術師であることを推測したのか、納得顔をしてしまうのだった。


「20階層が限界ってことはDランクくらいか?」


「……はい……」


「あぁぁ……そりゃキツいわな。パーティーも2人だけで、クキが敵を全部倒したらレベルアップも無理だしな。しかも装備品もそれなりのでしかないし……仕方がないか」


「私が足を引っ張ってばかりで……クキくんに迷惑が……」


「そこは気にしてないって言ったじゃないですか。僕もオリバーさんたちとは違った連携を考えることで、ベネットさんは役立っているんですから」


 実は21階層目から敵が一段と強くなり連携をし始めるようになっていたので、ベネットさんを庇いつつ戦うのは結構楽ではなく、早々に切り上げて撤退したのをずっと気にしているのか、ベネットさんはことあるごとに僕1人で攻略を進めるように提案してきていたのだ。その都度、さっきのようなやり取りを繰り返しているんだけど。


「よし! それじゃあ6人で潜るか。魔術師ならマルシアが立ち回り方を教えればいいだろ。クキは前衛だし、その辺のフォローはできないからな。6人で潜れば、戦闘しながらでも教える余裕は充分にある!」


 オリバーさんがベネットさんのことを気遣ってそう提案すると、瞬く間に6人で潜ることが決定してしまう。


 そして、翌日になると21階層目に下りてきて、パーティーはオリバーさん、サイモンさん、僕、ベネットさんの4人で組むことになると、マルシアさんはベネットさんに付き添って先生となり、ミミルさんはその2人の護衛という立ち位置に収まった。


「とりあえずベネットの立ち回り方の勉強ってことで、適度に手抜きをしつつ戦闘を繰り返すぞ」


「てぇことは、アレだな。メインはクキで俺らはサブに回るか」


「え……僕が1番動く役回りなんですか?」


「そりゃそうだろ。20階層付近なんて楽勝な所で遊んでたんだから、元気が有り余ってるだろ?」


「別に遊んでいたわけでは……」


 サイモンさんからメインを押しつけられた僕は、前衛でやるトライアングル陣形の先頭に立つこととなって、結局のところほとんどの敵は僕が相手をすることになる。


「ベネット、よく周りを見るのよ。魔物が襲って来ると考えたら怖いだろうけど、前衛を信じて貴女は貴女のできることを一生懸命にやるの」


「はい!」


「私からは前衛の気持ちを教えるわ。前衛として戦っているとね、相対している魔物以外の横槍とか結構邪魔なのよね。だからベネットが前衛の手の届かない魔物を牽制すると、前衛としては助かるわけ」


「はい!」


 僕が戦闘を終わらせてしまうと、ベネットさんは2人からの指導をちゃんと受けているようだった。僕だと魔術師の立ち回り方なんてわからないし、とてもありがたく思える。


「ちなみに今までクキ君とどんな連携をしていたの?」


「えっと、クキくんが1匹だけ魔物を残して、それ目掛けて魔法を撃つ戦闘です。詠唱が終わるまでクキくんが抑えててくれて、魔法を放った時にクキくんが避けるっていう形でした」


「はぁぁ……クキ君……」


「え……何か間違ってました? 僕は魔力探知と回避の練習になるし、ベネットさんは落ち着いて詠唱できる上に、魔物に対して魔法を当てる練習になるので、効率的だと思ったんですけど」


「それって動かない的でも代用できるわよね? 例えば岩とかでも」


「まぁ、そうですけど……」


「せっかく魔物を相手にしているんだから、戦っている最中からどんどんと魔法を撃たせてあげなきゃ、魔術師としての練習にならないわよ」


「それは最初に考えたんですけど、詠唱の最中に戦闘が終わってしまうことが多くて、それならわざと1匹だけ残してそれを的にした方がいいかなって、2人で話し合った結果なんですよ」


 そのあとは実際に見てもらった方が早いということになり、4人が見守る中で僕とベネットさんは1回だけ魔物との戦闘をすることになる。


 そしてその結果は見敵必殺の僕が1匹目を倒した時に、ベネットさんは他の魔物に対しての詠唱を始めると、その間に僕が2匹目を倒してしまい、更に3匹目の相手を倒したら魔物が打ち止めになる。


「こりゃアレだな。魔物と出会ってからのクキの行動が早すぎる。逆にベネットは考える時間が長い。その差だ」


「確かにそうだな。ベネットは迷ってる節があるが、クキの判断は即断即決みたいなもんだ。連携以前の問題だな」


「こうしてみるとクキ君のやり方が1番郷に入ったやり方なのかも」


「経験の差が如実に現れているわね」


「早い話がクキは俺たちやケビンと訓練し過ぎたことにより、判断力が加速してるってぇことだな」


「対してベネットはランク相応の判断力で経験がなさ過ぎる」


「ベネットに経験を積ませるのが最優先ね」


「こればかりは一朝一夕じゃ無理だわ」


 そのようにオリバーさんたちが結論づけると、先程とは打って変わってベネットさんを中心にした訓練へと移行する。それは敵と遭遇すれば前衛が突出するのではなく、ベネットさんが初手を撃ち放ってから攻撃開始といったところだ。


 それによりベネットさんは前衛が戦っている間に判断するのではなく、まずは考えるよりも先に魔法を撃つということをせねばならず、敵を見つけたらとにかく詠唱するという訓練になっていた。


 そして1ヶ月ほどそのようなことを繰り返していたら、ベネットさんはとにかく魔法を撃つという訓練が功を奏してか、戦闘において悩みながら魔法を選ぶという長考癖が治って、今となっては問題なく援護が行えるまでに成長したのだった。


「ふぅ……50階層まで攻略できたな」


「そうだな。ケビンにやられた時はいきなり10階層飛ばしで51階層だったから、そこまでの未攻略層が心残りだったし、これで晴れて未攻略層がなくなったぜ」


 オリバーさんが言ったように、僕とベネットさんはあれから50階層まで攻略が進んだのだ。サイモンさんも中抜きで未攻略層が残っているのが気になっていたらしく、今回の攻略で50階層を終わらせたことにより、晴れ晴れとした表情となっている。


「頑張ったわね、ベネット」


「もうCランク並の実力よ」


「ありがとうございます!」


 ベネットさんはAランク冒険者に助けられながらでも、50階層踏破という事実が嬉しかったようで、生き生きとした表情をしていた。


「よし、数日間体を休めたら帝国に向かうぞ」


「え……先に進まないんですか?」


 いきなり帝国に向かうと言ったサイモンさんに僕が驚いて問い返してみると、僕が忘れていたことをサイモンさんの口から聞かされることになる。


「クキ……51階層目からは鉄球地獄が待っている……」


「クキはいいだろうが、あれはまだベネットには早い……」


「そうね……ベネットには早いわ……」


「ゴロゴロ……ゴロゴロよ……」


 僕たちはケビンさんが意図的に仕組んでいたトラップだとは知らずに、51階層目からは鉄球地獄が始まると思い込んでいるので、僕は体験したことがないけど、オリバーさんやミミルさんがベネットさんには早いと言うのなら、今はやめておいた方がいいのだろうと思った。マルシアさんはその時のことがトラウマなのか、語彙力が落ちてゴロゴロしか言わなくなったけど大丈夫だろうか。


「帝国はケビンの治めてる国だしな。元クラスメートとしてはその国を見ておきてぇ」


「じゃあ、帝都に行こうぜ!」


「帝都かぁ……期間はどんくらいかかるんだ?」


「そうねぇ……護衛依頼とか受けずに行けば、4月には到着できるんじゃない? ね、マルシア?」


「ゴロ……ん? 何が?」


「帝都よ、帝都。ここからだと1ヶ月そこらでつくわよね?」


「確か帝都は帝国領の奥地よね? 依頼を受けずに移動を優先させたら4月には到着できるんじゃないかしら?」


「よし、決まりだな。馬車を使いまくって移動優先で向かうぞ!」


 こうして僕は50階層目までキリよく攻略が終わったことにより、鉄球地獄に突っ込むよりもケビンさんの治める帝国へ向けて、温かくなった3月に出発するのであった。

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