第486話 異世界召喚2日目(生徒サイド)

※ 今回は7名ほど新たな生徒の名前が出てきます。苗字だけの生徒だったのが、名前も出たので一緒に付け加えています。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 翌日の朝、生徒たちは係の者に起こされて食堂へと集合した。全員が揃うとパンとスープが用意されて、あまり寝付けなかったのか若干眠そうな顔をしている者もいるが、そうでない者もいる。


「なぁ、力也。やったのか?」


「そりゃ、やるだろ。『どうぞ、使ってください』って本人が言ったんだぞ。同意の上だからやらなきゃ損になる」


「やっぱ力也はぱねぇな!」


「竜也だってやったんだろ?」


「まぁ、やらなきゃ損だし? 可愛かったしボンキュッボンだぜ? 中々治まらなくて、何回もしちまった」


「猿だな」


「うぉいっ、虎雄だって手を出したんだろが!」


「いや、眠かったから寝た」


「何でだよ!? 目の前にかわい子ちゃんがいて、なぜ寝れる!?」


「眠かったから」


「か~っ! それでも健全な男子高校生かよ!」


「健全だったら猿みたいに盛らねぇだろ」


「なってねぇよ!」


 そのような時に一緒に食べている女子が声を挙げる。


「さっきからうるさいし、女子の前でなんて話をしてんのよ」


「デリカシーなさすぎっしょ」


「猿ぅぅぅぅ!」


「なっ!? お前らだってやったんだろが!」


「お前らと一緒にすんなよ! 何で見ず知らずの男に股を開かなきゃなんねぇんだよ! うちらはヤリマンじゃねぇし!」


「月出里は穴があれば何でもいいのよ」


「猿ぅぅぅぅ!」


「ちょっ、千代! さっきから猿猿うるせぇよ!」


「竜也、まずは飯を食え。やりまくったなら腹が減ってるだろ」


 あまりにも収拾がつかないその場を無敵が収めると、月出里はブツブツ言いながらも食事に手をつけ始めた。


 そして、そのような大騒ぎがあったので、女子たちは男子たちへありえないような視線を向けるが、その視線に耐えられなかった男子は自ら未だチェリーであることを暴露して、今度は逆に哀れな視線を何も言わなかった男子たちから向けられてしまう。


 そのような場でも端からカースト上位にいる男子には、女子たちも侮蔑の視線を向けられず、あやふやな感じで男子生徒たちの卒業話は幕を下ろすのである。


 その後、朝食を終えた生徒たちは広間に集められて、昨日に引き続きウォルター枢機卿からの、この世界に関する説明を受けることになった。


 だが、教育実習生である女性は1人足らないことに気づいて、そのことを口にする。


「すみません、九鬼君がまだ来ていないようです」


 教育実習生の言葉を聞いたウォルター枢機卿は、なんてことのないようにして、教育実習生の口にしたことへ答えた。


「ああ、彼なら出ていきましたよ。やはり働かない者を遊ばせておくわけにもいきませんので、誰にでもなれる職業である【冒険者】になってもらうことにしたのですよ」


「なっ!? 私に話も通さずそのようなことを勝手に――」


「聞けば貴女はまだ教師にもなれていない人なのでしょう? 勇者様方の通う『ちんみょうこうこう』の更に上の『だいがく』と言う所の生徒なのだとか? つまり、みな等しく生徒なのですよね? 保護者とかそういう立場ではなく?」


「そ……それは……」


 教育実習生はウォルター枢機卿から痛いところを突かれてしまい、二の句が告げずにいると、その時に生徒の1人が声を挙げる。


「教育実習生、俺たちは説明を受けるためにここに集まっているんだ。詳しい説明を受けなければこの後の行動の指針にもならん。九鬼のことが心配なのは理解できるが、それよりもまず優先すべきは別のことだろう?」


「幻夢桜君、九鬼君より優先することなんて――」


「あるだろう。少しはない頭を働かせろ。俺たちの優先すべき事項は、1つ、自分の命を守ること。2つ、元の世界に帰れるか。3つ、それまでにここでの生活に慣れ、基盤を整えることだ。それが磐石になって、ようやく他のことへ目を向けられるというものだ」


「幻夢桜君、もう少し柔らかくお教えになっては如何がかしら? 先生だってこのような状況でいっぱいいっぱいなのですよ?」


「勅使河原、時間は待ってはくれないんだぞ? 下の者に足を引っ張られてはたまったものではない」


「その下の者に足を引っ張られてもそれを抱えて進んでいけるかどうかが、幻夢桜財閥の跡取りである貴方の王としての器と力でしょう? 王輝という名前はお飾りですの? そのようなことでは輝かずにくすんでしまいますわよ?」


「フッ……お前に王道を語られるとはな。教育実習生、先程は口が悪くなって済まない。俺も少し余裕がなかったようだ。全く俺ともあろう者が嘆かわしいことだな」


「い、いえ、私も目の前のことばかりに目が行き過ぎて、先のことを考えきれていませんでした。幻夢桜君のご忠告はご尤もなことです」


 そのようにして教育実習生と幻夢桜の話が終わると、ウォルター枢機卿はこの世界の基本的なことから説明を始める。


 それは、この世界に住む種族のこと、魔法というものが存在すること、大陸には大小合わせると色々な国があること、そして何より今回の目的でもある魔王が北の大地を支配していることなどだ。


「その魔王は迷える子羊たちを導くための教会を潰して、神聖なる女神フィリア様にお仕えする聖職者たちを殺したのです。北の大地にはもうほとんど教会はありません。今なお残っている教会は細々と女神フィリア様のお教えを説いて、魔王に目をつけられないように生き延びている者たちなのです」


「うわぁ……教会を潰すとかマジぱねぇ! 悪の道まっしぐらじゃねぇか」


「力也も潰すのか?」


「潰すわけないだろ。そんなことをするのは頭がイカれた奴だけだ」


「てゆーかさ、それだと力也って悪の大魔王ってゆーより、ただの大魔王じゃね?」


「ただの大魔王でいいじゃない。私ら食み出し者は世間の常識から食み出して、ルールに囚われないのがいいんだし」


「猿ぅぅぅぅ!」


「うぉいっ! 千代はいつまでそれを引っ張ってんだよ! いい加減、猿から離れろよ!」


 そのようなことで無敵グループが騒いでいると、ウォルター枢機卿が1度咳払いをしてから、説明の続きを話し始めた。そしてそれが終わると、今度は幻夢桜がウォルター枢機卿へ質問をする。


「俺たちを元の世界へ戻す方法はあるのか?」


「私たちは勇者様方を召喚はできても、返還をする術は持ち合わせておりません」


「つまり帰る方法がないと?」


「いえ、厳重に管理されている古文書によると魔王を討伐したあかつきには、女神フィリア様が元の世界へお戻しになられたと書かれております」


「……あの女神か……」


 ウォルター枢機卿の返答で、幻夢桜が元の世界へ帰るためのキーマンを女神に定めてボソッと呟いていると、横から勅使河原が口を挟んできて、おかしな点を指摘するのだった。


「それはおかしいのではなくて? 女神様は貴方たちが勝手にしたことだから、一切関与しないと仰ってたわ。つまり、その古文書とやらの情報はあてにはなりませんわね」


「め、女神フィリア様と会われたのですか!?」


「ここへ来る前に会いましてその時にこう仰られましたの。『それは転移先の国にて説明を受けてください』と。そしてその貴方の説明だと女神フィリア様へ押し付けていますわね? さて、これはどうしたものでしょうか……」


「麗羅ちゃん、その人……動揺しまくりだよ? 麗羅ちゃんも王輝君みたいに人を追い詰めるの好きだよね」


「香華さん、人聞きの悪いことを仰らないでくださるかしら。私は幻夢桜君とは違って、気になる点を解き明かそうとしているだけでしてよ?」


「うーん……気になる点?」


「はぁぁ……貴女も弥勒院財閥のご令嬢なら、少しは教養を養わなければダメでしてよ?」


「私の将来の夢はお嫁さんだから」


「お嫁さんになっても夫を支えなければならないでしょう?」


「王輝君みたいな頭のいい人と結婚すればいいんだよ。ね? 王輝君」


 財閥のご令嬢としての生き方を諭そうと試みる勅使河原だったが、当の本人は嫁になることしか考えておらず、全くもって諭せそうにはない。


 そして話を振られた幻夢桜は思考中の案件を一旦棚に上げると、弥勒院の質問に対する回答をする。


「ん? 弥勒院の結婚相手の話か? 俺ほどの男はそう存在しないが、俺より劣る男ならそこら辺にごまんといるだろう。その中から捜せばいい」


「ほら」


 幻夢桜の言葉によって増長してしまう弥勒院に対して呆れてしまう勅使河原だったが、弥勒院の考え方は今に始まったことではないので問題の先送りをすると、目の前の課題について幻夢桜へ問いただすのだった。


「幻夢桜君も煽らないでくださいまし。香華がその気になって勉強をしなくなりますわ。それよりもまずはウォルター枢機卿の話ですわよ。矛盾しているのは気づいてまして?」


「それに気づかない奴らが俺より劣る男だ。当然俺は気づいている」


 それから幻夢桜は、ウォルター枢機卿の矛盾点について指摘を始めていく。


「まず第1に、こいつらは喚び出す方法は知っていても、送り返す方法は知らない。文献が残っているのも怪しいものだが女神の言い分を信じると仮定するのなら、女神が関わった件に関して言えば女神自身が送り返していると言えるだろう」


「それは女神フィリア様も言っていましたものね」


「第2に、こいつらは女神を信仰していながら、女神自身の存在は信じていない。先程驚いたのがいい証拠だ。だが、何もない状態からの信仰ほど危ういものはない。悪魔の証明と同じようなものだな。しかし、フィリア教がまかり通っているということは、文献や人々の記憶に何かしらの証拠はあるのだろう」


「王輝君、本の捏造は?」


「弥勒院、よく考えろ。俺たち異世界人を召喚するんだ。文明が遅滞した世界の人間にそれができるわけがない。きっと過去には女神が関わった勇者召喚があったはずだ。そして、その時に女神が降臨していなければ、橋渡し役の者が存在することを意味する」


「橋渡し役?」


「簡単に言えば伝言役だ。女神の言葉を下々の者に伝える役目だな。そういった過去が存在するのならば、こいつらが女神なしで勇者召喚を行えることにも合点がいく話になる。要するに技術の悪用だ。己の欲のために女神が伝えた勇者召喚の儀式を悪用したのさ」


 淡々と告げていく幻夢桜の話に生徒たちは耳を傾けていた。そして、肝心のウォルター枢機卿はそこまで読まれていることに関して、目の前の少年に対して戦慄を覚える。


「枢機卿、鼓動が早くなっているぞ? 図星を刺されて慌てふためいているのか?」


「な、何を……」


「俺は財閥の跡取りとして帝王学を学んでいる。そこには人の観察というものも含まれる。俺の足をすくおうとする愚な奴を見分けるためにな。お前はさっきから視線が泳いでいる上に、発汗量が増しているようだ。ついでに言えば呼吸も早くなっている」


「――ッ!」


「なに、お前らが何の目的で俺たちを喚び出したかは知らんが、心配することはない。袂をわかたない限りは適度に踊らされてやる」


 幻夢桜の踊るという言葉に反応した弥勒院は、そのことを幻夢桜へ尋ねるのだった。中身はダンスのことだと思っているのはさておき。


「王輝君、踊っちゃうの?」


「弥勒院、俺たちは選ばれし者だ。その中でも特に俺はな。だが、右も左もわからないこの世界で放り出されても困るだろ? お前はこの世界の通貨についての知識はあるのか?」


「ないよー」


「つまりそういうことだ。俺たちはこの世界で生き残ることが大前提となる。帰ろうとしても死んでは意味がないからな。そのためには情報を持っている奴との関係を築くのがちょうどいいんだ。世界を股に掛けるフィリア教団なんかはその関係を築くのにうってつけで、ギブアンドテイクの関係になる」


「うーん……よくわかんないから、王輝君に従うよ」


「弥勒院はそれでいい。俺についてくれば間違いはない」


「わかったーできれば早めにお菓子の情報を手に入れてね。ケーキが食べたい」


 このような時でも我が道の欲望を忘れない弥勒院に対して幻夢桜は呆れてしまうが、きっとこういう考え方も人の上を行く者に取っては必要なのだろうと、参考程度にはするのである。


 それからは論破されてしまったウォルター枢機卿へ、幻夢桜が再び声をかけては説明の先を促していき、そこそこで質問が挙がるも全体的には滞りなく話し合いは進んでいく。


 これにより、元からそうではあったがクラスカーストのトップである幻夢桜が中心的存在となり、特に問題もなければ食み出し者である無敵グループも行動を共にしていくようになる。


 そして、元々存在するクラス委員長や副委員長も、学校とは既にかけはなれた状況となってしまっているので、頭脳戦で勝てるはずもない幻夢桜の方針に異を唱えることもなかった。


 何だかんだでクラスが纏まったことにより、教育実習生も年長者として特に口を挟んで乱そうとは思わず、後ろから見守るポジションにつくことを決意するのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



珍名ちんみょう高校 生徒名簿


九鬼 (くき)


月出里 竜也 (すだち たつや)


千喜良 千代 (ちきら ちよ)更新


勅使河原 麗羅 (てしがわら れいら)


虎雄 (とらお)


弥勒院 香華 (みろくいん きょうか)


幻夢桜 王輝 (ゆめざくら おうき)


 今回は月出里や幻夢桜が難しかったんじゃないでしょうか? 月出里は『すだち』って読めないし、幻夢と書いて『ゆめ』って普通読めませんよね? 私の他にもきっと仲間がいることを願います。

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