第463話 蓋を開けてみれば……

 自軍へ戻って来たケビンが見た光景は驚くべきものだった。のんびりとお茶を飲みながら御三家がくつろいでいたからだ。


「お前らなぁ……」


「おお、陛下。ようやく口上戦から戻られましたな」


「いや、実に見事な口上戦でした」


「まさか口上戦でいきなり戦いにならない戦いが始まってしまうとは、夢にも思いませんでした」


「どうせ俺は口上戦なんてしてねぇよ!」


 ケビンが不貞腐れてそう答えると、不敬など関係ないと言わんばかりに和気あいあいとしたエレフセリア帝国軍の光景を見たフィアンマたちは、自国の規律が厳しい環境とは全く違う帝国の有り様に、もの凄くカルチャーショックを受けてしまう。


「なぁ、ケビンさんって皇帝陛下なんだろ? 何で部下に揶揄われて不敬だって処罰しねぇんだ?」


「何でだろうね~しかも敵陣にいる陛下を放っておいて、お茶を楽しんでたみたいだし~」


「これが帝国の有り様なんですか? セレスティア皇国とは全く違う……」


「これがケビン君の治める帝国の片鱗……」


 困惑を隠しきれないフィアンマたちを他所に、ケビンはササッと軍議用天幕を創り出したら中へ入るように全員へ促していく。その光景を目にする帝国サイドは慣れたものでなんの躊躇いもなく中へと入るが、フィアンマたちは立て続けに起こるケビンイズムに困惑が後を絶たない。


「クララとアブリルは馬車の中にいる女の子たちの世話を頼む。一応このあとは戦争をすることも伝えておいてくれ」


「任されよ」


「主様の仰せのままに」


 そしてクララたち以外の全員が天幕へと入りテーブルにつくと、ひとまずケビンがフィアンマたちを紹介する。


「はは、まさか口上戦の段階で捕虜を捕まえてくるとは、さすが陛下ですな」


「しかもそれが相手側の騎士団団長3人と騎士1人とは」


「これで向こうの参謀には大打撃を与えられたでしょう。このような仕返しを思いつくなんてさすが陛下です」


「お前らは俺を貶してるのか褒めてるのかどっちなんだ」


 ケビンがそう告げると開戦を3時間後に改めたことを伝え作戦会議が始まるが、敵の参謀がどう行動するかの話し合いを始める前に、アリシテア王国軍の対処をまずどうするかの議題が上がった。


「陛下が蹂躙するでなく我らが動くのであれば、アリシテア王国軍も動かないと不味いでしょうな」


「一応の協力関係をセレスティア皇国軍と結んでいたが、それはもう生きていないのではないか?」


「確かに。村を襲って女性を攫ったのなら協力関係はご破算でしょう」


「このまま見学させとくのもあれだしなぁ。セレスティア皇国軍が襲いに行かないとも限らないし、ガブリエルは面の皮が厚いから再度協力関係を頼みに行くかもしれない」


「ケビン、ウカドホツィ辺境伯を連れてきたら? 本人を交えた方が話し合いもスムーズに進むわよ」


 マリアンヌからの提案を聞いたケビンがこっそりアリシテア王国軍へと転移したら、遠くにはセレスティア皇国軍がおり、ウカドホツィ辺境伯が状況を鑑みてセレスティア皇国軍がどう動くかわからず、急に攻められても対処可能な位置まで軍を移動させたことが窺える。


 そしてそのままケビンはウカドホツィ辺境伯の所へ向かうと、ここでも戦地であるというのに、テーブルを用意してカリカリと執務をしているウカドホツィ辺境伯の姿を見ては、何とも言えない気持ちになる。


「ちょっといい?」


「おお、皇帝陛下。気づかずに申し訳ありません。暇なうちに報告書をまとめておこうと思いまして、熱中しておりましてので申し訳ありません」


 そう答えたウカドホツィ辺境伯はすぐさま立とうとしたが、ケビンがそれを手で制した。


「ああ、報告書か。確かに状況が転がりすぎて書くのが大変そうだな」


「まぁ、皇帝陛下が暴れるだけなら簡単に済むのですが、今回は戦場にサラ殿とシーラ皇后陛下、それにマリアンヌ元大公妃殿下が現れましたからな。儂としてはマリアンヌ元大公妃殿下のことを、我が国の陛下にどう説明しようかと頭を悩ませておるところです」


「あぁぁ、マリーね。マリーは俺の正妻になったんだよ。母さんも俺の正妻になったけど」


「なんとっ!?」


「ヴィクト義兄さんには伝えてるから知っているけど、細部までには伝えてないからねぇ。他に知ってるのは実家のカロトバウン家くらいかな」


「ふむ……して、サラ皇后陛下はわかるのですが、何故にマリアンヌ皇后陛下は戦闘服装で来られたのですかな?」


 ウカドホツィ辺境伯がサラとマリアンヌの立場を聞いて敬称を改めると、更なる驚きの事実がケビンから齎される。


「マリーって元冒険者なんだよ。母さんとペアを組んでいた」


 ケビンの告げた内容にウカドホツィ辺境伯は言葉を失う。それもそうだろう。貴族の子息がお遊び程度で冒険者になるのはままあることだが、息女でそれを実行に移すのは稀なことであるからだ。


 将来は政略結婚の駒として扱われる息女は玉肌に傷など残らないよう大事に育てあげられるため、たとえお遊びでも冒険者として活動するのは親からしてみれば言語道断なのだ。


 その活動は学院の訓練で擦り傷や打撲を作るようなこととはわけが違う。相手は魔物で容赦がないため、後々に残る傷跡ができてしまうのは目に見えており、そのようなことが原因で嫁のもらい手がなくなるのは、親としては何としてでも避けなければならない事案である。


「はぁぁ……頭痛がしてきましたぞ。そのことをヴィクトール陛下はご存知で?」


「いや、知らない。本人が隠していたから」


 ケビンはそう答えつつも魔法を使ってウカドホツィ辺境伯の頭痛を治し、ついでに鑑定をかけて胃痛も治してしまうのだった。


「魔法の治療痛み入ります。して、マリアンヌ皇后陛下のことを、ヴィクトール陛下へ報告してもよろしいのですかな? さすがに幾人もの兵たちの前で現れましたから、いなかったことにはできず……」


「ああ、報告していいよ。本人はもう隠す気はないみたいだし、母さんと競争してどっちが多く倒せるか競うみたいだ」


「それほどの実力者なのですか……」


「まぁ、伊達に母さんとペアを組んでいないからね。それにうちに来てからはブランクを埋めるために、冒険者活動を再開させて日々戦っていたし」


「ここだけの話、皇帝陛下はどちらが勝つとお思いですかな?」


「母さんだろうね。マリーの戦い方はどちらかと言うと奇襲をメインに置いているから。母さんみたいに圧倒的スピードでなぎ倒すと言うよりも、こっそり近づいて倒すって感じかな。だから数を競うとなるとスピード勝負になるから、マリーには分が悪いだろうね」


「それがわかってて勝負を挑んだのですかな?」


「マリーは母さんとまた一緒に戦うのが楽しいんだろ。何十年という付き合いだから、勝負を挑んでも勝ち負けにこだわってはいないよ」


 それからケビンはウカドホツィ辺境伯へ作戦会議中であることを伝えて、帝国軍陣営へ連れていくことを了承してもらうと、それを聞いたウカドホツィ辺境伯は部下にそのことを伝えたら、ケビンとともに軍議用天幕へ転移するのだった。


 そしてウカドホツィ辺境伯とフィアンマたちをお互いに紹介して、作戦会議を再開する。


「それにしてもよぉ、アリシテア王国は最初からうちと協力関係じゃなかったってことかよ」


「そりゃあそうだろ。何で嫁の実家と戦争しなきゃいけないんだよ。手を組むに決まってるだろ。セレスティア皇国軍が使者を送ってきた段階で話し合って、兵士たちの訓練に利用することにしたんだよ」


「あたしたちは踊らされていたわけか」


「まぁそうだな。俺たちの新兵は軽傷で戦争の感覚を掴んでもらう。セレスティア皇国軍は大打撃で大敗走してもらうっていう筋書きだ」


「踊らされたのはこちらとて同じですな。何せ散々焦らされて兵士たちの士気を落とされてしまいましたからな」


「ああ、ヒューゴの作戦は凄いよな。こちらの士気を下げるためにわざわざ時間をかけて行軍してくるし、そもそも冬に決戦するという意表をついてきたからな」


「「「ん……?」」」

「え……」


「……」

(ふむ……皇帝陛下はセレスティア皇国軍が、冬の行軍に苦労しただけだと知らぬのか……果たして口を挟んで教えるべきか否か……儂は外様の貴族であるし判断に悩む……)


 ケビンとユソンボウチーがヒューゴの才覚を敵ながらあっぱれと褒めていたら、セレスティア皇国軍側であった4人は当事者であることからその勘違いに気づいてしまい、その行軍に同行していたアリシテア王国軍のウカドホツィ辺境伯もまた気づいてしまう。


 そしてそのような状況の中で、申し訳なさそうにメリッサが口を開いた。


「あの……皇帝陛下……?」


「なに? 何か作戦を思いついた?」


「その……とても言いにくいのですが……」


「別に気にせず何でも言っていいよ。メリッサたちはもう俺にとっては味方の感覚だから」


「それはありがとうございます。で、あの……そちらの将軍の方とヒューゴの作戦のことを話してらしたので……」


「ああ、あの策士ヒューゴがどんな作戦を立てるか予想できたとか?」


 ケビンが益々ヒューゴのことに対して高評価を下していると、段々と喋りにくくなってきたメリッサだったが、意を決して今回の出発時期と行軍について語りだした。


「えっと……まずお話しておかないといけないのは、私の上司であるウォード枢機卿猊下が財政を担当しておりまして、その……お金にとてもうるさい人で……補給担当である私は時期が夏だったこともあって、糧食を備蓄するには出発までに傷んでしまう恐れがあり買い直しになると思ったので、ウォード枢機卿猊下にそのことを伝えて、傷みやすい糧食の収集を秋から開始することで許可をいただいたのです」


「うん、それはまぁ他国に攻めいるわけだから、食料も長期保存のきく物になるよね。夏なんかに生物とか備蓄したら腐るし」


「それで痛みやすいものは秋から準備に取りかかり、準備を終えたところでホッとしたのも束の間、今度は各地から集めた兵士を皇都に留めておくのに費用がかかると怒鳴り始めて……」


「そりゃあ、いつもはいない約2万の兵士が皇都にいるわけだから、滞在中の食料を確保するのにかき集めないといけないもんな。一時的に物価が上がるのも頷ける話だ」


「それで怒ったウォード枢機卿猊下の命により、私たちはバタバタと出発しました」


「つまり、最初から予定外の出発だったと?」


「……はい」


 ケビンは額に手を当てて溜息とともに天井を仰いだ。要するに中途半端な時期に出発したのは、金にうるさいウォード枢機卿が急かしたのが原因だと言われ、ケビンは何とも言えない気持ちになる。


「まぁ、何故出発時期が中途半端だったのかはわかった。というか、冬になれば更に金がかかるってことを、ウォード枢機卿は思いつかなかったのか?」


「……恐らくここまで時間がかかるとは想定していなかったかと。軍務の人ではないですから……」


「馬鹿だな」

「馬鹿ね」

「馬鹿だわ」

「馬鹿よ!」


「軍務担当の枢機卿と話し合っていないのか?」

「戦時の際には基本的なことだろう?」

「呆れてものも言えないとはこのことだな」


「まさか大国の中身がその程度とはの……」


 ケビンたちが下す酷評に直属の部下であるメリッサは、何とも言えない気持ちに陥ってしまう。


「それで……次はヒューゴの作戦についてなんですけど……」


「おっ、今度は有意義な話になりそうだな」


 ケビンが無意識に与えるプレッシャーを受けたメリッサは泣きそうな顔でフィアンマやオフェリーを見るが、フィアンマは自分が上手く説明できるとは思えず俯いて視線を逸らし、オフェリーは針のむしろになるのが嫌で同じく明後日の方向を向いてしまうのだった。


(う、裏切り者ぉ~)


「どうした? やっぱり仲間を売るような形になるし、話しにくいなら無理をしなくていいぞ。今まで苦労を分かち合った仲間のことだしな」


 ケビンの勘違いの優しさがグサグサと突き刺さるメリッサは、瞳をうるうるとさせながらケビンへお願いすることにした。


「皇帝陛下……聞き終わっても怒らないでくださいね」


「策士ヒューゴの情報をくれるメリッサのことを怒るわけがないだろ」


(うわぁ……この状況、ぜってぇあたしだと無理だ)

(メリッサちゃん、ファイト! 骨は拾うから)

(あぁぁ……ケビン君、凄い勘違いしてる……このパターンって怒りそう……)


 3人がメリッサの置かれた状況に哀れみの目を向けると、その状況へ追い込んだフィアンマとオフェリーは、今度甘い物でもご馳走しようと心に決めるのだった。


「あの……実は……開戦までの時期が延びたのは、ヒューゴの作戦などではなく……ただ単に雪の降る土地での行軍に慣れていなくて……苦労しただけであって……」


「……はい?」


「冬のアリシテア王国北方がこうなるとは思いもしませんでしたっ! 凄いできる策士みたいな期待をさせて、ごめんなさぁぁぁぁい!」


 メリッサがテーブルにぶつけるような勢いで頭を下げると、話を聞いていたケビンたちや御三家は唖然として呆けてしまう。


「え……えぇーっと……行軍を遅らせていたのは作戦ではないと?」


「……はい」


「焦らしに焦らして、こっちの士気を下げようとしていたとかは?」


「兵たちが雪道を歩くのに苦労して、そんな余裕はありませんでした。雪……触ってみたら冷たかったです。お馬さん可哀想でした……」


「到着したのに開戦を1週間延ばしたのは? 更に焦らそうとしたとかじゃないの?」


「あの時はヘイスティングスが到着していなくて、ただ単に戦力の整った万全の体制で挑みたかっただけです。会談の時にこちらの要求を受け入れてくれた時には『ラッキー!』と思ったくらいです」


「……ふ……ふ、ふ……」


「ふ……?」


「ふっざけんなぁぁぁぁっ! じゃあ何か? 最初にヴィクト義兄さんと話した通りで、セレスティア皇国はただのバカの集まりだったってことか?! 行軍経験のない俺でも地図を見た時に、だいたいの到達期間を予測できて決戦は冬だと判断したんだぞ!」


 今の今まで相手の術中にハマって参謀を褒めていたのに、実はケビンたちが勝手に勘違いしただけで、実際は真面目に行軍していて深い意味は特になかったと聞かされてしまい、ケビンのやりきれなさが爆発した。


「はあ? 金がもったいないからさっさと出発しろ? もったいないと思うなら最初から戦争ふっかけてきてんじゃねぇよ! 冬の雪に慣れてない? 攻めに行く土地の気候くらい事前に把握しとけや! 行軍だってのに現地で体感しながら情報収集してんじゃねぇよっ! 挙句の果てには裏もなくただ単に仲間が揃ってないから待ってくれなんて……クズの行動くらい把握しとけやバカリエルっ! 戦争を舐めてんじゃねぇよ、クソ共がっ!」


 ――ドンッ!


「「「「ひっ!」」」」


 ケビンがトドメと言わんばかりに握り拳をテーブルへドンッと叩きつけたため、その音に反応した当人たち4人は恐れの声を挙げて顔を引き攣らせてしまう。


「ほらほらケビン、落ち着いて……メリッサちゃんたちがビクビクしてるわよ?」


「はぁはぁ……」


 サラが怒髪天のケビンを宥めて落ち着かせると、ケビンは怒らないと言っていたのに怒ってしまったため、バツが悪そうな顔つきになってメリッサたちへと謝罪する。


 そして作戦会議はヒューゴの出方をどう考えて攻略するかというものだったのに、蓋を開けてみれば全く考える必要性もないただの作戦担当になっただけの者だったので、セオリー通りの対応でセレスティア皇国軍を破るということになり話は纏まった。


「今回はエレフセリア帝国軍とアリシテア王国軍の合同作戦になる。もう向こうもアリシテア王国軍の協力を得られるとは、バカリエル以外は思っていないだろ」


「皇帝陛下、うちの兵の配置は? 場所がわかればすぐにでも移動を始めますぞ」


「アリシテア王国軍は左翼、エレフセリア帝国軍で右翼と中央を担う。アリシテア王国軍兵の移動は俺が転移させるから問題ない。あと、戦場全体に結界を張って兵たちが重症以上になった場合、救護場所へ自動転移させて回復するようにする。その兵たちは戦死者扱いとして、再参戦はなしで見学のみだ」


「至れり尽くせりの戦争ごっこですな。して、そのことを兵に伝えても?」


「伝えてもいいが死なないとわかっていたら、我武者羅に攻めていかないか?」


「それはないでしょうな。真っ先に脱落しては活躍の場がないので、褒賞もなしとなって旨みがありません」


「それに我が国の兵に、戦功を焦って取りに行くようなバカはおりませんよ」


「先走る兵がいれば、それは指揮官の無能さを表してしまいますから。指揮官も戦功をあげるために上手く手網を引くでしょう」


 御三家がそう答えると、今度はサラたちがケビンへ質問した。


「ケビン、お母さんたちは自由に動いていいの?」


「競争するから一緒の所じゃダメよねぇ」


「お姉ちゃんはどこの兵を凍らせればいい?」


「母さんは右翼で味方が危なそうな場所を、マリーは左翼で同じように動いて。競争もいいけど、やり過ぎないように控えてね。新兵たちの訓練にならないから。シーラは中央だけど前に出すぎて怪我しないでくれよ?」


「わかったわ」


「ケビンの頼みなら仕方がないわね」


「この体はケビンのものだもの。怪我なんかしないわ!」


 サラたちの配置の件が終わると、ウカドホツィ辺境伯が次なる質問をケビンへと投げかける。


「皇帝陛下、捕虜はどうしますか?」


「捕虜? フィアンマたちのこと?」


「彼女らではなく戦地で取り残される敵兵です。敗走すれば少なからず置いていかれる者たちがおります。そういった者たちの処遇ですな」


「それかぁ……ぶっちゃけ馬鹿な枢機卿のせいでここまでやってきた奴らだしなぁ。同情するべき点はあるにしても俺らを殺しに来た敵兵だしなぁ……取り残されて死んでも痛くも痒くもないし……」


「ケビンの大好きな女の子が死んじゃうわよ?」


「ちょっと母さん、語弊のある言い方はよそうか?」


「女兵士は引き取っちゃえばいいじゃない。フィアンマちゃんたちの部下にすればちょうどいいでしょう?」


 そこで話題に上がったフィアンマが意見を述べる。


「あたしとしても助けてくれる方が嬉しいぜ。あたしは軍務の担当だからな。助けてくれた部下は責任もってきっちり躾てやる」


「ケビン君、私も仲のいい同僚とかいるから、もし助けてもらえるなら助けて欲しいです」


「いや、君たち一応捕虜って形だからね? 捕虜に部下を与える王なんていないでしょ?」


 真っ当なことを言ったはずのケビンへ、サラが斜め上のことを投げかける。


「あら、ケビンはカトレアちゃんたちをお嫁さんにしないの?」


「~~ッ!」


 その言葉にカトレアは顔を赤らめ俯いてしまい、他の3人もいきなりのことで視線を泳がせてしまう。


「母さん……」


「だって、カトレアちゃんはいい子に育ってるわよ? それにカトレアちゃんの悩みを解決できるのはケビンだけだと思うわ。あとオフェリーちゃんもいい子だし、メリッサちゃんは面白い子だし、フィアンマちゃんは可愛いわね」


「陛下、そろそろ私らにも奥方様の名簿を渡して欲しいところですな」


「数が多すぎて把握しきれませんよ」


「ここは1つ、不敬を働かないためにも何卒よろしくお願いいたします」


「お前らまで……」


「はは、さすがは皇帝陛下。英雄色を好むとはよく言ったもんですな!」


 そのようなことでケビンが居た堪れない気持ちに陥っていると、トドメを刺すつもりはないがトドメとなってしまう言葉を放った者が現れた。


「主殿よ、馬車の嫁たちはどうするのだ? 戦争を始めると説明したが、落ち着きがなくなって主殿に会いたいそうだぞ?」


「陛下……名簿の件、頼みますぞ」

「いやはや、何人になることやら」

「それを言うなら何十人ではないか?」

「ふむ、ヴィクトール陛下への報告が増えそうだな」


「お嫁さん……ケビン君のお嫁さん……」


「なぁ、あたしらも娶られるのか?」

「私はアリだよ~ケビン様って強くて素敵だし~『お前は俺が守る。絶対に死なせない』って言われてキュンキュンしちゃった~」

「け、け、結婚……こ、心の準備が……」

「ふふ~メリッサちゃん、処女を捨てるチャンスだね」

「ちょ、オフェリー!」

「あたしはアリス様って方に会ってみてぇな……どんなぬいぐるみを持ってるんだろ?」


「ふふっ、お嫁さんがいっぱいね」

「あれだけ自覚しなさいって言ったのに……全く節操なしなんだから」

「お姉ちゃん心配だわ」

「ケビンの幸せが1番よ」

「それもそうね。なんだかんだでみんなを幸せにしているものね」

「ケビンも幸せにしなきゃいけないわね!」


 あちらこちらで好き勝手言われているケビンは、意図なくトドメを刺しに来たクララへジト目を向けるが、クララは特に気にもせず馬車にいる女の子たちの所へ行くよう、再度ケビンへ伝えるのだった。


「はぁぁ……勘弁してくれ……」


 ケビンの花嫁話で盛り上がって作戦会議どころではなくなった中で、ケビンの呟きは誰に聞かれることもなく虚空へと消えていくのであった。

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