第462話 明かされる秘密

 ケビンがマリアンヌと会話している所へ、メリッサを引きずってくるオフェリーが近づいてきた。


「あの~少しよろしいでしょうか~」


「何? 総団長ならそこに転がってるけど」


 サラから蹴り飛ばされてマリアンヌに踏みつけられたガブリエルは多少回復するとケビンへ暴言を吐いて、その都度見張っているクララからゲシゲシと踏みつけられて痛い目を見ている。


 そしてそれはフィアンマも同様であったが、ガブリエルよりかは幾分マシだったようで、今は静かに地面と睨めっこをしてクララの足蹴からは逃れられていた。


 よって、さっきから元気になる度に踏まれているのは、ガブリエルただ1人となる。


「総団長は良くないけど今はいいんです~サラ様とお話をしてケビン様の元へ行くように言われまして~」


「……は? 母さんが?」


「あら、サラに気に入られたのかしら?」


「お母様の気まぐれかしら?」


「ふむ、サラ殿の指示か……」


「主様の母君のお言葉なら無視はできません」


「その~殺すリストから外していただけたようで~」


「あぁぁ……」


「気に入ったみたいね」


「確定だわ」


「では、このおなごたちには手だし無用ということかの」


「保護対象ということですね」


「ちょ、ちょっと、私は違うわよ! 無理やり連れてこられたんです!」


「メリッサちゃ~ん、いい加減諦めてよ~未経験のまま死にたくないでしょ~?」


「だ、だからっ、人のプライバシーをポンポンと暴露しないでよ!」


「あらあら、貴女生娘なのね」


「……」


「ふむ、生娘か……」


「そのようなことでカッカするとは、あの日なのか?」


「そうなの~? いつもより怒りっぽいと思ったら女の子の日だったの~?」


「だーかーらー、人のプライバシーをポンポンと暴露しないでってば!」


「貴女、それって女の子の日だと肯定しているようなものよ?」


「ぐっ……」


「はぁぁ……」


 一気に姦しくなった現状に対して、ケビンは大きな溜息をつくのだった。そしてそれからまた1人、ケビンの所へやって来た女性はケビンも知るカトレアであった。


「ケビン君……」


「カトレアも母さんに言われたのか?」


「……うん」


「ということは、残りは殺しても問題ないやつか」


「少し違う。タイラー団長のことは、ケビン君を貶めてないから殺さないって言ってた」


「ああ、タイラーね。あの人は割かしまともな思考をしてるから、母さんから見逃されても不思議じゃないな」


「でも……ヒューゴ団長はダメみたい。決まりごととかに神経質な人だし、ある意味ヒューゴ団長も融通が効かない人だから」


「プライド高そうな顔つきだもんな。しかも眼鏡ときた。鉄板だな」


「外交とか担うような人だし、作戦とかも立てたりして作戦通りいかないと怒り出すの」


「うわぁ……最悪な上司だな。というか、セレスティア皇国軍の参謀はあいつだったということか」


 そのようなところへ用が済んだのか、サラがタイラーたちの元から戻ってきた。


「ケビン、黄色の人と話したんだけど、戦争をする前にそこの金と赤のゴミを返して欲しいそうよ。さすがに指揮官がいなくなりすぎて、まともな戦いができないって青いゴミが喋ってたわ」


「母さん……淑女がゴミゴミ言ったらダメだよ」


「ケビンが言うならやめるわ。それなら……金と赤と青の置物ね」


「人には戻してあげないんだ……」


「だって、私のケビンを悪く言うんだもの。お母さんにだって譲れないことはあるのよ?」


「まぁ、ゴミ発言じゃないからそれでいいよ」


 ケビンとサラが会話をしていると、申し訳なさそうにオフェリーが口を開いてサラへ声をかける。


「あ、あの~サラ様?」


「あら、なに? オフェリーちゃん」


「だいぶ仲良くなったみたいだね」


「ふふっ、オフェリーちゃんって賢いのよ。ケビンのことも悪く言わないし、それに相方のメリッサちゃんとのやり取りは見てて楽しいもの」


「ああ、それならここでも見たよ。一気に賑やかになったし」


「でしょう?」


 声をかけたオフェリーそっちのけで、再びケビンとサラが盛り上がっていると、オフェリーが更に申し訳なさそうに声をかける。


「そ、それで、その~」


「何かしら? オフェリーちゃんなら遠慮なく言っていいのよ」


「できれば……フィアンマちゃんも助けて欲しいかな~と思いまして~」


「フィアンマ?」


「ここに寝転がっている赤い方だよ」


「……ッ!」


 フィアンマは先程から静かに状況を耳にしながら地面と向かい合っていたが、自分に話の矛先が向いたのでピクっと反応を返してしまう。


「これってケビンの悪口を言った置物でしょう? オフェリーちゃんはこれを助けて欲しいの?」


「フィアンマちゃんは親友なんです~同じ枢機卿猊下の下で働く仲間ですから~男勝りでガサツなところはあるけど、女の子してるところもあるんですよ~」


「女の子?」


「可愛いものを集めるのが趣味なの~」


「ちょっ、オフェリー!?」


 オフェリーがまたもや他人の暴露話を本人の許可なくしたことによって、伏せていたフィアンマは慌ててガバッと起き上がりオフェリーの名を口にした。


「あらあら、可愛いもの好きなのねぇ。アリスさんと同じね」


「そうねぇ、アリスもぬいぐるみを未だに集めているものね」


「そうなんですよ~フィアンマちゃんもぬいぐるみを集めているんですよ~」


「オフェリーっ!」


 どんどん暴露話をされてしまうフィアンマは、起き上がった状態からとうとう立ち上がってオフェリーを羽交い締めにすると、現場はてんやわんやの騒ぎとなる。そしてケビンがその騒ぎを収めたら、改めてフィアンマに対して問うのだった。


「フィアンマ、どうする? この場で死ぬか生きるか決めろ」


「……くっ」


「ついでにメリッサもだ。オフェリーは2人を助けたいだろうが、本人は名誉ある戦死をしたいのかもしれんしな、意思確認をさせてもらう」


 ケビンから生きるか死ぬかの2択を迫られた2人は考え込んで色々なものを天秤にかけていくが、最終的に決めたのはやはり生きたいという意思であった。


「わかった。それならフィアンマ、オフェリー、メリッサ、カトレアはこの時点で俺の捕虜とする。その後の沙汰は戦争が終わってからだ。それでいいな? オフェリー」


「はい~ケビン様の寛大な配慮に感謝します~」


「んでだ、そこのカエル」


 クララから踏みつけられて地べたにベッタリと張りついているガブリエルへ声をかけると、ガブリエルは自分が呼ばれているとは思わずに無反応で返答する。


「おい、お主のことらしいぞ」


 無反応を示したガブリエルへクララが足に力を込めてそのことを教えると、ガブリエルはキッとケビンを睨みつけてそれを返事とした。


「この4人はうちの捕虜で自軍に帰るのはお前1人だけだ」


「フィアンマ、オフェリー、メリッサ、貴女たちの行動は軍法会議ものですよ。本当にそれで良いのですかっ!」


「ガブリエルちゃん、多分会うのは最後になるから伝えておくね」


 今まで間延びした口調を貫いていたオフェリーが、その口調をやめて真面目な顔つきとなる。それはガブリエルのみならず、他の3人も初めて見るオフェリーの姿であり困惑を隠せなかった。


「ケビン様が『黒の騎士団や白の騎士団があるのか?』って会談で問いかけてきたのを覚えてる?」


「……はい、それがどうかしたのですか?」


「ガブリエルちゃんはその時に『黒の騎士団はいませんが白の騎士団ホワイトナイツはあります』って答えたでしょ?」


「そうですけど……」


「実際に今日ケビン様も白の騎士団ホワイトナイツを見たから、その存在は確認しているんだけどね、本当は黒の騎士団ブラックナイツも存在するのよ」


 オフェリーから告げられた内容に4人は息を飲んだ。今まで6色の騎士団しか存在しないと思っていたところでの、7色目である黒の騎士団ブラックナイツの存在を教えられたのだ。


「バ……バカなことを言うものではありません! そのような騎士団が存在していて総団長である私が知らないなどありえません」


「そう言うと思ったよ。黒の騎士団ブラックナイツって何の職務に就いていると思う? 私たちは色によってそれぞれの受け持つ職務は違うし、上司となる枢機卿猊下も違うわよね?」


黒の騎士団ブラックナイツの職務……」


「ヒントはドウェイン枢機卿猊下が上司だよ」


「ドウェイン枢機卿猊下……」


 その名を言われた時に4人が思い至った共通の思考は、白の騎士団ホワイトナイツの上司であるということだった。


 その白の騎士団ホワイトナイツの行った所業は未だに信じていないガブリエルを除き、残る3人にとっては悪辣な行動であることはすぐさま行きついた答えであり、それを指示したドウェイン枢機卿に対して不信感を抱くことは容易なことであった。


「わからない? だからケビン様にあやつり人形だって言われるんだよ」


「わ、私はあやつり人形などではありません! そもそも黒の騎士団ブラックナイツが存在することすら疑わしいです! オフェリーは魔王に洗脳されたんです。正気に戻ってください!」


「はぁぁ……ガブリエルちゃんのその都合の悪いことは受けつけないっていう性質は、教団からしたら操りやすい駒だっていうことを自覚した方がいいよ。今まで教団の綺麗事ばかりを聞いてきたのでしょう? 知らず知らずのうちに洗脳を受けているのはガブリエルちゃんの方だよ」


 淡々と告げていくオフェリーに対して、ケビンはふと疑問に思ったことをオフェリーに尋ねてみた。


「なぁ、そこまでわかっておきながら、ガブリエルを正そうとは思わなかったのか? 見たところ昨日今日とかじゃなくて、それなりに付き合いは長いんだろ?」


「ケビン様、喉元にナイフを突きつけられた一般人が、そのナイフを構いもせず動き出すと思いますか?」


「それをやっているのが黒の騎士団ブラックナイツってことか?」


「はい、ガブリエルちゃんに答えを言って欲しかったですけど、この有り様ですからね。仕方がないので答えを言います。黒の騎士団ブラックナイツというのは表舞台に出てこない暗部の騎士団です」


 オフェリーが告げた黒の騎士団ブラックナイツの職務にガブリエルはわけがわからない顔をして、残る団長2人は苦虫を噛み潰したような表情となる。


「騎士団と言っても、私たちのように鎧を着込むようなことはありません。このような鎧は暗部の職務にとって邪魔でしかありませんから」


「それならブラックドラゴンの素材は何に使っているんだ?」


「主に軽装で動けるように鎧下の素材として使ったり、暗殺に使う武器の素材として使っています」


「何でそこまで詳しいんだ?」


 ケビンからの問いかけにオフェリーは一旦間を置いて深呼吸すると、再びその口を開いた。


「……それは私が黒の騎士団ブラックナイツの団員だからです」


「「――ッ!」」


 オフェリーの言葉を聞いたガブリエルは頭に?マークを浮かべているが、フィアンマたちはその事実に驚愕する。つまり、今の今まで暗部の人間に監視されていたと気づいたからだ。


「ごめんね、2人を騙すつもりはなかったんだよ。2人のことがとても大好きなのは本当だから……でも、それを信じてって言っても説得力がないのは私自身わかってる」


「んー……任務は詰まるところ団長たちの監視か?」


「はい。教団にとって不利益な行動をしないかの監視任務になります」


「今回はヘイスティングスが不利益を働いたな。もう魔物の嫁になったけど、もし国に帰っていたらどうなっていた?」


「私がヘイスティングスの任務失敗を報告して、後にヘイスティングスたちへ任務が告げられて、その任務の過程で死んだという扱いになり殺されます。まぁ今回は私だけでなく他の団長たちにも知られてしまったので、私が報告するまでもなく消されていたでしょうけど」


「そうか……そのまま帰してもどっちみち処刑だったってことだな。団員って言ってたし、さすがに団長の掛け持ちじゃないよな? 忙しすぎて仕事に手がつかないことになるし」


「はい。私は監視や情報収集が主な役割で、他のメンバーもそれぞれ別々の役割を持っています。そしてそれらのトップにいる団長は暗殺のプロです。失敗したことがありません」


「へぇー暗殺のプロねぇ……」


「その団長が誰なのかはガウェイン枢機卿猊下しか知りません。下っ端の私は会ったこともありませんし、名前、年齢はおろか性別すらわかりません」


「よし、決めた! オフェリー、お前は俺が守る。絶対に死なせない」


「ケビン様……」


 ケビンの決意を聞いたオフェリーは驚きで目を見開いた。そしてそのようなオフェリーに対してケビンは言葉を続ける。


「オフェリーが仲間想いなのは充分にわかった。でなければ、ガブリエルにその存在を教える必要はないもんな。放っておけばいい話だし。それに、喋らなくてもよかった後暗いことを頑張って教えてくれたんだ。俺はそれに報いるだけだ」


「そんな……でも……」


「多分、ガブリエルは馬鹿だから国に帰ったらお前のことを報告するだろう。その後に起こることは容易に想像できる。誰が来るかは知らないけど暗殺者がうちへ遊びに来るから、おもてなしをしなければならない」


「ケビン様へ迷惑はかけられません。私が捕虜として運ばれている時に、どこかで逃げ出して消息を断てばいいだけの話です」


「それをしたらフィアンマとメリッサが悲しむだろ。その2人の命はお前が救ったんだぞ? オフェリーの申し出がなければ、最悪今日ここで死んでいた。2人ともそうだろ?」


「ああ、あたしはオフェリーに命を救われた形だな。さっきまでは地べたで寝ていた身分だし」


「私もそうですね。強引にここへ連れてこられて、未来へ生きる道を残していただきました。多少の恥ずかしい代償は支払わされましたけど」


「そりゃあ、あたしも同じだ。ったく、人の秘密をペラペラと喋りやがって、戦争が終わったら覚えてろよ? ぜってぇ仕返しをしてやるからな」


 笑いながら答える2人にオフェリーは涙を流してしまい、それを見た2人から抱きつかれて慰められるのだった。


「それじゃあ話もまとまったところで、ガブリエルを返して聖戦でもするか」


「ふふっ、久しぶりに暴れられるわね」


「サラ、どっちが多く倒すか競争しない?」


「お姉ちゃんは敵を凍らせるわ!」


「ガブリエル、自軍に帰ってヒューゴに伝えろ。開戦は3時間後だ。それで自軍を立て直せとな。お前の策略を楽しみにしているとも伝えておけ」


 こうしてケビンは捕虜として捕まえたという前提のフィアンマ、オフェリー、メリッサ、カトレアを引き連れて、サラたちとともに自軍でしれっとのんびり過ごしている御三家の所へと転移するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る