第430話 質問攻め

 ケビンが携帯ハウスへ入った後の現場では、生徒たちがジャンヌたちへと質問の嵐を巻き起こしていた。


「ケビン先生って前衛なんですか?」

「魔法を使ってたから後衛ですよね?」

「でもでも、武器を使っていたよ!」


「太刀筋が全く見えなかったんですが!?」

「抜いたところと収めたところしかわからなかったよな!」

「薪作りの時なんか力を入れてなさそうだったのに、柔らかいものでも切るようにサクサク切っていたよな!」


「あの武器は何なんですか!?」

「見たことない武器だったよね!」

「剣にしては細長過ぎるよね」


「それよりもあの魔法は何なんだ!?」

「詠唱なんかしてなかったぞ!」

「火属性魔法なのに葉っぱだけしか燃えてなかったぜ!」


「それよりもあの家よ!」

「何で家があるの!?」

「マジックポーチはどこっ!?」

「何も持ってなかったわよ!」


「そもそもマジックポーチに家が入るわけないだろ!」

「じゃあ、どうやって家を出したんだよ!」

「それがわからねぇから先生に聞くんだろうが!」


「「「「「色々とありえないです!」」」」」


 生徒たちから次から次へと捲し立てられて、ジャンヌたちはその対応に追われてしまう。


「ああぁぁぁぁっ! もうわかった、わかったから落ち着いて! 教えてもいい範囲で教えてあげるから」


 生徒たちのあまりの興奮さに収拾がつかなくなったので、ジャンヌは1つずつ質問をさせてそれに答えられる範囲で答えることにした。


「戦闘時の配置を教えてください!」


「ケビンさんはオールラウンダーよ。前中後衛の全てをやれるわ。だから前衛みたいに武器も扱えるし、後衛みたいに魔法も扱える」


「でも、オールラウンダーは特化するところがなくて弱いって聞きますけど」


「それは中途半端にやろうとするからよ。ケビンさんはそれを極めてるの。つまり前衛の強さ、中衛の臨機応変さ、後衛のサポート力、そして極めつけは全体を見る能力。全てが高水準にあるからオールラウンダーでも強いのよ」


 それを聞いた生徒たちは「ほえ~」と声を漏らして、更なる質問を投げかける。


「冒険者ランクはやっぱりAランクなんですか?」


「そうよ、Aランクのソロ冒険者。相手によってはパーティーを組むことがあるけど、基本的には単独行動よ」


「ジャンヌ先生たちより凄いんですか?」


「当たり前じゃない。ケビンさんは大先輩の大ベテランよ。冒険者活動を始めたのは8歳からだと聞いているから、今だと……今だと……」


 頭の中で一生懸命計算をしているジャンヌへ、カミーユが溜息をつきながら答えを教える。


「13年間よ」


「そう、それ! 私たちなんかまだ4年しか経験していない若手なんだから。それに比べたらケビンさんは大先輩よ」


「8歳からですか!?」


「そうよ、そう聞いているわね。つまり今の君たちみたいな成人前後の時には、既に冒険者として名を馳せていたのよ。だから今日の街門でケビンさんに楯突いた生徒がいた時はぶっ飛ばしてやりたくなったけどね。『青二才風情が知ったふうな口をきいて』って」


 その言葉によって当事者である生徒たちは青ざめて俯いてしまうが、ケビン崇拝者のジャンヌがそれに気づくことはない。


「ケビン先生が詠唱もなしに魔法を唱えれるのは何でですか?」


「ああ、それは何だっけ?」


 魔法の専門外であるジャンヌは、魔術師のノエミへすぐさま丸投げするのだった。


「それはねぇ、【詠唱省略】っていうスキルを持っているからよぉ。本当は人のスキルを勝手に教えてはいけないんだけどぉ、ケビンさんから予め何か聞かれたら教えても良い範囲を伝えられているから特別よぉ」


「授業で習ったかもしれないけど、冒険者として活動する時は無闇矢鱈に人のスキルを詮索するのはマナー違反だからね。そういうのは仲の良い仲間同士でやること。間違っても会ったばかりの人に尋ねてはダメよ」


 ノエミの回答に補足してカミーユが説明をすると、次の質問が生徒から挙がる。


「あの家って何ですか?」


「ああ、あれは家だよ」


「……」


 生徒からの質問に対して当たり前のように回答したジャンヌの言葉を聞いた生徒たちは、『それは知ってる!』とツッコミたかったがさすがに怖くて心の内に秘めるだけで終わる。


「ジャンヌ、それじゃあダメよ……あの家はね、ケビンさんの野営用テントみたいなものよ。どこにでも持ち運びができるからお手軽に快適な野営を送れるけど、さすがに普通の人には無理ね」


「あの……ケビン先生はマジックポーチを持っていないように見えたのですが……」


「これもスキルね。教えてもいい範囲だから教えるわ。ケビンさんのアレは【アイテムボックス】というスキルなのよ。授業とかで聞いてない?」


 カミーユが引き続き教えていたら、生徒たちは【アイテムボックス】について語り合うのだった。


「【アイテムボックス】って……」

「冒険者で持っている人ってあまりいないよな?」

「だって、大体は商人を目指すからじゃない。授業でも先生がそう言ってたわ」

「そうそう。冒険者で持つ場合は自分が強くないと、他の冒険者に荷物持ちとして扱き使われるって言ってたよね」

「でも、家を持ち運ぶ人って聞いたことないぞ」

「どんだけ入るんだ?」


「【アイテムボックス】は魔力の総量で持てる容量が変わるんだ。さっきケビンさんは魔法も扱えると教えただろ? 一般的な商人の【アイテムボックス】とは質が違うんだよ」


 ジャンヌがそう告げると生徒たちは家を持ち運べるようなケビンの魔力総量に興味が湧くが、無闇矢鱈に詮索するのはマナー違反と言われているので自重してしまう。


 その後も適度にケビンについての質問が飛んでくるが、見張りと食事のことをジャンヌが告げて、先にやることを済ませるように質問会を閉めるのだった。


 そしてジャンヌたちは自分たちの見張りの件でケビンの携帯ハウスを訪れるが、携帯ハウスに足を踏み入れるのは初めてなので中の広さに唖然としてしまう。


「いらっしゃい」


 ケビンはジャンヌたちを招き入れるとテーブル席へ座らせて、お茶と食事を振舞っていく。


「あの、ケビンさん。見張りの件についてなんですが私たちで回しますので、ケビンさんは休まれてください」


 食事をいきなり振る舞われたジャンヌたちだがケビンの出す食事が美味しいのはわかっているので、遠慮しつつもそれをいただきながら見張りの件についての提案をジャンヌがした。


 対するケビンは予想の斜め上の回答をするのである。


「この野営実習の期間は見張りに立たなくていいよ。俺が結界を張っているから。ちなみにこのことは生徒たちには内緒ね」


「でも、それでは生徒たちの緊急時における対処とかができないのでは?」


 ジャンヌは魔物が近づいてきた時の対処法の練度が上がらないと思いケビンへ問い返すが、それに対してケビンの考えは的を射たものだった。


「初めての野営実習だからね、今回は野営の空気を感じ取ることができれば上々かな。夜に魔物が仮に襲ってきたとしても、見張りについている者は適切な対処はあまりできずに騒いで終わるみたいな感じになるかもしれない」


「確かに生徒にとっては初めての野営で、しかも冒険者として自立後のものではなく一生徒としてだから、冒険者のような立ち振る舞いを望むのは酷でしたね」


 ケビンの考えに賛同するジャンヌに対して、付け加えるかのようにクロエが口を開く。


「それに緊張感が高まり過ぎて明日には神経をすり減らしているかもしれないから、朝からの探索は注意が散漫になる可能性があるかもね」


「魔物がいるかもしれない所でひと晩明かすわけだから、見張りじゃない時もおちおちと寝られず睡眠不足になる可能性があるわね」


 クロエに続いてカミーユも懸念事項を挙げると、ケビンはまとめに入るのだった。


「まぁ、そういうわけだから生徒たちには絶対に襲われない野営で、草木の音にビビる感じで闇夜の緊張感を感じてもらおうか」


「わかりました。では、私たちはどうしましょうか? さすがに見張りに立たなければ怪しまれると思うのですが」


 ジャンヌが当然起こるであろう懸念をケビンへ伝えたら、それを聞いたケビンは簡単に結論を出した。


「それもそうか……よし、見張りは生徒たちに任せて緊急時には俺へ伝えるようにしよう。それならジャンヌたちが寝ていても問題ない」


 緊急時の連絡先を【森のさえずり】で受け持ちケビンを休ませようとするジャンヌだったが、そこはケビンが譲らなかったので泣く泣く諦めることになった。


 その後、引率者の見張りについて話し合いが終わるとジャンヌたちは食事のお礼を伝えた後に生徒たちの所へ赴いて、ケビンと話し合った内容をそのまま伝えるのだった。


 それを聞いた生徒たちは見張りが自分たちしかいないということで益々緊張感が高まってしまい、責任重大である見張りのメンバーを各パーティーから戦闘バランスが良くなるように派出する話し合いを行い、5名1組の2時間交代として回すことに決まる。


 そして生徒たちは18時から20時までの見張りについては『どうせ眠れないだろう』という意見が挙がっていたので、その2時間は各パーティーの反省会をしながら全員で見張りにつくという案で落ち着くことになった。


 一方その頃のケビンは夕食の片付けをひと通り終わらせると、檜風呂もどきの木風呂を満喫するためにお風呂へと向かう。久しぶりの野営ということでテンションも上がり、開閉式のガラス張り天井を全開にして良い気分に浸りながら体を洗っていた。


「ひ~のき風~呂、もどき~。あ~らよっとくらぁ」


 若干テンションがおかしな方向へと進んでいるケビンは、作詞作曲:ケビンの檜風呂もどきの歌を即興で作っては1人で歌っている。


「ひ~のき風~呂――」


「もどきー!」


「――ッ!」


 いきなり合いの手が入りケビンがビクッと体を震わせ振り向くと、ガラッという戸を開ける音とともにシャルロットが真っ裸で入ってくる。


「え……何してるの?」


「お兄ちゃんの背中を流しに来たの」


「えぇーっと、ジャンヌたちは?」


「伝えると止められるから、生徒たちの様子を見てくるって言って出てきちゃった」


「んー……でも、もう体は洗ったから俺は出るね。シャルはゆっくりしていればいいよ」


「ダメっ、お兄ちゃんを洗うの。絶対に洗うの!」


「はぁぁ……じゃあ頼むよ」


 ケビンが逃走を図ろうとするがシャルロットが駄々を捏ねてそれを許さず、ケビンは諦めとともにシャルロットへタオルを手渡した。


 そしてケビンが前を向くと、シャルロットは鼻歌交じりにタオルを泡立て始めてケビンの背中をこすっていく。


「気持ちいい?」


「そうだね、ちょうどいい力加減だよ」


「頑張るね。確か……こうかな?」


 ケビンの背中からタオルが離れたのでようやく終わるのかと思っていたケビンの思惑は外れて、ふにっとした柔らかい感触が背中越しに伝わってくる。


「あの……シャルさんや……それ、タオルじゃないよね?」


「うん、そうだよ。よくわからないけど、こうすると男の人が喜ぶってジャンヌが持っている本に書いてあったの」


 シャルロットの言葉によって図らずともジャンヌのあずかり知らぬところで尊厳が崩れていき、ケビンはジャンヌもそういう年頃なのだろうと深く考え込むことは放棄するのだった。


「クロエも見てるし、カミーユもこっそり見てるんだよ。だからシャルもこっそり見たの」


 更に暴露されていくパーティーメンバーの秘密はケビンが抱え込むには大きすぎるもので、聞かなかったことにしようとケビンは心に決めた。


 それからケビンの背中を流したシャルロットは今度は逆にケビンへ洗ってとせがんで、ケビンは諦めとともにシャルロットの体を洗っていく。


 その後は2人で湯船に浸かってケビンの上にシャルロットが座ると、背中をケビンへ預けてくつろぐのである。


「んふふ~お兄ちゃん♪」


「シャルは何でそこまで甘えん坊なんだ? いつもは普通にしているよな?」


「小さい頃からお兄ちゃんが欲しかったの。でも村で遊んでくれたのはジャンヌたちだけだったから」


 そう語るシャルロットはケビンに村で遊んでいた頃の話を面白おかしくして、ケビンはそれに相槌を打ちながら聞き役に徹していたらシャルロットがおもむろに振り返った。


「お兄ちゃん、お尻に固いのが当たってるよ」


「ああ、すまん。生理現象なんだ」


「シャルの体を抱っこしてるから?」


「そうだな。裸を見ているわけだしな」


「わかった」


 それからシャルロットの奉仕精神でケビンへ尽くすと、その場の雰囲気に流されて1戦交えることになるのだった。


「無茶しすぎだろ」


「お兄ちゃんに喜んで欲しくて……」


「やってしまったものはしょうがない。シャルはもう俺の女だからな? 他の男になびくなよ?」


「シャルはお兄ちゃんの女になるの?」


「ああ、そうだ」


「わかった。それならシャルはお兄ちゃんとしか結婚しない」


 こうしてケビンとシャルロットがそのままの体勢でいたら、思わぬ来訪者が浴室へ入ってきた。


「ケビンさん、私たちも一緒にお風呂――ッ!」


「あ……」


 その来訪者とはシャルロットを捜していたジャンヌたちで、帰りが遅く生徒たちの所にいなかったので確実にケビンの所にいるだろうと予測してやって来ていたのだ。


 そして携帯ハウスを訪ねたものの返事がなかったので失礼は承知で中へ入ると、風呂場をこっそり覗いたノエミがシャルロットの服が脱ぎ散らかされているのを見つけてジャンヌへと報告をし、シャルロットが成功させているならばと満場一致で風呂へ突入したところでの先の事案であった。


 シャルロットの絶頂とジャンヌの乱入がほぼ同時だったため、シャルロットはジャンヌたちに気づかぬままケビンへと話しかけていた。


「あぁぁ……その、シャル? 迎えが来たっぽいぞ?」


 ケビンからそう告げられたシャルロットは首を傾げながら入口へ顔を向けると、そこには呆然としているジャンヌたちが立ちすくんでいる。


「あ、ジャンヌ。私、お兄ちゃんの女になったの」


 なんてことのない風にシャルロットがジャンヌたちへそう告げると、再起動を果たしたジャンヌはケビンへと懇願する。


「ケビンさん、シャルロットばかりズルいです! ケビンさんもやっぱり胸ですか? 胸なんですか!? 大きいのが正義なんですか!」


「い、いや……俺はジャンヌの胸も好きだぞ」


 ジャンヌの鬼気迫る迫力に押されてしまい、ケビンは普通に好きだと返してしまうと更なる追撃がジャンヌの口から飛び出る。


「それなら抱いてください! 小さな胸でも好きだって証明してください!」

「ず、ズルい! 私も!」


 小さな胸同盟を結んでいるクロエがジャンヌのあとに続いて口にすると、ケビンはまとめ役でもあるカミーユへ視線を向けて助けを求めた。


「わ、私も抱いてください……」


 が、助けて貰えず追撃を受けてしまうと、残る1人で年長者のノエミへ視線を向けるが、どうやらケビンに逃げ場はないらしい。


「見張り仕事がなくて良かったわぁ」


 そのような時にシャルロットが仲間を援護する。


「お兄ちゃん、ジャンヌたちもお兄ちゃんの女にして欲しいの。みんなシャルの大事な仲間だから」


「……わかった」


 ケビンはそのままここでするとゆっくりできないので、転移を使って全員を寝室のベッドの上へと移動させるとジャンヌから抱くことにした。


「あの……激しくしてください」


「え……」


 その後、活発なジャンヌの思わぬ性癖を垣間見てしまったケビンはジャンヌを休ませたら、次を待っているクロエの元へ向かうのであった。

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