第425話 エンプレスソフィーリア号
元気に遊び回っていた子供たちが疲れてしまってのんびりと砂のお城を建築している頃、お昼の時間となって嫁たちが率先して料理を作り始めていた。
ちなみに戦力外通告を受けている嫁たちは子供たちと大人しくお城作りに励んでは、料理を作る母親に代わって見ていた。戦力外通告を受けていない料理を作れる嫁たちは、小さな子供たちの相手をしては乳母代わりになっている。
そのような平和な光景を目にしながらケビンはお昼ご飯ができるのを待って、料理ができたらみんなで美味しくいただくのであった。
そして昼食後しばらくしてから海水浴の醍醐味を子供たちへやらせるため、ケビンが進行役となって盛り上げていく。
「第1回 誰がスイカを割るのか、心眼の使い手はいったい誰だ? の始まりだー!」
「「「「「わーい!」」」」」
「「「「「あげぽよ、ウェーイ!」」」」」
ノリノリで進行役を務めるケビンに対して、子供たちやあげぽよ団もノリノリで返して盛り上がりケビンの進行を待つ。
「それでは簡単すぎるルール説明だ。選手は線の位置で目隠しをしたらその場で1回転して周りの誘導に従ってスイカを目指し、ここだと思ったところで木刀を振り下ろしてくれ。見事スイカを割れたら成功で割れなかったら失敗だ」
ケビンの説明が終わると係役がスタート地点から近い位置にスイカを設置して準備が整ったら、栄えある1番手として挑戦するのは長男であるテオだった。
「頑張るのよ、テオ」
「はい、お母さん」
それから準備の終えたテオがその場で1回転をして歩き出すと、周りから誘導の声が挙がり始める。
「テオ、右だよー」
「もうちょっと左」
「斜めに進んでるよー」
「そのまま真っ直ぐ」
周りからの誘導は子供たちへスイカを割らせたいがため、引っ掛けなどの指示はなく純粋にテオを応援していた。
「えいっ!」
そしてテオが木刀を振り下ろすとスイカの端っこを掠めただけで、綺麗に割るようなことはできずに目隠しを外したテオは悔しがるのだった。
その後はソフィーリアの所へ向かって悔しい気持ちをぶつけていたが、ソフィーリアはニコニコと頭を撫でてスイカへ木刀を当てられたことを褒める。
テオが割ることができなかったので2番手となる挑戦者は、長女となるエミリーの挑戦だ。
「エミリー、頑張ってね。当てるだけでいいのよ」
「うん。ママ見ててね」
エミリーはサーシャに褒めてもらうため意気込んだものの、結果はかすりもしないで砂浜への打ち下ろしだった。エミリーは悔しくて泣きながらサーシャに慰めてもらっていたが、次なる挑戦者が姿を現す。
「フェリシア、頑張るのです!」
「しんがんはシアがつかうの」
「おねえちゃんがんばってー」
スカーレットの娘である双子の姉フェリシアが意気込んでゲームを始めると、有言実行と言わんばかりにスタスタ歩いていきスイカへ木刀を当ててしまう。だが、割るほどの力はないためにスイカは凹むだけで終わってしまうが、その迷いのない動きに周りの者たちは不思議な感覚に陥る。
「つぎはティがあてるの」
「ティならいけるよー」
姉のフェリシアが終わったので今度は妹のフェリシティが準備を終えてゲームを始めると、姉と同様に迷いなく歩いてはスイカへポコンと木刀を当ててしまい、更にギャラリーが困惑してしまう。
「あれ……マジで心眼の使い手……?」
ケビンは双子がサクサクと成功させてしまったので鑑定を使ってステータスを覗いてみるが、【心眼】のスキルは所持しておらず益々意味がわからなくなってしまう。
そのようなところへ元祖双子のララとルルがケビンの所へやってきては、予想の範疇である考えをケビンへ提示するのだった。
「「ケビン様」」
「何か知ってるの?」
「恐らく私たちと同じように感覚共有が使えるのかと……」
「もしかしたら私たちよりも精度が上かもしれません」
「あぁ、確かに双子特有の称号は持っていたな」
ケビンはそれからその効果を確かめるために、スカーレットの所ではしゃいでいるフェリシアへと声をかける。
「フェリシア、そこから目を瞑ってパパの所へおいで」
「うん!」
ケビンの伝えた内容も内容だが、それに対して躊躇いもなく返事をしたフェリシアに周りの者たちは唖然としてしまう。
そしてフェリシアはスカーレットの所へフェリシティを残したまま、目を瞑ってケビンの所まで誘導もなく来てしまった。
その様子を見ていた者たちからざわめきが沸き起こるが、今の行動によってララたちの予想が確定的となる。
ケビンはその時にフェリシア以外にもフェリシティへと視線を向けており、そのフェリシティがケビンをガン見していたので誘導役は妹のフェリシティだと悟った。
「シア、ティから教えてもらったのかい?」
「うん! なんとなくわかるの」
ケビンの質問とフェリシアの言葉によって双子の新たなる可能性が導き出されてしまったが、一時中断となっていたスイカ割りをケビンが再開する。
その後はニーナの娘であるニーアム、アリスの息子であるアレックス、シーラの息子であるシーヴァまで参加して、ティナの息子であるシルヴィオとクリスの娘であるオルネラは歩き始めたばかりなので、母親が抱っこしてスイカへ近寄り叩くだけの参加となる。
それ以下の子供たちも母親に抱っこされて叩いたり、木刀を持つこともできない子はスイカへ触らせるといった方法で楽しんでもらうこととなった。
そしてここからは年長組の出番で、当てれば確実に割ってしまうであろう学生たちの出番である。さすがに小さな子供たちとは違うので、スイカの距離もスタート地点から離れて難易度が上がっていた。
それでも周りの誘導役が上手く誘導したこともあるので学生組はスイカへ木刀を当てていき、新しいスイカとポンポン入れ替えてゲームは続行されていく。
子供たち全員が終わると今度は嫁たちの番で、こちらは大人ということで意地悪な誘導が多々見受けられて、当然のことながら子供たちほど成功率は高くなかった。
そしてスイカ割りが終わるとケビンはMVPとしてフェリシアとフェリシティの双子を表彰したら、そのあとはみんなでスイカを食べて団欒を過ごしていく。
その時にケビンが思いつきでスイカの種飛ばしゲームを始めてしまうが子供たちが面白がってお互いに飛ばして当てようとしてしまい、母親たちに叱られてしまったことは言うまでもない。
「もう、ケビン君が変なゲームを始めちゃうから、子供たちが行儀悪くなっちゃったじゃない」
「ティナも大概行儀が悪いというかズボラだろ? それに子供たちは無邪気に遊ぶのが仕事だ」
「そうじゃのぅ。ティナは目くじらを立てすぎだの」
「だって……将来は国を代表する子たちで、今のうちからしっかり教育をしておかないと……」
「教育ママ」
「目覚めちゃったねー」
「明日は雨かしら?」
「シーラ、それは言い過ぎですわよ」
「真面目なティナなんてありえないわね」
「ティナさんだってやる時はやるんです!」
「そうです、真のエロフですから!」
「みなさん、そういじめてはティナさんが……」
「ティナはんは真面目なんか不真面目なんかよぅわからんなぁ」
「ちょ、ニーナが変なこと言うから、私が不真面目な流れになったじゃない! というかレティ! 真のエロフって何よ!? シルヴィオの教育に良くないでしょ」
「それなら今後はケビン君とのベッド・インはナシでいいのかな?」
「ク、クリス!? それは今の話と関係ないっていうか、それをされると困るっていうか……」
「でも、シルヴィオの教育に良くないよ?」
「い、いや……シルヴィオが見ていないところでやるから……」
「真のエロフ確定」
「我が子の教育より性欲が勝ったねー」
「明日は雨が降らないみたいね」
「シーラ……」
「やっぱりティナはティナね」
「真のエロフは正直です!」
「流石です!」
「ああっ、ティナさんが涙目に……」
「ティナはんはほんま性に正直過ぎるえ」
「うわぁーん。ケビン君、みんながいじめるー」
一部を除いた正妻組から揶揄われてしまったティナは、ケビンに泣きついて抱きつくと慰めてもらうのであった。
「あざとい……」
ニーナのボソッと呟いた言葉は他の嫁たちも同意している部分があるのか黙って頷く者もいれば、いつもの流れなので生温かい視線をティナへ向ける者たちもいた。
そのような大人の事情など知ったことではない子供たちは、大きな子供をあやしているケビンへ声をかける。
「パパー、おしろをつくってー」
子供たちが午前中から遊んでいたお城作りは思いのほか捗らないようで、お城(笑)みたいな山とトンネルを掘ったものが作られていた。
「よし、帝城を作ろうか」
「おうちー!」
それからケビンは子供たちに小さなバケツを渡して水を汲んで来るように伝えると、ケビンは大きなバケツの底を切り取って筒状に変えてしまう。そこへ子供たちが水汲みを終えて帰ってきたので一緒にお城を作り始める。
「ここに砂を入れてあるから汲んできた水を砂の位置まで入れるんだ」
「「「「「はーい」」」」」
子供たちが水を入れたらケビンは次の指示を出した。
「次は中に入って踏みつけて」
子供が1人代表でバケツの中に入ると足踏みをして、砂を踏みつけていく。
「よし、これをバケツいっぱいの砂になるまで繰り返すからね」
そしてバケツいっぱいに固めた砂ができあがるとケビンがバケツをゆっくり抜いていき、中から固まった円柱型の砂が出てくる。
「それじゃあ今からお城を作るよ。みんなは小さな家を作っていこう」
ケビンは子供たちでもできるように小さなバケツの底を切り取っては、先程と同じようにして砂を固める作業を子供たちへやらせていく。
その間にケビンは大きな方を削っては形を整えていき、乾燥し始めそうなところは霧吹きで水を吹き付けていった。
そして子供たち用の固めた砂が完成していくとケビンは子供たちに道具を持たせて、お手本を見せながら簡単な家の作り方を教えこんでいく。
その子供たちが慎重に自分の家を作り出しているところを見守りつつ、ケビンは帝城作りの作業を進めていった。
さすがに手の込んだ帝城を作っているケビンと小さな子供たちでも作れる簡単な家の完成速度は雲泥の差があり、子供たちが次々に自分の作る家を完成させては母親を呼びに行って、自分の家へ連れてきたら嬉しそうに自慢するのだった。
それからはみんなでケビンの作る帝城の完成を待ち続けて見学していると、夕暮れ時となってようやくケビンの帝城は完成に至る。
「ふうー……完成だ」
「「「「「パパ、すごーい!」」」」」
「ふふっ、あなたは本当に物作りが好きなのね」
「これは完全に帝城だわ」
「マイホーム」
「さすが私のケビンね!」
「ケビン君凄い……」
「私も作れば良かったー」
「リンちゃんとシャンちゃんまでいます!」
「ケビン様は凄いです!」
「主殿よ、これは壊れるのがもったいない程の出来栄えだぞ?」
「これは新たな商売に使えそうえ」
「ケビン君って何でもできてしまうのですわね」
「「クゥー!」」
皆が絶賛するケビンの砂のお城は敷地内を全て再現しており、お城だけに留まらず魔導具工場やナディアのアトリエ、放牧場にパンブーゾーン、騎士寮と訓練場、農地に孤児院までかと思いきや放牧場にはバイコーンたち、パンブーゾーンには双子のパンブーまで作られていた。
その理由として帝城を作る過程で細かい作業に飽きてしまい、どうせならと気晴らしで敷地にある農地を作ってみたら思いのほかこだわりが強くなり、周りの建物をどんどん追加してしまったのだ。
それにより砂のお城だけで終わらせる予定だったケビンが他のものを作り始めたせいで、帝城完成が現時刻まで引き伸ばされたということになる。
「はぁぁ……疲れた……とりあえず今日はこの辺でお開きにするか」
「ケビン君、もう家に帰るの?」
「いや、家族旅行兼慰安旅行だからまだ城には帰らない」
ケビンはそうクリスへ伝えると豪華客船へ乗り込むため【無限収納】から海へ向かって取り出すと、それを見ていたソフィーリア以外の者はいきなり現れた大きな建造物に言葉を失ってしまう。
「これで寝泊まりするぞ」
「ケビン君……あれ……なに?」
「大きな白い箱?」
「浮かんでるねー」
「あれはエンプレスソフィーリア号で、早い話が船だ」
「船というものは木でできておりますのよ? それにあれには帆がありませんわ」
「帆船じゃないからな。魔導動力船だから魔力で動かせる」
「さすがはケビンね! お姉ちゃんの自慢の弟だわ!」
「ソフィ様のお名前です!」
「ソフィ様のように綺麗で美しく威厳があります!」
「主殿は規格外よのぅ……」
「この船自体が魔導具のようなものかえ?」
それからケビンは全員を転移で上甲板に連れていくと、嫁たちは目の前にあるプールでまたもや度肝を抜かれてしまう。軽く説明をしただけでケビンは艦橋へと嫁たちを連れていくが、さすがに全員は入れないので子供たちにはプールで遊ばせて、監視員として主要メンバー以外をその場に残してきた。
「マスターコード:ソフィーリア、待機モード解除」
艦長席に腰を下ろしたケビンがシステムのスタンバイモードを解除する指示を出すと、妙にハイテンションな者がその場に現れる。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! いつもニコニコあなたの脳内に這いよる美少女、サナたそ、DEATH! キラッ☆」
今日は海水浴だったためかホログラムサナは水色と白のボーダー柄をしたビキニ姿で登場していたが、それを見た嫁たちは唖然としてしまう。
「サナ、擬似体を手に入れたの?」
「はい、ソフィーリア様。今はホログラムですがマスターを騙し抜いて本体のコピーをシステムへ導入しました。なんと本体とのリンク機能付きです。エッヘン!」
「そう、良かったわね」
ソフィーリアの機嫌が割かし良さそうに見えてしまったホログラムサナは、以前からの要望である実体化をここぞとばかりに捩じ込んでくる。
「それで、その……できればソフィーリア様に体を創って頂きたくて……」
「ケビンを騙し抜いたのでしょう? 普通にお願いすればそれくらい許してくれたはずよ? だからまだダメね。私の気が向くまではそのままでいなさい」
「ぐはっ……そんな殺生な……いやしかし、フルダイブシステムさえ完成させれば……」
サナはソフィーリアから断られたことによってブツブツと諦めの悪いことを呟いていたが、そのようなやり取りを見ていた嫁たちはサナの登場をケビンへ詰め寄って質問攻めにしていた。
その嫁たちはケビンの頭の中にいるサナという存在がホログラムであれ実体化していたことにより色々と質問をしていくが、面倒になったケビンはサナへ直接質問するよう本人へ丸投げするのだった。
その後は各部屋をあらかた説明し終えたケビンは船内で迷ったらサナを呼べばどこにでも現れると伝えて、夕食ができあがるまでのんびりと過ごすのであった。
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