第414話 SS アインとリナの結婚式

 アインとリナの結婚式がカロトバウン家の庭で執り行われることが決まるとアインはディシスカース家を迎えに行き、事前にカインの邸宅の庭にはドラゴンの剥製が置かれていることを知らせたら、リナの容態が悪くならないように細心の注意を払っていた。


 そのおかげもあってかカロトバウン家へ到着した時にはリナも心構えができており、震えながらもアインと手を繋いでドラゴンを触りにカイン家の庭へお邪魔していた。


 物語の中でしか見ることのできなかったドラゴンに触れて、リナは少しばかり興奮したのか顔が赤らんでいる。


 そのような2人の光景を目にしながらディシスカース家のフレディとイレーネは、カロトバウン家のギースとサラへ来訪の挨拶を行うため邸宅の中へと招かれ足を進める。


 そしてドラゴンを触っているリナはアインに心配され、これからはいつでも調子が良い時に触れるようになると言われて家の中で休むように薦められた。


 家の中では両家の両親が挨拶をしているのでアインとリナはリビングのソファでゆっくり休んでいるのだが、そこへぴょんぴょんと跳ねている動く物体を目にしたリナが興味津々でアインへ問いかける。


「ア、アイン様っ! あ、あれは何ですか!?」


 先程からドラゴンに引き続きうさぎまで目にしたリナが興奮気味であり、アインは大丈夫だろうかと心配をしながらも答えを返していく。


「あれはうさぎという小動物だよ。母さんのペットでね、弟のケビンが贈ったものなんだ」


「うさぎですか!?」


「頭の良い子たちだから呼べば寄って来るよ」


「――ッ! う、うさぎ様、どうぞお越しください」


 リナの呼び掛けに反応した白黒ペアのうさぎは、ぴょんぴょんと跳ねてはリナの足元へやって来る。


「き、来ました! うさぎ様が……ゴホッゴホッ……」


 病弱なため家から出ることがなく本が友だちだったリナは、次々と目にする新しいものへ興奮してしまい案の定咳き込み出して体調を崩してしまう。


 そのようなリナをお姫様抱っこするアインは客室へと連れて行き、ベッドへ横にならせるのだった。


「ゴホッゴホッ……ごめんなさい、アイン様……」


「気にしなくていいよ。リナにとっては物珍しいものばかりだから仕方がないよ」


「結婚式が……近いのに……」


「今は体をゆっくり休めることに専念するんだよ」


 アインはリナの体調を慮るとそのまま休ませてその場を後にする。


 リビングへ戻ったアインはサラがいるのを見かけるとリナのことを説明して、うさぎを連れて行っても構わないか問いかけて許可がもらえると2匹を連れてリナのいる客室へと戻っていく。


 そして部屋へ入ったアインはうさぎをベッドの上に乗せてリナの傍にいるように伝えると、2匹はぴょんぴょんと跳ねて枕元へ移動するのだった。


「……アイン様、うさぎ様……ありがとうございます」


「母さんが連れて行ってもいいって許可してくれたからね。しばらくはうさぎとともに過ごすといいよ」


「サラ様へお礼をお伝えください」


「ああ、後で伝えておくよ」


 その後は2人と2匹でゆっくりとした時間を過ごしていたら、リナは早くもうさぎのモフモフに魅了されてしまうのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 季節は6月となり晴れ渡る空の下、アインとリナの結婚式が執り行われる。


 本来ならば他家の貴族たちを招いてお披露目をするのだが、リナの体調が不安定なので家族内だけで済ませることになり、他貴族へは報告の手紙だけを送ることにした。


 それでも駆けつけてくれたのはヴィクトール国王夫妻とライル大公夫妻で、ヴィクトールに至っては当日の予定をキャンセルするとバタバタ準備をして視察というありふれた名目で城を抜け出してきている。


 そもそも国王夫妻や大公夫妻が即時対応できたのはひとえにケビンが主要人物へ魔導通信機を贈り、個々の連絡を密にして連携が図れるように意図したことに他ならない。


 その発起人となるケビンはサラからの連絡で知り、それからヴィクトール国王へ知らせてから嫁たちとともに準備を終えて現地入りした。


 そして急な結婚式となるが予めガイル司教には伝えており、ガイル司教立ち会いの元で結婚式が執り行われた。


「アイン、あなたはここにいるリナを病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


「はい、誓います」


「リナ、あなたはここにいるアインを病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


「はい、誓います」


「では、指輪の交換を」


 神父の言葉に続いて誓いを交わした2人は、指輪交換を滞りなく終わらせると正面へ向き直した。


「引き続き、誓いの口づけを女神に対して捧げてください」


 アインがリナのヴェールをめくると、幸せのあまり瞳を潤ませたリナに対してそっと口づけをする。


「これによりあなた方は夫婦となりました。末永く女神のご加護があらんことを」


 そして滞りなく式が終わると昼食会となって立食式のパーティーが始まったが、リナの体調を慮ったアインがリナをイスに座らせるのだった。


 そのようなところへケビンが挨拶に向かいアインへ声をかける。


「アイン兄さん、リナ義姉さん、結婚おめでとう」


「ありがとう、ケビン」

「ありがとうございます、ケビン様」


「リナ義姉さん、義弟相手に様付けはやめようよ」


「これは癖のようなものですのでご了承ください」


 義弟相手に様付けしてくるリナへ対してケビンはこそばゆく感じてしまうが、リナに癖と言われてしまい断念するしかなかった。


 それからケビンの嫁たちも挨拶をしていき、専ら話題となるのは2人の馴れ初めである。


 急遽女子トークがリナと嫁たちで始まってしまい、ケビンは飛び火してこないようにそそくさとその場を離れてご飯を食べに向かうのだった。


 そして残されたアインは主賓でもあり、リナを放ってその場を離れるわけにもいかず、姦しい女子トークの餌食になっていく。


 そのようなことが起こっている中で、カインがケビンへ近寄って話しかけていた。


「ようケビン、兄ちゃんはとうとうルージュと一緒にAランクになったぞ」


「へぇーおめでとう」


「兄さんも義姉さんへ会いに行った往復だけでAランクになったけどな……」


「あぁぁ……」


 カインがガックリとした様子で語っていたので、ケビンは短期間で並ばれてしまい悔しかったのだろうと推測して配慮する。


「まぁ、ルージュ義姉さんのサポートがあったにせよ、カイン兄さんは剣術のみだし凄いと思うよ」


「そうかあ?」


「アイン兄さんは【賢帝】だからね。効率良くランクを上げる方法でも考えついたんだよ」


「まぁ、確かに兄さんが頭を使いだしたら俺には太刀打ちできねぇからな」


 その後はしばらくご飯をつまみつつ人との交流を深めるケビンだったが、急に誰かが咳き込み出したのでそちらへ視線を向けるとリナが苦しそうに胸を押さえているところを目にする。


「《ヒール》」


 ケビンが近寄り咄嗟に回復魔法を使ってはみるが、一向に良くなるような気配はなかった。


「あれ? おかしい……」


 ケビンが不思議に思い首を傾げていると、リナの背中をさすっていたアインが声をかける。


「ケビン、リナの状態を【鑑定】で診てくれないかい?」


「ちょっと待って……あぁぁ……これは酷い……」


 ケビンのボソッと漏らした言葉でその場にいた者たちが息を呑み、アインはケビンの反応で焦燥を感じてしまう。


「何がわかったんだい?」


「えっと……さすがにこれは言いづらい……」


「構わない。言ってくれ」


「……このままだとファラさんみたいになる」


 ケビンが意を決して伝えた言葉で、ファラを知る者はすぐさまどういう結末に至るのかを理解してしまった。


「……それは子を産むとかい?」


 アインは必死に言葉を紡ぎ出すがその声音は震えていた。


「いや、たとえ産まなくても長くはない。予想でしかないけど余命は少ないと思う」


「――ッ!」


 ケビンの口にした“余命”という言葉でアインを初めとする皆が絶句してしまい、ただ1人リナだけは真摯にその言葉を受け止めている。


「アイン様、幸せな夢を見させていただいてありがとうござました。今日この日のことはあとどれだけ生きられるかわかりませんが生涯忘れません。幸いなことに他貴族へのお手紙はまだ出していませんからなかったことにしましょう」


 リナの語る内容にイレーネは嗚咽を漏らし、フレディはそのような妻を抱き寄せ慰めているが、アインはその結末を看過することができなかった。


「ふざけるな!」


 いつもは落ち着いているアインが初めて感情を顕にして声をあげると、拳を握りしめて昂った感情をそのまま言葉にする。


「僕はリナの先がないとわかっていても君を捨てるような真似はしない! 君を捨てて他の女性と結婚するくらいなら君と一緒に死ぬ!」


「アイン様、それはダメです! アイン様はカロトバウン家を背負って立たれる身。私のような女に囚われていてはいけません」


「君が何を言おうと僕の気持ちは変わらない。どんな手を使ってでも大切な君を守ってみせる!」


「アイン様、お願いです。私のことは忘れてどうか幸せな道を歩み下さい」


「君が隣にいない道などただの地獄だ。君は僕に地獄を歩けと言うのか!?」


「そうではありません。アイン様を支えられる女性とともに幸せな道を歩んで下さい」


「…………わかった。僕は僕を支えられる女性とともに道を歩むことにする」


 今まで必死に反対していたアインがしばらくの沈黙の後にリナの言葉を肯定すると、リナは悲しげな表情を浮かべながらも微笑んでみせた。


「それでよろしいのです。アイン様のお隣にはアイン様を支えられる女性が一緒に歩まれますから」


 だが、リナの言葉を肯定したアインは既に頭をフル回転させて、なりふり構わず解決策となりそうな可能性を導き出していた。


「ケビン!」


「言いたいことはわかるよ。だけど、仮にも命を弄るわけだからちょっと考えさせてもらう」


 ケビンがそう言うと瞳を閉じてソフィーリアへコンタクトをとった。


『ソフィ』


『なあに? 直接聞かず回りくどいことをするのね』


『だってソフィが神なのは秘密だろ? ここにはそれを知らない人たちがいるんだし』


『まぁ、いいわ。結論から言うとこの世界の常識では禁忌よ』


『やっぱりそうか……』


『命を弄るのならばね』


『ん? どういうこと?』


『病気のせいで余命が短くなっているんだから、病気を治せばいいじゃない』


『え……あれって治せるの? 単純な風邪とかじゃないんだよ?』


『あなたは《リジェネレーション》が使えるでしょう?』


『部位欠損の回復魔法だろ?』


『あなたはそういう認識で部位欠損にしか使わないけど、あれは再生の魔法なのよ?』


『つまり?』


『あるべき姿に戻るということ。リナの場合で言えば病魔に侵される前の健康体まで細胞単位で再生されるということよ』


『地味に凄い魔法だったんだな……』


『そうね。使い方を変えれば不老不死になるわよ』


『……リナ義姉さんが若返って子供になるってことはないよな?』


『あなたがそれを望まない限りね』


 ソフィーリアとの相談が終わったケビンが瞳を開けると、リナへ視線を向けて覚悟を問いただす。


「リナ義姉さん、もし生き長らえることができたらアイン兄さんの隣を歩く覚悟はある?」


「……生き……長らえる……」


「そう。これからずっと生き続けていくことだよ」


「……私は……」


 リナは逡巡する。ケビンから余命の年数は伝えられておらずとも、「少ない」と余命宣告同様であとがないことを聞かされて1度は手放した想い。


 リナ自身昔から体調が改善しないのでそこまで長くは生きられないと密かに思っていたが、それでも子供を産まず療養していれば少なくはない期間をアインとともに生きられるだろうと当初は考えていた。


 それ故に今回の結婚話も受けて、アインとともに生きようと覚悟していた想い。その覚悟を再度ケビンから問われて司教の前で誓ったあの言葉が頭の中をよぎっていく。


 そしてリナの覚悟が決まり、その想いを口にした。


「私は生き長らえることができるならアイン様と添い遂げたいです。アイン様のことを慕うこの気持ちに嘘偽りはありません!」


「良かったぁ~……ここで覚悟はありませんなんて言われたら、この先の展開で困るところだったよ」


 先程の覚悟を問う真面目な顔つきから一変、心底安堵したかのような表情を見せるケビンにリナは戸惑ってしまう。


「あの……ケビン様……?」


「ああ、ごめん。健康な状態までリナ義姉さんを治すよ。《リジェネレーション》」


 暖かな光に包まれるリナは困惑したままだったが、光に包まれているリナの様子を周りにいる者たちは固唾を飲んで見守っていた。


 すると病弱に見えた外見が見る見るうちに変化していき、本来の姿である肉付きの良い女性としてのリナの姿となっていく。


「あ、あれ?」


 ケビンとしては健康体に戻そうというイメージの元で魔法を使っていたのだが、魔法がそのイメージを反映して細胞を再生させるだけでなくケビンのイメージしている健康体へと細胞を活性化させていき、ソフィーリアの言う『あるべき姿』へ図らずともなってしまった形となり、魔法を行使した本人であるケビンは予想外の事態に困惑してしまう。


「うっ……」


 だが、健康体になったであろうリナが胸を押さえて苦しみ出したので、ケビンは益々混乱することとなった。


「え……えっ……!?」


 そこへアインが焦った表情でリナへ声をかける。


「リナっ、どうしたんだ!? ケビンの魔法が効かなかったのか!?」


「む、胸が……苦しい……」


 必死に紡ぎ出したリナの言葉で一同が胸へ視線を向けると、元々病弱で細身なリナの体で仕立て上げていたドレスの胸部に対して食い破やらんと押し上げるかのように膨らんでいた胸を、逆にドレスが抑え込むかのように締め付けており両者がせめぎ合ってしまい、こぼれんばかりの谷間を作り出していた。


「ソ、ソフィ、頼む!」


 ケビンの呼び掛けに反応したソフィーリアが指をパチンと鳴らすと、ドレスや下着が今のリナの体型に合わせて変化していき、苦しみから解放されたリナは大きく息を吐き出して呼吸を整える。


 それによってこぼれそうだった胸は本来の形を取り戻して、下品にならない程度の谷間へ落ち着くこととなった。


「はぁぁ……一時はどうなるかと思ったよ……」


 とんだハプニングが起こってしまったがリナの状態が色々と改善されたことでその場は落ち着きを取り戻して、ケビンが治療の結果を知らせるのだった。


「とりあえず予想外のことは起きたけど、リナ義姉さんの体を蝕んでいた病は治ったし天寿を全うすると思うよ」


「思う……?」


 ケビンの断言ではない言葉尻を拾い心配しているアインが問い返すと、ケビンから当たり前のことを返されてしまう。


「不慮の事故とか、また病気になったりとかするだろ? 先のことなんて誰にもわからないんだから、何事もなければ生き続けるって意味だよ」


 その言葉でようやく周りの者たちは安堵するが、ケビンが最後の注意事項を伝えるのだった。


「このことは他国だけど皇帝権限で箝口令を敷かせてもらうね。寿命を伸ばしたなんて知られたら大変だし、何より相手にするのが面倒くさい」


 その重要性に気づいている者たちは一様に頷き返し、ヴィクトール国王も自国の国王権限でケビンと同様に箝口令を敷くのである。


 事態が落ち着いたところでリナがケビンへ返せないほどの恩を受けたため少しでも恩返しをしたくて何かできることはないのかと申し出るが、ケビンが答えたのは「それならアイン兄さんの子供をいっぱい産んで」という内容で、それを聞いたリナが頬を赤らめてしまったのは言うまでもない。


 そのような和やかな空気が漂う中で、ケビンを狙う1人のハンターがその姿を現した。


「ケビンっ!」


 ケビンへ唐突に声をかけたのは何を隠そうルージュである。


「え……なに?」


「あなた、胸を大きくすることできるじゃない! 私にもしなさい!」


 唐突に告げられる内容にケビンの思考は理解が追いつかなかったが、残念そうな目を向けてルージュを見返すのである。


「頭でも打った?」


「リナ義姉さんとは同盟を結んでいたのよ! それをあんたはっ!」


「同盟……?」


 ケビンが不思議そうにリナへ視線を向けると、それを知られたのが恥ずかしかったのか顔を赤らめて小さくコクリと頷くのだった。


「リナ義姉さんのは本来の姿になっただけだよ。つまり元々あるはずだった大きさってことで、ルージュ義姉さんみたいに最初からないわけじゃない」


「ないない言わないでよ! 私にだってちょっとはあるんだから!」


「引き続きカイン兄さんに育ててもらえばいいだろ?」


「3年経っても1cmしか大きくなってないのよ!」


 涙ぐみながら涙ぐましい努力の結果を暴露してしまうルージュに、大きい派の人たちから哀れむ視線が向けられていく。


 あまりの哀れさに夫であるカインも責任を感じているのか、ケビンに対してお願いするのだった。


「すまん、ケビン。兄ちゃんからも頼む。頑張って揉んでいるんだけどな、中々大きくならないんだ」


 あけすけに性事情を語っていく2人は似たもの同士で、どうやら羞恥心というものがないらしい。


 そのような2人に対してティナまでもが姉を可哀想に見えてしまったのかケビンにお願いすると、仕方がないとばかりにケビンが動き出した。


「ルージュ義姉さん、ブラつけてる?」


「つけるほどないわよ!」


「はぁぁ……形を維持するためになくてもつけた方がいいよ」


「維持できるほどないのよ!」


 ケビンはそう伝えるとルージュのドレスに触ってスキルを使い、胸部に当たる部分を変化させていく。


「ちょ、スカスカになったじゃない! なんの虐めよ!」


「先に大きくしておかないとさっきのリナ義姉さんみたいになるだろ。それでカイン兄さん、最終確認だけど本当に俺がしていいんだね? 触るよ?」


「ああ、ルージュもそれを望んでるしな。医療的行為だと思えばどうってことはない。ケビンがルージュを嫁にしようとしない限りな」


「それはないから安心していいよ。さすがにルージュ義姉さんはうるさいから遠慮する」


「俺といる時は大人しくて可愛いんだけどな。ケビンがいると元気になるみたいだな」


 明らかにカインの前ではお淑やかでいようとしているルージュの努力は、ケビンを前にすると化けの皮が剥がれてしまうようであった。


 そしてケビンがルージュの胸を大きくするためにドレスの胸元から手を突っ込むと、不意のことでルージュがビクッとして声を漏らしてしまう。


「ひゃんっ! ちょ、ちょっと……んっ……先っぽ当たってるからぁ……あんっ……」


「ちょ、変な声出さないでよ! 俺が変態みたいじゃん!」


「だって……」


 このままではあらぬ誤解を受けてしまうと危惧したケビンは早々に作業を終わらせるべく、スキルを使って手のひらサイズまで大きくするのである。


「んっ……あんっ……ダメぇ……」


「いや、ルージュ義姉さんの声がダメなんだよ!」


 そして両方とも大きくしたケビンはすぐさま手を引っこ抜いて、額に流れる脂汗を拭い平静を取り戻そうとする。


「ふふっ、あなた……衆人環視の中でするなんて鬼畜ね」


「勘弁してくれ」


 ケビンに施された施術によってルージュの胸はAからCまで大きくなり、上気しているルージュは大きくなった自分の胸を揉みながらカインへ見せて喜ぶのだった。


「良かったな、ルージュ」


「はい、カインさん。これで残るは1つです」


 何やら悪寒が走ったケビンがルージュの方を向くと、ニヤリとした表情を浮かべ再度ケビンへ近づいてくる。


「ケビン、妊娠させて」


「ぶふっ!」


 突拍子もないルージュの物言いにケビンは吹き出し、生温かい視線を向けていたギャラリーは目を見開いてしまう。


「なに言ってんだよ、頭大丈夫なの!? どこの世界に旦那の目の前で他の男に妊娠をせがむ女性がいるんだよ!」


 ケビンの言い放った言葉で自らの失言に気づいたルージュが顔を真っ赤に染め上げると、すぐさまケビンの言葉を否定するのだった。


「ち、違うわよ! 私がカインさん以外の男に肌を許すわけがないでしょ!」


「え……姉さん、ケビン君に胸を触らせたわよね?」


 ルージュの物言いにティナが冷静にツッコミを入れて、ハッとしたルージュが言い訳を始める。


「そ、それとこれとは別よ! あれは医療的行為だから無関係なの! 私が言いたいのはティナがしてもらったように、妊娠する魔法をかけてってことなのよ!」


 ルージュが捲し立ててする説明にようやく納得のいったケビンが呆れ顔をしていると、周りの者たちも同じように言葉足らずなルージュの物言いに呆れ返っていた。


 そしてそのくらいなら問題ないとしてサクッとケビンが魔法を行使したら、24時間以内に子作りをすれば子供ができることをカインとルージュへ伝えた。


 こうしてアインとリナの結婚式はドタバタした感じで何とも締まりの悪い形となってしまうが、当のリナは一生の思い出に残る出来事だとしてアインと2人で手を繋いでケビンへお礼を伝える。


 そしてケビンはお祝いの品としてカロトバウン家の庭に【無限収納】の中からブラックドラゴンを取り出して飾り、カロトバウン領の名物をもう1体増やしてしまうのであった。

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