第401話 騎士組の課題
罰の期間が終わるまで携帯ハウスを拠点として過ごしていたケビンは、この機会にサブで作っておいたギルドカードのランクでも上げようかと思いついて、ターニャたちへ王都に足を運ぶことを伝えた。
それを聞いた騎士組は自分たちも冒険者登録をすると告げて、ケビンと一緒に王都へ行きたいとお願いする。
「ターニャたちは騎士だから冒険者にならなくてもいいんじゃない?」
「実践を積まないと練度が落ちるのですわ」
「帝国では戦争なんて起きはしないでしょうから」
「どうせ魔物で訓練するんスから冒険者登録をしておいた方が一石二鳥っス!」
「そうだよねー」
「ケビンさんにご指導して欲しいです」
「私たちはお留守番をしておきますね」
特に困ることもないのでケビンが承諾すると騎士組を連れて王都へと転移したら、王都ギルドでは顔バレしている可能性が高いのでカーバインから絡まれないように、ケビンは姿を偽装して別宅からギルドへ向かい歩きだす。
そしてギルドへついたケビンはターニャたちの冒険者登録を終わらせると、常駐クエストの魔物を狩るために王都外の森の中へ足を踏み入れた。
「とりあえず、ゴブリンとフォレストウルフ、ホーンラビットが今回の獲物になる。実力的に見て張り合いがないだろうけど、登録したてでFランクだから仕方がないね」
それからケビンが粗方魔物がいる方角だけ教えたら、そのあとはターニャたちが気配探知を使いながら魔物を討伐していく方針を取って討伐数を稼いでいくが、ケビンが言ったように格下相手の戦闘だったため、ターニャたちは全く手こずることもなく淡々とこなしていった。
そしてしばらく討伐を続けて時間も頃合となったところで、王都へと戻ることになる。
ターニャたちは騎士としての実力があったためにFランクでありながら新米冒険者と言えないほどの討伐数を稼いで、ケビンのサブランクと同じEランクへ難なく昇格した。
そのあとに携帯ハウスへと戻ったケビンたちは、ケビン指導の元で騎士組は剣術の指南を受けて時間を潰していく。
「今日はこのくらいにして終わろうか」
ケビンの指示によって訓練を終えた騎士組は汗を流すためロナを連れたケビンとともにお風呂へ入るが、村人組もその流れに沿っていつも通りのみんなでお風呂となるのであった。
その後は夕食を食べて子供たちを寝かせるとケビンと女性たちによる夜の格闘戦が開催されるが、相手はあのケビンであるため女性たちが勝つということは起こらず漏れなく撃退されて朝を迎えることになる。
ケビンは魔法によって女性たちを回復させるとみんなで朝風呂に入るのだが、風呂の中でも格闘戦が始まってしまい朝食の時間が少し遅れてしまうのだった。
「ケビン君……もうムリ……」
バテてしまった女性たちに再度魔法をかけて回復させるとみんなでお風呂を出て、遅れてしまった朝食はケビンの創り出したものを食べることになる。
ケビンの用意した朝食は和食であり、未だこの世界で見つけていない白ご飯と味噌汁にシンプルな焼き魚を提供して、箸休めにはぬか漬けを出してある。
女性たちは初めて見る料理に舌鼓を打ちながら会話を弾ませて、これほどの料理を出してくるケビンに対して、どうやって自分たちの手料理で満足させるか頭を悩ましていく。
そのような会話にケビンは「奥さんが作ってくれる手料理は、一流シェフの作る高級料理よりも価値がある」と言ってのけて、家庭料理が好きなことをアピールするのだった。
そしてその日は昨日と同じように冒険者ギルドでクエストを受けて、ケビンのサブランクと騎士組のランクを上げるために精を出すのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私たちは王都へついてからずっとクエストをこなしてきた。辺境のセボサとは違って多種多様なクエストがあり、クエスト選びにもさほど困らなかった。
あれから1年以上の月日が経っているが、Bランクまで上がることはできたもののAランクへの壁が大きく立ちはだかり、今は足踏みを余儀なくされている。
「やっぱりワイバーン討伐かなぁ?」
「登竜門だしねぇ」
「私たちでは無理よ。空への攻撃力が心もとないわ」
「大変だねー」
「焦っても何もならないわよぉ」
あと少しでAランクへ届きそうだと思うと、どうしても気持ちが急いてしまう。昨日より今日、今日より明日、もっともっと魔物を討伐しないといけないって感じてしまうのだ。
そして私たちは話し合いの結果、無理に背伸びしてワイバーンの討伐を受けるのではなく、無難な他のクエストを受けることにした。
今回私たちが受けたクエストは、王都からちょっと離れた森林の奥地に出没したとされるトロールの討伐だ。トロールの討伐ならBランククエストだしパワーでは負けるけど素早さでなら勝てるから、このパーティーだと問題なく討伐できるはず。
そして私たちは森へ到着すると、トロールが目撃された奥地を目指して足を踏み入れた。
この森の浅層はホーンラビットやゴブリン、フォレストウルフなど初心者向けの魔物が徘徊しており、奥へ進むにつれて魔物の強さが変わっていく変な森でもある。
でもどの魔物も単独での難易度だ。徒党を組まれたら魔物の討伐ランクが上がってしまうので一概に弱い魔物とも言えない。“数の暴力”と先人が言ったらしいけど本当にその通りだと思う。
雑魚魔物の生息域が終わると、次はオークやアントといった中級者向けの魔物に変わっていく。
このオークはゴブリンと一緒で女性の敵だ。だから少しでも被害を減らすために私たちは見つけ次第討伐することにしている。
アントの場合は仲間を呼ばれたら厄介なので、早々に片付けなければならない。カチカチと歯の部分を鳴らす上に、仲間を呼び寄せる分泌液みたいなものを出すので要注意だ。
今のところ無理なく戦闘を行えているので、周りに魔物がいないことを確認したら昼休憩を挟むことにした。
「トロールが見つからないね」
「もう少し奥の方にいるのかもね」
「野営も視野に入れないといけなくなるわね」
「えぇーここで泊まるのヤダよー」
「ゴブリンにオークだから安心できないわねぇ」
その後、休憩を終えた私たちは散々捜し回ったのにトロールを見つけることができず、シャルロットが渋っていたが比較的拓けた場所で野営をすることにした。高くついたけど魔物よけのお香は買っておいたから何とかなるだろう。
見張りは人数的にペアを組むと1人余ってしまうので今回はカミーユが1人で先に見張りをしたら、私がシャルロットと組んでクロエはノエミと組んだ。
だいたい野営をする時はこうなる。変わる点と言えば後衛職のシャルロットとノエミの組む相手が変わるくらいだ。
そして明くる日、再びトロール捜しの探索が行われる。私たちは小鳥のさえずりが聞こえる中で森の奥へと進んでいく。
「やっぱりいないね」
「もう別の場所に移動したんじゃない?」
「それだと無駄足になったわね」
「えぇーここまで来たのにー」
「帰ったらギルドへ報告しましょう」
落胆の色を隠せないまま私たちは王都へ向けて帰ることにした。目的のトロールが見つからないことと、あとは王都へただ帰るだけということもあってか私たちは集中力が欠けてしまっていたことに気づいていなかった。
本来なら冒険者としてこんなことはあってはならないが、やはり散々捜し回ったのに成果がないということで落胆してしまい、思いのほか精細さに欠けてしまったのだろう。
そのようなことを当の私たちが気づくわけもなく、帰り道は次のクエストは何を受けようかと相談しながら呑気に会話をしていた。
私たちに忍び寄る魔物の存在など知る由もないまま。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
順調にランクを上げているケビンたちは、既に当面の目標であったCランクへと昇格していた。
元々騎士団所属であったターニャたちは個々の強さに加えて連携にも優れていて、そこら辺の冒険者より確実に実力があったことも起因している。
ゆえにケビンは戦闘において特に指示を出すこともなく、ターニャたちの穴を埋めるような動きをしながらサポートをしていた。
「ようやく骨のあるBランクへ挑めるようになったね」
「ランク制限の必要度は理解していますが、いざ自分がその制限に引っかかってしまうと面倒ですわ」
「今日はどのようなクエストに挑むのですか?」
「トロールでも討伐しようか? パワーはあるけど当たらなければどうということはないしね」
「トロールっスかぁ。自分、戦ったことがないっス」
「私もないよー」
「私もないです」
「私たちもないですわ」
「じゃあ、ちょうどいいね。今日はトロール戦の勉強ってことで」
ケビンたちはトロール討伐の貼り紙を剥がすと受付へと持っていって、クエスト内容の説明を受ける。
「森の深部にてトロールの目撃情報があり、数は未定ですが今のところ数体であろうとの予測です。群れとして住みついたのか流れなのかは掴めていませんが、他のパーティーも受けていたりしますので現地ではご注意を」
ひと通りの説明を受けたケビンたちは、早速その森へと向かうために王都を出発した。
「ケビン君、ご注意って何ですの?」
「ああ、それは獲物の横取りとかなすりつけだろ。多分」
「そのようなことをする人がいるんですの?」
「まぁ、冒険者の中には最悪な奴もいるからね。苦戦している状況でも戦闘に介入したらダメなんだよ。戦闘後の分け前とかで揉めたりするからね」
「面倒ですのね」
「助けを求められたら別だけどね」
それからケビンは人気がなくなったところで、目的地である森に向かって転移した。
森に辿りついたケビンは早速トロールの気配を探知して、その方角だけをターニャたちへ教えるとターニャたちは気配探知を使いながら森の奥へと足を進めていった。
途中途中で遭遇する魔物は難なく倒していきサクサクと森の奥へと進んでいくと、お目当てのトロールと相見える。
「私とルイーズは右から、ミンディとジュリアは左から、ニッキーは背後に回って隙ができたら攻撃!」
「「「了解」」」
「了解っス」
トロールへ先制攻撃をしたターニャはお得意の突き攻撃で右足を貫くと、すぐさま離脱して様子を窺う。
トロールが振り下ろした棍棒はターニャが先程までいた所へ当たっていたが本人がいないので全くもって無意味となり、その隙にミンディが第2撃目を左足へ向けて放ち斬り裂いてからその場を離れると、間を置かずしてジュリアが更に左足を斬りつけて同じように離れる。
左足を斬られたトロールが今度は左へ棍棒を振り下ろすが先程と同じことになり隙を晒してしまうと、ルイーズが右足へ斬りつけた。
その間に背後へ回っていたニッキーは右へ左へと棍棒を振り下ろしているトロールの足を斬りつけようとしたが、トロールの特性である再生によって足が回復してしまいたたらを踏んでしまう。
「な、何スかそれ!?」
思いもよらぬことでつい声を出してしまったニッキーに気づいたトロールが、振り返ってその姿を確認するとドスドスと走って行きニッキーへ棍棒を振り下ろす。
「ニッキー!」
ターニャの注意喚起が聞こえる前にニッキーはその場を離れており、棍棒の餌食になることはなく難を逃れた。
「ターニャ、どう攻めますか?」
トロールの傷口が回復しているのを他のメンバーも見ており、ミンディがターニャへ方針を問うとターニャは新たな作戦指示を伝える。
「私とミンディで足を攻撃、残り3人は魔法で3方向から上半身を狙ってトロールの気を逸らして。ミンディ、先ずは足を1本斬り落とすわよ!」
それから魔法組は離れて詠唱を開始して、その間にターニャとミンディが右足へ斬りつけては離脱すると魔法組の詠唱が終わってトロールへ向けて次々と連鎖的に撃ち放たれる。
それを受けて激怒したトロールが棍棒を振り回すとターニャとミンディが攻めあぐねて止まってしまうが、魔法組は構わず次の詠唱に取りかかった。
ターニャたちはどうにか隙を見つけてトロールへ斬りかかるも、傷を深くするより再生する方が早くて膠着状態へと移行するが、魔法組の連鎖攻撃が功を奏して上半身に限って言えば再生速度よりダメージの蓄積のほうが早くて、ターニャは攻撃方法を変えることにした。
「ミンディ、私たちも魔法へ切り替えるわよ。5人で絶え間なく撃ち続けてゴリ押しするわ。不意の攻撃に注意しつつ魔法だけで倒すわよ!」
それからターニャたちは5方向から途切れることなく魔法を撃ち続けていき、トロールが反撃しようにも次の魔法が当たるといった状況に追い込んでその場に釘付けとしたら、絶え間なくダメージを受けていくトロールはやがて力尽きることとなる。
そしてトロールをようやく倒せたターニャたちは安堵して、大きく息を吐き出すのだった。
「みんなお疲れさま」
ケビンがターニャたちへ近づいて労うと、ジト目のターニャがケビンを問い詰める。
「ケビン君、トロールが再生持ちだって知ってたでしょ?」
「そうだね。戦ったことあるし」
「事前に教えて欲しかったんだけど」
「先に教えてたら難なく倒してしまうだろ? それだと咄嗟の判断が培われないし、リーダーはその時その時で状況を判断してみんなに的確な指示を出さなきゃいけないよね?」
「……もうっ、痛いところをつかないでよ」
「心配しなくても初見殺しみたいなのは先に教えるから」
その後、トロールの厄介な部分を知ったターニャたちは作戦会議を開いてトロール攻略法を考えていくと色々な意見を出し合うが、最終的に決まったのは魔法によるゴリ押しだった。
それはひとえにターニャたちのパーティーにはタンク役がおらず、かと言ってタンク役がいたとしてもトロールのパワーを受け止められるとも思えず、更には再生が終わる前にトロールの攻撃を躱しつつ部位を切り落とすほどの技量もなかったからである。
「全員が前衛の騎士ってのも考えものよね」
「それは言っても仕方のないことです」
「自分、身軽なんで遊撃なら可能っス」
「私は剣以外だと扱えないですー」
「遠距離武器の習得を目指すべきでしょうか?」
全員が同じ前衛職の騎士なだけにパーティーバランスが脳筋みたくゴリ押しになってしまうことに対して、それぞれの配置替えをしようにも前衛に参加せず後方で控えて簡単な魔法を放つぐらいのことしかできず、ターニャたちは新たな目標を見つけて意気込んでいく。
「とりあえずこれが終わったら配置替えについて話し合おう」
「そうですね。バランスの良いパーティーになるようにしないとケビンさんへ迷惑をお掛けしてしまいます」
「メインは騎士でサブ職を鍛えるってことっスね!」
「サブ職は何にしようかなー」
「私は後方支援がいいです」
ターニャたちはある程度話が纏まったところで、ケビンに次のトロールがいる方向を尋ねて討伐を続けていくのであった。
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