第400話 記念SS 私たちの旅立ちと出会い

 私は冒険者。村で遊んでいた仲の良い女の子たちだけで、街に飛び出して作った冒険者パーティーの一員。一応、言い出しっぺだからリーダーをやらされている。これはそんな私たちの物語。


 冒険者になることを両親は反対したけど、たとえ村に残ったとしても冴えない男の子ばっかりだったし、おじさんと結婚するのは嫌。


 どの道生活が厳しくなるんだったら潔く冒険者になって両親へ仕送りした方が、やりたいことがやれるだけまだマシだ。


 だから私は友達に声をかけて着々と準備を進めていく。


 人数は私を含めて4人。よく喧嘩をする同い年のクロエは私に似て活発だからすぐにこの話に乗ってくれたけど、私とクロエの喧嘩をよく仲裁する1歳年上のカミーユは現実的で渋っていた。


 残る1人のシャルロットは2歳年下でまだまだ甘えん坊。私が誘った時は怖がってついてこようとしていなかったが、準備を終えて村を出たらもう遊んであげられないと伝えたらすんなり一緒に行くと返答する。やっぱり甘えん坊ね。


 さすがに仲良し4人組のうち3人が村から出る決意をすると、渋っていたカミーユがお目付け役として同行すると告げてきた。素直じゃないなぁ。


 それから私たちは家の手伝いの合間に、それぞれ基礎体力作りや木の棒を使って剣術もどきの練習を始めた。


 そしてある日のこと、カミーユから全員が剣で前に出たらいったいサポートは誰がするのかという指摘をされてしまう。


 うん、伊達に歳食ってないわね。


 そう思っていたらカミーユが何かを感じ取ったのか睨みつけてきたので、私は咄嗟に視線を逸らすことにした。1歳しか違わないんだから許してくれてもいいのに。


 その日はみんなで集まって話し合いをすると、手が早くて活発な私とクロエが前に出るということをカミーユから提案される。


 活発ってのはいいけど手が早いっていうのは納得できない。


 そして怖がりなシャルロットは、前に出すのではなく後方に控えさせていた方がいいとのことだった。


 確かにシャルロットが前に出て魔物を退治するのは想像できないから、全員一致でシャルロットは後方配置になった。


 そこで残ったのはカミーユの配置だ。


 カミーユは遠距離攻撃で後方に控えて全体を見渡す役目になると言ってきたので、認めたくはないけど認めるしかない。この4人の中で1番頭がいいのはカミーユだから。


 それぞれの役割が決まったところで、後方配置であるシャルロットの訓練をどうするかの話に移行した。


 カミーユは弓を使うと言っていたが、シャルロットもそうさせるべきなのだろうか?


 弓が2人って結構な数で矢が必要になってくるから、そもそも資金的に厳しいとカミーユは言う。


 結局のところシャルロットの練習は基礎体力作りに加えて、村長さんのところで魔法の練習をすることになった。


 村長さんの奥さんは魔法が使えるらしくて、後方から攻撃をするためにシャルロットの適性を見てもらうことになったのだ。


 そして適性検査の結果、シャルロットは水属性と光属性の魔法が使えるようだった。


 ついでに私たちも見てもらったら私とクロエが火属性だけだったのに対して、カミーユは土属性と風属性の結果が出てしまう。


 シャルロットは仕方ないにしてもカミーユに負けているのは癪なので、もう1度クロエと2人で適性を見てもらったが結果は変わらなかった。


 それを見たカミーユがドヤ顔で私たちに「前に出て剣を振ってればいいじゃない」と言った時には、クロエと2人でくすぐりの刑にしてやった。


 笑い転げるカミーユを見てスッキリしたので、心の広い私たちはそれで許すことにしたのだ。


 結果的に4人とも魔法を使う適性があったので、これからは魔法の訓練もすることになる。


 やがて2年の月日が過ぎて私とクロエは13歳、カミーユは14歳、シャルロットが11歳となった年に村を出て街へ向かうことにした。


 カミーユがせめて私とクロエが15歳になるまで村に残って修行を積もうと言ってきたが、さすがにそこまで待てない。待ってはいけない。


 何故ならカミーユは知らないが私たちの結婚話が浮上していたからだ。この村には私たち以外にも女の子はいるが、冒険者になると決めてから欠かさず運動をし続けた私たちは、他の女の子よりも体にメリハリがついているのだ。


 つまりボンッキュッボンなのだ。そう、ボンッキュッボン……


 悲しくなるから自傷行為はやめよう……


 私たちの中でボンッキュッボンなのは、何故かあまり動かないシャルロットしかいない。1番年下なのに私たちより胸があるってどういうことなのよ!?


 その次にあるのがカミーユだ。私とクロエは同じ大きさでちゃんと運動をしているのに2人ほど胸が育たない。だから私はクロエと同盟を結ぶことにした。裏切りは許さないよ。


 何はともあれ、男たちのシャルロットの胸へ向ける視線がとても気持ち悪いものだったのでそのことをカミーユへ伝えてみたら、カミーユ自身も男たちから嫌な視線を向けられると言っていた。そう、胸へ……


 私は視線なんて感じたことないのに……


 だから私がそろそろ村を出ると言った時には渋っていたが、さすがにカミーユも視線が嫌だったのとシャルロットを守りたい気持ちがあって、最終的には村を出る方針へ賛成した。


 それからみんなを集めて村長さんの家へ行ったら近日中に村を出る意志を伝えたのと、奥さんに魔法の先生になってくれたお礼を告げる。


 村長さんからは引き止められたが男たちから向けられる嫌な視線のことを包み隠さず話すと、申し訳なさそうに謝罪をしてきた。村長さんが悪いわけじゃないのに。


 こうしてその日が来た私たちは生まれ育った村を出たのだった。


 村を出た私たちは乗合馬車に揺られながら初めての遠出で浮かれていた。その理由として私たちの親は口では反対しながらも、それぞれが使う武器をプレゼントしてくれたのだ。


 クロエたちは手に持つ武器を見てはニヤニヤとしている。かくいう私もニヤニヤが止まらない。


 お父さん、お母さんありがとう。絶対立派な冒険者になって仕送りをするから。


 村を出てから馬車を乗り継いで数日後には街へと来ることができた。村出身の私たちには身分を証明する物がないので、仮身分証の発行料を払って仮身分証を受け取ると街の中へ入っていく。


 ちなみに馬車は私たちのことなんてお構いなしで、先に街の中へと入っていた。


 街に入った私たちはおのぼりさんとなって、キョロキョロしながら街中を歩いていく。そして仮身分証しか持たない私たちは早速冒険者ギルドへとキョロキョロしながら向かっていった。


 ギルドカードを発行してもらえれば、毎度毎度入街税を払って仮身分証を発行しなくて済むのだ。仮身分証に有効期間があるとはいえ毎回払っていたらすぐにお金が底を突く。


 冒険者ギルドへ到着した私たちはすぐさま登録してギルドカードを発行してもらい、仮身分証を返しに門まで向かった。これをすれば発行料で支払った何割かは戻ってくるのだ。


 そのあとはギルドオススメの宿屋で部屋を取ると、日も高いことから早速初仕事へ向かうことにする。


 最初に選んだクエストは薬草摘みだ。まずは簡単なクエストをこなしつつ土地勘を養っていく方針で、4人でやれば薬草もいっぱい手に入るし、お金もその分手に入る。一石二鳥のお手軽クエストだ。


 そしてその日の仕事を終えた私たちは宿屋へと戻り、旅の疲れと初仕事の疲れが出たのかみんなでスヤスヤと眠りについた。


 それから私たちは冒険者ギルドの主催する初心者講習を受けたり、クエストをこなしたりしながら日々の研鑽を積んでいく。


 意外とパーティーメンバーのバランスが良かったために、大きなミスをすることもなくて着実にランクを上げていった。


 そんな私たちがDランクに上がってしばらくしたある日のこと、冒険者ギルドへいつものように出向いたら後ろから声をかけられた。


「少しいいかしらぁ」


 みんなで声のした方に振り向くと、そこには如何にも魔術師ですと言わんばかりの女性が立っていたのだ。


「何か御用でしょうか?」


 パーティーを代表してカミーユが声を出すと、相手の女性が用件を伝えてきた。


 その内容とは早い話がパーティーに入れて欲しいというものだった。生粋の魔術師でソロ活動に限界を感じていたとのことで、ここのところ色々なパーティーを観察しては動向をチェックしていたと言う。


「貴女たちは女性だけのパーティーでしょう? やっぱり男の人がいるパーティーには入り辛くて、今日は唐突だけど声をかけさせてもらったのよぉ」


 女性の気持ちは理解できるので、とりあえず私たちはテーブル席に座って話をしてみることにした。


 結果から言うとこの女性をパーティーへ入れることになる。魔術師というのは私たちのパーティーにはいない存在だったからだ。この人を仲間にすることによってシャルロットの負担が少し減るだろうとの考えで、メンバーの反対意見もないことからパーティー入りを快諾した。


「これからよろしくねぇ。私の名前はノエミと言って、見ての通りで魔術師よぉ。最近Dランクに上がったばかりなのぉ」


 ノエミが自己紹介を終えたら私たちも同じように自己紹介をする。


「私はこのパーティーのリーダーでジャンヌだよ。剣士をしてる」

「私はクロエ。ジャンヌと同じで剣士だよ」

「私はカミーユ。後衛で弓をメインにしているわ。あとは年長でもあるし、このパーティーのまとめ役ね」

「私はシャルロットだよ。回復術師なの。みんなの怪我を治すのがお仕事なの」


 それからしばらく談笑していると驚くことにノエミは6歳も年上だった。見た目から年上とは気づいていたけど妙に色っぽい……それに私とクロエの敵だ。露出のない服の上からでもわかるくらいに自己主張が激しいのだ。


 何を食べたらそうなるの!? それとも何? 後衛職は大きくなるように職種特性でもあるの!? 私も後衛職になれば育つの!?


(くっ……これが格差社会……)


 その後の私とクロエはどことなく敗北感を味わわされてしまい、意気消沈していた。今日は美味しい酒(ミルク)が飲めそうだよ。クロエ、頑張って飲んで2人で大きくなろう。


 その日以降は新たなメンバーであるノエミの加入により、魔物との戦闘がとてもスムーズに行えるようになった。


 そして連携もつつがなくこなせるようになったので、違う街にも行ってみようという案を出してみたら思いのほか反対もなく、私たちは違う街へ行くために旅に出た。


 道中は護衛任務を受けて色々な商人と出会ったり街道に出てくる魔物と戦いながら、この国の西に位置する1番大きな街へと無事に到着した。


 この街についてからも私たちは安定した戦いができて、実績をコツコツと積み上げていく。


 そして村から飛び出して既に1年が経過していたある日のこと、私たちは既にCランクになっており、実家への仕送りも問題なく行えていた。これで両親も無理に体を動かして働くことはせずに、のんびり過ごしていればと思う。


 それとCランクになったことで私たちのパーティーに名前をつけようということになり、みんなで色々と意見を出し合った結果【森のさえずり】という名前に決まる。


 名前の由来は、私たちの村の近くにあった森は風が吹くと木々の葉が擦れる音がするのとそれが小鳥のさえずりとともに聞こえていたので、【森の葉が擦れる音】と【小鳥のさえずり】を合体させて【森のさえずり】となったのだ。


 ちなみにこんなポエムチックなのは私の発案ではない。シャルロットの発案なので見た目的にも問題ないとも言える。それは何故かというと、シャルロットは身長が低いので何をしても可愛く見えてしまうからだ。


 身長が低くて可愛く見える上に胸が大きいのだ。卑怯だと私は思う。


 パーティー名も無事に決まった私たちは、何だかんだで日々を過ごしていきクエストを消化して実績を積み続けていた。


 そしてその日もクエストを受けるためにギルドへ赴いていたのだが、まさかこのようなことになるとは思いもしなかった。


 その日はいつもと変わらない日常でギルド内もガヤガヤとしたいつも通りの雰囲気だったが、ふと気づけばいつの間にか辺りが静かになっていた。


 女性冒険者たちがギルド内へとぞろぞろ入ってきたのだ。しかもただの女性冒険者じゃなくて、何をどうしたらそういう風に生まれつくのかわからないほどの綺麗どころが集まった集団だった。


 当然男たちはその女性たちを視線で追っている。さすがに今回は私も男たちの行動を非難することはできない。女の私ですら視線で追ってしまうのだから。


「あのパーティーってこの辺じゃ見たことないよね」

「流れのパーティーなんじゃない?」

「見た感じではかなりの高ランク冒険者に見えるわね」

「綺麗だよねー」

「あれでは私も勝てそうにないわぁ」


 女性冒険者たちは素材の買取なのか解体場へと向かって行ったらしばらくして戻ってきて、受付でギルドカードを出して更新していた。


 それからクエストを受けるために掲示板へと行ってシャルロットより少し大きい子が一生懸命背伸びをして紙を剥がそうとしている。


 後ろに立っている男の人はお付きの荷物持ちかな? 村人みたいなどこにでもいる服装だから多分そうだよね。装備類は他の女性たちと違って何もしていないし。


 それにしてもアレってハーレムよね。まぁ、お付きの荷物持ちだから手なんか出したら殺されるだろうけど、逆に今の方が生殺しに近いのかな。


 そんな感想を抱いていたら、いつの間にか背の小さな子が紙を持って受付に向かっていた。


 何やら揉めてるみたいなのが気になった私は何のクエストを選んだのか掲示板に視線を向けると、あの子が選んだのはどうやら塩漬けとなったクエストみたいだった。


 あれは私たちも受けようかと迷っていたクエストだけど、死人が出たって聞いたから敬遠していたやつだ。敬遠していたら最終的にはCランククエストだったものがAランクまで跳ね上がったとんでもクエストだったけど。


 あのクエストなら揉めてしまうのも納得がいく。ギルドの調査不足が原因だし、被害を受けた冒険者は可哀想だ。


「ウ……ウロボロスぅぅぅぅっ!?」


 受付嬢が叫んだ言葉でギルド内は騒然としてしまった。ウロボロスと言えば設立から破竹の勢いでSランクにまで至ったトップクランだったはず。ということはあの男の人は荷物持ちじゃなくてリーダーってこと!?


「あの人がリーダーかしら?」

「確かに中心にいるからそう見えるわね」

「カッコイイわぁ……」

「私もクランに入りたい……」

「あなたじゃ顔面偏差値が低いから無理よ」

「あっ? 表出ろや、ブス!」

「上等だ、偏差値0女!」


 私とクロエは席を立つと外へ向かいだしたが、カミーユが後ろから声をかけてくる。


「程々にするのよ」

「怪我したら治しますねー」

「元気ねぇ」


 私とクロエの喧嘩なんて昔からだからカミーユとシャルロットが慣れているのはわかるが、最近ではノエミまで動じなくなってしまっている。そこはもう少し心配するとかした方がいいと思うんだけど。


 それはさておき、私とクロエの熱きバトルが開催される。当然他の人に迷惑をかけないために武器はナシだ。そこは昔から変わらないルール。


 ここの住民たちも私たちの喧嘩になれたのか、どちらが勝つかで賭け事までするようになっている。ちょっとした名物になりつつあるのかも。


 しばらくバトルをしていた私たちだったが決着はつきそうにない。これはいつものパターンでお互いの拳が顔に入って終わりそうだな。だけど思い切り殴ってやる。くらえっ!


 その時、突如横からやってきた男の人に殴りかかっている腕を掴まれてしまった。


「《ヒール》」


「「ッ!」」


 こ、この人ってウロボロスの……


「2人とも綺麗な顔をしているんだから殴り合いをしてはダメだよ? せっかくの綺麗な顔が台無しになってしまう」


「はにゃぁ~」

「ふにゃぁ~」


 私とクロエは男の人から言われた“綺麗な顔”という言葉で、メロメロになって腰が抜けてしまう。


「2人とも可愛いんだからもう喧嘩をしないこと。わかった?」


「「ふぁい」」


「それじゃあ立とうか? そのままだと服が汚れてしまうよ?」


 ふらふらと立ち上がる私たちにキラキラとした魔法が使われる。凄い……これがSランククランのリーダー……


 男の人が立ち去ろうとしていたので私とクロエはお礼を告げた。こんなチャンスは2度とない。絶対ものにしなきゃ。


「クランへ入れてください!」

「お願いします!」


「ランクは?」


「「Cです!」」


「それじゃあ、Aになったら帝国にある冒険者ギルドの帝都支部へおいで。そこが本拠地だから」


 まさか認められるとは思わなかった。てっきり断られると思って玉砕覚悟でお願いしただけなのに。


 そして男の人から与えられた指示は【命を大事に】だった。確かに冒険者稼業は命あっての物種だ。


 男の人が立ち去ったあと、クロエと2人で呆然としながら会話した。


「はぁぁ……会話しちゃった」

「カッコよかったね」

「しかも回復までしてくれた上に、服まで綺麗になったよ」

「中の3人にも教えてあげようよ」

「そうだね、目指せAランク!」


 喧嘩をしていたとは思えないほどに仲良くギルドの中へ入った私たちは、パーティーメンバーの3人へことの顛末を話して思い切り羨ましがられる。


「私も喧嘩をしていればよかったかしら?」

「いいなぁ……2人は会話ができて」

「2人の拳を簡単に止めれるなんてカッコイイわぁ」


 私たちはこの日からAランクを目標にして頑張ることになった。Aランク冒険者なんて夢みたいなものだけど、頑張ればいつかきっとその目標に届くはず。そうしたら帝都へみんなで行くんだ!


 それとカミーユから聞いたけどリーダーの人は“エックス”さんというらしい。受付嬢がそう騒いでいたそうだ。変わった名前だけど強いのには変わりないし、特に気にすることもないかな。


 翌日、午前中のクエストが終わってお昼ご飯を食べに戻ってきた私たちはギルド併設の酒場でのんびり食事を摂っていた。お昼休憩をしたあとは午後からのクエストへ出かける予定だ。


 そして会話を楽しんでいた私たちの所へエックスさんがやってきて、何やら伝えたいことがあるらしく外へとみんなで連れ出された。


 伝えてくれた内容は思いもしないことだった。ギルドマスターが不正を働いているらしくて、ここの支部はやめておいた方がいいとアドバイスをくれる。


 それで私とクロエが立ち去るエックスさんにお礼を告げると、エックスさんが戻ってきて名前のことを聞いてきた。


「ちょ、ちょっと待とうか。エックスさんって何?」


「受付嬢がエックスって言ってたから名前だと思っていたのですが」

「エックスさんじゃないんですか?」


 その時にその場にいたカミーユとシャルロットがエックスさんに答えていたが、エックスさんはその時のことを思い出したのか納得していたようだった。


「あぁぁ……あの時か……」


 それからエックスさんがおもむろにギルドカードらしき物を見せてくれたのだが、これ、ギルドカード? 真っ黒なんだけど……こんなカードあったかな?


「俺の名前はケビン、エックスはランクのことだから」


 最初は何を言われているのかわからなかった。名前だけは“ケビン”でエックスさんじゃないことはわかったけど。


 ランクがエックス……? そんなのあったかな? んー……あっ、ギルドの説明会でSランク以上が細分化されたって言ってたような。確か……エックスって1番上で……前代未聞の戦争を終わらせた人がなってて……名前がケビンで……え……まさか……


「「「「「え……え……英雄ぅぅぅぅっ!」」」」」


 私たちが行きついた答えをハモって絶叫してしまい、周りにいた人たちが騒ぎ始めた。


 謎に包まれていたウロボロスのリーダーが実は戦争を終わらせた英雄……雲の上の人が目の前に……意味がわからない……


 混乱する私たちが呆けていると突如爆発音が鳴り響いて、ハッとした私たちや周りにいた人たちも上空を見上げた。


「ふぅぅ……これでもう認識されないな」


 どうやら私たちが騒ぎ立てたせいでケビンさんが対処したみたい。さっきまでこっちを見ていた人たちはキョロキョロして、私たちを捜しているような行動をしていた。認識阻害の魔導具でも使ったんだろうか。


 そうだよね、英雄とかって憧れちゃうけど騒ぎ立てられるのは誰でも嫌だよね。


 私は自分の軽率さに謝ったがケビンさんはそんな私たちへ怒ることもなく、自分の不注意が原因だと言ってくれた。


 クロエと喧嘩していた時に回復魔法や服を綺麗にしてくれて優しいことは知っていたけど、騒ぎ立てた私たちが悪いのにそれでも責めないなんて……パーティーメンバーに綺麗な女性たちが集まるのも仕方ないよね。ケビンさんって強くて優しくてカッコイイもん。


 それを証明するかのようにウロボロスメンバーの女性が、ケビンさんへ2人の人妻が抱いて欲しいって言ってたことを告げていた。


 ケビンさんはヤレヤレって感じだけど、自分がモテてることに自覚がないのかな? 普通に考えてカッコイイケビンさんを女性たちが放っておかないと思うんだけど。


 私たちは改めてギルドマスターの不正を教えてくれたケビンさんへお礼を言って、これから帝都を目指して旅に出ることを告げる。


「そうか……まぁ、無理のないように頑張って」


「「「「「はい!」」」」」


 そしてケビンさんと別れた私たちは宿へと戻って旅の支度を始めた。


「今日中に必要な物を取り揃えて、明日の朝に出発しよ」

「目指せ、Aランク冒険者だね」

「まずは王都へ向かいましょう。この国の中心地だし色々なクエストがあるはずだわ」

「途中は護衛任務をするの?」

「その方がいいわねぇ。クエストをこなしながら王都を目指すのがいいわぁ」


 王都までの方針も決まったところで私たちは手分けをして買い出しに行ったり、ギルドへ戻って王都方面への護衛依頼を受けたりしてセボサの街を出るのであった。

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