第389話 不殺のお仕置き①
翌日、ケビンは昼頃にナディアを迎えに行こうかと思っていたので、朝はブラブラと街並みを見ながら歩いていたら1人の女性に声をかけられる。
そして話の内容はお茶をしようというものだった。
「昨日、ナディアさんの所に行ったでしょう? たまたま見かけたのだけれど、随分と長いことお邪魔しているみたいだから私もお誘いしてみたの」
さすがに昨日の今日で同じことが起こればケビンにも察しがつくというもので、むしろさっきからソファで隣に座っている女性の距離が近い上にボディタッチが止まらないのだ。
「ところで今日はどうしてお茶に?」
「……わかってるくせに意地悪なのね」
「いえいえ、わからないから聞いているんですよ」
「もうっ……夫が構ってくれないから欲求不満なの。エルフやダークエルフって寿命が長い分セックスレスになりやすいのよ」
「ほう……」
「ね、だから抱いて? ケビンさんが凄いのは女性たちの間では当たり前の話題なのよ」
ゆえにケビンも心置きなくボディタッチを返していき、結局ケビンは昼前になるまで何度も女性を抱き続けて、最後には気絶させてしまい女性の欲求不満を解消したのだった。
「……張り切り過ぎたな……」
魔法によってその場を綺麗にしたあとは女性を回復させて別れを告げると、ケビンは当初の予定であったナディアのお宅へと訪問をする。
そして招かれた室内で荷造りが済んだ物を【無限収納】の中へ回収したら、ずっと気になっていたことを尋ねるのだった。
「化粧で誤魔化しているけど、その頬の痣と唇の切れた痕はどうしたの?」
「荷造りのときに転んだだけですので、すぐに治ります」
「嘘はダメだよ。殴られたんでしょ?」
ケビンの問いかけによってナディアが言葉に詰まると、ケビンは魔法を使ってその傷を癒した。
「……ありがとうございます。やはりお化粧では誤魔化せませんでしたね」
「それじゃあ我が家へ招待するよ」
ケビンは昂る苛立ちを内に潜めたまま、ナディアとともに憩いの広場へと転移するのだった。
そしていつも通り嫁たちから揶揄われてナディアを紹介すると、ケビンは細かな説明は嫁に任せて出掛けてくることを伝えたら再び転移でその場を後にした。
ケビンが立ち去ったあとの憩いの広場では早速嫁たちがナディアを質問攻めにしていくのだが、やはり最初に尋ねるのはケビンのことについてだった。
「ケビン君が凄く怒ってたけど何があったの?」
「え……怒っていらしたのですか? そういった感じには見受けられなかったのですが……」
「付き合いが長いからそのくらいわかるよ。多分、あれは相当頭にきてるね」
クリスの質問に対してナディアがキョトンとしていると、ケビンを怒らせるような思い当たる節がわからなかったために、ケビンとの経緯を説明していくと嫁たちは苛立ちを顕にするのだった。
「そいつ死んだわね。ケビン君を怒らせるなんて……」
「自業自得」
「でも殺せないんじゃないの? ケビンは種族問題を解決している最中だし数は減らせないでしょう?」
「自分の奥さんを殴るなんて酷いです!」
「でも……魔法でちゃんと治してもらいましたし、問題ないのではないですか?」
「わかっておらぬのぉ、主殿は絶対にそやつを許さんだろう。家族を大事にする男だからの」
「どうしましょう……ケビンさんに迷惑が……」
「ケビン君は迷惑だなんて思ってないよ。まぁ、元旦那さんにはご愁傷様としか言いようがないけど、ナディアが気にすることはないよ。ケビン君が戻ってきたらおかえりって言えばそれがお礼になるから」
クリスが話を纏めるとそこからはナディアのあれやこれやを聞いていき、話題が香水のことになると嫁たちの食いつきが半端なく、ナディアはタジタジになりながらも新たな家族となる者たちとの会話を楽しんだ。
一方でその頃のケビンはヴァルトス地区に戻ってくると、ナディアの元旦那を捜すために【マップ】で検索すると仕事は休みだったのか、浮気相手の家に上がり込んでいるようであった。
気配を隠蔽したケビンは様子を窺うべくその部屋へと転移すると、そこは1Kの部屋でソファに並んで座っていた2人の会話を聞くために耳をすませる。
「ったく、折角の休日だったのに最悪な気分だな」
「でも、ようやく別れることができたじゃん」
「まぁな、こっちから別れ話すると金関係で難癖つけてきそうだからな」
「ああ、お店畳ませたから再開店の資金をよこせーとか?」
「そうそう。女は黙って家のことをやってりゃいいのに、結婚しても店を続けようとしてたから言いくるめて閉めさせたのさ」
「わかんないもんだねぇ。お金さえくれるなら私は家でのんびりしてた方がマシなんだけどなぁ。働きたかったなら結婚しなけりゃ良かったのにバカだよねー」
「ああ、あいつは頭ん中が夢ばっか見てるお花畑なのさ。店をやりながら結婚して、しかも子供まで欲しがっていたからな。子供ができたら育児で店なんかやれねぇだろ? もっと頭を使えよって感じだったな」
「ウケる~あれもこれも欲しがるなんて世間を舐めすぎって感じ。もしかして店で育児するつもりだったわけ?」
「それなら店と結婚して店の子供でも産めばいいだろ」
「もうそれ人外じゃん! 魔物でも店の子供を産むとか無理だし~ってゆーか、浮気に気づいてたなら止めろよって感じだよねーまぁ、そのおかげで私はいい思いをしていたわけだけど、今まで何も言わず別れる時になって知ってましたとかアホかって感じだし」
「だろ? 何十年も言わずに今更何言ってんだこいつって思って、ムカついちまったからついカッとなって殴ってしまったのが悔やまれるな」
「あら? あんな女に罪悪感でも感じたの?」
「んなわけねぇだろ。治療費を払えって金をせびられるのが嫌なんだよ」
「はは、結局心配してるのは金かよ~まぁこれで私があの家に住むことができるってわけよね」
「そうだな。ほとぼりが冷めたら結婚するか」
「私なら働かずに家を守ってやれるし~丸く収まって万々歳じゃん。元妻様様って感じだよねぇ。アホな子でマジウケる~」
(はぁぁ……どっちも救いようがないな……)
ケビンは元旦那だけに仕返しをしようかと思っていたのだが、会話を聞いていたら浮気相手もナディアのことを見下していたので2人とも仕返しの対象にすることを決めるのだった。
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