第355話 ドラゴンの集会

 とある人里離れた魔境とも言える地帯の山頂で、ドラゴンたちが集まって話し合いを行っていた。


 しかしながらそのままの姿では全員入りきれないため、体をコンパクトに縮めている。


「白はまだ来ぬのか」


「どうせまた寝てるんじゃねぇのか」


「放っておけばいい」


「さっさと始めようぜ」


「そうだ。貴重な時間を割いているのだからな」


「あんな奴が長だとは我らの面汚しだ」


 この場に来ていないドラゴンのことが話題に上がると、思い思いの言葉を口にしているが大半は放っておく方針であった。


「仕方がない。始めるとするかの」


「で、今日の話し合いは何だ?」


 翠色のドラゴンがさっさと終わらせたいとばかりに、茶色のドラゴンへ話を振る。


「以前、我らの眷族が大量に狩られた件だがそやつの足取りが掴めん。あれほど狩られたというのに人間社会では出回っていないのだ」


「ちっ、ドラゴンの体を素材にしやがるゴミ虫どもめ」


「紅よ、その気持ちはわからんでもないが弱肉強食じゃ。それよりも気になる情報があるのじゃ」


「もったいぶらずにさっさと話を進めてくれ。今もったいないのはここにこうして縛りつけられている時間だ」


「お主は本当にせっかちじゃの。少しは協調性というのを学ばんか」


「翠に同意」


「そうだぜ、じいさん。年寄りは話が長くていけねぇ」


「お主らというものは……」


「早く進めてくれんか? 無駄話をするためなら我は帰るぞ?」


 翠色のドラゴンだけかと思いきや蒼色と黄色が翠色を支持し、あまつさえ黒色まで言い出してはさすがの茶色も話を進めるしかなかった。


「人化できる者の報告でドラゴン丸々1体が飾ってある場所を噂話で聞いたらしく、確認しに向かわせたら紅のところのドラゴンであった」


「何だとっ!?」


 自分のところの種が見世物になっていると聞き、紅いドラゴンは憤り殺気を振り撒いていた。


「落ち着かんか」


「じーさん、何処だ? 俺がその辺一帯を燃やし尽くしてやる!」


「待て、話には続きがある。そのドラゴンが置いてある場所の近くにあの冒険者が住んでいるのだ」


「冒険者?」


 茶色のドラゴンが冒険者と言うものの、蒼色が意味のわかってないような感じで聞き返すと、他のドラゴンたちも思い出せないのか同じような雰囲気である。


「もう忘れおったのか……何十年か前に我らの眷族を無傷で殺していった者がおっただろ?」


 その言葉でようやく思い出した面々は、納得したような雰囲気に落ち着いた。


「じゃからの、紅よ。その場所に向かうでないぞ?」


「俺が人間如きに負けるとでも言うのか!」


「無傷で殺したということは、深く読めば力を出すまでもないということじゃ。お主だってそこら辺の人間1人を殺すのに全力を出すのか? 踏み潰して終わりであろう?」


「ぐっ……」


「相手の底が見えぬ以上、迂闊に手を出すことを禁じる。これは紅に限らず全員じゃ」


「僕は興味ないし、それでいい」


「俺もどうでもいいな」


「俺はさっさとこの話し合いを終わらせたいから異議なしだ」


「我も問題ない。そもそもやられる奴が悪いのだ」


 紅色以外のドラゴンがそれぞれ賛成意見を出していくと、黙り込んでいる紅色へ茶色が念押しをする。


「紅よ、よいな?」


「……ちっ、わーったよ。だが、じーさん。眷族たちを大量に狩っていった奴だがバッタリ遭遇でもした場合は、別にそいつを倒してしまっても構わんのだろう?」


「行方の掴めん奴か……如何せん情報が少ないからのぅ……」


「好きにさせたらいい」


「そうだな。我らが人間如きにいつまでも尻尾を巻くなどあってはならない」


「そうそう、紅のやりたいようにやらせればいいと思うぜ」


「紅の眷属が置かれている場所の冒険者に手を出さないって決めたんだ。それくらいは譲歩してやれよ。そしてさっさと話し合いを終わらせるぞ」


「仕方がないの。行方の掴めん奴に関しては好きにするといい。ただし、油断するなよ? 1人で何匹も眷族を狩っているのじゃ、そこら辺の人間とは違うと思うておれ」


「問題ねぇ。所詮は人間だ、俺たち古代龍の敵じゃねぇよ」


「それと許す代わりに白へ今回の件を言伝しておくのじゃ」


「は? マジかよ、面倒くせぇ」


「くくっ……そう言いながら顔がニヤけてるぜ。相変わらず白をつがいにしようとしているのか? お前、負けてばかりだろ?」


「黙ってろ、黄!」


「身の程知らず」


「蒼、手前ぇには関係ねぇだろ! 長になりたてのひよっ子の分際で」


「黙らんか! とにかく紅は白へ言伝るのじゃ。これにて今回の話し合いは終わりじゃ。また何かあれば招集をかけるからの」


 こうして人知れずの場所で開かれたドラゴンたちによる話し合いは終わり、紅色のドラゴンは白色のドラゴンへ話し合いの結果を知らせるために飛びだって行くのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 周りには人里1つない秘境の地にて、暇を持て余しているドラゴンたちがいた。


「ねぇ、長ってどこに行ったの?」


「知らないわよ。突然いなくなったんだし」


「またいつもの散歩じゃないの?」


「長って寝てるかエサ食ってるか散歩ぐらいしかしないものね」


「あと紅の長の相手」


「やめてよ、あんな野蛮龍の話なんか。戦うことしか頭にないんだから」


「めげないよねぇ……」


「勝てる可能性なんてこれっぽっちもないのにね」


 そう言ったドラゴンは器用にも爪と爪を合わせて引っつけて見せた。


「器用ね、あなた」


「最近、柔軟に凝ってるんだ」


「何か意味があるの?」


「お肌の美容目的よ。素敵な体型を維持したいじゃない?」


「見せるオスもいないのに無駄な努力を」


「そんなこと言ってるからいつまで経っても1人身なのよ」


「あなただって無駄に高い理想を掲げて行き遅れてるじゃない」


「行き遅れじゃないわ。私の目に叶う理想のオスがいないだけよ」


「妥協も大事だよ。長が言ってた」


「嫌よ、何で自分より弱いオスの卵を産まないといけないのよ」


「紅の長がいる」


「バカね。紅の卵を産んだら赤が生まれるじゃない」


 ドラゴンたちがそのような女子トーク?を繰り広げていると、集落へ近づく気配を感じ取った。


「ちょ、あなたたちが噂なんかするから紅がきたじゃない!」


「うへぇ……相手したくない」


「あなたたちが相手をしなさいよ。噂してたんだから」


「えぇー……嫌なんですけど」


「無理なんだけど」


 そうこうしているうちに紅の長は到着してしまい、地上へ降りると白の長がいないことに気づいて近くにいたドラゴンへ確認を取るのだった。


「おい、そこのドラゴン。白はどこにいやがる? 集会の決定事項をわざわざ俺様が伝えに来たってのに」


 横柄な態度を取って上から目線でものを言われるが、元々が皆、ドラゴンという種族がそうであるのと相手が紅の長であるため誰も気にはせず、ただ単に『さっさと帰れ』という思いを抱くだけなのだ。


 声をかけられた白のドラゴンたちも、この紅の長が自分たちの長をつがいにしようとちょっかいをかけてはやられている場面を幾度となく目にしているので、いい加減ウンザリしているのである。


「長はいない」


「ああ? どういうことだ?」


「散歩?」


「何で疑問形なんだよ?」


「何も言わずにどっか行ったから」


「ちっ、使えねぇ」


 紅の長はせっかく戦いを挑もうとした相手がおらずフラストレーションが溜まったまま、その場にいたドラゴンへ集会で決まった内容を伝えたら大空へ飛び立っていく。


「やっと帰ったわね」


「ちょーウザかったんですけど」


「それより伝言」


「別にいいんじゃない? 私たちって基本的に集落から出ないし、関係ないでしょ」


「はぁぁ……本当に長ってどこに行ってるんだろう?」


「捜しに行ってみる?」


「集落から出たら怒られるわよ」


「あぁあ、つまんないなぁ」


「どこかに白種のオスが落ちてないかなぁ」


「落ちている時点で弱いのは確定でしょ」


 紅の長が立ち去ったあとでは、ドラゴンたちがまたも女子トーク?で盛り上がりを見せながら、未だ戻ってこない長の帰りを待つのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ところ変わって、自分が白種から煙たがられているだなんて露ほども感じていない紅の長は、戦って鬱憤を晴らそうとしていたのにあてが外れたことで苛立ちを抱えたまま飛んでいた。


「あぁぁ、イライラする」


 あてもなく飛んでいた紅の長は、いつの間にかイグドラ上空へ辿りついておりドワーフが鉱山で作業をしている場面を見ると、更に苛立ちを募らせるのだった。


「ゴミ虫どもが眷族を素材にしやがって」


 完全な八つ当たりで鍛冶を営むドワーフ族に目をつけた紅の長は、大きな咆哮をあげると鉱山の噴火を魔法によって成し遂げて、溜まっていたフラストレーションを少しは解消すると、眷族たちへ鉱山を縄張りにするようにあとで指示を出すのである。


「いいザマだぜ、ゴミ虫どもめ」


 ドワーフ族に対する地味な嫌がらせを成し遂げた紅の長は、自分の集落に戻ると不貞寝をして残った苛立ち解消のため眠りにつくのだった。


 それから数ヶ月間のんびりした日常に明け暮れていた紅の長へ、唐突に思いもよらぬ報告が上がる。


「グルァァ」


「ああ? 何だと?」


「グルル、グルァ」


「上等じゃねぇか、まさかこの俺様の種に喧嘩を売る奴がいるとはな。手前ぇら、祭りの時間だ。俺についてこい!」


「「「「グルアァァァァッ!」」」」


 こうして紅の長は久しぶりに暴れられると思い、取り巻きを引き連れて目的地へと飛び立つのであった。

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