第340話 首都イグドラ
翌朝、ケビンは2人へ回復魔法をかけてスッキリとさせると、後始末で部屋の中を魔法で綺麗にするのだった。
「2人ともちゃんと妊娠したけど、他の人たちみたいに約2ヶ月経つまでは一緒にいてもらうよ」
「ん……?」
「ティナ、今妊娠したよって帰ったらズルしたことがバレるでしょ? まだ体調不良とか吐き気もないんだし」
「そういうこと。とりあえず体調不良とか吐き気とかが出始めたら帝城へ送るよ」
「うん、わかったわ。私たち3人とソフィさんだけの秘密ね」
それからケビンたちは朝食を食べたあと、ディルノック郊外を出発して旅を再開した。旅の道中は人数も5人となったために、前衛にニコルを配置して中衛にクリスを下げてティナと2人で前衛のサポートを。後衛にはケビンとクララが入ることとなった。
戦闘はクララの手加減を上達させるための練習にして、初撃はクララの龍魔法を敵に放ったあと、生き残ればニコルをメインに攻撃を行いつつクリスは魔法のみでサポートをしてティナは弓でサポートをする形となる。
ケビンは全体を見ながら中衛に攻撃が向かないようにヘイト管理をして、クララは初撃が終われば見学の位置となっていた。
「クララもだいぶ手加減ができるようになったな」
「主殿の教え方が上手いのだ」
「飲み込みがいいのはクララのセンスだよ」
それからもクララの手加減を覚えさせるための練習は続いて、日を追うごとに上達していくのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ディルノックを出発して2ヶ月に満たない月日が経過すると、ようやくケビンたちの目的地である首都イグドラが目前に迫ってきていた。
道中は様々な村や街にケビンたちは寄ったが、人族排斥主義の集落には行き当たらず、そういう集落の情報も少なからず収集していたことが平穏な旅を続けられることに繋がっていた。
そして明日には首都イグドラへ入るために、ケビンはティナとクリスを帝城へ送ることにしたのだった。
「2人とも体調はどう?」
「今日は吐き気もないし割かし平気かな」
「私も平気だよ」
「今回は全員で帝城に戻ることになるな」
「ニコルもクララもケビン君から離れないしね」
「残しておいてもクララが何をするかわからないし、ニコルに至っては暇だろうからな」
それからケビンは帝城へメンバーを引き連れて転移すると、みんなへティナとクリスの懐妊を報告した。
その日の晩は懐妊プチパーティーが開かれたぐらいで、それ以降はいつも通りの日常となる。
そのような中でケビンは特に何もすることもなく、部屋の中でボーっと寝るためにベッドで横になっていた。
妊娠していない残る嫁はアビゲイルとクララである。クララに至ってはソフィーリアから自分で決めるように言われているが、アビゲイルに関しては妊娠させるように言われている。
そこでケビンは考えた。特に何も言うこともなく部屋へ戻ってしまったためにアビゲイルは既に自室へ戻っていて、その部屋に行ってみるのかそれとも呼び出すかで大いに悩んだ。
悩んだ末にケビンが出した結論は、たまには違うシチュエーションでやってみようということである。
そのまま深夜までケビンはサナとお喋りをして、時が来るのを待っていた。
そして【マップ】でマーキングしていたアビゲイルが深い睡眠に入ったことを、ようやくサナが知らせてくる。
『全く……私に片棒を担がせるとは……』
『サナだって伝えた時にはノリノリだったろ?』
『そりゃあ、夜這いなんて最高のシチュエーションじゃないですか! 起きるか起きないかの瀬戸際を攻める興奮感……想像するだけで羨ましいですよ』
サナの変な趣味に助けられたため今回の作戦が実行に移せたケビンは、サナがどんどん人間っぽくなっていく感じに一抹の不安を感じるが、今はそれよりも優先すべき事項があるので後回しにするのだった。
(さて、行きますかね)
ケビンは気配を隠蔽した上で、アビゲイルの自室へと転移で飛んだ。
それから途中でアビゲイルが起きてしまうことになるのだが、ケビンは朝になってもアビゲイルを抱き続けて、朝食前になってようやくやめるのであった。
それから数日間は帝城で妊娠した嫁たちと過ごしながら、夜になるとアビゲイルを抱いてケビンは充実した日々を送るのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして旅立ちの日に、ケビンはメイド隊へ唐突に告げる。
「プリシラ、ライラ、ララ、ルル。4人とも連れて行くから旅の支度をしてくるんだ」
「「「「――ッ! はい!」」」」
「くっ……ケビン様との時間が……」
「ニコルよ、諦めが肝心だぞ? そなたと2人だけでは主殿の相手をするのは荷が重い。オークもビックリの性欲魔人だからの」
クララの言葉に周りにいた女性たちは、その身でもって体験していることなので無言のまま頷くのであった。
ケビンとの旅の同行許可が出たことで、プリシラたちはステータスにものを言わせて、未だかつてない早さで準備を終えてケビンの前へと再び姿を現した。
「よし、行くか」
ケビンは待機組に出発の挨拶をすると、クララやメイド隊を連れて前回帰った場所へと転移するのだった。
それからバイコーンでサクサク進んで街へ足を進めたケビンたちは、入街門で通行証と身分証を見せたら共有区画の先にある【ルガミズ地区】へ行くように門兵から言われる。
ケビンがその理由を尋ねたところ、首都イグドラは種族ごとにだいたい住む地区が決まっており、ルガミズ地区は人族が滞在するために用意されている地区なのだと門兵から言われた。
人族以外であれば他の地区に住むことも可能であるが、余計な軋轢を生んでしまう人族だけは住む地区が限定されているとのことだった。早い話がその地区へ人族を集めて、他の種族と余計な揉め事が起きないように管理していると言っても過言ではない。
そのような理由を聞かされてはケビンも厄介事は嫌いなので、門兵の言うことに素直に従ってルガミズ地区へ足を運ぶことにする。
共有区画の通りは様々な種族が入り交じっており、そこを抜けてルガミズ地区へ入る際にまたしても門兵が立っていた。
これにも理由があるようで、ルガミズ地区へ入る他種族の出入りを管理しているようである。
その際は立ち入り理由と滞在期間を入口で記入して、それを過ぎて戻らない場合はルガミズ地区の捜索が始まるのだとか。
これは過去に人族が善人を装って起こった奴隷狩りが背景にあるようで、ルガミズ地区へ入り込んだ他種族を攫っては、薬で眠らせて国外へ運び出すという事件があったのだという。
それを門兵に聞いたケビンは『その労力をまともなことに使えよ』と、その事件を起こした奴隷狩りたちに呆れ果ててしまうが、それでも人族を受け入れている首都イグドラに対して『心が広過ぎないか?』と思ってしまうのである。
それからルガミズ地区へ入ったケビンは、見たことのある名前の宿屋を見つけてしまい、外観は全く違うが中へと入っていく。
「夢見亭ルガミズ地区店へようこそ。お食事ですか? お泊まりですか?」
「泊まる予定だけどその前に、アリシテア王国にあるダンジョン都市の夢見亭みたいなスイート部屋ってある?」
「6人用の部屋がありますが、お値段が1泊金貨3枚となっております。ベッドは2人用3台と3人用2台、6人用1台となっており選ぶ部屋ごとでかわります」
「風呂はついてるよね?」
「はい。居室内に完備されております。こちらは6人用ベッドの部屋だけはお風呂も大きくなっております」
「じゃあ、6人用ベッドの部屋で。とりあえず1週間分」
「あの、1人分ベッドをお運びすることができますが、別料金となりますので如何なさいますか?」
「みんなで仲良く寝るからいいよ」
それからケビンは食事時間の説明を受けて部屋の鍵を受け取ると、4階の1番奥にある部屋へと向かっていく。
「あのお客様、着物の女性が奥様なのかな? あとは全員メイド服だったし、お貴族様のお忍びなのかな? 仲良く寝るってことは奥様公認? 全員を相手にするなんて性欲が凄いのね」
受付をしていた女性はケビンたちが立ち去る姿を見ながら、当たらずとも遠からずな予想を独り言ちるのであった。
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